070_1400 4th duelⅠ ~前途多難~
旧福知山線ハイキングコース。
それが
兵庫県
そして廃棄された旧線は近年、ハイキングコースとして整備された。桜や紅葉のシーズンには多くの行楽客で賑わう観光地と化している。
「なーるほど。ただの谷じゃダメですけど、ここなら話は変わりますね」
懐中電灯を手に、ルートの入り口付近を確かめていたナージャが戻ってきた。
「足元も大事ですけど、トンネルのほうが重要ですね」
靴を履かず、代わりにキックボクサーのように足にバンテージとサポーターを装着した
線路がそのまま遊歩道として整備されているので、トンネルや鉄橋といった鉄道遺構もそのまま残っている。
さすがに舗装道路ほど平坦ではないが、レールは撤去されて歩きやすく整備されている。機動戦は充分に可能だ。
更に
最悪、川に飛び込むという手段も使える。夜の渓流に飛び込むのはかなり勇気が必要だが。
「というか。ナージャが一番大丈夫か? ここ日中でもライト推奨らしいぞ?」
「あははー……」
人家のある最寄り駅の生瀬駅前でも結構な暗さだった。ハイキングコース内ともなれば、完全に暗闇となる。
力なく笑うナージャへの懸念事項がまた増えたと、十路はため息をついた。
『つーか。いつ来るんだ?』
《コシュタバワー》のスピーカーから、変換された男の声が流れる。
今回、支援部は自衛隊にも協力を求めた。というか十路の見込みでは、東京にいるつばめが、三度も
どうやら市ヶ谷は、その関わりで動いている様子だった。となれば近隣の駐屯地や基地にでもいるのか。
『自衛隊機の
野依崎のアルトボイスも追従する。彼女は六甲山の頂上を陣取っているはず。
『あたし眠いぃ~……』
欠伸混じりの九時五時健康的生活サイクルな南十星は、真東にある長尾連山のどこかにいる。
『あ゛~……だっりぃ~……』
ウ●コ座りする姿が目に浮かぶコゼットは、北部の
彼女たちは自衛隊と連携して、三角形を描くように監視の目を築いている。詳しい内部情報が支援部にまで降りてきていないため、技術的な問題か人的な問題か不明だが、都合三度もの
それは十路の指示だから別にいいのだが、間違いなく訪れるだろう、死戦を過度には恐れていない。
いつ来るかわからないのに、緊張の糸を張り詰めたままだといつか潰れる。そういう意味では丁度いいかもしれないが、あまりにも緊張感なさすぎる気がする。頼もしいと評するべきか、なんというか。
十路がやはり不安になっていると、別種の不安を
【ねぇねぇ。《
「連中に勝つには、
【戦闘機型の《
「俺も同感ですけど……ウチの連中は頼もしすぎて、言っても聞きゃしないですから……」
《ヘミテオス》たちとの死闘になる。それもきっと、戦力を集中させて各個撃破させるのは難しく、支援部も戦力分散して一対一にせざるをえない展開になると予想している。
とはいえ十路ひとりで引き受けられるとは、とてもではないが言えない。
ナージャが車止めに引っかけているものを見やる。
改造された
準備が必要だった南十星も、今頃あの金属片を、いつものベルトで腰に装着しているだろう。
コゼットや野依崎は特別な準備をしていた様子はなかったが、昨夜のやる気を見れば、時間を置いても考えが変わっているとは思えない。
なにも言わずとも彼女たちは《ヘミテオス》と戦うことを念頭に置いている。十路はため息しか出ない。
【あと消火器は? 《
「あれは法律とか世間体とか色々の兼ね合いで使っただけです。今日みたく人目を気にせず済むなら、遠慮なく銃火器使いますよ」
【どんな面白いことしてくれるのかと楽しみにしてたのに】
「一発芸じゃないんですけど」
勝手に期待されて、勝手に失望されても、十路も困る。
あと質問自体は当然でも、妙な空気にされても、困る。
【あと、《
「自分の意思でどうにかできたことはないですね」
十路は七割ほどの細胞が《ヘミテオス》のものに置換された左腕を見下ろす。といっても長袖ワイシャツとジャケット、更にはエルボーパットとグローブで、ほとんど肌は露出していない。
左腕が小銃を
「まぁ、自分で操作できたところで、ビックリ武器腕人間になるのは、お断りしたいですけど……」
【あぁ。だから操作できないのね】
「は?」
【《
――お前は俺を化け物にしたのか!?
五月の出来事は、悠亜も知ってるはず。
十路を皮肉って使ったわけではないと思うが、悠亜の言葉は、樹里に言い放った言葉を思い起こした。
さまよった気まずい手が、首筋を自然と置かれる。
(そういえば木次、どうしてるんだ? 直接知らせてないけど、部の周波数で無線ガンガンに使ってるから、気付いてるとは思うんだが。今回やっぱり不参加か?)
樹里の盗み聞きを知らない十路は、思考を逸らせて、そのことを考えないことにした。
加えて考えずに済むようになる。その暇などなくなる。
『――来たようであります』
緊張を
『
ナージャが手早く装備を身につける。うろうろしていた
十路も
『それと……これは関係あるのか不明なので、報告しなかったでありますが』
野依崎が迷いながら報告を続ける。
『
「なんだそりゃ?」
『
「もしかして神戸もその範囲に入るのか?」
『
今回の部活動に、関係あるともないとも、どちらも断言できない。十路では判断できない。
「
『自分もそれを迷って報告したのでありますが……監視以上はないと思うのでありますがね? 飛行距離から考えて、本土から護衛機が随伴するだけでも大変と思うでありますし、こちらにちょっかいかける余裕などないと思うでありますが……』
「なら、無視するしかないだろう。裏事情は知らんが、中国軍も今回の
頭の片隅に追いやって、戦闘準備を終えた十路は、改めて言葉を紡ぐ。
「フォー。気をつけろよ」
『それより
「部長。手はず通りに」
『了解ですわ』
「なとせ。無理せず無茶しろ」
『どっちやねん』
「それと市ヶ谷、段取りを間違えるなよ。ウチの連中に誤射しやがったら、マジで吹っ飛ばす」
『実際にやるのは自衛隊の隊員で、俺に言われても困るんだが』
一部怪しい航空戦力となりうる彼女たちに声をかけると、地上戦力であるナージャと
「相手の罪状は並べるのも面倒くさいくらいだから、遠慮する必要もなし――」
彼女たちに頷き返し、十路は大きく息を吸い、宣言する。
「これより部活を開始する」
【『了解!』】
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