090_1420 常人以上超人未満たちの見事で無様な生き様ⅩⅩⅢ ~九十九ノ刃~
海を飛び越えて南十星と相手を交換したナージャは、和真相手に打ち込みを行っていた。
「超音速で攻めててこないのはなんでだ?」
狙撃していくる援護部隊は全滅させたのだから、
「それやろうと動き止めた途端、ブスッて算段ですか?」
しかしナージャは、《
「というか体から生えてる
となると、ナージャの勝利は
今日まで隠し玉だった『刃飛ばし』を行っても、
ナージャにできるのは、正眼に構えた剣で打ち込みを凌ぎながら、なにかが変わる機会が訪れるまでを耐え凌ぐ。
「あ~……このままじゃ
槍と、腕と腹から生えた刃、三本を《
「お互いそうそう時間かけてられないだろ?」
「そうですね。この後のこととか色々あるので、早めに終わらせたいです」
敵として相対しながらも、友人のように語り掛けてくる
「となると、隠し玉を使いますか? その槍と同じ名前の《魔法》……戦略クラス高々出力攻撃
「俺の正体だけでなく、よくもまぁそこまで調べたもんだ」
「なーんて無駄なことを、って思いますよ? 反中間子の寿命なんて一瞬でしょう?」
「戦略規模ってっても、おかげで余計な被害は出さなくて済むから、俺としちゃ悪くない使い勝手なんだけどな」
呆れたように笑うと、
すれば距離を取って見守っていた《
「なら、わたしも、全力でお相手します」
《
「《
「そうですけど……それだけでもありません」
支援部員になってから何度か使っているので、やはり彼には初見殺しは通用しまい。
それでも加速した空間を刃とするこの剣は、必勝を貫いてきたから、土壇場の今ここで使う。
「今からお見せするのは、人類史上最高の剣技です」
ナージャの言葉が一瞬理解できなかったようにキョトンとしたが、遅れて
「最速だけならまだしも、最高たぁ……大きく出たな」
「はい。最速なのは当たり前。古今東西の剣士が誰も
「ハッタリじゃなさそうだな」
「実戦で使うのは初めて、上手く決まればの話ですから、ハッタリも間違いじゃありません」
剣術ならば普通は左右逆であろう、左構えの居合い腰に構えると、ナージャは《
『《加速》だけ?』
生身の人間が超高速機動すれば、タンポポの綿毛でも凶器になりうる。高速の銃弾を撃ち込まれるのも、放り投げた石に自ら突っ込むのも、力学的には大差ない。
だから《
「《
捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。防御力は紙どころか、むしろ空間に入った物体が加速して肉体を傷つけるマイナスとして働く、背水の陣を自ら課す。
白い《
港島六丁目南の交差点付近、IKEA神戸と東京インテリア家具神戸店の、家具を売る広大な敷地面積を持つ大型店舗二軒に挟まれる位置で向かい合う。
健康に悪そうな反応光を背負うその姿はさながら、墜天使。
『なぁ? ひとつだけ、『高遠和真』として訊かせてくれ』
いつもの加速方法ならば《
本来の童話では金と銀。世界的に有名なアニメ映画では水色であるが、その姿はさながら、シンデレラ。
「なんですか?」
姿勢は変えぬまま、言葉を交わす。
彼と彼女が決別を果たす、その直前に。
『俺のこと、嫌いだったか?』
少し寂しげに、和真が笑う。
「友だちとしては好きでしたよ。でも、それ以上は考えられませんでした」
「やっぱりわたしたちは……そういう関係にはなれないです」
『そっか……残念だな』
「えぇ……本当に」
ただの学生同士であったなら、高遠和真とナジェージダ・プラトーノヴィナ・クニッペルが、素敵な恋をする可能性もあったかもしれない。素直にそう考えられる程度には、彼への好意は存在する。
しかしそんなifは存在しない。諜報員同士、《
友達以上恋人未満な素顔の上に、餓狼と雪豹の仮面を着け直す。
コイントスも、背中合わせに五歩下がるような合図はない。互いの呼吸を読み、動く。
先を取ったのは、
だからナージャが見るのは
(わたしの剣は――!)
