第17話


 その夜、啓は一人百面相をしながら明日来てゆく服を選んでいた。

「あんまり、意識しすぎてもダメだよな。女の子に気に入られそうなカジュアル目の服で……」

 ぶつぶつと呟きながら、服を出しては、ああでもないこうでもないと検討している啓である。

 最終的に、父のお下がりのウェンガーのポケットウォッチ、トップスはVネックの黒いTシャツの上に、赤いチェックシャツ。ボトムスはデニム、靴は革靴、鞄は革のボディーバックをウエストバックとして使う事にした。

 そんな普段の啓の服は、大概カーゴパンツにミリタリーシャツといった感じなので、ドレスコード的にはアウトだが、デニムはお洒落着の感覚に近かった。

「次は……っと、映画館……」

 立ち上げてあったデスクトップ・パソコンの前に座り、明日どの駅に降りると言われても対応できるように最寄りの全ての映画館で上映中の映画の情報等をチェックした。レビューも隈無く読み、地雷作品を避け、一緒に見ても大丈夫そうなものを記憶した。

「あとは、カフェ……」

 先程の映画館と同じように、付近の全駅のお洒落なカフェを検索し、更なる情報収集。落ち着いて話が出来て、おいしいものが供されて、とリストアップした希望に叶う店を数店舗見付けた。

「いくつか店も見付けたし、食事は……まあ、初花の希望も聞きつつ、成り行きで決めるか」

 啓は独語ちると、カメラを選び始めた。

「あんまり、凝りすぎても良くないよな。……やっぱデジカメ……それも可愛い感じの……コンパクトデジカメにするか」

 啓はカメラを用意して、早めの風呂に入ると、さっさと床に就いたのだった。

 どんなことがあっても、蒲団に入れば即爆睡。

 それは、啓の特技だった。


 翌日、啓は目覚まし時計の鳴る前に目が覚めた。

 窓から射す朝日が眩しい。

「うん。良い天気だ」

 啓は伸びをして、カーテンを開け、支度を始めた。


 啓は家に居ても、ソワソワとして落ち着かないので、予定より早く家を出て、待ち合わせ場所で初花を待つことにした。

 そう決めはしたが、余り待ちすぎるのも疲れると思い、啓は待ち合わせ時間三十分前駅に着くように家を出た。


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