第1章 Separate

第1話  出会い

「おじさん! この美味そうなりんご……そうだな……六つもらえる?」


 ジリジリと焼かれるような日差しが眩しいこの季節を、人間は「夏」と呼ぶ。

 昼間のこの時間は最も暑く、街の大通りとはいえ人の影は疎らにしか見えない。石畳の道は熱を発し、陽炎を休むことなく生み出している。

 隙間なく立ち並ぶ、多種多様な屋台。その店主達の多くは、なかなか来ない客を待つのにうんざりしたのか、覇気もなく座り込んでいた。しかし、その中には例外もいるようで。りんごを売っている男からは、微塵の気怠さも感じることは出来なかった。


「美味そう? そうかそうか! お前、見る目あるじゃねぇか!なんせこの季節、りんごがあること自体珍しいだろ? うちのはミルルの街で育てた特別製さ! 今日は気分がいいからよ、特別に三百ガルで売ってやるよ!」

「それじゃ相場と変わらないじゃん」


 少年は店主の勢いに苦笑いしつつ、少々引き気味に銅貨を渡した。


「毎度あり! なあに、細けぇこと気にすんな! このりんご食えばいいことあっからよ!」

「えー? まあ、この際なんでもいいか」


 大きな紙袋に詰め込まれたリンゴを受け取り胸に抱えると、次の目的の品を見つけにかかる。ポケットからメモを取り出し、次の目標が焼き鳥であることを確認すると、店を求めて歩き出した。

 王都にほど近いこの街の名は、マリーディアという。大通りの道沿いには沢山の屋台や食事処、宿などが連なっていて、夜になるとお祭りのような騒ぎとなる。フィリアによる灯りが開発されて以来、人間の過ごす夜は長くなり、仕事を終えた者たちが羽目を外すのが、その一因となっている。

 そんな大通りを歩き、焼き鳥の屋台を見つけた少年は困った様子で頬を掻いた。火で炙られている鶏肉を残しまま、店主が居なくなっていた。

 大通りでは、大抵数人の王立軍兵士が巡回、警備している。

 スラム街の近くではこうもいかないが、この一帯は人目も多く、街の中心だ。悪事を働くのもなかなか難しい場所なのである。しかし、治安が良いとはいえ、店を完全に放置してしまうというのは、些か不用心と言わざるをえない。

 少年が店主を待つか、焦げる寸前の鶏肉を貰ってお金を置いていくかを迷っていたところ、道を挟んだ反対側の屋台が騒がしくなった。


「またやられたか……」

「今週に入って何度目だ?」

「目を離すとこれだからなぁ」


 少年も気になったのか、野次馬の一人に加わった。


「どうしたんだ?」

「ああ、それがな? ここの屋台の品物が盗まれたんだ。今週に入ってからこういうことが多くてよ。今までこんなことなかったから、みんな参っちまってね」

「ふーん……」


 つまりは万引きである。実際の被害額は大したものではないらしく、店主も大事にするのは面倒なのか、王立軍に届け出は出さないことにしたようだった。

 少年は興味を失い、焼き鳥屋に戻ろうとする。


「昔ならこんなことも『妖精ピクシー』の悪戯、なんて笑い話に出来たんだが、今じゃ笑えないよな」

「馬鹿なこというなよ。『妖精』の仕業だったら、今頃大混乱さ」

「だよなぁ。他の都市にも王立軍を派遣してるらしいが、『妖精』って奴らは加減を知らないらしいからな。気付けば火の海なんてごめんだぜ」


 なんということはない世間話。もちろん、話している二人は深く考えていなかった。

 しかし、誰もが聞き流すようなこの会話を、少年は足を止め、穏やかではない表情で聞いていた。すれ違う人々は不審に思いながら、火の粉を避けるように歩き、目を背けた。

 焦げた匂いの漂う屋台に引き返す少年。

 流石に店主は戻って来ていた。ため息を吐きながら元々は商品だった物の本数を数え片付け始めたものの、次第にその手は止まった。確かに十本焼いたはずだがと、怪訝な顔をして頭を掻いた。


 *     *     *     *


「ただいま」

「あ、おかえりテルン。随分時間がかかったけど……何かトラブル?」


 日が翳り、慌ただしくなりそうな大通りから一本横道に入った、奥深くの怪しげな宿。たくさんの食料を買い込んだ少年は、不規則なノックと共にその一室へと踏み込み、仲間の元にたどり着いたところだった。


「大したことじゃないさ。いろいろ見ていたら遅くなったよ。なんせ街を歩いたのは久々だからな。これ、頼む」

「うん。お疲れ様」


テルンは、買い込んだ食料でずしりと重くなっている袋を、迎えてくれた目深なフードを被る少女に預け、部屋に備え付けられている古ぼけたソファに倒れ込んだ。


「……やっぱり何かあったんじゃないの? リオさんが帰ってくる前に吐き出さないと、また怒られるよ?」


 重い荷物を整理しながら、少女は心配そうな顔でテルンを見つめた。そんな視線を感じ取ったのか、もぞもぞと反転し、天井を見つめた。


「街でちょっとした悪戯が流行ってるみたいなんだよ。多分スラムの子供達の仕業だろう。まあ、それはいいんだ」


 ゆっくりと身体を起こし、不満げな顔を作る。


「街の奴らがさ、『妖精ようせい』について話してたんだ。あいつら何にも知らないのにな。妖精の中にだって、人間や亜人と仲良くしようって奴らもたくさんいる。……でも、少し前に辺境の村を『妖精』が焼いちまっただろ? 全部が間違いだとも言えなくてさ」


 言葉からはやるせなさが滲み溢れる。


「仕方ないですよ。誰もが私達のように生きているわけじゃないんですから」

「プシノ?どこにいるんだ?」


 突然少女のフードがとれ、露わになった頭の上に、小さな少女が現れた。

 プシノ・マーガレット、妖精の少女である。妖精の姿形は、人間とほとんど変わらない。見た目の違いとは、『大きさ』。ただそれだけ。正座する彼女は、人を魅了する紫色の瞳を持ち、鮮やかな翠色の髪を結い上げ、頭の左右に二つの団子を作っていた。


「メロンの頭の上はプシノの特等席か」

「はい。とても暖かいんですよ? あまりに快適なので、ついウトウトしてしまいました」

「ちょっと! 寝るならベットで寝てよ! 途中から全然動かないし、おかしいと思ったよ……」

「まあまあ、そう仰らずに。ほら」

「あ、ちょっ、そこは!……ほわぁ」


 耳の裏をかかれ、小さな口を少し開いて気持ち良さそうな表情を浮かべる彼女は半亜人、つまり人間と亜人のハーフとして生まれた。その証拠に頭の上には猫の耳、お尻からは元気に動く猫の尻尾が生えている。くりっとした丸い目は深い青色で、彼女の優しさを表していた。思い思いの方向にはねた真っ白な髪はまるで羽毛布団のようで、眠るには随分と良さげな場所だった。

