第6話 石上麻呂 編
真宗寺に生まれた麻呂は、結婚しようと思っていたが未だ伴侶が見つからなかった。長男として生まれ、妹には麗がいた。
僧侶であることにより頭は博学才穎(広く学問に通じ、知識が豊かな様子。)であったが、僧侶は結婚出来ないとまだまだ思われていた時代であった。
そんな中、管長を務めていた父、釈鑑如しゃくかんにょこと石上宗徳がこの千載一遇の好機を逃すわけには行くまいと思って今回の見合いに踏み切った。
「そろそろ、拙者も伴侶を得ねばなるまいな。鑑如様もなかなか酷な事言うでな。」
「麻呂よ。この度の見合いに寺の存続がかかっておる。是非とも結婚出来るようにしなさい。」
うるせぇ父親だ。そう思いつつ、三十路に突入して半ば焦りつつある。麻呂は焦りを隠しながら、織田道山の成金ハウスを目指して歩いた。
トントン…城郭を彷彿させる門を開いて入場する。
「失礼仕る!拙者、天厳寺次期管長 石上麻呂である。この度は宜しくお願い申し上げます。」
髪があるため、坊主臭はしないが僧侶である。
彼は一礼し、輝夜の前に座った。
「では、石上さん。プレゼントの程よろしくね。」
「分かりました。じゃあ、何を渡せばいいんでしょうか。」
「燕の子安貝でもお願いできる?」輝夜は頼んだ。ふんぞり返っているような態度でそう言っていた。
「分かりました。必ずや見つけてまいりましょう。」
丁寧にそう言って帰宅の途についた。
「燕の子安貝…燕の巣を探せばきっと見つかるに過ぎない。」
「麻呂よ。燕の子安貝でも探しているようだな。だが、巣もいい食料となる。まとめて持ってくると良い。」
「分かりました。父上、持ってまいります。でも巣なんか食べてなんかあるんですか?」
「あぁ。燕巣と言ってな。明では高級品でござったよ。」
「父上。もしや、召し上がられたんですか?その燕の巣を。」
「あぁ。何で、あんな物を食べるのか信じられなかったが、とても美味いものだよ。」
「嘘だァ。あんな土だらけの巣を食べられるわけないよ。」
「勿論だ。日本の燕とは違うからな。海南島より南に行けばきっと見つかるに違いない。」
海南島とは中国の南の島、ベトナム付近にある島だ。
現代日本の海南省の大部分を占める島だ。
「わざわざ、海南島まで行くんですか?聞いてるじゃないですか、御行様もその品を求めて目が腫れてしまい、政界引退を余儀なくされたって。きっと輝夜はからかってるだけですよ。ここは国内で探しましょう。」
「まぁ、行って来い。久しぶりのバカンスになるからよ。お供は連れて行かせるから、何かあっても安心じゃ。宗円、我が愚息、雷如をよろしく頼んだ。」
「分かりました。鑑如様、この宗円、全力でサポートさせて頂きます。宜しくお願い申し上げます。雷如様。」
「分かりました。父上。行きますよ。」
かくして、船に乗って行くことになった。
「もし、この船が難破したらどうするべか。」麻呂は宗円に話しかける。
「やだなぁ。もう女の子のことしか考えてないんですか?雷如様。だから、童貞は早くに捨て去るべしと言われるんですよ。」
「宗円、そういうお前はどうなんだ。」
「そこはノーコメントでお願いします。」
「まぁ、お前の場合、男…相手にしてそうだけどな。」
「何それ!いくら僕が女みたいに可愛い顔だからってそれは無いですよ。」
そういう下らない痴話話をしながら、南に向かって行った。
「思ったけどさ、俺、中国行くのは良いんだけど、中国語あまり分からないんだよな。」
「えっ!それ死亡フラグじゃないっすか。先生。」
「安心しろ!何も全く分からないわけじゃない。イントネーションが笑われるだけじゃ。」
「良かった。安心しましたよ。」二人は舵を取りながら話しをしていた。
そうこうしているうちに海南島に着いた。
街につき、情報を探る。
「先生、燕子的家在哪裡?」(すみません。燕の巣は何処ですか?)
「」
「いやぁ、森ばっかりだな。見渡す限りの緑だ。ついでにイワタケでも取ってくるべかな。」
そんな事を意気込みを抱きつつ、緑の周りを散策した。
「岩場に有るんだったな。確か…」麻呂は呟いた。
「はい。あの岩とか怪しいんじゃないでしょうか?」宗円は返答した。
高さはおよそ30mほどある島であり、意外と高い。
「よし、あの岩場には尋常じゃない気を感じる。きっとあそこには燕の巣以外にもイワタケが有るんじゃないか。」
「そうですね。行ってみましょう。雷如様。」
「あぁ。燕の巣と子安貝。まとめて戴きよ。さぁ、あの山を崖を登るぞ。」
彼は張り切って登った。勿論山みたいに登る道があるわけでもない。彼はハーケンを打ち込みながら山を登って行った。
漸く、燕の巣を見つけ喜びの声をあげた。そして、イワタケも回収した。
「よし!燕の巣とイワタケを手に入れた。子安貝は見つからなかったが、燕の巣はあの絶世の美女、楊貴妃が好んだんだ。これで輝夜も認めてくれるはずだぜ!」
【お前は、女を落とす為に、燕の巣とイワタケを取るのか?可哀想な男だ。恥を知れ。】悪魔の囁きが聞こえてしまった。
刹那、彼はバランスを崩して後に倒れた。
25mから転落…助かることもなく地面に叩き付けられた。
「宗円!頼んだ…甲斐が無かったな。ここまで来て…イワタケと燕巣を…父と輝夜に…こんな俺で済まなかった。」
話すことも奇跡であった。内臓は破裂しており、良くその痛みに耐え、最後の言葉を述べられたとその者の力強さを感じるだけである。
「雷如様!雷如様ぁぁあ。」
宗円は涙を流した。
欲を追求するものはいつか破綻し、そのツケが回ってくるのだ。
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