刹那遅れて抜刀する。光の塊と思える純白の刃が姿を現す。
幾度も揺れる線を筆でなぞった練習と同じように振るう。
「――光を斬るッッ!!」
距離を
それだけ。
射線上に身を置き、正確にビームで
確かに最速は当然、最高と称してよかろう剣技だった。時空間制御能力の時点で既に対象者がいないのに、使えても同じ真似ができる者が果たして存在するか。
時空間制御が働く空間と通常空間の境は、当然時間の流れが違うため、物理学上最速の存在である
ナージャはその効果を利用し、振るわれる鎌の軌跡を正確になぞり、
しかもそれで終わりではない。踏み込んだ足は軸足となり、ナージャは体を回転させ、振り切った光の刃を再度振るい。
切り取った《
△▼△▼△▼△▼
《魔法》で加速されたコンピュータの認識速度で、
その瞬間、二の手が必要なのも理解した。なので、光速のビームを斬るという神業に驚くよりも、先に体が動いた。
ナージャが一回転し、取り込んだ反中間子と共に伸ばされるカウンター攻撃を、水中であるかのようなもどかしさを感じながら、バイクからずり落ちて避ける。
斜めに降り降ろされた白刃が肉体に触れるのは避けられたが、槍の柄が断たれ、しかも《
そうして一切の白い光が消滅した。回転しながら柄を振り切り、がら空きになったナージャの無防備な姿が残る。
《
《
なので
《
ナージャの《
だがしかし、行動を変えるには遅い。《魔法》の加護を失ったまま突進した
なによりもその選択を選ばなかった。
ちょうど振り向くナージャが正面に来たタイミングで、槍の穂先が届く。それに全て賭ける。
(難儀な性格だな……我ながら!)
ナージャが完全に振り返る。紫の瞳を目が合う。
そして青い光も目に入る。彼女の右手から漏れる、時空間制御に特化した特殊な《
それがなにかを確かめる間もなく、ナージャが右手を振り上げた。熱の塊が脾腹から入り、胸、そして肩へ駆け抜けた。
「………………え?」
記憶が一瞬飛んだ。気が付けば
「二の太刀だけで済まさず、三の太刀も使わせるとは、お見事です」
ナージャに背後から声をかけられる。どうやら彼女とすれ違い、地面を滑るように倒れたらしい。
――どんな隠し玉を持ってるか、わかったもんじゃねぇ。
(あぁ……危惧したとおりになったんだな……)
動かなくなった体を
物理的にこぼれていた。裂かれた腹から血が吹き出し、内臓がはみ出ていた。
この致命傷では、とても助からない。
「二撃目も意外だったのに……完全に騙されたぜ」
「全力でお相手するとは言いましたけど、《
「わざと誤解するように仕向けただろ……」
「そうですけど、それよりわたしに三太刀目まで策を用意させた、和真くん自身を誇ってください」
だからもう和真は悪あがきせず、ナージャを苦笑で見上げる。
左手には、光の消えたままの柄を。
右手には、《魔法》の刃を伸ばした鞘を。
近接戦闘を得意とする《
「《
改修されたナージャの《
本領を発揮するにはカウンター攻撃にしか使えない、前人未踏にして最上の無駄たる『出来損ない』の剣たち。
ユキヒョウが隠し持った三つの爪全て使い、和真を倒したナージャは、軽く肩をすくめる。
「わたしはこういう女ですよ。男の人を騙すのに
「男はわかってても、騙されてやるもんなんだよ……」
「そんな女を深追いすると、痛い目見ますよ」
「いちいち気にしてたら、愛せるワケないぜ……?」
「裏切りは女のアクセサリー、でしたっけ?」
世界的知名度を持つ怪盗紳士の孫、やはり世界的知名度の大泥棒のセリフ。
彼よりも手ひどく痛い目を見た男は、笑ってみせる。
「あなたは本当に……バカですね」
ナージャも泣きそうな笑顔を返してくれた。
(あぁ……)
血を失い、急速に意識が遠のく。視界も霞がかる。
(やっぱ……いい女だよ……)
そして和真は、意識を失った。
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