 くすぐったいような感覚に我慢できなくなったのか、プシノを頭から引き離し、フードに入るよう促した。


「プシノの言う通りだな。解決まではかなり時間がかかるかもしれないけど、やるだけやらないとなぁ」

「ていうか、それが私達の活動でしょ? 悩む必要なんて、かけらもないよ。私達の進む道は一本道! まあ、寄り道だって悪くないとは思うけどね」


 キメ顔、そして一本道と共に天に突き上げた人差し指は揺るぐことなく、自信に満ち溢れている。


「分かったから。分かったからそういうのは卒業しようぜメロンさんや。言ってることには大賛成でも、そのポーズとフェイスは見てるこっちが恥ずかしい」

「なんで? 全部テルンの受け売りだよ?」


 テルンに向かって微笑む彼女は、誰が見ても無邪気とはいい難かった。要は、からかっているというわけだ。


「それは子供の頃の話だろ! そんなこと蒸し返して、なんのつもりだ!」

「えー? あの頃のテルン、かっこよかったよ? ほら、眉毛寄せて難しい顔したりして!」

「こんのっ!」

「にゃはははは!」


 二人してボロ机をぐるぐると回る様は、完全に子供のそれだった。

 プシノはというと、そそくさとメロンの頭の上から飛び立ち、高みの見物を決め込む。しかし呆れているわけではなく、とても楽しそうに。そして、少し羨ましそうに。彼女は静かに微笑んでいる。


「おいおいなんの騒ぎだ? せっかく気持ちよく寝てたんだがな」

「あ、グリー。今買い物から帰ったとこだよ」


 寝室からゆらりと現れた男は、グリーディアという。かなり酒臭く、足元がよろよろとして覚束ない。簡単に言えば、酔っ払っているのだ。


「頼まれてた酒も買ってきたよ。それにしても、寝るには早過ぎるんじゃないのか? まだ晩御飯だって食べてないだろ?」

「は? なんのことだ?」

「違うよテルン。グリーは今、この時間になってやっと起きたところなんだよ」

「は?」

「正しくは四度寝から起きたところだ。二日酔いが酷いのなんの。お、酒があるじゃねえか。頂きます」

「待て待てグリー。お前二日酔いしてんだろ? 酒はまた明日にしろよ」

「そうです。お身体に障りますよ」

「なぁに。二日酔いなんざ飲めば治る。ほら、さっさと寄越せ」


 グリーはそういって酒を取ろうとしたが、その手は途中で止まってしまった。


「あれ? おい、酒はどうしたんだ?」

「え? ここにあるじゃ……さぁ、どこだろうね? グリーが悪い子だから何処かに消えちゃったのかな?」


 メロンは一瞬怪訝な顔をした後、何かに気付いたようだった。そして顔にはまた、あの笑顔を浮かべていた。


「子供扱いするな! おっかしいな、さっきまでここに……」

「まだ酔いが抜けてないんじゃないのか? 今日は大人しく寝てろって」

「ちょっと待て! やっぱりおかしいぞ!」


 テルンは喚くグリーの背中を無理矢理寝室に押し戻し、ドアの前に家具を使った即席のバリケードを作ってしまった。


「ちょっとやりすぎじゃない?」

「本人の為さ。プシノ、助かったよ。ありがとな」

「いえ、なんてことありませんよ。グリーさんめちゃくちゃですからね。ちょっとお仕置きです」

「それにしても、本当に便利だよなぁ。魔術ユースフィリアって」


 人間は魔術まじゅつと呼び、妖精は魔術ユースフィリアと呼ぶ。妖精のみが使える特技のようなものだ。大気に含まれているフィリアを改変し、相手に本物と区別のつかない幻を見せることができる。

 もし、魔術ユースフィリアを使い、相手に炎の幻を見せたならば、相手はその炎で暖をとることもできる。更に言えば、焼身自殺することも可能だ。周りから見れば、その者が自然発火しているように見える、というだけのことで。

 それを今回応用して、グリーディアからはお酒が透明に見えるように魔術ユースフィリアを使った、というわけだ。


「このお酒、しまっとくね? 夕飯の支度もしなくちゃ。テルンもプシノも手伝ってね」

「はいよ」

「分かりました」


 支度と言っても、ほとんど買ってきたものを広げるだけのことだ。食卓には屋台などで仕入れた果物や料理が手早く並べられたが、始めのうちに買ったものはすっかり冷めてしまっていた。


「プシノ、これお願い」

「了解です」


 などという心配は無用で、気が付けば料理からは湯気が立ち上っている。


「頂きます」


 三人で手を合わせた後、各々好きなものを食べ始めた。


魔術ユースフィリアってのは本当に便利だよね。ほら、こんなにご飯が美味しい」

「似たようなことが魔道具フィリアツールでも出来るけど……高いからな。普通に生活していたら、手に入らない代物だ」

「そうそう。人間と妖精が仲良くやれば、お互いにいいことだって多いのに」


 料理を粗方食べ切り、満腹になったところで、テルンは食後のデザートであるリンゴに手をつけ始めた。しかし、なかなかリンゴは減っていかず、いつまでも手元に残ったままだった。


「どうしたの? 大好きなリンゴよりも気になることがお有りかな?」

「え……ああ。ちょっと考え事だよ。リオねえ達の帰りが遅いなと思ってさ」

「そういえばそうだね。二人とも夜は慣れてるから心配ないとは思うけど……プシノ、何か聞いてる?」

「いえ、私は何も。もしかしたら、今日は帰ってこないかもしれないですね。フェガさんは目立つので、王立軍のパトロールに引っかかっちゃったのかもしれないですよ?」

「かるーく言ってるけど、そうだったら大ピンチだね……」


 プシノが真面目な顔で話すので、それが冗談なのか本気なのか分からず、メロンは思わず苦笑いをした。


「この街には王立軍しかいない。正体がバレようが、奴らを撒くのは難しくないだろ。まあ、向こうのことは向こうに任せよう。俺達は俺達のやりたいようにすればいい」


 机の上を綺麗に片付けてしまえば、それぞれやることもなくなる。風呂に入るなり、本を読むなり、自由に過ごし、あとは眠くなった時に寝るだけである。

 部屋の灯りは消え、寝室からはグリーのイビキが。ソファーからはプシノの微かな寝息が聞こえ始めた。

 リンゴを食べ終わったテルンは窓から離れ、リンゴをもう二つ手に取り、手近な袋に詰めこんだ。


「テルン? いくら好きだからって、そんなに食べたらみんなの分が失くなっちゃうよ?」


 メロンは眠たげな表情で、プシノを起こさないように、そっと声をかけた。


「いいだろ? 二人とも帰らないみたいだしさ」

「……そっか。分かった。テルンの好きにしなよ」

「ああ、もちろんそうするさ」


 古い宿の扉は、廃屋のように、軋んだ音を立ててつつ、ゆっくりと開く。


「行ってらっしゃい」

「……行ってきます」


 テルンは少し照れながら、そっと呟いた。


 *     *     *     *


 月と満天の星々は、フィリアの光がなくなった今、ようやく自らを主張し始める。幻ではなく、本物の光。街は青白く照らされ、より一層寂しい雰囲気を醸し出した。

 人間界の夏は焼けるように暑いというが、夜になれば気温は徐々に下がり、一年で最も快適な時間となる。

 夕方は仕事を終えた者達が、宿や食事処に集まって、飲んだり食べたりの大騒ぎとなっている大通りも、この時間になれば静かなものである。

 人気はなくなり、せいぜい時たま、王立軍のパトロールが、眠そうな顔で通る程度。

 そんな夜道を、テルンは一人歩いた。彼は静かなこの時間が好きだった。一人で思考に耽ることが出来たから。

 しかし、今日はそういうわけにはいかない。大通りから脇道に入り、今泊まっているような少し怪しげな宿を見つけては、若い女性と、大柄な男が泊まりに来ていないかと訊いて回った。一度王立軍の駐屯地まで様子を見に行ったものの、街全体と同じように静かなもので、慌ただしい様子は見られなかった。もし二人が拘束でもされたならば、こう穏やかな夜にはならなかっただろう。そう判断して、テルンは街で捜索を続けた。

