第16話
放課後、初花と啓はお互いに眴せして、バラバラに教室を後にした。
そして、体育館ステージ下の秘密基地で落ち合った。
啓には何だか、そういう秘密が初めてで、くすぐったく感じた。
啓は知らず知らずのうちに、初花に巻き込まれて、少しづつ自分の変化している事に自分では気付いていなかった。まだ。
先に到着していた初花が、
「待っていたぞ」
と声を掛けた。
「お待たせ。それで、今日は新しく作る秘密基地の設計図を見せ合えばいいかな」
啓はノートを広げた。
初花はそれを覗き込んだ。
「まず、せっかくだから、秘密基地らしい手作り感を大事にしたいと思って……」
啓はノートに書いた設計図を見せながら話す。
「む。竪穴式テント、か」
初花が図を見て唸る。
「そうそう。ビニールシートを三角形のテントみたいに枝で枠組みした上に載せて、入り口は段ボールで作る。中にはライトを吊り下げて、地面にはダンボールを敷いて、防寒と緩衝材代わりにする。あとは、段ボールの机と、うちからクッション持ってきて、お菓子の缶に筆記用具を入れておけば、中で日記も書けるし」
「ふむふむ! なかなか良い案だな。さっそく製作に取り掛かろう!」
「え、こんなのでいいの? もっと代替案というか、初花の案は?」
「いや、私は……とりあえず最初は慣れている啓の案で作ってみようかと思って」
「そっか」
「ところで、啓!」
力強く名前を呼んで初花は啓に掌を差し出した。
啓は一瞬考えて、犬がお手をするように、初花の掌の上に自分の掌を載せた。
「ちが~う!」
「ん? じゃあ何?」
「交換日記!」
キラキラした目で初花が催促した。
ワクワクと彼女は何かを待っている。
「交換日記?」
啓は聞き返しながら、(初花は目力が凄いな~睫毛も長いし)と暢気に考えていた。
「こ・う・か・ん・にっ・き・を・出・す・の!」
一句一句はっきり強調して発音して、初花は口を尖らせた。
「あ、ああ」
啓は合点して、鞄に手を入れた。
「ん、あれ~」
啓は鞄を探るが、目当ての物が見つからない。
「あれ? ないみたいだ。ごめん。明日持ってくるよ」
その啓の言葉に初花は怒りを怺えるようにプルプル震えた。
「ペナルティだぁああああああ!!!!」
初花は吼えた。
「え?」
ビックリしている啓に初花がプンプンと告げた。
「だから、交換日記を忘れるなんて事をしでかした莫迦者には罰則があるの!」
「……どんな?」
「ふっふっふっ……聞くも恐ろしい罰なのだ」
啓は少しだけギョッとして身構えた。
「啓はペナルティとして、私に一日付き合うのだ!」
腰に手を宛てて、威張りながら初花は宣った。
「つきあう?」
「だから、啓は一日私の召使いの如く、コキ使われるの!」
「ああ、なるほど。つまり、デートって事?」
啓が当然の疑問を口にした。
「ちっがあああう! 罰なの!」
「いや、でも男女が一日、特別に二人で一緒に居るのって――デートじゃないの?」
啓が畳み掛けた。
「違うもんっ!」
初花は口を尖らせて、拗ね始めた。それを見て啓は助け船を出した。
「――わかった。罰ね。で、待ち合わせの日時は?」
啓の言葉に、ぱああっと表情を明るくした初花は、手帳を開いた。
「んーっと、今週の土曜日! 時間は……十時に神帰駅改札前集合でどうだ!」
「諒解した。土曜日って事は、明日だな。じゃあその時間に改札前で」
啓は快諾し、秘密基地の設計図を書いていたノートの隅に日時と集合場所を走り書きした。
神帰駅は霞初城の楼閣――啓や初花の通う学校の楼閣でもあるが――の前の道を西に進んで徒歩十分程度の場所にある駅である。ちなみに、いつもは楼閣の前の道を北に進んで啓と初花は帰宅している。また、啓の自宅を西に進んで徒歩七分の場所には神来駅が存在する。
「明日が楽しみだな~!」
と、初花が満面の笑みで言うので、知らず識らず啓の頬は緩んでいた。
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