070_1420 4th duelⅢ ~疾風迅雷~
先ほどの《
直後に目に見えないエネルギーが一直線を登ってきた。兵器として運用可能な高出力レーザー光線など、支援部の攻撃以外に考えられない。
【死ネ】
《
展開した翼で滑空し、誘導爆弾はレーザー光線で示された場所に吸い込まれる。夜の
直後では
編隊はそのまま通過し、様子を
【なに……これ?】
だが、それも早々に
【速っ!?】
南の空から反応が一直線に、《
接近してくるのはやはり、野依崎雫に間違いない様子だった。
不確定なのは《
「迎撃――」
【等一下! (ちょっと待った!)】
僚機に指示を出そうとしたところを、これまでにない強い調子でAIに割り込まれる。
映像の中で接近してくる飛行物体が、ふたつに増えた。縦列で接近してきていたところを、先行する野依崎が進路を譲った。
正面から見ることになるが、空対空ミサイルより倍以上巨大な物体であることは、直径だけでもわかる。
【ゲッ!?】
物体の名はXASM-3空対
航空自衛隊で運用されている
対空ミサイルと比べて、対艦ミサイルは総じて重く遅い。主力戦闘機が全力を出せば余裕でぶっちぎれる。目標が段違いに遅い艦艇なのだから当然の話で、空戦に持ち込むのは根本的に間違っている。
なのに今回、防衛装備庁の協力を得て、支援部が使うのには当然理由がある。
XASM-3は従来型の固体ロケットブースターだけでなく、ラムジェットエンジンも搭載している。全速力の戦闘機よりも速い超音速ミサイルだからだ。
四国上空で警戒待機していた航空自衛隊のF-2戦闘機と合流し、ミサイルと共に大阪湾上空まで戻る野依崎が先行していたのは、ジャミングの中、正確に飛行させるために導いていた。
対艦ミサイルは艦にめり込んで内部で爆発するため、直撃しないと起爆しないはずだが、至近距離で自爆されてもただでは済まないだろう。
『ちなみにこれ、
おまけの無線が飛んできた。真実ならば、破片被害は少ないが、周辺をなぎ払う衝撃波の破壊力は拡大している。
【どうするどうするどうする!?】
「閉嘴! (黙れ!)」
こんな時にパニクっていたら、機体を統括する人工知能として役に立たないだろう。本当に混乱しているのか不明だが、構ってなどいられない。
対艦ミサイルは落ちてくるものだ。艦の重要かつ複雑な構造物を破壊するために、飛びあがって上から襲い来る。
更に空中爆発の爆風は、地面に跳ね返ってより強力な圧力となって広がる。
よって下に向かうのは悪手かもしれないが、戦闘機乗りのセオリーにこんな状況はありえるわけはなく、正解がわからない。
ただ、位置エネルギーを運動エネルギーに変えて、少しでもミサイルに追いつかれる時間を引き延ばすために。地形や建造物などの陰に入ることで、少しでも遮蔽効果を得るために。
超低空まで降下した《
探せば他にあるのかもしれないが、夜間でミサイルにマッハ三で追われながらでは、被害を軽減できる地形が見当たらなかった。
『改造はウソでありますが』
『ホントでもあるよーん!』
少女ふたり分の声と共に、艦艇上部構造物を破壊するトップアタックのように、XASM-3ミサイルが編隊に飛び込んで川に突き立った。
一緒に飛んでいた野依崎と移動して合流した南十星が、ミサイルを蹴り落として強引に向きを変えさせた。大爆発を起こさないのが改造とでもいうのか。
最後尾の
支援部の罠に誘い込まれたと理解した時には、もう遅かった。
『はい残念』
斜面から巨腕が突き出てきた。コゼットの
「く……!」
高度を上げるのを諦めて、代わりに速度を上げる。川面ギリギリを飛行し、破滅が落下してくる前に危険地帯を通過してしまう。
だが一機が間に合わなかった。翼を叩き折られ、弾かれるように斜面の森に突っ込んだ。
『もひとつ残念』
まだ終わっていない。
荒い石が転がる河原に立つ者と、その後を、高速と夜闇の中でも機械の目は捉えた。
ナジェージダ・プラトーノヴィナ・クニッペル。
時を固めて作られた空間は、光を全く反射せず、夜闇の中で視認はまず不可能。
だが大地を鞘に作られた、長大な
【くあぁ!?】
《
後続はそうもいかなかった。一機が主翼を根元からバッサリ切られた。あまりにも鮮やかで、切られたことを理解できないように一瞬飛び続けたが、物理法則が見逃すわけもない。千切れた主翼は遠くに吹き飛び、機体は河原を何度もバウンドし、山の斜面に突っ込んだ。
「!」
今度は
『更に残念』
『お疲れ様です』