 そうして、三時間が経過した。テルンは、未だに二人を捜している。街は相当広いとはいえ、捜すべき場所は限られる。それは単純にお金の問題で泊まれない宿だったり、王立軍の息のかかった店に近づけなかったりと、そういった理由だ。大通り沿いの道など論外。逆に、法に触れそうな危ないお店が、裏で軍と繋がっているということもざらである。裏でお金を回したり、仲間の情報を売ったりして見逃してもらうというのは、一種の処世術なのだ。大方の場所を回り、最後の心当たりの場所に辿りついた。


「この感じ……懐かしいな」


 最後まで避けていた場所。気が重くなるのと同時に、懐かしくもある場所。街の闇を理不尽に押し付けられ、そこに住む人々は永遠と抜け出せない不幸を背負い続ける。

 スラム街。通称マリーディア特区。大きな街にはどこにでも存在するこの特区は、貧しい暮らしを強いられた者達の、最後の砦なのだ。

 目に見えるような区切りがあるわけではない。それでも、肌に触る空気はやはり、どこか殺気を帯びているのだ。生きるための必死さが滲み出ている。

 ここまでくれば、もう誰かに尋ねる必要はない。ここには宿などないし、例え経営しても、お客がくることはまずないだろう。

 入り組んだ道を進みながら、テルンは諦め始めていた。どこかですれ違っていて、二人はもう宿に帰っているのではないだろうか。あと一、二時間もすれば夜も明ける。気を張りながら動いていたせいか、疲労も溜まり、なにより眠気がテルンを襲い始めていた。そうして、捜索をやめて帰ろうと決心した時――。


「おなか痛いよぉ……パパ、助けてよぉ……」


 細い路地で、小さな女の子が愚図り泣いていた。特区ではよく見る光景で、それ自体は何も珍しくなかった。テルンは足を止めた。そして彼女に近づいた。


「おなか痛いのか」


 彼に彼女を助けるつもりは、一切なかった。特区にいる子供を助けるつもりはなかった。いや、それが特区の子供であろうとなかろうと、テルンは助けない。目の前にいる子供を一時的に助けることに意味がないことを、彼は学んでいた。過去に自分が同じ境遇であったとき、そして、助けてもらったとき。施しを受け、素直に喜んでしまった自分が恥ずかしかった。屈辱だったことを、彼は鮮明に覚えていた。

 それでも、テルンが彼女に声をかけたのは、彼女の存在があまりにも浮いていたからだ。この場所に住むには、彼女は清廉すぎた。不遇で、健気で、儚いほどに、可憐だった。


「……お兄ちゃん、だあれ?」

「俺はテルン・デパーニア。君の名前は?」

「名前……わかんない」

「は?」

「わかんない」

「わかんないって……」


 訊き方を変えても、彼女はそう繰り返す。何を考えているのかは全くわからない。薄汚れた路地の道端に座りこみ、うつむいている彼女の表情はブロンドの髪に隠れてしまっている。ただ、小さくしゃくりあげているところを見て、テルンは可哀想だと思ってしまった。過去、自分が憐れまれたときは、あんなに嫌な気持ちになったにも関わらず。彼は、彼女から名前を聞くのをやめた。


「何か悪いものでも食べたのか?」


 特区の食べ物の衛生状態は、あまり良いとはいえない。大方、服装や容姿から察するに、どこか良家のお嬢様が屋敷を抜け出してきたのだろうと、テルンは予想した。


「これをね、お昼に食べたの。そしたらおなかが……」


 彼女はやっと顔を上げ、一本の櫛をテルンに差し出した。完全に冷め切った肉が刺さったままになっており、それは肉だと判別するのが難しいほどに、真っ黒になっていた。


「どっかで見たことあるような……ああ、なるほどな」


 それは、昼間見た焼き鳥だった。完全に焦げきったそれを食べたのだとすれば、なるほど、お腹が痛くなっても仕方がないだろう。そして、ここ最近大通りで噂されていた盗みの正体も、間違いなくこの子であるということは、すぐに察せられることだった。


「仕方ない。とりあえず薬を売ってる店まで連れて行ってやる。といってもまだ店は開かないよな……。じゃあ君さ。おうちがどこにあるかわかる?何か特徴とかでもいいんだけどさ」

「おうち……?」

「そう、おうち。パパに会いたいんだろ? 家まで送っていってやるよ」


 一度関わってしまった以上、知らぬふりをすることが、テルンにはできなかった。そして、早くこの場を離れるべきだと感じていたのだった。ここは特区であり、面倒事には事欠かないということを、経験から知っていた。日が沈んでいる今は特に。暗い場所というのは、人が悪事を犯しやすい。人間心理とはそういうものだ。


「なあ、そこの兄ちゃん。話は聞かせてもらったよ。お困りのようだし、助けてやるよ」


 路地の奥からふらりと出てきた、四人の男たち。まるで私たちに任せておけば、全て安心とでもいうかのような、自信に満ち溢れた声色。しかし、それとは逆の、完全に信用ならないことが一目でわかる姿をしていた。


「いや、大丈夫だ。あんたらの助けは要らねえよ。まだ夜も明けてないからな。ゆっくり寝ていてくれよ」

「なあに心配するな。特区のことは特区の奴らで解決する。そういうもんだからよ。なんせお国様が決めたことだ。逆らっちゃなんねぇよなぁ?」


 実際、特区のことに国は一切関与しない。もし誰かが特区に迷い込んだとしても、それは自己責任であり、行方不明者の捜索願いが提出されようとも、特区まで捜索の手が伸びることはない。国は、特区の存在を十数年ほど前を境に無視するようになった。犯罪件数が多すぎて、手が付けられないということもある。無法者の吹き溜まりでもあるこの所で、犯罪が起きないことの方が珍しいからだ。そして、その十数年前にある事件が起きたのがきっかけで、現在、このような状態で収まっている。


