第13話 説明会

俺と日野は、有ヶ崎さんの運転している車に乗って寮に向かっていた。寮と言うよりは研修施設という事らしい。

「いやぁ、今日は寒かったでしょ?-5℃はあったから。」

「そうですね。八箕山はいつもこの位寒いんですか?」

「そうねぇ。冬は雪が降るしね。温かい鍋が良い季節よ。スタッドレスタイヤが必需品だわね。」


「なぁ、洸。俺もうダメだ。車酔いが激し過ぎる。」

「日野、大丈夫か。俺は大丈夫なのに。」

「この体に不慣れなだけだろう。いつもの俺は大丈夫なのに。な。」

「もう少しだから待っててね。香澄ちゃん。」有ヶ崎さんはそう口にした。

「何で、その名前を…」日野は酔いながら突然のその言葉に返す。

「辛いんだから、話さない方がいいよ。余計、気持ち悪くなるから。」


雪国を進む。またひらひらと雪が降ってきた。良い風景だ。しかし、これも解ける時になると、いとわろき事になるのであろう。

とても悪い、と言うか見栄えが悪くなるんだろう。

勿論、これは俺の意見であって、そうは思わない人も居るだろうけど。


暫くして、三十階程の建物が二つ見えてきた。今までは山の中で住んでいたので、こんな所があるとは思わなかった。

こんな本拠地がここにあったとは…

「着いたわよ。ここが今日から生活する所よ。ちょっとした寮みたいな感じだけど、勉強頑張れとか成績は関係無いから思うように生活していいよ。詳しくは院長から知らされると思うけど。まずは、受付に行って名前を参照して。それじゃ、私は仕事があるから。」有ヶ崎さんは質問する間もなく、行ってしまった。


受付は講堂にあった。

「すみません。ここが受付ですか?」

「勿論。受付です。お名前を教えて下さいませ。」

「月野光莉です。」

「はい。確かにチェックしました。30-G-1があなたのお部屋です。」

「同じく、鳳凰院香澄だ。」

「はい。確かにチェックしました。先にお進み下さい。30-G-2があなたのお部屋です。」


講堂内に進む。現在2時50分、あと10分で説明会が始まるところだ。

「それでは、少し早いのですが、皆さんお揃いのようなので始めさせて頂きます。私は、司会を務めさせて頂きます。月朋会ディアーナの管理人の岩渕です。宜しくお願い致します。では、理事長の月島より説明させて頂きます。」


「はい。皆さん。この度はお越し頂きありがとうございます。月朋会理事長の月島雄雅です。

こちらは、研修施設という事になっておりますが、性別を変えたいと願う人に向けて精進できるような施設を目指しております。

今、あなた方は念願の体を手にすることが出来て、この上なく喜ばしいことでありましょう。より男子力や女子力を磨き上げることが出来る。そんな場所になることを祈っております。」


白衣を着た師匠の月島雄雅はそう言っていた。俺はこんな身になることを望んでいなかったのに。これは要説明だな。

「次に生活安全部長の高井より規則の説明をお願い致します。」


「えぇ。君達は、ここに来て守って欲しいことが何点かある。君達は念願の体を入れ代わりによって手に入れられた。あくまでも、自分の体は変わった。しかし!元々は他人の身体だ。その事を肝に銘じて、生活するように。あと!交際は認めるが、男子寮、女子寮共に夜の11時には異性の寮から出るように。」

生徒指導部のような厳格な話し方であった。


そして短時間で説明は終わり、部屋にむかった。

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