:PlaceMentS

涼成犬子

昔々、あるところに

 慎ましい家が建っていた。そこには、三人の家族が暮らしている。お父さんとお母さん。そして、まだ六つか七つくらいの、小さな女の子。

 お父さんとお母さんが出会ったのは、小さな街の酒場だった。そのお店はお母さんの両親のお店で、大きな街から大きな街へ移動する人たちが休める貴重な場として、なかなか繁盛していた。

 でも、そんな場所には、いろんな人達が集まってくる。中には、ルールを守らない人もいる。騎士としてお店で暴れている人を取り押さえたのが、女の子のお父さんだった。

 それをきっかけとして二人は良い仲となり、結婚した。

 今の家は女の子が生まれることがわかった後、酒場にお世話になった御客さん達も手伝って建てられた。小さいけれど、とても満足のいくできだった。


「シャロ!今日はお客さんがたくさん来るから、お手伝いしてね?」

「はーい!」


 女の子は無事に生まれ、すくすくと育っている。お母さんは家で家事を行い、お父さんは町で騎士の仕事を続けていた。騎士とはいっても、世界は随分と平和なので、戦争に出兵するということもなく。

 

「あのね! お母さん! 聞いて聞いて!」

「はいはい。聞いてるよ」

「家の裏に大きな木が生えているでしょ?あそこの下で遊んでたら、木の上にすっごく綺麗なお姉さんがいたの!」

「そうなの? 優しい人?」

「うん、すっごく優しいよ! もしかしたら、木の妖精さんかな?」

「どうかな? もしそうなら、お母さんも会ってみたいなあ」

「きっと会えるよ! 今日もね、お昼ご飯食べたら一緒に遊ぶ約束してるの!」

「じゃあそれまでお手伝いしてね?」

「うん!」


 少し経つと、お父さんが街から帰ってきた。今日は親しい仲間が久しぶりに集まるということで、早めに仕事を切り上げたのだった。二人のおかえりの声に答えると、部屋の中をきょろきょろと見回した。


「みんなはまだか?」

「うーん、もう少しじゃないかな」

「そうか……本当に久しぶりだな」

「そうだね……」

「二人とも早く!準備準備!」


 女の子に急かされ、二人は準備の仕上げに取り掛かる。

 たくさんのご馳走が完成しても、お客さんはなかなか現れない。待ちきれなくなったのか、女の子は隙を見て家を抜け出し、大きな木に向かった。


「あ!お姉ちゃん!お待たせ!」 

「私も今来たところだよ。準備はもう終わったの?」


 木の太い枝に腰かけているのは、女の子の言う通り、とても綺麗な少女だった。


「うん。準備は終わったんだけどね。なかなかお客さんが来なくてね?我慢出来なくて出てきちゃった」

「あははっ!そっかそっか!じゃあお客さんが来るまでだね」

「うん!今日は何して遊ぶ?」


 女の子は待ちきれないのか、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねていた。


「そうだね……じゃあ今日は、お話しをしようか」

「お話し?」

「そう。昔話だよ。知ってる?」

「知ってるよ!むかーしむかーしで始まるんだよね!シャロがお風邪ひいたときにね?ママが教えてくれたの!」

「そっかあ。でも、私のお話しはすっごいんだよ?ママもきっと知らないんじゃないかな?」

「え!聞かせて聞かせて!」


 輝かんばかりの笑顔で、女の子は少女を見上げていた。


「ふふふ。それではご希望にお答えして。でも、すっごく長いお話しだから、お客さんがきたら、この話はおしまいね?」

「うん!早く早く!」

「よーし。いくよ?……昔々、あるところに……」

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