「そこのお嬢ちゃん、迷子なんだろ?安心しろって。俺たちが案内してあげるからさ。こっち来いよ」

「……やだ。おじさん達怖い」

「大丈夫だって!ほら、いいからこっちに……あ?」


 男が疑問の声を出したのは、少女の姿が見えなくなったから。正確にいうならば、テルンが少女と男達の間に割って入ったのだ。


「なあ兄ちゃん。聞こえてなかったかな? もう大丈夫なんだって。早く失せてくんねぇか?」

「別に知り合いってわけじゃねんだろ? お互い無難に行こうぜ」

「悪いけどさ。こっちに難なんて、一つもないぞ。こんなところで喋ってる方が、それこそ、お互い時間の無駄だ。ほら、さっさと行くぞ」


 もしテルンが少女を見捨て、男達に任せた場合。少女の辿りつく末路は、家族の待つ快適な家ではなく、暗いじめじめとした場所での監禁、もしくはそれに準ずる絶望的な仕打ちである。男達も、少女の生まれが良いものだと判断した。となれば、使い道も豊富にある。この世界では奴隷制を廃止しているが、王都では秘密裏に人や亜人を売買している場所もある。そこへ商品を出す商人に売りつけることも出来るし、単純に身代金を取ることもできる。


「いい加減にしろよお前。はっきり言うぞ。痛い目みたくなかったら、さっさと消えろ。さもないと」


 男の言葉は、そこで途絶えた。喋るのをやめたのではなく、のだ。

 倒れた男、それを呆然と見る三人の男、不思議そうな顔で男をみる少女。テルンは冷たい目をしていた。


「こうなるぞ」

「は……はは。まあ落ち着けよ。俺らは別に……」

「どけよ」


 男達は動けなかった。決して、行く手を阻もうとしているわけではなかった。ただ、生まれて初めてまともな殺気を受けた。いや、気配などという生温いものではなく、殺意。殺そうという意思そのものを直接ぶつけられた彼らは、意識を保つのに精一杯だったのである。

 テルンが本当に彼らを殺すつもりだったかは、定かではないが。


「やれやれ。おい、大丈夫か?」


 やってしまってから、近くに少女がいたことを思い出し、彼女を怖がらせてしまったのではないかと、心配した。


「お兄ちゃんのパンチ。すっごくはやいんだね!」

「見えたのか」

「うん!おじさんのあごにスパーン!って!」


 テルンの真似をしているつもりなのか。立ち上がり、シャドーボクシングを始めた。微笑ましい光景だが、今はこの場を離れるのが先だと、テルンは彼女を促すことにした。


「なあ、そろそろここから離れないか?いつまでもここにいても退屈だろ?」

「え?あ、うん。わかった!じゃあ、はい!」


 少女が元気よく伸ばしてきた小さな手の意図がテルンにはわからず、戸惑った。


「手、つなご!」

「……ああ。いいよ」


 手を握ってもらった少女はご機嫌に歩き出した。テルンはその様子を見て、少し安心したようだった。一人なら特区だろうとなんだろうと関係ないが、小さな女の子を連れて歩くには、やはり危険が多過ぎる場所だからだ。

 特区の入り口に辿りつく。同時に、満天の星が消えているのに気が付いた。消えたのではなく、見えなくなったのだが、意味することは同じであった。


「もう朝になるか。さっさと宿に戻らないと……そういえばお前、お腹大丈夫なのか?」

「……お腹って?」

「いや、お前さ、お腹痛いって泣いてただろ?」

「うーんとね。治ったみたい」


 テルンは唖然とした。子供とはこんなにいい加減なものだったかと、自分の昔を思い出して溜息をつきそうになった。


「まあ、特区から連れ出したんだから、あとは王立軍の奴に任せるか……」

「おうりつぐん? そんな人より、お兄ちゃんと一緒に遊びたいな!」

「俺はお前と遊んでられるほど暇……だな。残念ながら」


 そう。基本的に暇なのだ。この街での目的を果たすのに、テルンの力は不要であり、どちらかというとあまり動くべきではなかった。王都近くに住む一部の者にとって、テルンは好ましい存在とはいえなかったからである。見つかったとなれば、それこそ街が大騒ぎとなるだろう。なので、王立軍に任せるといっても、直接引き渡すわけにもいかず、それはそれで面倒な手段を取らなければならなくなる。少々疲れ気味だったのと、様々な手間などを考え、テルンは少し揺れ始めた。


「お前の家に直接届けるのが一番楽なんだけどな。お前さ、パパにはやく会いたいだろ? きっと向こうも捜してるだろうし」

「ううん。違うよ。パパがわたしを捜してるんじゃなくて、わたしがパパを捜してるの」

「そうかい」


 どうせ子供が大人ぶっているだけだろうと、テルンは少女の言葉を軽く流した。


「じゃあどうするんだ?そういうことなら、俺はもう家に帰らせてもらうぞ」

「お兄ちゃんについてく」

「俺の家にはさっきのおじさんよりも怖い人たちがたくさんいるぞ」

「だいじょうぶ!お兄ちゃんのともだちなら怖くないよ」

「あのなあ」


 どうにも諦める様子のない少女に、テルンは参ってしまった。


「じゃあわかった。約束を守れるなら連れて行ってやる」

「約束?いいよ!絶対守る!」


 こくこくと頷く少女に、テルンは本当かなあと困り果ててしまった。


「じゃあいいか? 俺の宿に着いて合図をだしたら、『私は無理矢理連れて来てもらった』って言うんだぞ? 合図は……ウインクでいいか」

「……どうして?」

「どうしてもだ」

「へんなの」

「気にするな」


 この先のことを考え少し不安になりながらも、少女の手をしっかりと握りなおし、宿に続く道をゆっくりと歩き出した。

 物陰からの視線に、気づくこともなく。


 *     *    *    *


「ここだ」

「……ずいぶんぼろっちいね」

「お金がないからな。贅沢は敵だよ。あと、あんまり大きな声でいうな」


 薄暗い小さなロビー——ロビーといえるかも怪しい——の片隅の椅子に腰掛ける強面の宿主がジロリと睨んだので、テルンはこっそりと少女を諌めた。

 埃っぽく、ギシギシと軋む廊下を抜け、二階に向かう。我が家というと語弊があるが、現在の家はここなので、家というべき部屋に到着した。

 昨日と同じように、不規則なノック。しかし、昨日のようにすぐにドアが開くということはなかった。


「おかしいな……」


 もう一度、同じノックを繰り返す。この不規則なノックというのは、テルン達独自で決めたモールス信号のようなもので、つまり、知っている者からすれば規則的なノックなのだ。

 それに反応がないので、テルンは自分が間違っているのではないかと焦り始めていた。


「おい!テルンだ!帰ったから開けてくれ!」


 そういっても扉は開かない。もし呼びかけだけで開いてしまうならば、そもそも暗号めいたノックなど、必要ないのだから、開くはずもない。パニックというほどではないにせよ、テルンの落ち着きが失われているのは、火をみるより明らかだった。


「参ったな……この際窓から……え?」

「どちら様……?ああ、テルン。おかえり……その子は?」


 寝ぼけた顔と猫耳が、扉からひょっこりと見えていた。

 扉が開かなかった理由。それは単純に、部屋の住人が全員寝ていた、というだけのことだった。テルン達は徹夜だったので気づいていないが、まだ日が出てから一時間も経っていない。朝早くから仕事があるのであればともかく、テルン達一行は役割を持つ者以外、暇を持て余している。そんな彼らが早起きをするはずもなく。


