第25話
隣の小春のうちで夕食を摂っている時に、不意に「あんた、何してんの?」と啓は小春に尋ねられた。
「え?」
「叔父さんが、昼間に啓が段ボール取りに来たって」
「ああ」
啓は納得したというように一人で肯いた。
「しかも、女の子と一緒だったとか」
訝しげな目線で小春が啓を睨むように見据えた。
「あー。そうだな」
「何してんの?」
「秘密」
ニヤッと啓は人差し指を口の前に置いた。
「はあ?」
そう言ってから、はぐらかされた小春は「まあいいわ」と付け足して、別の話題を切り出した。
その夜、啓は写真を現像した。
秘密基地第一号の記念写真。
初花は嬉しそうに笑っている。
学校で無表情でいる初花と、写真の初花の印象は、一八〇度といっていいほど違っていて、こちらの笑顔が本当の彼女だという実感が啓にはあった。
他にも、秘密基地を作っている時のスナップ写真が数枚あったが、どれも生き生きとしていて、魅力的な彼女が映っていた。
「本当の、初花……か」
そう呟いて、なんだか柄にもなく写真立てに入れて、机に飾ったのだった。
それからというもの、啓と初花は放課後は秘密基地で過ごすのが日課に成っていた。
どちらともなく集まって、帰りは啓が初花を家まで送るというところまで、毎日続いた。
秘密基地でする事は、バラバラだった。雑誌を読んだり、カメラの手入れをしたり写真を撮ったり、たまに勉強したりする啓と、秘密基地の構想を練ったり、たまに啓に誘われてカードゲームをやったり、エロ本を興味深そうに研究したり、疲れて眠ったりしている初花は、それぞれ秘密基地での生活を謳歌していた。
いつも通り、まったりとした秘密基地での生活を楽しんでいると、急に初花に声を掛けられた。
「啓」
「ああ、えっと、はい」
呼ばれた方を振り向くと、真剣な顔をした初花と目が合った。
「……これ、私に似てないか?」
初花はグラビアの一ページを指している。
そこにはショートカットの女性が映っている。
「あー。そう? 髪型似てるってだけじゃないかな?」
啓は何気ない風を装って答えた。
しかし、内心、心臓がバックバクしていた。
そう、毎回当たり障りの無いグラビア写真集を選んでは適宜、秘密基地に入れ替えているのだが、件の写真集は、確かに初花の事を考えながら選んでしまったので、モデルが、どことなく似ているのだった。
「そうか。……ふむ。この女、乳がでかいな……何か入れているのか?」
真面目な顔で、そんな事を聞いてくるので、啓は吹き出してしまった。それから、咳払いして神妙な顔つきを作り、
「そういった青少年の夢を壊すことは言っちゃ駄目なんです」
と、キリッと答えた。
「ふーん。そういうものなのか」
初花は難しい顔をして、またグラビア写真集に目を戻した。
「あー! 真剣に読むものじゃ無いんだからな!」
「わかった。じゃあ後で読む」
そう言って、初花は平べったい缶に丁寧に仕舞った。この缶は、元はお菓子の缶で、秘密基地に於いては宝箱の役割をしているのだった。
「ところで今後の秘密基地についてだが……」
初花が話し掛けたので、
「わかったわかった。相談に乗ろうか」
と啓は答えた。
そうやって二人は今後の秘密基地の展望について話し始めたのだった。
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