第4話 思い出
洸には、初恋の人がいた。小学二年生の頃の話だ。
その頃はまだ、母の真由は居た。任務に就く前に訓練を受けていた時だ。
「ママ!僕、
「洸。気を付けてね。道は危ないから。」
「ママ。分かってるよ。」
彼は光莉と遊ぶ事になると何時もはしゃいでいた。
光莉と言うのは、彼の女友達で小学校に入学して以来、仲良しの女の子である。明確な男女意識が無いその時期では、遠慮することなく触れ合うことが出来た。
「失礼します。光莉ちゃんいますか?」彼ははしゃぐ心を抑えつつ言った。
「今待っててね。おーい。光莉。月野君が来たよ。」光莉の母はそれに応える。
「お待たせ。今日はどこ行くの?」
「光莉ちゃんが行きたい所。僕は何処でもいいよ。」
「じゃあ家で遊ぶ?」
「良いの?家で遊んで。」
「ちょっと待っててね。お母さん。洸君と家で遊んでいい?」
「良いけど。和室でねー。」
洸はその時、嬉しかった。光莉の家に入ることが出来て。
恋心抜きにして嬉しかった。
「じゃあ、将棋でもやる?」光莉はそう言った。
彼女は変わり者であった。子供が好まなさそうな将棋や囲碁などを楽しむそんな女の子であった。
そんな彼女の元で遊ぶ事により、彼も将棋を指すことが上手になっていった。
この日も、力をつけてきた洸は彼女に勝負を挑んだ。
「ふん。そう来たか。ならこの一手で決める!」彼は勝負にかかった。
「甘いわね。この手よ。」彼女は意表を突いた手を指し、彼を追い詰めた。
「なんだと。僕は勝てないのか。うーん。」
洸は悔しくてたまらなかった。何度も何度も練習しても、上達した気がしないのだ。
「もう1回指してみる?」彼女の表情は、得意げだ。その笑みには、サキュバスの雰囲気を感じさせるところもある
。
「お願いするよ。光莉ちゃん。」洸は頭を下げた。今度こそ勝たなきゃ。面目丸潰れになる。
「メンタル強いのね。洸って。」
ヒカル…洸?初めてのことだった、女の子に呼び捨てで呼ばれるのは。全身に力が溢れるような気がした。それが恋であったということは後に実感したことだった。まだその事を悟るには余りにも幼過ぎた。
「いやいや。僕打たれ弱いよ。でも、光莉ちゃんと指す将棋は楽しくて。」
照れ隠しだったかも知れない。本当はメンタルが強いのかも知れないが、楽しすぎた。彼女と指す将棋は。
「じゃあ、次は洸、先行ね。私後から指すから。」
「分かったよ。じゃあ、ここだ。」
「そう来たのね。うーん…」
2人の真剣勝負はなおも続く。
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