第12話 道中

雪の積もっている八箕山自治区駅に到着した。

タイツを履いてきたが、やはり寒い。尿意を催してきた。

「私、トイレ行ってくるね。」俺は、日野に言った。

「あぁ。俺も行こうかな。」日野、可愛いのに一人称『俺』を使っているから惜しい奴だよ。


トイレに行くと、驚いたことがあった。何と、女子トイレに小便器が有ったのだ。だいぶ昔に日本に入ってきたが、親のクレームで小便器が撤廃されて個室だけになったと聞いたが、八箕山は流石、農業国である。肥料に使うため、分別して流れるようになっているのだろう。


小便器は衝立で仕切られており、カーテンで閉める形であった。

親切なことに、トイレの仕方まで書かれていた。

八箕山はやはり他の日本国領とは一線を画している。

「女子トイレにも小便器があるんだね。」日野は衝立越しに言う。

「バカ。ここは特別だよ。そんなことも分からないの?」思わず少しキレてしまった。我ながら怒りっぽくなってしまったことよ。我が運命が信じられないのか、それともネコと同じようなもので盛りが来ているのか。


『トイレが終わったら、vボタンを押して下さい。』と書かれていた。

ボタンを押す。後ろから、何かが吸い込まれるような風が来た。

そう、バキューム(vacuum)だったのだ。

トイレの後の水滴を完璧に吸い取り、紙を使用する量を減らすのが目的であった。

「本当におかしな自治区だよ。トイレまで変わっているなんて。」

服装を正して、トイレを後にする。


「えーと。ここを右に行って。左に行って、うーんと?」

石兵八陣のように混乱させる作りとなっていて、地図を見ながらでも難しい作りになっていた。

右往左往してようやくホームに辿りついた。もう、こんな通路なんて懲り懲りだ。

また少しトイレに行きたくなったかも知れない。


「どうぞお乗り下さいませ。」歳は二十代前半位の女の人だ。

何とも凝ったデザインの車に乗っている。

ピンク色の車体に薔薇があしらわれている。そんな車に乗っていた。

「失礼します。」二人は会釈をして車に乗り込んだ。

「私は、有ヶ崎流音。研究者をしているの。」

それにしても、なかなか頭の良さそうなお人だ。

「研究者?一体どのような。」日野は尋ねた 。


「脳波の研究というか、記憶の研究とかね。」

「所謂、脳科学ってやつですか?夢の研究とか、記憶の仕組みとか。」俺は相づちを打つ。このレベルだと日野は付いていけてないかも知れない。


「そうね。ニューロンがどのようにして夢を作り出しているか、とかね。所詮は夢とかも電気的信号、つまりは1とか2とか数値化されているんだよね。音楽の音符を思い浮かべるといいよ。ドとかソとかラとかあるけど、その音が組み合わさって一つの曲を作り出しているんだ。」


まずいぞ。たとえが複雑すぎて訳分からん。このまま何も言わないとなると良くないしな。日野は既に混乱しているはずだ。


「ほう。そうなんですか。やはり、何事も構成する基礎があって、それで夢も成り立つんですね。」日野が答えた。頓珍漢な回答をしていない。もしかして、日野はこのへんの分野に精通しているのだろうか。

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