第84話 空腹度と渇水度
お店の名前は決まっていないが、店の方向性はある程度考えて入る。
自分が気になったもの・・・・・・装備やアイテム類の枠を超えて、気軽に雑貨屋として店を開こうかと漠然と考えてはいるが、問題なのが自分がずっと店に居続けることは出来ない、補給の問題があるので新大陸の攻略はそこまで進んでは居ないが、自分の目的の一つにはこの世界を探検することも含まれている。
自動販売では味気ない、せっかく立派な建物を借りているのだ。できればNPCを雇いたいところだが、NPCの事務能力が思いの外優秀だったので、NPCの雇用はどこのサーバーでも取り合いが発生していた。
フラウの街でもその多くは街の役人として雇われたり、街の東西に位置する別サーバーからやってきたクランが立てた外部市場でも多くのNPCが雇われていた。
賃金を未払いしたり、長時間働かせたりすると名声ポイントが下がるので、NPC労働者の扱いはみんな慎重だ。なので数多く雇い、一人あたりの負担を減らそうとするので余計に人手不足が深刻化していた。
「エファ、いるかい」
『ん?どうしたの?』
店の二階、人気の無い事務室で何が楽しいのかニコニコと笑顔で調べ物をしている自分の顔を観察するエファ、そういえば自分には使い魔がいたことを思い出した。
半ば強引に仲間になったエファだが、エファの通常形態は子供のように小さくはあるが、見た目麗しい人型の妖精種だ。
エメラルドグリーン色の髪に、尖った耳はエルフに近いが、彼女の背中には薄い蝶のような羽が存在する。
エファ達ドリュアス族は誰もが少年少女と言える幼さを持った顔立ちをしているのは少し不安だ。
エファはレベル80を超えているので、第2大陸へやっと進出したぐらいのファンタジーワールドのプレイヤーが束になっても支援型のエファをどうにかすることは出来ない、ただ見た目が問題で、ロリコンのような気質を持つ人に付き纏われるのは可愛そうだ。
親の欲目、とは少し違うかもしれないがエファはかなり顔立ちの整った美少女だ。
まさにアニメや漫画のヒロインといった美しい顔立ちをしており、ファンタジーワールドのキャラメイクの特性上、どうもリアルよりの顔立ちの多い人が多いゲームの中で、運営によって制作されたエファというNPCは大分見慣れたはずの自分でも今もなお、ドキッとさせられることがある。
「フルパワーモードってできる?」
「フルパワーモード?大人形態のこと?」
好奇心旺盛な翡翠の瞳を輝かせながらこちらを見るエファにどこか実家で飼っているペットを思い浮かべたのは流石にしつれいだ。
「多分それだと思う、魔力を使うとかなら別にいいんだけど」
「特にそんなことは無いよ?ただ攻撃魔法を使うときに変わる形態だし」
そう言うとエファが一瞬光ると、まるで女児向けアニメの変身シーンのように見る見ると形が変わる。
「これでいいかしら?」
「おぉ・・・・・・」
大人形態のエファは女児と言えるような幼さが無くなり、肉欲を誘う妖艶な美女といった感じだ。長いまつ毛に艶やかな唇。もとより顔立ちが良かったので、大人状態になったエファは美女といって間違いないだろう
直接的な表現は避けるが豊かに実った果実、淡い乳白色の肌色の彼女の北半球がもろ出し状態で、非常に目に毒だ。どうも距離感は女児形態と変わっていないので横に密着されると男の性として、非常にまずい
「とりあえずこれ羽織って」
「んふふ、わかった」
クスクスと上顎に指をあてて笑う姿が様になっている辺り、どこか確信めいている様子だ。
(敵わないなぁ・・・・・・)
からかいが成功してご機嫌なのか、渡された服を着替えに事務室を出るエファを横目に自分はぽりぽりと頭を指でかく
どうも彼女に対して子供扱いしていたのがエファにとって不満だったようで、彼女から逆襲を受けてしまった。
今後はエファが子供形態でも一人の女性として慎重に対応しよう、そう心に誓った。
ペガサスが満足いくほどの品揃えは揃っていないが、それでも必要最低限の商品はかき集めたので人知れず店を開くことになった。
立地こそ露店通りと商店通りの境目にあるので、比較的見つけやすいが東西に外部市場が生まれたことで、宝石飴が販売直後に比べればそこまで人通りは多くない
ただ宝石飴が入荷する曜日にはペガサスが持つ店の通りも人だかりが出来るので、未だ宝石飴のブランド力は健在といったところか
「あ、店長・・・・・・エファちゃんいる?」
「今日は休みですよ、エファは基本的に私が休みの日に入ってもらっているので」
「そっかー残念・・・・・・」
まだ空きの多い棚が目立つ店内でも、毎日のように店へやってくるプレイヤーは多い
ただそれらやってくるプレイヤーの目的を考えれば、店主であるペガサスは素直に喜べないでいた。
(せめて品物ぐらい買っていってくれよ)
お目当ての人物が居なかったせいか、あからさまに肩を落とし落胆した様子の名の知れない男性プレイヤー
ここ一週間、オープン直後ということもあってペガサスは土猫さんを始め、支援をしているプレイヤーとの交流もあるため殆どを店内に留まっていた。