川沿いにスムーズに走れる道路があったところで、戦闘機との相対速度差はとてつもなく大きい。一瞬で追い抜く。
だが刹那ではない。仏教用語の時間単位を実時間に置き換えたら、交錯する時間が〇.〇一三秒から〇.三六秒に変わるくらい違う。
彼らは手放しで
咄嗟に機体を更に
対戦車ライフルによる銃撃が
【ぐっ!?】
掃射は《
しかも《魔法》を付与された『魔弾』だった。《
ともあれ、速度差で引き離し、川に沿ってわずかなカーブを曲がると、彼らの射線から逃れることができた。
【なぁぁぁっ!?】
否、別の脅威が待ち受けていた。鉄橋が行く手を立ち塞いでいた。
幸いにして橋脚を必要とする長さではなかった。転がる巨岩の頭が
やはり《
【ヤバ……! ヤバイって……!】
姿勢を戻し、アフターバーナーを吹かし、《
ハイキングコースの全長は四.七キロ。その半分も通過していない。川沿いを飛行した速度を考えれば、一〇秒にも満たない。
その短時間で、随伴機が全て撃墜させられた。
「やってくれたわね……!」
彼女たちは完全に罠に
『一応警告しておいてやる。今の《
鋭さを
彼の言うとおりだ。
『それでも自衛隊の対空兵器からは《魔法》でなんとか逃れられるだろうけど、俺たちも無視して逃げ切ることができるか?』
片方だけならまだしも、さすがに既存軍事兵器と、史上最強の生体万能戦略兵器、双方から狙われている状況下では、確率は低いと言わざるを得ない。
「連中を完全に叩き潰さなきゃ、逃げられないってわけね……!」
獰猛な獣の笑みを浮かべた
そして半分壊れた
△▼△▼△▼△▼
テレビ放送でニュース速報が流れても不思議ない墜落事故で、常人の乗員なら『行方不明』とされても生存は絶望視されているだろうが、《ヘミテオス》ならば話が変わる。
「っ……」
ナージャが翼を切り飛ばし、河原に墜落して四散した戦闘機の残骸をかき分け、這い出てきた『麻美』が頭を振る。
そして立ち上がり、半分水没してチロチロと炎を上げる機体に振り返る。
「ド派手に爆発炎上してくださってたら、こちらとしても大変助かったんですけどねー……」
そこへ、石を転がす足音と共に、ソプラノボイスが近づいてくる。ほのかな明かりの範囲に、その人物が入ってくる。
いつもの学生服ルックの上から、
「ならまぁ、仕方ありませんか」
ナージャは折りたたんだバンダナを取り出し、頭に回して目の位置で固定する。
手品のタネなどではない。完全に視覚を封じてしまった。
「舐めてるの……?」
「いえ。わたしの場合、むしろこのほうが動けるからですけど? 《
そんなことはない。いくら第六の感覚を有し、脳で『視る』ことができる
ただし彼女に限っては、話が変わるかもしれない。
なにせ暗所恐怖症なのだから。目を閉じて脳内センサーに頼り切ってしまったほうが、暗闇に恐怖することなく動けるとも確かに考えられる。
「それでですね。どちら様ですか? 皆さん同じ顔なもので、あなたたちの見分けつかないんですよ。こちらの希望としましては、昨日学校で戦った方と同じだと嬉しいかなー、なんて」
「安心しなさい。同じよ」
「それはそれは」
《
△▼△▼△▼△▼
同様に。
ハイキングコース入り口付近、対艦ミサイルに激突して墜落した機の近くでは。
「よっしゃぁ! 当たりゲットだぜ! リベンジマーッチ!」
南十星と、《
△▼△▼△▼△▼
戦闘機に激突されて破壊された鉄橋付近では。
「どちらかというと、
野依崎と、《
△▼△▼△▼△▼
土の巨腕が生えた付近の森では。
「あ゛ー……確率四分の一じゃ、引き当てても不思議ねーですわよね」
コゼットと、《ホレ》と呼ばれている『麻美』が。
昨日戦い、
△▼△▼△▼△▼
十路は遊歩道の途中で、《コシュタバワー》から降りた。
彼女は十路が相手する。
「そっちも頼んだぞ」
《コシュタバワー》と
「You got it――(了解)」
《
しかし彼らはそういう関係ではない。平気で悪態をつき、命を預ける《
けれどもいざという時には、確固たる信頼を見せる。
彼と彼女の関係を示す、適切な言葉を挙げるとすれば。
「Buddy.(相棒)」
これの他には考えられない。
不敵な笑みを返した十路は、《磁気浮上システム》を起動させ、一気に
《コシュタバワー》を操る
墜落は終わりではない。むしろ始まりの号砲だ。
支援部の
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