「ああ、それはまたあとで。眠いから寝かせてくれ。お前ももうちょっと寝てろ」

「うん……そうする。おやすみ」


 頭が回っていないのだろう。メロンは言われるがままソファに戻り、プシノを頭にのせて丸くなった。


「お前も寝るか?」

「テルン兄ちゃんが寝るなら、わたしも寝る」


 亜人と敵対関係にある今、亜人が見え隠れするメロンの存在は、人間にとって忌避されるものだ。外に出るときはフードを被って耳を隠し、ケープの中にしっぽをしまわなければならない。そうしなければ、メロンは外で活動することができない。しかし、他人と関わること自体をメロン本人が無意識に避けているようなので、半亜人ハーフの存在を知りえど、実際に見たことのある者など、そう多くないのである。

 この少女が半亜人であるメロンを見てなんの反応も示さないのは、随分と珍しいことだといって相違ない。テルンは不思議な感覚に陥ると同時に、簡単に少女を返せなくなってしまった、自分の失態に気が付いた。彼女を家に帰す場合、嫌でもこの街から出ていかなければならなくなってしまった。少女が家でこのことを話せば、たちまち王立軍が駆けつけ、面倒なことになるのは明白だからだ。こうなると寝ぼけていたとはいえ、メロンの行動はかなり軽率だったといえる。


「ああ、名前覚えたのか。お前は……なあ、本当にわからないのか?お前の名前」

「うん。わかんない。名前をもらったことなんて、今までなかったよ」

「普通、生まれたときに名付けてもらうもんだけどな……パパからはなんて呼ばれてたんだ?」

「『わが娘』って」

「また随分と変わった奴だな」

「そうなの?」

「ああ。じゃあママは?」

「ママのことはあんまり覚えてないの。パパからきいたことを少し覚えてるくらいだよ」

「……そうか」


 地雷を踏んでしまったかもしれないが、少女は落ち着いていた。年相応に無邪気かと思えば、何かを悟ったような、落ち着いた面もみせる。そんな少女に、テルンは関心しつつ、同時に不気味な違和感を覚えた。


「俺もな、両親、えーと、パパとママの顔、覚えてないんだ。お前と同じで聞いた話なんだけど、母さんは俺を産んだ時に死んじゃって、父さんも仕事で……そうだな……まあ事故のようなことがあって。それからもまた、いろいろあったよ」


 過去を思い出したのか、少し遠くをみるような眼をして、テルンは感傷に浸っていた。


「大丈夫?」


 黙ってしまったので心配したのか、少女はテルンの顔を覗き込むように見上げていた。少女の碧い瞳はとても深く、それでいて澄んでいた。全てを見透かされているようで、テルンは反射的に目を逸らした。


「大丈夫だ。さあ、寝よう。お前も疲れたろ?」

「うん。ちょっと眠いかも」


 ところが、テルンは一つ見落としていた。寝室に続くドアにはバリケードという名のタンスや食器棚が立ちふさがっており、動かすには大きな音を立てなければならない。そしてソファーでは、メロンとプシノがぐっすりと眠っている。残った場所はせいぜい床くらいのものだが、テルンも小さな女の子を床で眠らせるのは流石に抵抗があったようだ。


「仕方ない。椅子で寝てくれるか?二、三個並べれば横になれるだろ」

「テルン兄ちゃんはどこで寝るの?」

「俺はどこでも寝られるから。気にすんな」


 ダイニングの椅子のセッティングを終えると、テルンは壁に背を預けて座り込んだ。目を閉じた瞬間、睡魔はすぐにテルンに襲い掛かったが、睡魔の攻勢はすぐに終わりを迎えた。


「テルン兄ちゃんも椅子で寝よ?」


 少女の背はとても低く、テルンが座っても、ほんの少しだけ見上げる程度だった。


「子供は気を遣わなくていいんだよ。それに、椅子の数はそんなに多くないんだ。どっちにしたって、一人しか寝られない」

「そっか……ねぇ!ひざまくらしてよ!」

「膝枕?」

「うん。そしたら二人で寝られるでしょ?」

「……まあ、確かにそうだけど」

「決まり!ここに座って!」


 テルンが椅子に腰かけると、少女はすぐに横になり、頭を預けた。


「おやすみ」

「おやすみなさい」


 すぐそこに睡魔の大群は待機していて、今か今かとテルンが油断するときを待っていた。テルンは自ら大群を招き入れ、深い眠りについたのだった。


 *    *    *     *


 昼時の少し前、テルンは鼓膜をつんざくような、大きな悲鳴で目を覚ました。

 元々眠りが浅いテルンは、本来小さな足音で起きてしまうこともしばしばだったが、前日が徹夜だったせいか、久々によく眠れていた。本来ならば、悲鳴が聞こえた時点で覚醒し、それとともに素早く起き上がり、敵襲かと警戒するところなのだ。しかし、今回はそうならなかった。顔を上げ、状況を判断するまでに少々時間がかかった。

 おかげで、膝の上で眠る少女を床に落とさずに済んだのは、不幸中の幸いといえる。しかしテルンを待っていたその後は、幸いではなく災いだったが。


「テルン……何してるの?」


 悲鳴はメロンから発せられたものだった。二度寝から目覚め、遅い朝食、もとい早めの昼食をどうしようかと考え、ダイニングに向かった。中に入り、机を挟んだ向こう側で椅子が横並びになっているのに気づいた。しかし、椅子がその状態であるにも関わらず、テルンは座ったままで寝ている。不思議に思い、机の向こう側を覗き込んだ——覗き込んでしまった。


「何って……なんだよ。何かおかしいか?」

「おかしいかって……テルン、訊きたい事はたくさんあるけどさ。テルンは知ってるかな。いくら好きなように生きるって言ってもね。守らなくちゃいけない一線ってものは、キチンとあるんだよ」

「ああ。そんなこと、俺だってわかってる。それが今関係あるのか?」


 メロンの表情は烈火の如くであったが、テルンの態度はそこにさらに油を注いでいく。


「うん。関係あるよ。大ありだよ。でも、テルンはきっとわかってない」

「だから!何の話だ?ごちゃごちゃ言ってないで、はっきりしてくれよ」

「そっか……自分から気づいて、自白か懺悔か土下座か、もしくは何か命乞いをするかなと思ったけど——」


 メロンの腕がすうっと上がり、一点を指さした。


「——なにさせてるの?ロリコン、テルン・デパーニアさん?」


 そこにあったのは、テルンの股間に顔を埋めた、少女の姿だった。


 *     *     *     *


 裁判が始まるまでに、そう時間はかからなかった。膝の上にいた少女は、そうそうにテルンから引きはがされ、傍聴席に座らされた。何が起こっているのかわからないらしく、きょとんとした顔で法廷に立つ面々を見ていた。

