080_1400 夜の巷を機動戦するⅤ ~砲撃戦~


 阪神・淡路大震災の傷跡に加え、経年劣化で瓦礫の山がそこかしこに生まれた住宅街を、駆け抜ける。


 本来車高の低いスポーツバイクでは、荒いオフロードなど走れるものではない。だが《使い魔ファミリア乗りライダーはそれくらい平気でできる。

 《使い魔ファミリア》とは脳機動接続をしないままでも。言葉でもイクセスに指示を出していない。

 それでも反応レスポンスが異様なまでに早い。十路の筋肉状態変化の予兆で動作を予測し、ほぼ同時にイクセスが《バーゲスト》を駆動させている。


【自分でもよく、指示なく動けるものと思います……!】

「付き合いも長くなったしな!」

【半年くらいですけど!】

「充分長い! この業界、基本いちいちだ!」

【《使い魔ファミリア》でも!?】

「最初の機体は二ヶ月で大破させた!」

【うぇっ!?】


 軽口を叩いているが、そんな余裕はない。むしろ必死だからこそ、いつもの調子を保つために、あえて軽口を叩いているとも言える。


 なにせ《コシュタバワー》にまたがるリヒトと、目まぐるしい機動戦をしている最中なのだから。モトクロスレースさながらにスピードを競いながらも、合間合間で互いに遠距離攻撃を仕掛ける。

 さすがに剣は空間制御コンテナアイテムボックスに格納し、片手で槍を脇に挟む彼は、それで《魔法》を撃つ。


 特撮映画さながらに、十路は爆発をバックに大ジャンプを決める。更に宙にある間に、スリングで下げた小銃を掴み、片手撃ちで反撃する。


 進路を変えて射線に建物を割り込ませて凌ぎ、負けじとリヒトも瓦礫をジャンプ台にして射線を確保し、《バーゲスト》の着地地点目がけて攻撃を加えてくる。


 常人ならすべなく爆発に突っ込むしかない。だが《魔法使いソーサラー》にそんな常識は通用しない。十路は車体に銃床ストックを当てて『魔弾』を発射、銃身が裂けるギリギリの反動で無理矢理着地点を変える。


 そしてリヒトがまだ宙にいる間に、彼の着地点に向けて走る。不整地のためヒヤヒヤしながら前輪を浮かせウィリー、降りてくる《コシュタバワー》を下から突き上げる。


「うぉ!」


 接触そのものは大したものでなくても、空中で衝撃を与えられれば、普通は体制を崩す。

 だがリヒトは構わず落ちてきた。

 危うく潰される危機感から、十路は体重移動をスイッチ、前輪を接地させる。その反動を使って車体を浮かせ、だけど跳躍 バニーホップは高くせず、体をひねって後輪を《コシュタバワー》の後輪にぶつける。


 リヒトにとっては真後ろからの攻撃だが、車体を倒して同じ方向に動くことで回避される。槍を地面に突き刺し、《使い魔ファミリア》ならではの信地旋回で、空振りさせらされた。

 しかもそのままひるがえり、《コシュタバワー》の前輪が横面に襲い来る。


 ホイールの軸を狙うが、上から伸びた槍が叩いて銃口を逸らす。

 ならばと仰け反った鼻先を通過するタイヤに引金トリガーを引くが、発砲直後に槍で弾かれた。

 ならば直接ライダーを狙うまで。

 跳躍回転バニーポップ360の最中、金属衝突音が七度響き、弾かれたように双方とも離れ、制止したタイヤで地面を削った。


 車輌に乗ったまま、カンフーアクションのような高速の立ち回りは、見る者がいたら目を疑うだろう。こんなエクストリーム・ライディングをできるのは、果たして世界で何人いるか。

 自律駆動するロボット・バイクだから、という側面も確かにある。だが同じ機体に乗れば、誰もがトリックしながら戦闘できる、なんて理屈が通用するはずない。



(構造が複雑な分、武器としちゃ《バーゲスト》が頑丈なんだろうが、確か《コシュタバワー》は重量五割り増しとか言ってたよな……しかも曲乗りエクストリームは同レベル……)


 はね飛ばすにはパワーが足りない。技量で誤魔化せる相手ではない。

 人外加減を一段階上げた程度では、リヒトを凌駕できない。


(やりたくないが……)


 意を決すと、十路は静かに命じる。


「《使い魔ファミリア》《バーゲスト》の全機能制限を解除せよ」

【私も本格的に参加しろと?】

「あぁ……なり振り構っていられない。頼む」


 存分に《使い魔ファミリア》を使っているが、『兵力』ではなく、あくまで『道具』としてしか使っていない。

 そしてこの戦闘は、十路の私闘だ。イクセスが参戦する理由はない。


【………You got it, Baddy.(了解、相棒)】


 しばし迷いを挟んだが、彼女は微笑の声を返し、直接の脳機能接続が行われる。

 更に擬装のチェーンが格納され、後輪の自由度が確保する。一体化していた積層可動式装甲を、盾として機能すべく分割する。マフラーとして擬装された戦術出力デバイスが、配管アームに支持されてホップアップする。


 薙ぎ払われるレーザー光線を避けるのに合わせ、十路がシートを蹴って跳ぶと、《バーゲスト》はそのまま右翼から突っ込む。

 

 合わせて《コシュタバワー》もリヒトの下から離脱する。それどころかエンジンとは別種の機械駆動音を鳴らし、隻腕無頭の巨漢へと変形する。


【イクセスもるなら、私も付き合うわよ】


 スピーカーを通じて、悠亜が声をかけてくる。

 否、声だけではなかろう。聴覚も視覚も触覚も、そして演算能力も、どこからか共有させている。


【私が参戦したらリヒトが負けると?】

【そういうわけじゃないけど、やっぱりフェアじゃないと。それに、イクセスがどの程度やれるか、確かめるのに丁度いいしね】

【先日共闘したじゃないですか。その時に観察できたでしょう?】

【体を交換してじゃ、本気とは言えないでしょ?】


 リヒトに二対一で挑めるような援護は望めそうにないが、これでも無意味ではない。

 

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