第83話 雑貨屋とクラウドファンティング
※この話から一般アイテムの説明文の表記が変わります。
ナミザさんの軽いノリの提案で、立派な建物を持つ商人プレイヤーとなった自分は取り敢えず売り出す品物を探すことにした。
「うーむ、家あり商人ならそれなりの格のある物がいいよな?」
すっからかんの新築の建物に何を置こうか、部屋の中心でぽつんと突っ立ったまま考える。
家あり商人とは、商人系プレイヤー界隈で商人の力量を示す言葉で、文字通り自前で建物を持ち商いをするプレイヤーか、行商人や露天商といったプレイヤーかを示す。
単純に、家あり商人は自前で建物を持つから商人として腕が優れているという意味で、足の付かない不安定な行商人や露天商を貶す言葉でもあるそうだ。
自分の場合は賃貸に近いのだが、所有者が路地裏の工房と自分が所属しているクランなので一応家あり商人となるらしい。
なのでそれ相応の商品を並べる必要がある。と言われれば路地裏の工房のメンバー以外は碌な生産プレイヤーの知り合いが居ないので現在悩み中だ。
森の雫のネネさん、ということも最初は考えたのだが、森の雫は第13サーバーの幹部だ。何なら西地区に市場を展開する大手ギルドのうちの一つで、言い方は悪いが潜在的に敵対勢力とも言える。
なので、自分が目指すべきところは有名ではない中小クランから商品を入荷することなのだがこれが難しい、単純に見つけるのが大変なのだ。
「メイク名義だと余計に過熱しそうだしなぁ、どこか都合の良い商品は無いものか」
ここでメイク名義の一線級装備を販売しようかとも一瞬考えたが、ただえさえ宝石飴でフラウは大変な状況になっているのだ。火に油を注ぐ行為にはしたくない
「うーん、いい感じの無いなぁ」
ファンタジーワールドから離れ、現実世界の自分の部屋でパソコンを立ち上げてSNSを覗いていた。
ファンタジーワールドの面白いところはクラウドファンティングのような活動をするプレイヤーがSNSを通じていることだ。
以前、フラウの有権者会議でも話題に出た鉄道の内燃機関研究も発端はSNSを通じて行われ、シュタイナーたちのようなトップクランから支援をもらって開発していると聞く
なので、自分もそれの真似事をやろうとしたわけだ。自分が店を経営するので自分が興味を持つ商品を売りたい、そう思い支援者として活動しようとしたわけだ。
ただもとからあるメイク名義のアカウントだと波乱を呼びそうなので、リアルとはまた違ったファンタジーワールド専用のSNSアカウントを作成した。一応ネネさんやシュタイナーなどもフォローしたが、ネネさんもシュタイナーもフォロワーが万を超える有名人だったことに今更驚いたのであった。
「花火の作成・・・・・・何に使うんだこれ?」
ファンタジーワールドの夜空に大きな花火を打ち上げたい、というコメントに自分は深く興味を惹かれる。実用性皆無ではあるもののこういった道楽系の研究は個人的に好ましい
「突然の連絡失礼します。私はフラウの街で・・・・・・」
カタカタと使い慣れたキーボードで文字を打ち込み、文章を書いていく、自分の現状と土猫と書かれた名前の人物に花火研究の支援を申し出る旨を伝え、送信する。
ピコン
「お、返信早いな」
DMを送って数分後、早速返事が帰ってきた。土猫と呼ばれる人物は資金材料ともに不足しているようで、結構切羽詰まっている様子だった。
「すいませーん」
次の日の夕方頃には、約束していた土猫さんがまだ空きの多いペガサスの店にやってきた。
今日一日、講義が午後の早い時間で終わったので、早速家に帰って店の開店準備をやっていた。
二階建ての建物には一階は自ら集めたアイテム類を販売し、二階に関しては取り敢えず倉庫兼事務所といった形になっている。
個人的に嬉しいのは路地裏の工房のメンバーが制作したアイテムも置くことになっている。サラちゃんから猫男爵くん、正宗さんの刀も置く予定で、ナミザさんのガントレットからレイネスさんと共同で制作した魔道具も試験的においてみたりする。
それ以外にもSNSを通じて興味を持った研究をしているプレイヤーの人に声をかけ支援の話を持ち出したりして結果が実を結べば、自分の店を優先的に納品してくれる話を土猫さん以外の人にも話している。
お金なら余るほどあるので、個人研究クラスなら大丈夫だと思うので結構手広く声をかけた。言ってしまえば宝石飴を制作したトウカさんにやったことを他のプレイヤーにも行うといったもので、今回の土猫さんとの話も同じような契約をするつもりだ。
「あっ、どうも土猫っていいます」
「こちらこそ、態々こちらまで出向いてくれてありがとうございます」
店の入口で不安そうに周囲を見渡していた人は、やはり昨日約束をしていた土猫さんだった。