 被告人、テルン・デパーニア。被害者、氏名不明。検察官兼第一発見者、メロン。裁判長、プシノ・マーガレット。


「俺の弁護は誰がしてくれるんだ?」

「被告人は静かにしていなさい」


 検察官役のメロンはどこからもってきたか眼鏡をかけ、準備は万端といった様子である。


「裁判長!被告人は幼い女の子にそ、その……ひ、卑猥な行為を強制させていました!この男に死刑を!」


 メロンは実際にいう時になって恥ずかしくなったのか、顔をフードで隠してしまった。


「いいえ。被告人、テルン・デパーニアには死よりむごい仕打ちを与えます!まずは死なない程度に身体を焦がして——」

「待て待て!いろんな段階を飛ばし過ぎだろ!プシノは容赦なさすぎだ!」

「女性の尊厳を踏みにじった輩には、これでも足りないくらいでしょう」


 プシノの目はかなり本気で、並みの人間なら失禁しても不思議ではない、そう言い切れるほどだった。


「だからプシノ!お前はメロンから話を聞いただけだから誤解してるんだって!」

「黙りなさい」

 

 現在、内側から身が凍えるという体験を、テルンは初めて味わっている。


「いや、聞けよ!俺はそいつに言われて膝枕をしてただけだ!寝てる最中に寝返りを打って仰向けからうつ伏せになったってのが真実だ!」

「全ては被害者である彼女に訊けば済むことです。さあ素直に、あったことをそのまま話してください」


 三人の視線が、少女に集まった。今までの話を聞いて、彼女がどういった反応をみせるのか、誰もが——主にテルンが——期待した。


「うん。テルン兄ちゃんの言う通りだよ。私が頼んで膝枕してもらったの」

「それは被告人に脅されて、そう言えと言われているのでは?兄ちゃんという呼び方も、ロリコンがそう呼べと言ったのでは?」


 被告人の名前は裁判長の中でロリコンに変換されたようだった。テルンはプシノのあまりの偏見に心が折れかけ、もう有罪でいいのではないかと思い始めていた。


「違うよ?私がそう呼びたいから呼んでるの」

「なるほど。ふむ。……よろしい、起訴内容については間違いを認めましょう。被告人は無罪とします」

「助かった……。おいメロン。俺に言うことがあるよな?言うべきことがあるよな?」

「何言ってるのさテルン。『疑わしきは罰せよ』でしょ?」

「お前こそ何言ってんだ。真逆だっての」


 反省の色の見えないメロンにテルンは大いに呆れた。


「ところでテルンさん。この子と何処で会ったんですか?わざわざここまで連れてきたとなると、仕方のない事情、というものがありそうですけれど」

「いや、別に深い事情はないんだ。こういうことがあってな」


 テルンはプシノとメロンに、昨日の夜から朝方までの話をかいつまんで話した。


「しかし、それではこの子を連れてきた理由が全くないですよ?——まさか」

「いやいや違うって!」


 裁判が再開する気配を察し、テルンはプシノを諫めた。そして、少女に例のセリフを言わせるため、こっそりとウインクした。少女はそれに気づき、にこっと笑いながらウインクを返してきた。したのだが。


「ええっと。『私は無理矢理——」

「無理矢理連れ込まれた⁉」


 テルンは唖然とした。まさかそこでセリフが途切れるなど、全く予想していなかったのだろう。


「違うよ!テルン兄ちゃんが言えって言ったのは」

「「言えって言った』?……ねえテルン。どういうことかな?」


 テルンの用意していた策が、全て裏目に出てしまった。もちろん、少女には何の罪もない。テルンは二人を説得するのを諦め、流れに身を任せようと決意した。

 第二次ロリコン裁判の幕が今、切って落とされようとしていた。


 *     *     *     *


 結局誤解は解け、判決は無罪。裁判の幕は無事に下りた。少女の必死の説明のおかげでなんとか二人は納得したものの、疑いの目はそのままで。テルンは昼食を食べている間も居心地が悪そうであった。一方少女はというと、先ほどまでのことはすっかり忘れてしまったかのように、出されたシチューをおいしそうに飲んでいた。


「ご飯は毎日屋台から盗んでたの?」

「盗む?よくわからないけど、並んでたから食べてもいいのかなって。ひょっとして、もらっちゃ駄目だった?」

「ああいったお店では、お金を払わないといけないんですよ?」

「お金?」


 メロンたちが少女に説教を始める。しかし、少女との会話は、ほとんど成り立っていなかった。ところどころに出てくる単語が、彼女には理解できていないようなのだ。


「なんかこう……世間知らずというか」

「滅茶苦茶なお嬢様で、親から過保護に育てられた、くらいしか思いつかないけど……」

「どうしましょう?この子を早く返すべきなのは確かですが……。まだリオさんもフェガさんも帰ってきていませんし——」


 プシノの言葉を遮った、小さなノック。誰かが何かの合図をするでもなく、室内は一斉に静まる。外に繋がる扉の向こうに誰かがいる。つまり、来訪者であった。


「俺が対応する。メロン、プシノ。その子と一緒に隠れろ」


 テルンの小声の指示に二人は了解の意を表し、少女の手を取って移動した。隠れる場所などほとんどないが、せめて扉から直接見える範囲からは外れなければならなかった。少女も静かなもので、とても六、七歳には見えないほど落ち着いていた。


「どちら様ですか?」


 テルンはドアを開けないまま、薄い扉の向こう側に伝わる程度の声で問いかけた。しかし、ドア越しに聞こえるのは応答ではなく、聞き取れない程度の小声のやり取りだった。辛うじてわかるのは、相手が二人で、一人は男、もう一人は女だということだった。


「私だよ。テルン、開けてくれない?」

「……失礼、どちら様でしょうか?」

「まあそうだね。当然そうする。しなくちゃいけない。そういう警戒心は大事だからね。むしろ声だけで判断して開けるようなら説教しないといけないところだよ」

「しかしどうする?このままだと、私たちはずっとこのままになってしまうぞ」

「そうだね……じゃあこうしよう。テルン、私が誰かは、もうわかっているだろう? お前と私しか知らないことを質問しなさい。それを暗号ということにしよう。私としたことが、例のノック、忘れてしまってね。もう年かな」


 女の言う通り、テルンには声で相手が分かっていた。もちろん、それだけで錠を解いたりはしなかったが。


「分かりました。では、いきます」


 テルンは懐かしく、苦しい思い出を記憶の隅から引っ張り出した。


「あの事件の後、逃亡中の俺とメロンを見つけたあなたは、迷うことなく俺を狙撃しました。部隊の中で、俺たちを見つけたのは私だけだだと言っていましたね? ならば、これはあなた本人しか分からないはずだ」


 あの事件は、多くの人を巻き込んだ。テルンやメロンだけではなく、たくさんの人々の心に爪痕が残っている。この人物が本物であれば、事件の説明すら必要がないはずなのだ。


「あなたが打ち抜いた俺の身体の場所、それと、その箇所を打ち抜いた理由を合わせて答えてください」

「……なるほどね。簡単だわ。打ち抜いた場所は右肩。主に表面の肉をそぎ取ろういう意図があった。理由は……ハル・アリア武神団の証を消そうと思ったから。私としたことが、失敗しちゃったけどね」

