第8話 葉月十五日かぐや姫昇天せり

やがて、時は来るのだった。

「十五日に天から使者が参ります。きっと、私を生け贄にしようと奪い返しに来るのです。」

「あぁ、そうか。日本の文化で、男の娘が流行っていて、一時期女声を出すことを訓練したからな。女に化けるのは得意だ。安心したまえ。」零は輝夜に向けてそう言った。


「讃岐の造、道山様。私は、この度、輝夜を嫁にすることが出来、大変嬉しく思います。今月、葉月の十五日に天から使者が来て輝夜をさらっていくようですが、私がその身代わりとなります。もし、私が戻らなかったら輝夜の事を宜しくお願い致します。」

零は輝夜の育ての親に近い道山に言った。

半ば遺言とも取れるその言葉は不吉な予感を感じさせる。


既に、あと3日で十五日になってしまう。

輝夜の着ている服を受け取り、自分の服を脱ぎ交換する。

慣れない女性の着物に戸惑いつつも、着こなした。

そして、女声が巧く出るか練習して、その日を迎えることにした。

十五日の最後の晩餐は、伊勢海老の造りと、てっちりであった。

それらを噛み締めるように食べ、月を見上げる。

もうそろそろ迎えが来るんだ。

離れ難いが、輝夜を守るためだ。

輝く夜、そう彼女はこの地球を光照らす希望の光なのだ。

絶対に、月魔龍の生け贄…メシアにしてはいけない。


使者はやって来た。その姿は時期外れのサンタクロースであった。全身が赤い服を纏い、トナカイのような鹿が動かしているそりに乗っていた。

「お嬢様。月の世界に戻りましょう。抵抗する術はないのです。」

その使者はかぐや姫(女装した零)に向かって言った。

「分かりました。もう、覚悟します。私が生け贄になることによって月の平和が保たれるなら。この命惜しくはありません。」

零は決意するようにその言葉を口にした。

「では、輝夜様、この讃岐造の為に何か歌を遺してくれませぬか。」翁は涙をはらはらと流していた。もう服は潮垂れて、ぐしゃぐしゃであった。


「分かりました。」そう言うとかぐや姫となった零は一句詠んだ。

【いまはとて 天の羽衣 着る時ぞ 君をあはれと おもひいでぬる】

ときにかぐや姫、月に昇天した。

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