第5話 突然の離別
洸はいつも、光莉との将棋を楽しんでいたが、クリスマスくらいの時に、彼を悲しませる出来事があった。
光莉が転校することになったのだ。場所は日本連邦帝国の天皇領である。連邦制になっている現在は、嘗ての江戸幕府などの藩のような形になっている。
天皇領は、天皇が権力を持った領土であり、多くの閣僚クラスが住んでいる。所謂第一首都がここにある。ここに住むことは第一級の官吏になったことを自他共に認められるそんな場所であった。
光莉の父も優秀な自衛隊員であり、様々な任務を遂行することによって、首都勤務を命ぜられた。
軍備拡張が進み、嘗ての反再軍備派はマイナーな存在となった。
「光莉ちゃん。今日はどこ行きたい?」洸は訊いた。 まだ何も知らない。光莉が転校することなんて。
何時もなら、光莉は洸の行きたい所に行くと言っていた。
しかし、この日は違ったのだ。
Z城と言う有名な城郭があるのだが、そこに行きたいと言っていた。
空は曇っていた。まるで二人の別れを予感させるように。
2人は入館料200円を払って、見学した。
某なにがしの戦国大名がこの城に立てこもり、奮戦した。
この山は全て古墳であり、その上に城が建てられているとか。
目を見張る程の歴史を持っていたその城は、歴女や城好きには堪らない城であったが、二人はそれどころでは無かった。
光莉の方はもう来れないかもしれないと思い気が沈む。
対する洸の方も、何も知らないが光莉の物憂げな様子を見て心を痛めていた。折角、連れてきたが気に召さなかったのか、それとも何か深い思い出でも有るのだろうか。
そこまでは想像がついたが、転校するとまでは予想出来なかった。
城や将棋や囲碁などを好むその少女は、忙しい両親に代わってよく祖父母に連れられて城や寺社参詣に行ったものだった。
城主に代々伝わった甲冑、豪華絢爛な城下町を描いた屏風図、城主の名刀等を見てまわったが、思い出深く涙が堪えられなくなってきた。
クリスマス前にこんな城に来る人も居なかった。
そして、堪え切れなくなった涙を流しながら、光莉は彼に言った。
「光莉ちゃん。どうしたの?そんなに泣いて。僕、何かした?」
「ううん。洸君。じ…実は、私、転校するの。」
「えっ!もう、光莉ちゃんとは何処にも行けなくなっちゃうの?」
「元旦には、もう、向こうにいるから。」
「そ、そんな。」
「洸君。わ、私、その、洸君の事が好きでした。」
彼女は顔を赤らめ、照れを隠すようにキスをしてきた。
しかも、口にである。洸はあまりのことに倒れそうになった。
彼女はキスをすると足早に走っていった。
暫く立ちつくし、洸は家に帰った。
もう会えない光莉のことを思うと寂しくてようやく涙が出てきた。
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