「——正解だよ。リオ姉、フェガさん。おかえりなさい。みんな、出てきていいぞ」


 テルンは錠を外し、扉を開けた。外には二日ぶりに見る二人の姿があった。


「ただいま。遅くなったね」

「うむ、すまなかった。心配をかけてしまったか?」


 メロンたちの表情は、声が聞こえた時点で和らいでいたが、二人の姿をきちんと確認できたことで、肩の力も抜けたようだった。


「そうだよ! テルンなんか心配しちゃってわざわざ捜しに出たんだから!」

「……余計なことを——」

「テルンが私たちの心配? 可愛いわねもう!」


 リオはぱあっと笑顔になると、テルンをぎゅっと抱きしめた。


「だから! いつも言ってるだろひっつかないでくれ!」

「テルン兄ちゃんは甘えん坊だね!」

「お前も余計なこというな!」

「そういえばテルン。この子どうしたの? とうとうさらってきちゃった?」

「とうとうってなんだよ!」


 全員が揃い、何とも言えない安心感が生まれる。彼らは、それぞれに心に傷を持ちながら、様々な苦難を乗り越えてきた。誰も口にはしないが、お互いを家族に近い存在、いや、家族そのものだと思っていた。

 しかし、そんな一時も長くは続かなかった。


「……皆聞いてくれ。安心しているところで申し訳ないが——来るぞ」

「来るって何が……テルン!逃げる準備!」


 初めにフェガが気付き、後にメロンが気付いた。テルン達は一瞬何事かわからなかったようだが、すぐに事態を理解し、行動した。既に近くの大通りは騒がしくなっていて、タイムリミットが近いことを示していた。


「ねえ。みんな慌ててどうしたの?なにかまずいこと?」


 流石に不安になったのか。いち早く準備を終え、何か大事なものを忘れていないか確かめていたテルンのコートの裾を、少女はちんまりと掴んでいた。


「もうすぐ王立軍がここにやって来る。俺たちが逃げられないように取り囲むつもりだろう。そうなる前にここから脱出するんだ」

「そっか……。でも、どうして逃げるの?おうりつぐんの人達が悪い人なら、テルン兄ちゃんがやっつければいいじゃん!朝の時みたいに!」

「……今は時間がないから説明出来ないけどな。簡単に言うと、王立軍は悪者じゃないよ。逆に追われる俺たちが悪者かというと、そうでもない。そういうことだよ」



 少女は首を傾げた。簡単に分かることではないし、割り切れることでもない。今すぐ理解する必要はなかった。

 そして、テルンは思いついた。


「お前さ、ここに残ってろ」

「テルン兄ちゃんも残るの?」

「いや、俺たちはさっき言ったように、ここから出て行く。お前はここに残って、王立軍に保護してもらうんだ。元々、身元が分からなかったら、王立軍に預けるつもりだったからな」


 少女は明らかに不満そうな表情を見せ、テルンの服の袖を掴む。


「……わたしはテルン兄ちゃん達と一緒にいたい」

「駄目だ」

「どうして!」


 テルンは少女が泣きそうになっているのを見て申し訳なくなったが、情に流されまいと自分を鼓舞した。


「俺たちはこの通り、追われる身なんだ。捕まれば、まあ、無事じゃ済まない。最近はまだ平和だったけど、こんなことは珍しい方だ。わかっただろ?俺たちと一緒にいれば、お前も仲間だと思われる。そうすれば、お前も追われるんだ。俺たちは自分のことで精一杯になる。誰かを守るなんて余裕なんて、誰にもないんだ」

「それでいい。わたしも、わたしの身は自分でまもる」

「聞き分けのないことをいうな!いいか——」

「テルン急げ!もう時間がないぞ!」


 既に四人とも準備を終え、今すぐにでも飛び出せる状態になっていた。


「行くぞ! じゃあ、元気でな!」

「あっ! 待って——」

「おいどうなってんだよこれ! 開かねーぞ?」


 ドアを乱暴に叩き、ドアノブを回す音が室内で暴れまわる。突然の事に、テルン達は思わず身構えた。


「もう王立軍⁉ いくらなんでも早すぎるよ!」

「違う、外からじゃない。そこだ」


 唯一落ち着いていたフェガが指さしたのは、廊下に通じるドアではなく、バリケードの方だった。


「グリー! あんたなんで閉じ込められてるんのさ!」

「……ごめんリオ姉、フェガさん。今は何も言わずに、これどかすの手伝って」


 簡単にいえば、今までグリーのことを、完全に忘れていたのである。さらに言うならば、今までグリーは寝続けていたということだ。酒を飲ませてもらえずに、ふて寝していたのである。


「ここの宿にテルン・デパーニアがいることは分かっている!ボロい宿だ。どこに隠れているか分からん! 徹底的に調べ上げろ!」

「誰がボロ宿だ! 王立軍だからって好き勝手言ってんじゃねぇぞ!」

「なんだお前は! おい! こいつも何か情報を持っているかもしれん。拘束しろ!」

「ふざけんじゃねぇぞおらぁ!」


 階下からの激しい怒号が、部屋に飛び込んでくる。プシノが外を確認してみると、既に王立軍が宿の周りを取り囲み、宿への立ち入り禁止、および脱走者の捕獲を始めていた。


「テルンさん。王立軍は宿に居る者を、片っ端から捕まえているようです。今は宿主さんが時間を稼いでくれていますが、時間の問題です」

「もう少しだ……。よし! 出発するぞ!」

「ちょっと待て俺の荷物が」

「どうせほとんど酒だろ! また買えばいい!」


 泣く泣く酒を諦めるグリーは、せめてこれだけはと手近な酒瓶を胸に抱えた。


「もう退路がないからな……みんな、一度屋上に上がるぞ。窓からなんとかよじ登れ!」


 順番に上がり始め、テルンはそれを手伝う。しかし、その様子は道から当然のように丸見えで。


「隊長! 見つけました! あの部屋です!」

「もうこの男は放っておけ! 奴らは屋根を伝って逃げるつもりだ。絶対に地面をふませるな! 屋根を伝って動ける場所など限られているからな。囲んで一網打尽にしろ!何人かは俺について、あの部屋に突撃しろ!」


 王立軍兵士は奮起し、街中に届くような叫び声は、百獣の王の咆哮さながらであった。十数もの人間が宿に突撃する。

 一人、二人と屋根に上がり、部屋に残ったのは、少女とテルンのみ。


「じゃあな。元気でやれよ」


 少女は下を向いたままで、その表情はわからない。テルンは少女の頭をなで、窓枠に手をかけた。と、同時に。

 木材の軋む音、いや、折れる音、地面に弾ける音。そして、重なる靴音。テルンは振り返る。王立軍は間に合ったようだ。


「いたぞ! 捕えろ!」

「テルン急いで!」


 焦ったメロンは、テルンの手を掴もうと、屋上から必死に手を伸ばす。一斉に飛び込み、テルンに手を伸ばす兵士たち。

 伸ばされた二方向の手。テルンはメロンの手を掴んだ——掴もうとした。しかし、その手は既に、他の手によって埋まってしまっていた。


「なっ!」

「引き上げるよ!」


 手に掴んだ感触を得たメロンはフェガと協力し、力を籠める。かなりの重みを覚悟していた二人は、あまりの軽さに驚いた。そしてもう一度驚いた。引き上げられて見えてきたのは、黒ではなく、ブロンドだったからだ。

