青年時代
第1話 高校生
時は光陰の矢のごとく去った。
嘗ての幼き子供も今や立派な成年となった。
顔つきは大人びてきて、性格が刻み込まれている。
声は変わり、寧ろ出なくなった。
彼の目はかつて何も語らなかったが、今ではその目の奥にはメッセージがこもっており、魂の器官として存在している。
燃え上がろうとする炎が彼の目を際立たせる。
前より生き生きとしているその眼差しは、まだ清らかな純潔をたたえている。しかし、そこにはもう魯鈍さは欠片もなかった。
フランスのルソーが記した『エミール』のような男に彼はなっていた。悪を憎み、不正を食い止めんとする彼の正義感が目の奥で盛んに燃え盛っていた。
将来は、巡邏じゅんらにでもなるのだろうか。
その頃、日本は警察ではなく、巡邏と名を変えていた。
月影地方を見回るのは、月影巡邏隊である。
まるで、忍者集団のような名前である。
「月島のおやっさん。今日も稽古をお願いします。」
洸は名人の域に達していた。彼の剣の腕は近藤勇と並ぶ程だと称せられた。だが、四百年前の人だ。当然、比べる術もない。
タイムスリップの方法は未だ見つからない。
いや、見つかっているのかも知れないが、世に出ていないのだ。
「洸。これ以上は無理や。お前は天下一の新破流の使い手になったんや。」当然ながら、月島は断る。
彼も人間だったので、ある程度までは相手に出来たが、最近はもう人が変わったように強くなってしまった洸に字の如く、太刀打ち出来なくなってしまった。
「俺はこれ程までに強くなってしまったのか。他に相手となるような物は居ないのか。」洸は岡田以蔵…人斬り以蔵のように狂っていた。勿論、人を殺しはしない。しかし、そこまで竹刀を交える相手が欲しかったのだ。
「そう言えば。確か、新破流は剣術のみでは無かったな。新破流槍術もあった気がする。是非とも交えたい物だな。刀と槍。どっちが強いことなんだろうか。」
ある日、師匠である月島が俺に、跡目を譲ると言った。
彼は、今年で45歳となる。体力の衰えを感じたということだった。本当は、会ったことも無い父親、月野文彦が自分に稽古をつけるよう頼んだ事を聞いた。
「あぁ。これで、月野新破流は復活することとなる。お前の父親も喜んでいるだろうな。」
「父はどんな人だったんでしょうか?」洸は父について興味を持った。
「真面目で豪傑だった。あの男は、暴力団幹部だったが、体に入れ墨を彫ることなく、いつもタトゥーシールで虎の絵をいれていた。勿論、組員にもそれを徹底したんだ。」
「それで舐められなかったんですか?他の組に。」
「似非ヤクザと馬鹿にされたが、彼はいつもその強さでねじ伏せた。月野組は組織を拡大させた。俺も昔はその一員だったんや。」
「えっ!月島先生も組員だったんですか?」
「あぁ。今じゃ感謝してる。体に入れ墨を彫らなかったもので、他人に恐れられることも無くカウンセラーとして活動することも出来ている。それに、この村を俺が立ち上げられたのも月野組の力が大きいんや。何せ治安を維持しているのも月野組の連中や。」
父は自衛隊員だったが、そんな過去があったとは思わなかった。
自衛隊にも志願隊員が制度化され、PKOなどの最前線で活動する部隊が結成されていた。
父はその後、志願隊員に応募しその強さと暴力団組長らしからぬ礼儀正しさで合格を勝ち取り、アルフィス共和国の反乱を停戦させる部隊に配属され、そこで生死不明となったのだった。
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