050_0620 不本意な誕生日・日常Ⅷ~海上自衛隊の極旨カレー・レシピのひみつ~
そして、東京では。
「……で
「私たちも把握できず、困っているところだ……」
中年の域を超え、老年に達したと言ってもいいだろう男性を、前にして。
昼時の食堂だった。午後の業務に備えて食事を腹に収めるため、利用客が数多く訪れて混雑している。
しかしふたりが座る一角だけは、不自然に席が空いている。気付いた利用客はトレイを持ったまま直立不動し、困ったように同僚たちと顔を見合わせ、そそくさと混雑している側に席を陣取る。そして普段以上の早飯をして、早々に立ち去っていく。
ふたりは敵でも味方でもない空気で、対等の立場で話している。その異様な雰囲気に、近づくのを避けている。
口の中のものを飲み下し、飾り気ないコップの水で洗い流し、つばめは再度話を続ける。
「『トントンマクート』について、そっちにはちゃんと連絡あったんじゃないの?」
「色々と説明あったが、重大な危機、という注意喚起のみと思ってもらおう」
「じゃあ、
「…………」
男性は黙って首を振る。否定よりも困惑の振り方だった。
「まぁ、不完全でも
「
「『バロン』の情報が伝わって来てないのも、それ?」
「好意的に解釈すれば、だがな。今朝、君から連絡を受けて、総理が直接大統領に連絡したらしい……だが、
「ふぅん……
いつしか止まっていた手を、遅いながらも再度動かしつつ、つばめは懸念を伝える。ただし口に米と香辛料を運ばず、所在なさげにかき混ぜる。
「神戸でなにが起こるかわからないけど、問題起こるのは確定として。その時に
「なにか掴んでいるのか?」
「いんや。それがわからないから、リヒトくんと一緒に東京に来たんだけど」
「ゲイブルズ博士も……? どういうことだ?」
「フェニックス計画って知ってる? 宇宙開発で」
「いや。文科省や経産省の
「そっか。調べればすぐに出てくるはずだから、詳しくはWebでってことで。検索したら、大阪湾の整備計画が真っ先に出るけど、違うから」
「その計画がどうかしたのか?」
「展開が怪しすぎる。だからリヒトくんが直接調査してる」
「彼は《魔法》の専門家だろう? 宇宙開発は専門外ではないのか?」
「そうなんだけど……今回はリヒトくんも無関係ってわけでもないし、本人もそう思ってるみたい」
「……?」
部下たちの前や答弁でも、テレビカメラの前でも使わない素の顔で、男は怪訝を浮かべる。
「もしわたしの考え通りだったら、かなり洒落にならないことになるかも。今のところ非常宣言出そうにも根拠ないし、出せるようになった時には手遅れになる」
「…………」
つばめが深刻な顔を浮かべていても、男は詳しくは問い返さない。支援部員たちと同様、彼女に訊いても明かさないと思ってるのか。
それとも訊くべきではないと、分をわきまえているのか。
「その時は、こっち主導で協力してもらうよ? 普通の国家権力でどうこうなる問題じゃないし」
「あぁ……そのための社会実験チームだ」
「あと、お宅のところで独自に人員動かすの勝手だけど、邪魔だけは厳禁。前例があるし、わたしたちを敵扱いするのは勝手だけど、今回は内輪揉めしてる場合じゃない」
「君のところにいる、二重国籍の少女の件か……わたしに責任があると言われたら、なにも言い逃れできないがな……ともかく、今回の件は承知した」
「ついでに言っておくけど、これをネタに日米安保とか、
「つまり、事態が君の予想通りになれば、そう言って総理を動かせと」
「なんのことにゃー? そんなこと言ってないしー? 言うつもりもないしー?」
つばめは無邪気で邪悪な笑顔を浮かべる。
「だってわたしが直に言うつもりだし」
不遜な言葉に、娘ほど、下手すれば孫ほどにも見える歳の女性相手に、男は特に反論しない。
相変わらずだった。
「ところでさ。お土産で売ってる
「それを私に聞かれても困るのだが……それ以前に、大事な話をここでされるのも困るのだが……」
「え? だってお昼だし。お腹すいたし。部屋にカレーの匂い染みつけてもいいなら、そっちで話したけど」
「機密保持というものがあってな……」
「大丈夫だいじょうぶ。そのうち小学生から大学生まで知ることになる情報なんだし。大した機密じゃないって」
「君の言う子供たちは、例の《
陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地、防衛省本庁舎厚生棟に存在する共済組合直営食堂にて、防衛大臣を前にしても、つばめは普段と変わらないフリーダムさを発揮していた。
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