055_2030【短編】一動画配信者から見た総合生活支援部Ⅳ 「オープニング撮影、終わったでありますか?」
夜。
「おはこんにちこんばんは……さかタカちゃんねるへようこそー……今日はこんな静かなスタートでーす……」
山中を整備されているとはいえ街灯はほとんどなく、通過する自動車も皆無な、恐怖を覚える坂道をタカヤとヨーダイはふたりして登っていた。
『オープニング引っ張ると嫌われるんじゃね?』と、カメラ係をしているヨーダイは思うのだが、時折振り返りながら現状説明をするタカヤに、余計なことは言わずにおく。
散々考え直すように言ったが、反論むなしく強引に連れてこられたので、とっとと終わらせてとっとと帰るに限る。
「というか、日中で懲りただろ……」
編集カットを織り込んで、あえて聞かせるためのヨーダイのボヤきに、タカヤはちゃんと反応した。
「あの程度で諦めてどうする!」
その不屈精神を別路線、少なくとも書き込まない方向で生かしてほしいと思うヨーダイだが、それはさておき。
「やっぱ今日、なんかあるんだって」
怪しいメールにあった『ある日の夜』が今だ。
それに朝、支援部の男子部員が愚痴っていた。
――朝イチで部活とかマジか……夜も部活の予定だってのに……
だからタカヤは張り切ってるのだろうが、ヨーダイとしては勘弁願いたい。お礼参り扱いされたのを、なんとか誤解を解こうとしたが結局無理で逃げ帰ったばかりだというのに。
やがて実況中継的にタヤカがしゃべりながら歩き、ついでにヨーダイは『これ全部使ったら『とっとと本題入れ』とか書き込まれるぞ』と思いながら歩き数分、やがて到着した。
朝に足止めを食らった。修交館学院の正面校門だ。
夜中ならば当然、フェンスゲートは下ろされていて、やはり足止めを食らう。しかも警備小屋には誰かいる様子はない。彼らふたりを常夜灯の明かりが虚しく照らしている。
とはいえ昨今では、監視カメラくらいは設置されているはず。ヨーダイはカメラを構えたまま、おどおど周囲を見渡した。
「――というわけで企画第一弾! 《魔法使い》の学校にお邪魔します! イエイ!」
ようやく口が止まったタカヤが、身振りでカメラを指示してくる。ヨーダイは門柱にある『学校法人 修交館学院』と刻まれた銅版を撮影し。
ふと違和感を覚えて、そのまま視界を上に向けた。
門柱の上に、朝見たジャージ姿の小学生女児がしゃがんでいた。コワい感じに目を青白く光らせて、夜空をぼへーと見上げていた。
「あ。オープニング撮影、終わったでありますか?」
ヨーダイの視線に気付くと、少女は門柱の上で立ち上がる。
そしてグローブと青白い光に包まれた手で指差すと、急にカメラの視界が暗くなった。慌てて確かめると、なぜか電源が落ちていた――否、外部から強制的に落とされた。
「お前たちも
朝の出来事なので、今度はヨーダイたちを記憶している小学生女児に、ため息つかれてしまった。
「とっとと帰るのをオススメするであります。ここは今から騒がしくなるので、巻き込まれても知らないでありますよ」
一方的に告げると、小学生女児はストンと門柱から飛び降り、フェンスの向こう側にポテポテ歩き去った。
少女の普段を知らないヨーダイには、それが彼女なりの親切だと理解できない。ポカンと見送り、姿が見えなくなってからハッとしてタカヤに振り返った。
「やっぱマズイだろ……思いっきり見つかったし」
もう何度目かわからない忠告が終わったとほぼ同時。
「「!?」」
敷地内から爆音が発生した。夜の
「こうしちゃいられねぇ!」
「あ! おい!」
持っていたカメラを奪い取り、タカヤはフェンスゲートに飛びついた。四苦八苦しながら彼はよじ登り、敷地内に侵入してしまった。
ヨーダイは迷ったが、彼を追いかけた。正直そのまま放置して帰ることも脳裏に
なんとなーくそうじゃないかなーと思っていた、施錠されていないゲート脇の小さな通用口を開けて、普通に。
△▼△▼△▼△▼
音は連続して続いているが、その性質は様々だった。爆音と呼ぶべき体にも感じる振動と、破裂音と呼ぶべき音だ。
(まさか、銃声……?)
日本在住の一般人に、本物の銃声を生で聞く機会などまずない。だがヨーダイはあてずっぽうで、破裂音の真相を思い当ててしまった。
タカヤを追いかけ、複雑に並んだ建物群を抜けた先は、戦場だった。
「もぉぉぉぉっ!」
否。『戦場』という言葉はもうちょっと双方互角的なニュアンスがあると思うが、一方的すぎる上に、『戦闘行為が行われている場』と称するのはかなり語弊があった。
この場を表現するのに相応しい言葉を探すなら……カタトゥンボ?
コロンビアとベネズエラを
「大人しく捕まってくださいっ!!」
ヨーダイたちの記憶にあるというか記憶から抹消したい、飛行稲妻女子高生が再び存在していた。
二メートルに及ぶだろう長い杖に横座りし、校舎群の隙間を縫って飛行しながら、やはり校舎群の隙間を駆ける正体不明の男に小規模落雷を落としてまくっていた。
落雷は二種類ある。女子高生が指差すと形成される光る
「あーもう! やりにくいなぁ!!」
直線的な雷撃はギリギリのところで命中せず、何条もの放電は周囲の障害物に導かれている。
夜に溶け込み、街中でも不審に思われない程度の暗色系で揃えた服装の男も、飛行稲妻女子高生の暴虐から必死になって逃げている。
「お、おい……!」
そのままヨーダイたちに向かってきた。タカヤも慌ててUターンしてきた。
「また増えたぁぁぁぁっ!」
「「どわぁぁぁぁぁっ!?」」
飛行稲妻女子高生は、そのままヨーダイたちを巻き込みながら追ってくるので、必死になって逃げざるをえない。
男たちが何者なのか知らないが、彼女から見れば、ヨーダイたちも同じ不法侵入者だろうから、無理もないことではある。とはいえバシバシと雷光とショート音に追いかけられるのは大変心臓によろしくない。
申し合わせたわけではないが、ヨーダイたちは建物の角を曲がった。距離的に余裕のない男はそのまま直進し、少女も追って直進した。
ヨーダイたちを見逃したのとは、きっと違う。少女はちょうど戦術を変えた、男ひとりに狙いを絞った。座っていた長杖を掴み、男の頭上を飛び超えて着地し、行く手を塞いだ。
彼女が雷をまとう長杖を一閃させると、ショート音と共にメキョッと人体から鳴ってはならない
「ふー……! ふー……! やっと……!」
口から蒸気出しそうな息を肩でする少女は、ジャケットの背中をヨーダイたちに向けている。
顔が怖くて想像したくない。したくないのだが。
「あとは……!」
いつの間にか足を止めてしまっていたヨーダイたちに、女子高生は振り返る。
肩にかかるミディアムボブは、静電気で膨れ上がり、一部が逆立っていた。ヨーダイたちが知るはずないが、日頃は危機感がまるで感じられない子犬めいた顔は、
以前スピード違反で逮捕された時に見た、飛行稲妻女子高生の怒りだ。
ただし今回、瞳は金色になっていない。あと上から見下ろされていたにも関わらず、パンツ丸見せのサービスシーンはなかった。
「「ぎゃぁぁぁぁっ!?」」
タカヤとヨーダイは今回も、《
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