第12話

「お父さんは何をしている人?」

「――父は、生物学者で、世界を飛び回っている」

「生物学者なのにフィールドワーク?」

「そりゃそうだ。だって、動物行動学者だからな」

「そういうものなのかー珍しい職業だから俺には想像がつかないや」

「啓のうちも、大概珍しいと思うぞ」

「そ、っかな?」

「そうだ」

「そっか」

 啓は、やりとりに、少しだけ笑った。

「む、何か面白いことでもあったのか?」

「ん、面白いなって思って」

「何がだ?」

「――初花と話すのが」

 啓の言葉に、初花は一瞬固まった。

 そして、みるみるうちに真っ赤に成った。

「なっ、なななななななな!」

 と、初花は手をばたばたさせている。

 初めて啓は人の反応を見るのが楽しい、と思った。

「そうそう、うちに使ってないランタンとか有ったから、明日持ってくよ」

「おお! ランタン!」

 キラキラした瞳で初花は啓を見返した。

「あと、明日、俺が昔作った基地見に行こうか」

「昔、作った、基地!」

 啓の言葉を聞いて、ますます初花の瞳は爛爛と輝いた。

「見たい!!! 見たいぞ!!!! 見せてくれ!!!!!」

 初花は机の上に身を乗り出して叫んだ。

「わかった。じゃあ明日の放課後な」

「うむ! ああ、今から楽しみだ! 楽しみ過ぎて、胸が張り裂けそうだ!」

 (それってこういう時に使う言葉じゃないんじゃ……例えば、悲しいときとかに使うんじゃ無かったか……?)と啓は思ったが、気持は良く伝わってきたので黙っていた。

 啓は、お茶を一服戴いて、少し雑談した後、帰宅した。そして、自室のベッドの上に寝転がり、啓は初花に借りた本を開いた。

 借りた時から手垢と付箋が凄いなと思っていたが、中身はもっと凄かった。

 何度も読んで、じっくり研究していた事が手に取るように判る本だったのだ。なぜなら、蛍光ペンで線が引かれていたり、物凄い量の書き込みがあったからである。稀に絵や図まで書いてある念の入れようである。

 啓は本から初花の本気を感じ取り、(アイツ、本気で秘密基地が作りたかったんだな……)と思うと、やっぱり、自分で良ければ全力で手伝ってあげよう、と心に決めた。

 また、小春から部活の話はされていたが、こんな妙な展開で自分が部長になるとは思わず、その後の展開も密度が濃かったので今日は充実しているなと思いながら、本を読み進めた。

 そして時間が経過し、本の読了間際となった啓の唇からは、自然と感想が零れた。

「しっかしアイツ、本当に好きなんだなあ……」

 一々とっても真剣に構想しては、書き直している初花の書き込みを見て、啓は頬が緩んだ。

 そして、巻末の作者の略歴の場所には、仲良く二人で写真に写っている父と母。

「この写真……。あの二人……」

 相変わらずラブラブな二人の様子に、こんなところでまでアピールしなくても、と啓に苦い笑いが浮かんだ。

 そして、読み疲れた啓は、そのまま、うとうとと眠りに落ちたのだった。

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