第23話
啓は秘密基地を作るための道具――昨日買った品物と家にあるもの――を全てバックパックに入れた。そして、最後に忘れずにデジカメを首に掛けた。
「おっし。こっちも準備できたし、じゃ行くぞ~」
「うむっ!」
初花も元気に返事して、啓の後を付いて歩く。
「新たな秘密基地の場所は、とりあえず神社の近くで良いか? 前に行った、あの辺なんだけど」
「うむ。構わない」
「じゃ、まずは神来神社まで歩こう」
「わかった」
二人は明るい午前中の道を歩く。休日の商店街は、そろそろお店も開き初めている。
「商店街は店によって開く時間がまちまちなんだな」
初花が知らなかったという感じで啓を見上げた。
「あ、ああ。そうだよ。早い店……例えば魚屋とか豆腐屋とかもあれば、遅く……っていっても今くらいの時間に開ける店も多いんだ」
「ふむふむ」
「まあ、うちみたいに殆ど営業してないなんて店は他にはないな」
苦笑いしながら答えた啓は「ま、じいちゃんの代までは普通に営業してたんだけどな」と付け加えた。
「ふーん」
初花は生返事を返して、辺りをキョロキョロ見回している。
「そんなに珍しい?」
「うむ! こちらの方には殆ど来た事がないから、珍しいぞ!」
キラキラした瞳で力強く言われて、啓は少し赤くなった。
最終的に神社に着いても、初花はキョロキョロ辺りを見回し続けていた。
「とりあえず、神社にお参りしとこう」
「秘密基地の完成祈願だな!」
「それと、一応この山の一部を借りるから、その挨拶を」
「おお! そういう事は大事だな」
二人は
その彼らの頭上――拝殿の茅葺き屋根の上――に赤い着物の幼女が座っている事に、啓も初花も気が付いていなかった。
幼女は、にやあ、っと笑って、二人を見下ろしていた。
啓は隣の初花も参拝を終えたことを確認してから、
「……それじゃ、行きますか」
と、神社の裏手の山道を入っていた。ひょこひょこと初花が後ろを付いて来た。暫く歩き、分かれ道を以前とは逆の方向に進む。
「む。前と違う方向に進むのか?」
初花が問う。
「うん。その方が見つかりにくいだろ」
「なるほど!」
納得した初花は、また黙って啓の後ろを歩いた。
ずんずん啓は歩き、すこし開かれた場所に出て、足を止めた。
「この辺でどうかな?」
初花は周囲をぐるっと見回して言った。
「……問題ない!」
その言葉を聞いて啓はバックパックから秘密基地を作るための道具を取り出した。
「そこの木、使ってテント作って基地にするから」
啓が指した方向には、周囲よりやや高い木が聳えていた。
ちょうどその木の周囲は、木の感覚が開いており、少し大きな空間が空いていた。
「おおー!」
初花が歓声を上げた。
「感動しているところ悪いんだが、とりあえず木の枝探すところから始めよう」
「おう!」
「少し太めで、なるべく長い枝を探そう」
「わかった」
今にも走り出しそうな初花に啓は慌てて付け足した。
「迷うといけないから、一緒に行くぞ。俺の傍を離れんなよ」
ビシッと啓は初花を指差して忠告した。
「……わかった!」
神妙な顔で初花は見詰め返した。それに、ちょっとドキッとした啓は赤くなりそうになる顔を精神力で抑えた。
「じゃあ、もうすこし奥に入るぞ」
「うむ」
「あ、初花、これ嵌めて」
啓は手袋を渡した。
「手袋?」
「うん。これから作業するから、必要だろ?」
「そうだな」
啓と初花は手袋を装着し、山の方へ更に分け入っていった。そこで、手頃な大きさの枝を何本か見繕う。
「うーん。まあ欲しい長さに継ぎ接ぎした方が良さそうだな」
「均等な大きさに長くするのは難しいから、それが無難だな。紐も持ってきたし」
「そうだな。じゃあ、多めに枝を持っていこう」
二人は枝を抱えて元の場所へ戻った。
「んじゃ、まず木の枝をロープで括って同じくらいの長さにしようか。だいたい……そうだな、一メートル強くらいで合わせよう。……それを五つ作って……あ、一個だけ少し長くしよう」
「わかった」
二人は木の枝をロープで括り、だいたい同じ長さの枝を作った。
「あ。段ボール忘れた」
啓が思い出したように言った。
「そういえば、設計図には段ボールの事が書いてあったな」
「んー。取りに戻るか」
「というか、うちもそうだが、啓のうちにも段ボールなんてなかったぞ」
初花が啓のうちを思い出しながら言うと、啓はニヤッと笑った。
「まあ、ついてくれば分かるさ」
そう言って、バックパックにロープだけを詰めて啓は歩き始めた。慌てて、初花が後を追った。
ずんずん歩く啓は、来た道を戻ってゆく。そして、商店街に入ると、初花が未だ行ったことのない通りを曲がった。
「ここだよ」
啓が振り向いた。
「ここは?」
「八百屋さん!」
なるほど、そこは八百屋の店先だった。
「おじさーん。段ボールちょーだい!」
啓が奥に声を掛けると、声が返って来た。
「あいよ。取りに来なー」
「はーい!」
啓は返事してから、初花を見て、「初花、おいで」と付け足した。
初花がこくんと頷いて啓の後を進んだ。
そこには野菜が入っていたと覚しき段ボールが山のように積んであった。そこから、手頃な大きさの物を選び、運びやすいように段ボールを平たく折り、まとめて紐で縛って、必要な枚数を持った。
「ありがとー!」
啓が奥に居る人物に声を掛けた。
「おうよー」
「ありがとうございます」
初花も、奥が暗い為、誰に言っているのかは分からなかったが、律儀に御礼を述べた。
「お嬢ちゃん、どういたしまして」
奥から返事が返ってきた。
二人は顔を見合わせて、ニッコリして、また、秘密基地に戻った。
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