070_1300 flakey ordinaryⅥ ~禽獣夷狄~
でも、少しだけ前言を
「ですからぁ!? 動物嫌いだって言ってるでしょう!?」
昼飯の後、
「なんで私を乗せようとするんですかぁ……」
「折角だから?」
「そんな理由ならトージも乗ってくださいよぉ! 私ひとりこんな晒し者に!」
「走らせてもいいなら」
乗馬は《
基本的には《
その感覚を
「あと大声出すな。馬がビビる」
「う゛~……」
木曽馬の背で情けない顔をしているが、十路は構わず係員に頷いて、一周五〇〇円のホースリンク乗馬体験に出発してもらった。
平日の昼間とはいえ無人ではないため、他にも客がいる。乗馬体験の順番を待っているのか。それとも興味はあっても乗るつもりはないのか、おっかなびっくりな
柵に体重を預けた十路は、彼女を見守る
そうしていると片足だけ違う足音が、背後からゆっくりと近寄ってきた。
「デートですか?」
振り返ると、年齢と場所相応の服だが、それでも精一杯のおしゃれを楽しんでいる、上品そうな老婦人が杖を突いて近寄ってきていた。
「なんですかね? 男女で一緒に遊んでるって意味ならその通りですけど」
十路に並び、老婦人もおっかなびっくり馬に揺られている
「あらあら。今日は平日なのに。学校は?」
「今日は休校なので、サボったわけではないです。制服なのは一度学校に行く用事があったので」
なにかと思えば。付き合いきれない。
《魔法》を使えばその限りではないだろうが、地獄耳を持つ樹里ほどの警戒は無用だろう。
「これ以上は白々しいからやめようぜ。
杖は急造で用意したのか、長さがあってない。それでは体重をかけられない。足が弱った歩き方は演技で、本物の年寄りの歩き方ではなかった。
「昨日の今日でもう日本にトンボ返りしてたのかよ」
「私だけね。やってくれたものね。他はしばらく身動き取れないわ」
隠し立てするつもりはないのか。表情や声音はそのままだが、老婦人の口調が変わる。
他の部員が学院から動かない今、十路が単独行動を行ったのは、もちろん作戦を考えるのに当て
もちろんアクションしてくる確証などなにもなかった。仮にあったとしても、これ幸いと地形を変える火力で抹殺される可能性もあった。
だが、敵の行動について確定的な情報がない状況では、警戒のしようがない。割り切って行動するしかなかった。
それでなにも起こらなかったので、現状の最大戦力である《コシュタバワー》だけでなく、
試してみた結果が現状だ。
「どうやら今ここで戦う気はないみたいだな?」
「あら? 殺してあげてもいいわよ?」
「その時は全力で逃げる」
「男らしくないわね」
「当たり前だろ。今は武器持ってないんだし。それに、五秒もてばイクセスが、三〇秒もあれば悠亜さんが来る。一〇分もあれば他の
「で。なんの用事だ?」
とはいえ
仮に十路を殺害したところで、その後に
「用事って呼べるほどの用事はないけど――」
ホースリンクに向けられていた
「雰囲気変わったわね」
「お前が近くから消えたからな。落ち着いてメシ食える」
嫌味ではあるが事実でもある。今後『
もっとも、
「代わりのダッチワイフがいるから?」
「イクセスが聞いたら風穴開けられるぞ」
挑発も受け流す。以前ならばピリピリして受け流せなかったかもしれないが、今はなんでもないくらいの余裕がある。
「あーあ……なーんか面白くないなぁ……」
この女は、野依崎のような常識外れによる頭痛の種や、南十星やナージャレベルの可愛げあるトラブルメーカーとは、
咄嗟に十路は
そして柵の隙間からホースリンク内に滑りこんだ。
「あーあーあー。気をつけてくださいよ」
更には十路が柵を飛び越えて、リンク内に侵入して杖を拾い上げる。係員が『入られると困る』みたいな顔をしたが、手刀を小さく切っただけで無視する。
「どうぞ、
好青年アピールの作り笑顔と外見年齢を、必要以上に強調して杖を差し出した。
「あら、ありがとう」
受け取る
周囲の視線を集めてしまった。大量虐殺も辞さないならまだしも、これで
「トージ。なにやってるんですか?」
しかもホースリンクを一周する前に、近くを通りかかったところで、背を蹴って
「いや。なんてことない」
「ならばこのご婦人は?」
「話しかけられただけ」
「デートかしら、と思って声をかけさせていただいたの」
「これデートなんですかね? 男女で一緒に遊んでるって意味ならその通りですけど」
十路と似たようなセリフで流した
なにかと思うまでもなく破裂音と閃光が発生し、
銃声から判断して二二口径、それも火薬量を削減した亜音速弾だろう。競技や小型害獣駆除、暗殺にも立派に用を成すとはいえ、シャーペンの頭についてる消しゴムみたいな小口径弾では威力は知れてる。
それが指鉄砲の人差し指から、
「急にどうしました? カナブンでもぶつかってきました? あれ高速道路で衝突するとひどい目見ますからね」
最初からこちらの異変に気付いていたらしい。背後には『誰がダッチワイフだコラ』と吼える魔犬オーラが見える。
「い、いえ……なんでもありません」
引きつりながらも浮かべた
なにが起きたか誰も理解できたはずないだろうが、正体隠した猛獣たちになにかを感じ取ったのか。周囲の観光客たちは注目しつつも距離を取る。
(コイツらフツーにヤベェ……)
十路も今更ながら他人のふりをしたかった。
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