080_1830 神々の詩Ⅳ ~共同戦~
もちろん、それで仕留めたなど思わない。
「
飛び退くと同時に、立ち直った
再びその背に
だが、このまま逃げ続けても、きっと勝ち目はない。
「お前の望みはなんだ?」
『ふぇ?』
《魔法》によって作られた声だが、普段どおりの、ちょっとマヌケな返事が返ってきた。
こんなこと訊いている場合ではないのは理解している。だが聞かなければならない。
「俺はオカルトの『魔法使い』じゃない。でも《魔法使い》だ」
これまで他の部員たちにも問うてきた。
『魔法使い』に比べ、二一世紀の《魔法使い》はなんとも情けない。童話のように、想像力を無限に具現化する力などない。
「お前の望みを言ってみろ」
だけど、叶えられる望みもある。
きっと叶えなければならない、望みが。
『こんな無駄で下らない戦い、さっさと終えることです』
「同感だ。なら、リンクするぞ」
『え?』
――《魔法使い》同士のリンクは、信頼だ。
かつて十路自身が彼女に言ったからか、鼻白むような声から一転、戸惑いが返ってきた。
心が繋がるわけではないが、言葉を交わすよりもダイレクトにデータをやりとりするため、もう一段階深い領域にある。
しかも情報やパラメータ、
信の置ける相手でないと、できない。
「勝つぞ――ふたりで」
『…………はい!』
もはや疑えない信頼に、《魔法》で作られた音声に乗った感情は、緊張か。決意か。歓喜か。
『「リンク!」』
生体コンピュータの機能を同調させる。樹里とは以前にも脳機能を接続させたが、その時とは違う。十路は《
初めて閲覧する、完全人外のパラメーターに一時
「外骨格をいじれるか?」
『それよりケガ! 治しますよ!』
「そんなの後でいい」
樹里も十路のパラメータを閲覧し、見た目以上の重傷に驚いたようだが、
事実、
牽制以上の目的はないらしく、
「勝つためには、俺が振り落とされないのが最低条件。だけど固定されても困る」
『なら、これしかないですね』
《魔法》の光を発して、外骨格が変形する。隆起に
スーパースポーツよりも低い姿勢にならざるをえなく、アクセルもブレーキもクラッチもないが、オートバイのドライバーシートが形成された。
「ほとんど
『乗ったことは?』
「さすがにない」
引っかかっていた赤い
十路は改めて極端な前傾姿勢になる。すると保護するように《
「行くぞ!」
『はい!』
直後に狂加速する。《
電磁投射で、もはや疾走ではなく飛翔する。肉体が磁力に反応するほど、金属を取り込んでいるわけはなかろう。反発する磁性反応も《魔法》で作られているのだろう。
風雨と共に雲に乗って駆ける、正しく『雷獣』の姿。
(これもさすがに初体験だ……!)
戦闘機の操縦経験はあるが、特殊作戦要員といえど陸自所属では
『アハハッ! シゴキでここまではやったことなかったわねぇ!』
『私だって弱いままじゃないんだよ!』
もはや銃撃距離ですらない。プラズマの爪を展開した
硬質の
「DTC
負傷した体には相当きついGに耐えながら、十路は
左手のみを覆っていた金属が、半端な鎧となって体にも広がる。更に脳機能領域が仮想的に拡張され、一時的に『管理者No.003』専用とはいえ、《ヘミテオス》の細胞を破壊する
ガラスの戦闘機と呼ぶべき今の悠亜に、生物的要素はない。だが生物由来でも、透明で硬質の素材はある。夜空を超高速で動く中でも、
傷つければ『毒』の効果はあると踏み、十路はタイミングを合わせて、外骨格の背中から宙に飛び出した。
『《
「これもさすがに初体験ですよ!」
機体上部に磁力で足場を確保すると、力いっぱい左腕の頼りない細剣を突き刺すために肘を引く。
だが突き出す前に、新たな人影が飛来してきた。
無造作な斬撃を左腕で防ぎ、十路は逆らうことなく払い落とされる。指示するまでもなく、タイミングを合わせた
竜翼を広げた
妻を守るために、確実に合流すると読んでいた。
そして今後、一撃で必殺可能な十路を、彼は警戒し続けなければならない。
△▼△▼△▼△▼
『チッ……』
『どうする? 乗ってあげる?』
『ンな必要ねェ』
『それ、樹里ちゃんも一緒に叩き潰すってこと?』
『違ェ!』
『や~……乗ってあげないと、そうなるんじゃないかなぁ?』
『確かに、そのほうがやりやすいか……』
リヒトVS十路&樹里VS悠亜という複雑な局面が、単純な二対二になる。
△▼△▼△▼△▼
「拡張装備! メイス!」
『了解!』
またもやさすがに初体験だが、以前の部活で《コシュタバワー》と、左腕をコネクタを突っ込み直接接続させられた。ならば今回もできるはず
樹里の
そのコネクタに金属の左腕を突っ込むと、システムがデバイスマネージャーを起動させ、機能状態にあることを示す。
「使うぞ!」
『はい!』
使うのは十路が接続した拡張部品だが、樹里の生体コンピュータを利用する。十路は十路で、自前の
《マナ》を詰めた
本来ならば電磁投射で放物線状の『雷獣の尾』を伸ばすそれは、メチャクチャな軌跡を描く。樹里の《雷獣
淡路島上空に、飛行を阻害する電流の網が、仮想的に出現した。
「雷インパルス発生装置、稼動を維持!」
『了解!』
《
「《塔》を足場に! ついでに電力供給を受けろ!」
『はいっ!』
衝突を避けて
航空格闘戦している最中は無理でも、《塔》と接触状態にあるならば補給は受けられるはず。
それどころか立ち上がり、追い抜き様に一撃くれた、
電流の網がない低空から《塔》に接近し、舐めるように急上昇していった。《魔法》で物理法則に反するような空中機動が可能なはずだが、
ならば追い抜いた彼女たちの、次の攻め手も想像つく。
「拡張装備! アーマー!」
『了解!』
赤い
装着と同時に『
《雷獣
△▼△▼△▼△▼
爆発は低速陽電子ビーム照射中の
『なに考えてるのかしら?』
『さァな』
牽制なのは疑いようがない。本気で撃墜させるつもりなら、装備を破壊してまで手数を増やす必要はない。
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