070_1410 4th duelⅡ ~速戦即決~
長崎・熊本方面から突入してきた編隊は、瀬戸内海を沿うように飛行していた。
対して《
つまり日中に
機体表面に超小型のレーダー半導体素子を貼り付ける
通常のレーダーで全天索敵するには、電波ビームを発する機器を回転させなければいけないが、全周に素子を貼り付ければそれが不要、しかも空気抵抗や
更に高度な――それこそ既存技術ではまだ不可能なレベルだが、耐えうるデジタル制御技術があればこそ、ジャミングが可能となる。
《
そのコクピットにフライトスーツ姿で収まる
他の機体は《
だが改修して出力デバイスを搭載しているため、《
【
国際条約を無視して淡路島上空に入り、《塔》の脇をすり抜けた頃、
全身――特に手足と背後に強電磁波を発する物体を装着し、更に周辺に電波の塊を浮かべた人間が、進路上に浮かんでいる。
「
【あれが《
目視はできずとも、推測はつく。周辺に浮遊する電波の塊――
『無人戦闘機に出力デバイスを搭載した程度で、戦術を広げた気になられては、自分の価値も下がるので困るのでありますよ』
しかも
「他の連中は?」
【見当たんね】
攻撃目標の最年少がただひとり、空域で待ち構えている理由は、すぐには思いつかない。
強いて挙げるとすれば、道案内か。支援部が戦うのに都合のいい場所におびき寄せるためのエサ。
【乗る?】
「そうね」
ジャミングで電波が無秩序に飛び交う空域では、レーダー波の反射を受けて追尾する電波ホーミング誘導が役に立たない。一気に敵を射程内に入れると、赤外線追尾式の
【え?】
対し
熱力学による推進だけではなく、電磁加速も行っているのだろう。生身でそんな真似をすれば、慣性だけでなく風圧で人体が潰れかねないはず。
『無人随伴機を攻撃手段としか考えていなのなら、甘すぎであります』
当然それだけミサイルにも接近するが、
当然といえば当然だ。戦闘機という兵器は、生身で戦闘機に負けない速度を発揮する人間と戦うことを念頭に置いて開発されていない。
少女とすれ違う。編隊は散開し、無防備な後方からの攻撃に備えた。
しかしなにも起こらない。
それどころか敵を見失ってしまった。レーダー上からも反応が消えている。
だがこれは、対戦闘機で《
「ライト、レフト、ターン!」
うち一機に、野依崎が貼り付いていた。完全に内懐に入り込まれると、レーダーでは探知できないし、武装も使えない。一刻も早く引き剥がさないと、一方的に
「《
その噴射を浴びせかけようとしたが、少女は慌てたように、風圧に逆らうことなく機体から離脱した。
『フ』
無視していたレーダー反応が、ここで無視できなくなった。
最初に少女に向けて発射し、
先発のミサイルは、正確に後発のミサイルの胴体に激突し、連鎖的な大爆発を起こした。
【
「これが《
通常の空戦では起こり得ない。試してみても、よくてミサイル同士がすれ違う。悪ければ後発のミサイルを引き連れて先発のミサイルが突っ込み、野依崎に二倍の攻撃が向かうのではなかろうか。
正確に現状観測し、更に予測し、状況を自在に操る手腕と技術がなければ、こんな非常識は絶対に再現できない。
空中に咲いた爆炎で視界はふさがれた。戦闘機の群は避けて散会する。
その向こう側に、少女の姿はない。
【下!】
遙か下、海面ギリギリを南に飛行し、一気に戦闘空域を離脱しようとしていた。
【どうする?】
想像以上にやる。昨日学院で襲撃した時には見ることができなかった戦術だ。
彼女たちが調べた範囲では、野依崎は支援部内で情報分析官としての役割を担い、ついでに出不精の半ヒキコモリだ。
野依崎が向かったのは南だ。他の戦力がどこにいるか不明だが、神戸市とは逆の方向にいるとは思えない。とはいえ放置すると、挟み撃ちにされる可能性も考えられる。
追いかけるべきかどうか、
『いっち、にっの、さーんっ!!』
その逡巡を突くように、またもオープンな無線が――それも野依崎とは違う、能天気な少女の声が届いた。
状況が意味するところが咄嗟には理解できない。いやレーダーでは、陸地からの小型物体の接近を伝えているのだが、音速を超える兵器の接近速度ではない。ミサイルやロケットは当然、砲弾にも劣る。少し進路を変えると追尾もしない。
しかも接近が停止した。戦闘機が飛ぶ高度まで届くことなく失速してしまっている。
一体なんなのかと、首を傾げる。
「な……!?」
正体がわかったのは、飛翔体からではない電波を感知してから。
併せて空中静止したはずのレーダー反応が、突如として急接近する。明らかに攻撃意思を持つ動きだ。
【どぉぉぉぉっ!?】
《
ダミー熱源の赤外線を捉えたミサイルが爆発した。衝撃波と破片が翼をかすめるギリギリでかわした。
【なに今の!?】
どう考えても戦闘機やランチャーから発射された挙動ではない。それに発射元も特定できない。
ありえるとすれば。
「
【はぁ!? 投げてって……!】
「
遠距離攻撃手段をほとんど持たない《
「連中はどこに――」
見下ろす神戸市の夜景から北にやや外れた暗い場所で、《魔法》の青白い光が見えた。大阪湾上空からでも肉眼で見えるということは、かなり大規模な《魔法》の行使だ。
当然攻撃を警戒する。実体弾兵器とは段違いの速度を持つ光学兵器や粒子線兵器を警戒した回避機動を取った。どのようや手段で補足されたか、センサー類に注視する。
だが、なにもない。またしても。
更にまたも時間差で襲い来た。しかし今度は赤外線誘導という正確さではなく、段違いの物量で。
だがその柱の群を潜り抜けるほど、小さな物体相手なら。
光の中に入ったとしても、一瞬で通過してしまう高速物体なら。
レーダーで捉えても、
【がっ!?】
一番近いのは
『近いもの』であって、明らかに自然現象ではない。その証拠に強化ガラスを貫通しかけ、先端を覗かせているのは、材質が石の釘のような物体だ。
「
幸いにして飛行に影響はない。機体に突き刺さっても貫通まではいたらず、その内部にまでは損傷を与えていない。武装は下部だから戦闘にも問題ない。
『チ。やっぱあの程度じゃ
「コゼット・ドゥ=シャロンジェ……」
『石使い』である銀鈴のドス声の持ち主が苛烈なのは知っていたが、ここまでだとは思いもしていなかった。市街地に降り注げば、ハリネズミと化した民間人の犠牲者が大量に出ているのに、なんという思い切りのよさだ。
放物線を描く先が無人島と海だから可能な、回避不可能な面制圧攻撃だ。
「どうやら連中、学校じゃない場所で待ち構えてるようね……」
【やってくれたわぁ……】
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