第21話

 ピピピピピ!

 目覚まし時計の音に、啓は目を醒まし、近くに置いてある時計を止めた。

「ん~っ!」

 伸びをして、ゆっくり起き上がる。

 と、蒲団に見慣れない膨らみを感じた。

「あれ?」

 疑問に思った啓は、掛け蒲団を、剥いだ。

 

 すると。


 そこには。


 初花が居た。


 彼女は無防備な寝息を立てて眠っている。


 ――サーッ。


 自分の血の気が、音を立てて引くのを、啓は、実感した。

「……!」

 啓は声にならない声を上げ、パニックを起こした。

 (なんで初花が一緒の蒲団に居るんだー!)

 真っ青な顔色で、啓は、昨日からのことを思い出す。

 (一、自分は、ちゃんと初花をうちに送った。

  二、自分は、確かに一人で、昨夜、蒲団に入った。

  三、自分は、今、起きたばかりだ)。

「あれ? ……今、起きたばかり?」

 啓は思考する。

 (違う。何かがオカシイ)。

「……………………。ああああああああああああ!」

 啓は思わず叫んだ。さっき、初花と押し問答になった事を。そして、自分は眠気に負け、面倒くさくなり、初花を家に上げた事を思い出したのだ。

「ちょ、ま、なんで、ここで初花が寝てるんだ!」

 慌てて、もう一度、朝からの自分の行動を思い出す。

「……うん。よし、俺からは、ベッドに誘ったりなど、決してしていないな……うん。じゃ、なんで初花が、ここに?! ……いや、と、とりあえず、起こそう。うん、それがいいはずだ……」

 自分を納得させるかのように、啓は一人で喋ると、初花の肩を揺すった。

「んっ、ん~ん」

 初花が、囈言を漏らす。

「は~つ~は~な~、お~き~ろ~」

 尚も揺すって起こそうとする。

「んん~。ふぇ」

 ゆっくりと初花は目を開けた。

「はつはな~起きろ~」

「んー。あ~、けい~」

 ぼーっと初花が答える。

「起きろ~」

「あ~、うん……」

 反射的に答えるだけ答えて、初花は、また目を瞑った。

「こら! お~き~ろ~!」

 啓は、(絶対に起こす!)と、大きく初花を揺さぶった。

「うーん。うーん」

 起きそうも無い初花の様子をみて、啓は閃いた。

 普段あれだけ秘密基地に固執している初花だ、きっと『秘密基地』という単語を入れれば起きるに違いない、と思い、実行に移した。

「初花~秘密基地作るぞ~!」

 初花は、『秘密基地』という単語に、ピクっと反応し、何だかよく分からないことを呟いてから、目を開けた。

「……良かった。起きたか、初花」

「んーっ、……おはよう、啓」

 にぱぁ、と子供のように初花は笑った。

 その表情に、啓はドキドキして、迂闊且つ不覚にも、怒れなかった。

「おはよう。初花。――で、どうして初花はそこにいるんだ?」

「?」

「なんで俺の蒲団で一緒に寝てるか、ってコト」

「んーっと。――初花が自分で入ったからだ」

 寝惚けているのか、初花は自分の事を「初花」と呼んだ。

 そして、ニッコリ笑った。

 啓は、キレた。

「は~つ~は~な~! お前ってやつは! いいか! いかに友達とは言え、男女が同じ蒲団で眠るなんて言うのは、どんな言いがかりをつけられるかわからない事だし、そもそも、一歩間違えば、俺が捕まるの! 警察に! わかる?」

 一気に凄い剣幕で捲し立てられるので、圧倒された初花は、啓の意見に、ただコクコクと頷いていることしか出来なかった。

「そもそも、友達だからといって人の蒲団に入るのは……」

 コクコクと頷く初花をジロリと啓は睨んで言った。

「って、お前本当に訊いてるのか!」

「……あー、うん。ちゃんと聴いている。聴いているよ」

 明らかに面倒臭そうに初花は相槌を打つ。実際、初花の耳に啓のお説教は流れはしたが、留まりはしなかった。

「ほんっと~か?」

「うんうんうん!」

「じゃあ続けるけど、そもそも、年頃の男女が……」


 ――啓の御説教は、その後、二十分ほど続いたのだった。


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