第14話
武家町を抜け、神来橋に着いた。
学校から、ずっと無言だった初花が、
「啓、探検だー!」
と叫んだ。そして啓の手を離した。
ここまで、ずっと啓の手首を離さずに、ずんずんと足早に一直線に向かった初花が、今度は、いきなり手を離し、しかも、予想外の場所で叫ばれたので、啓は二重に呆気にとられた。けれど、嬉しそうな初花の様子に流されて、
「……お、おう……」
こくこくと肯く。
「私は川を越えた事がないので楽しいぞ!」
スキップしそうな勢いで、鼻歌を歌いながら初花は啓の先を歩く。
そんな初花を見ながら、啓は話し始めた。
「……じゃあ、約束してた事だし、案内を始めるか。前に話した神社っていうのは、今から行く神社――神来神社のことな。ここは霊験あらたかな歴史ある神社なんだ。ちなみに、山の神様を祀っている」
「ほうほう」
「昔から、わざわざこの神社に奉納するために人が神帰川から物資を運んで来るような上京だったと言い伝えられていて――だから、そもそも、この商店街のメインストリートが、イコール、神来神社へ向かう一本道なんだ」
歩きながら啓は来歴を説明する。
「ほうほうっ!」
初花は楽しそうに、ぴょんと跳ねた。
啓は歩みを止め、四つ角に立った。
「んで、ここ曲がると俺んちだけど、今は曲がらずに真っ直ぐいくぞ」
「おうっ!」
「さっきの続きに話を戻すと、元々、これから行く
「ふむふむ!」
「その関係で、一年を通じて色々行事があるんだが、一番有名なのが、年二回ある山から山へ神様を運ぶお祭りだ。――ほら、街のメインストリートがと雪洞と行燈で満たされるで日が年二回あるだろ?」
「そういえば、あるな!」
ぶんぶんと頭を振って頷く初花。
「それは、この行事なんだ」
歩いているうちに二人は神社に到着した。
「ここが神来神社だ」
初花は先ず石の鳥居を見上げた。
「おお! 良い感じの神社だー! 雰囲気が良いな!」
神社の周りは木々に囲まれており、とても静謐な空気を醸し出している。
「この神社は本殿を持たない原始的な形式をしていて、神来山を神聖視しているので、拝殿があるだけの神社なんだ。つまり神来山が神体山ということだな」
「ふむふむ! そして、それは神帰神社と同じなんだな」
「おっ、よく解ったなーその通りなんだ。初花は偉いな!」
啓が褒めると、初花は上機嫌で「えへへ~」と言った。
「……それで、この拝殿の横の道を、奥へ入って……」
けもの道を啓は進む。そして、暫く歩いていると、道が左右に分かれた。
その左の道の先に、チラッと赤い着物が見えた。
啓は、(アレ?)っと思うと、前に会った幼女を思い出した。もしかして彼女もここで遊んでいるのかな、と思いながら、
「んーっと、こっちだったっけ?」
と、啓は首を傾げながら、左へ進んだ。
啓は無言で、ずんずん歩く。初花は後に続く。
木々を分け入った先に、目標の物を見付けた。
「あった! 初花、ほら、ここ」
啓の指す先には、苔が纏わり付いて緑色したテントがあった。
「……! これが秘密基地!」
初花は感動の余り、小さく震えていた。
啓は、そんな初花の様子に気付かず、上がりっぱなしのテンションのまま、テントに走って近づき、愛おしそうにテントを撫でた。
そして、テントの入り口を開け、中に入った。
狭い天井を見渡し、
「あー! この感じ、昔と変わんねー!」
と嬉しそうに叫んだ。
そして、辺りを見回した。
自信の記憶を手繰り寄せて、隅に置いてある机の下を覗いた。
「やっぱりな……」
啓はニヤッと笑った。そこには数冊の雑誌があった。そして、おもむろに啓はその中の一冊を本を引っ張り、ペラペラとページを捲り中身を確認する。ボロボロになっているそれは、自分以外の青少年の成長に貢献したのであろうことが明白で、なんだか、妙に面目を施されたような気がした。
そうしているうちに、初花がテントの中に入ってきた。
「おお!」
入った瞬間に歓声を上げる。
そして、キョロキョロと色んな場所を見て、
「啓! 凄いな! これが秘密基地なんだな! 本物なんだな!」
と、はしゃいだ。
「ああ、そうだよ。これが俺の作った秘密基地だ!」
初花に誇らしげにそう告げた。
「……んっ、啓、お前、手に何持ってるんだ?」
初花が、訝しげに啓の手の物を見て首を傾げた。
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