《魔法使い》の異変

065_1000 【短編】日常のちょっとだけ非日常Ⅰ ~AM06:00~


「げほっ……!」


 自室で目覚めたつつみ十路とおじがまず感じたのは、倦怠けんたい感だった。ついで頭の重量感と、喉と鼻の灼熱感も。目覚ましの音も、壁の向こうで鳴っているようにこもって聞こえる。


(なんだ、これ……?)


 思い通りにならない体をなんとか動かし、体を起こしたが、途端にめまいに襲われる。倦怠感と合わせて、再びベッドに倒れ伏したくなった。

 それでもなんとか気力を振り絞ってベッドを下りたが、二、三歩でもう駄目だった。めまいだとわかるが、『自分がふらついている』という自覚はなく、『床が急角度で傾斜している』という錯覚で、とても立っていられない。


(毒、か……?)


 感覚の麻痺、息苦しさ、全身の違和感。それらから十路は、陸上自衛隊非公式隊員としての経験と照らし合わせて、まずはそんな疑惑を抱いた。

 史上最強の生体万能戦略兵器 《魔法使いソーサラー》であり、しかも国家に管理されていない総合生活支援部員は、身柄と命を狙われる宿命にある。

 だが、いつ毒を盛られたというのか。考えてみても全く心当たりがない。

 ここはセキリュティは万全のマンションだ。防音が効いているので確かなことは言えないが、害意を持つ誰かが侵入を試みたにしては、あまりにも平穏だ。内部犯の可能性も考えてみたが、やはり異常が見られない。加えて十路の部屋に侵入成功できたとしても、こんな迂遠な方法を使わずとも、拉致なり殺害なりできたはず。

 何者かが昼間に、なんらかの方法で遅効性の毒を注入した可能性も考えてみたが、やはり違うと考える。昨夜寝る前までは、普通に生活していた。違いといえば、受験勉強の遅れを感じたため、寝る時間が少し遅くなった程度か。


(それとも……ガスか……?)


 意識が遠くなり、星が散っていた視界も明滅する。原因がわからずとも、異常は明らかだった。


(ヤバ、い……)


 テーブルの携帯電話に手を伸ばしたが、遅かった。誰かに助けを求める前に、十路は倒れ、動けなくなってしまった。

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