日によってはクランの拠点に赴いては鍛冶をしたり、クランメンバーと話すこともあるが、その際は使い魔であるエファが店番をすることになっている。
一週間の間でも、エファが店番をやっていた時間はそう多くない、ペガサスが開くお店はプレイヤーたちのログインが多くなる18時~22時の短い間の営業で、それ以外は自動販売の形式を取っている。
殆どはペガサスがログインしている間でカバーできるぐらいではあるが、ペガサスも一人暮らしの大学生だ。家事をやったり大量のレポートに追われてログインが遅くなってしまうときもある。
そんな際にエファに店を任せているのだが、ペガサスが当初危惧していた問題がやはり生まれていた。
「エファちゃんはいつ頃店番やるの?」
「いやー、決まっていないですね、少なくとも今週は無いと思います」
「えーー」
ペガサスも一時期アルバイトで接客をやったことはあるので、この手の面倒な相手をすることも多々あった。
どうも最近このお店にやってくるお客の目的の大半がエファを目的とした人間が多い様子だった。
ただ意外なのが、その多くが男性かと思えば4割ぐらいは女性のプレイヤーがエファを見に来る事が多いと言うのはどこか偏見を持っていたペガサスにとって衝撃だった。
「女だって綺麗な女性がいたら見たいわ」
そういうのはどこか歴戦の雰囲気を感じる大剣を持った女性だった。
『私、綺麗?』
透明化した状態でペガサスと女性プレイヤーとのやり取りを見ていた妖精状態のエファが耳元でそんな事を喋っていた。
どこぞの口裂け女だ。と内心ツッコミを入れつつも雑貨屋として営業しているペガサス一押しの商品は他のプレイヤーからしたら不人気な様子だった。
ペガサスが店をオープンさせてから1週間が経つが、エファをお目当てにした客が来るようになってから特別変わったことは無い。
支援をしている研究だって、ペガサス自身直ぐに結果を求めている訳でもなく、中間報告こそして貰っているが、完成するのはまだまだ先と言った様子。
街の管理権に関しても、小康状態が続いており、ランキングが更新される12月初めには2クランほど外部から参入する予想だが、幸いにも行政権が取得出来る上位5番までには入らない予想だ。
(他サーバーでも補給拠点が建設始まっているみたいだし、予定地探しぐらいやってみようかな?)
特に代わり映えもしない店内で、ペガサスはそう考えていた。
現状、街の支配権はナミザさんなどフラウの街の建設に尽力したプレイヤーたちが奔走しているおかげで、ペガサスのようなプレイヤーが出る幕はない
むしろ、店のある北地区が活発になれば彼らの支援になる訳だが、おいそれと解決策が見付かれば苦労はしない
ペガサス自身、幻想世界で培った戦闘経験や知識には自信があるものの、数多くのプレイヤーが集い、日夜権力闘争を繰り広げている世界はペガサスにとっては未知な世界、商売だってプレイヤー相手にやるのは初めてなのでそう上手くいくわけもなかった。
「あれ、川がない」
新大陸へ来てから1週間と少し、初めてファンタジーワールドの第二大陸を象徴する荒れた広大な大地が視線の端まで広がる。
ペガサスがやってきたのは、フラウの街から北へ進み数キロの地点にある平野だった。
幻想世界をプレイしていた際に保存していた第二大陸南部のマップのデータをローカルファイルから引っ張り出して、現在位置と見比べてみるが、本来であればあったはずの川がない事が判明した。
空腹システムには細かく分けて、喉の渇きを表す『渇水度』というものがある。
渇水度は主に魔法以外で生成された水を摂取する事で回復出来るもので、空腹とはまた違った管理がされている。
料理によって渇水度が回復するものの、一部の食料ではこの渇水度は回復しない食べ物も存在する。
主にクッキーや乾パンといった保存が効く食べ物はこの渇水度が回復しない、その為水源の確保はこれから補給拠点を設置する上でも、非常に重要な要素のひとつだった。
将来的に鉄道や何かしらの交通手段を敷くことも考えれば、土地の高低差が少ない方が良いのは間違いないので、ペガサス自身それらに当てはまる場所を求めてやってきたのだが、まさか地形が変更されていることには驚いた。
(総じて水源となる川が少ない……モンスターよりこれら補給がこの大陸で1番難易度の高いものなのかも知れない)
第二大陸に蔓延るモンスターたちも、第一大陸に比べれば順当に強化されている。だがしかし、同時に出現する数は少なく、やっかいな特性を持ったモンスターは少ないように見受けられた。
それでもプレイヤーは補給無しでこの荒野を横断することは無理に等しい、空腹や渇水によるデバフは強力で、現在の技術では活動できる範囲が限られているのが現状だ。
幻想世界の知識があるから、そこまで苦労はしないと高を括っていた自分自身、これからの果ての無い道程に、どのようにして攻略しようか考えがつかなかった。
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