 つまりは。


「テルン、そのまま飛びな!」


 室内に取り残されたテルンは、リオの声の通りに行動し、兵の群がる大通りに飛び出した。指示がなくとも、そうせざるをえなかった。一瞬でも判断が遅れたならば、王立軍に拘束されてしまうのだから。


「プシノ!」

「了解です!」


 プシノは瞳を閉じ、意識をテルンに集中させた。プシノは今、世界の一部であるフィリアに干渉し、変化させた。『魔術ユースフィリア』によって。


「テルンさん、行きます!」


 宙に浮くテルンの身体は、重力に逆らい急速に上昇し、まるで風に攫われるかのような、そんな感覚をテルンに与えた。


「プシノグッジョブ!」


 テルンは屋上まで舞い上がり、無事に着地した。

 テルン達からすれば、なんてことはない連携だった。しかし、野次馬と化していた、街の住人たちからすれば、ただならぬことだった。人間が空中でとまり、浮き始めるなどという事象は、奇跡以外の何物でもなかった。そして、群衆はその奇跡に驚き、呆然とし——恐怖した。


「近くに妖精ピクシーがいるぞ!」

「逃げないと街を焼かれちまう!」

「王立軍なんとかしろよ!早く妖精を見つけて殺してくれ!」


 恐怖は強力な感染病のように、一気に広がる。そして、天地がひっくり返ったかのような、大混乱パンデミックを巻き起こした。


「皆さん落ち着いてください!落ち着いて!大丈夫です!我々が必ず排除します!兵士の周りから離れてください!」


 狭い路地は、兵士と錯乱した情報によって逃げ惑う人々で入り乱れ、とうとう収集がつかない状態にまで進行してしまっていた。

 テルン達が逃げ切るためには、絶好の状態。


「今のうちに逃げるぞ!全員散らばって——」

「少しだけ、待って貰えないか?ハル・アリア」


 テルンの言葉を遮った声には、どこか無視できない危険が含まれているようで、テルン達は動きを止めた。


「そんな奴はここにはいないぞ。何度言ったらわかるんだ。——久しぶりだな。エドバ・エリト」


 少し離れた屋根の上に、一つの人影があった。歳は二十代後半。目の眩むような金髪、それは背中の中程まで伸びていて、紫色の女物のヘアゴムで纏められていた。

 鷲を象った王国の紋章が左胸に、エリト家の紋章が右胸に刻まれた、絢爛な鎧を身に纏っている。

 ほんの少し釣り気味の眼は、髪と同じ色の輝きを持っている。遥か昔から王都の地に住んでいる人々の鼻は皆高く、王国に長年仕えてきたという証拠だ。つまりそれは、王都で贅沢に暮らす、貴族達の象徴とも言えた。


「少し野暮用でこの街に立ち寄ったのだが……まさか、まだ人間界にいたとは驚きだよ」

「もちろん逃げたさ。亜人界も妖精界も、なかなか悪くないところだった。お前も一緒にどうだ?頭下げるなら連れてってやるよ」

「生憎、私は王を守護するという大命を頂いている。名誉なことだ。そうやすやすと人間界を離れられんよ」

「まあそうだろうな。あー、それで、悪いけどさ。俺たちはそろそろ逃げるよ。元気でな」


 テルンは一気に会話を終わらせ、通りの人混みに飛び込もうと態勢を整えた。全員がそれに従おうとした。


「別に逃げるのは構わない。ただ、誰か一人くらいは頂いていくよ」


 途端、飛ぼうとして足に溜めた力を逃がす。テルンは意識を切り替えた。逃げる方向ではなく、立ち向かう方向に。


「俺があいつを足止めする。みんなは一度逃げろ。安全を確保したら、あとは任せる」

「でもっ!」


 テルンの意図を読んだメロンは、一瞬の躊躇いをみせた。


「急にどうしたのだ?ハル・アリアよ。逃げるのではなかったのか?私としては望む限りではあるがね」

「どうして部下を連れていないのか、今何となく予想がついたよ。お前だけでも、ここで俺と遊んでもらう」


 簡単なことだ。この街を脱出するにあたり、門を潜るため、必ず通らなければならない場所が数ヵ所存在する。その要所全てにエドバの部下が待ち伏せているのである。奴の部下を突破できれば問題はないが、それは容易ではない。派手な戦闘になれば、王立軍兵士も集まってきてしまう。テルンは追い詰められ、焦りが身体を支配していくのを感じた。


「そうか。最近では娯楽が少ない。久々に楽しめそうだ」

「リオ姉。ナイフを一本貸してくれ」


 エドバは腰から剣を抜き放ち、テルンはリオから手渡されたナイフを構える。瞬間、場の空気が固まる。凍り付いたかのように、誰一人、動くことはなく。


「テルン兄ちゃん!」


 固まったのが一瞬ならば、それが解けるのもまた、一瞬であった。急に飛び出したりしないよう、少女はメロンによって捕まえられていた。しかし、彼女の目には、何かしらの意思が宿っているようだった。


「危ないから離れてろ!メロン、その子の扱いは任せる!」

「ここから逃げるんでしょ?わたしに任せて!」

「……任せろって……」

「テルン兄ちゃん。メロン姉ちゃん。みんな。信じて」


 少女は自分を捕まえていたメロンの手を、そっと外した。


「……もういいかな。これは確かに仕事だが、私にとっては快楽でもある。邪魔をしないでもらいたいものだ」


 エドバは少しずつではあるが、確実に苛立ちを感じ始めていた。数少ない楽しみを先延ばしにされているとなれば、仕方のないことである。テルンはエドバの感情の変化を敏感に捕え、思わず身構えた。


「ここから逃げればいいんでしょ?どこか、遠いところに」


 少女はエドバの言葉を聞かず、右手を挙げ、小さな身体を目一杯に使って、空に大きく真円を描くた。そしてその軌跡は、淡い光を放ちながら少女の目の前に降り立つ。

 少女は目を閉じる。そして口からは彼女の物とは、この世の物とは思えない呪文のような音が溢れ出す。円の軌跡の中で光が強く明滅し、それは次第に禍々しさを帯びていく。

 目を開けた彼女からは幼さがなくなり、テルンと出会った時とはまるで別人のようだった。

 最後の仕上げとして、彼女は真円の中に六芒星を刻み込む。

 その様子を誰もが凝視した。瞬きすら忘れて、食い入るように見つめていた。

 六芒星が消え、真円が消え、そこに現れたのは——暗闇だった。


「『異次元門ゲート』⁉︎」

「馬鹿な!こんな場所に現れるはずが——」

「みんな急いで!」


 少女は自分で作り上げた暗闇に、躊躇なく飛び込んだ。


「ちょっと待て!……俺たちも行くぞ!」


 少女の行動に呆然としていたところを、テルンの掛け声で全員が自分を取り戻し、次々と暗闇に飛び込んでいく。


「……驚いたよ。こんなに早くお別れとはね」

「そう残念そうにするな。近々世話になる」


 全員が入ったのを確認し、テルンが暗闇の中に消えると同時、『異次元門ゲート』は消失した。先程までテルン達が存在した痕跡など、跡形もなかった。

 その場に残ったのは、大きな喧騒と混乱。そして、困惑する一人の男だけだった。

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