土猫さんは褐色肌の猫目の女性で、盗賊職をとっているのか、軽装なのだが肌が露出している面積が広く、中性的な見た目をしてはいるがどこか艶めかしい、軽い挨拶を皮切りに事務所のある二階へと案内する。
へーと興味深そうにアイテムを観察するあたり、やはりというか研究者気質というか生産プレイヤー特有の観察眼をしている。
偏見かもしれないが、シュタイナーを始めとした冒険プレイヤーはまず第一にアイテムのステータスを見る。装備類であれば軽く種類を確認はするがまず目の前にあるアイテムのステータスを見て次に値段を確認する。
そして気に入れば試着をしてみて装備した感覚を試す。
逆に生産プレイヤーの人はまず見た目を見る。
アイテムの性能云々よりも独創性に価値を見出し、特徴的な見た目のアイテムに強く気を引かれる。そして次に値段と性能をを確認して性能と金額が見合っているのかコスパを吟味すると言った感じだ。
ただこれはペガサスがこれまで見てきたプレイヤーの傾向なので、全てがこのように当てはまる訳では無いが、土猫さんの様子を見た限りどうもロマンを求める研究者の匂いがした。
「花火を作っていると聞きましたが・・・・・・まずは試作されているものを見させて貰っても?」
「はい、一応安定版と最新版があるのでその二種類を持ってきました」
安定版?と少し不穏な言葉が聞こえたが、二階の事務所兼応接室に土猫さんを案内し、早速持ってきてもらった花火玉を確認する。
【打ち上げ花火・試作弐号】
爆発する性質を持った危険なアイテム、その見た目以上に広範囲に爆発するので扱いには注意が必要
種類:生産アイテム
現実にあるような打ち上げ花火と違い、かんしゃく玉に近い性質を持っているようだ。
上空へ打ち上げるのもパチンコのような投射式と聞いているので、先は長いとのこと
「打ち上げ用の火薬も調合はしているんですけどね、どうも魔法で事足りる事が多いようで火薬関係の研究があんまり進んでいないというか」
土猫さんが言うには、ファンタジーワールドでは爆裂魔法などが存在するので態々危険を伴う火薬の調合をしてまでアイテム化するか?という考えが広がっているそうだ。
それは魔法がある世界だから起こりうる理由で、魔法で代用できるならそれでいいのではないか?というのが現在の状況
ただ土猫さんは盗賊系の職種についているので爆破系魔法を使うことは出来ない、ただ彼女の知り合いの魔法使いのプレイヤーに頼んでみたところ、細かな調整が出来なかったので、一から火薬生成をやったほうが結果的に近道になるのでは?と言った感じだ。
「そうですね、今回の土猫さんからの話を聞いて私が持っているアイテムからも幾つか使えそうなのを選んできました」
今回の話をするにあたって、金銭的な支援は勿論のこと、アイテム類の支援も申し出ている。
自分が選んだアイテムはなるべく第一大陸で入手できるもの、今回用意したアイテムの中には第二大陸産のアイテムもあるが、これに関しては今回の研究でピッタリだと思って選んだ。
【パチパ草】
水分を含むと燃焼する危険な草、持続性は短くすぐに燃え尽きる。
種類:調合アイテム
【ペルモ爆発鉱】
強い衝撃を与えると破裂する大変危険な鉱物、高温状態でも爆発する恐れがあるので注意が必要だ。
種類:鉱物アイテム
【パーライム鉱】
高温状態になると緑色に反応する鉱物、脆く加工しやすいが装備類には向いていない
種類:鉱物アイテム
その道の研究をしている土猫さんには失礼かも知れないが、こちらでも花火について軽くネットで調べてみた。
花火は発射薬と呼ばれる火薬で花火玉を夜空に打ち上げる。そして花火玉に入っている割物という炸裂する火薬で、星と呼ばれる物が放物線状に飛び散る。星は引火すると様々な色合いに光り夜空に大輪の花を咲かせると言った具合だ。
現実世界では火薬は危険物だ。火気厳禁で気を抜けば大規模な事故に発展しかねないし、現代社会で様々な色合いを生み出す星の調合は近年まで難航したという
「おぉ、まさに花火にぴったりなアイテム達じゃないですか!」
自分が応接間の机の上においたアイテムを見て目を輝かせる土猫さん、彼女が言った通り、このファンタジーワールドでは正しく花火を作ってくれと言わんばかりのアイテムが存在していた。
特にパーライム鉱なんて花火玉の星に使うアイテムとして最適だだろう、これは幻想世界でも見たことがないファンタジーワールドからの新アイテムで、その性質が装備作製に適してないことからオークション市場で投げ売りされていた。
店を開くとなってから、珍しいアイテムがないか調べることが多くなったため、今まで見向きもしなかった用途不明のアイテムを多く見つけることが出来た。
その多くは幻想世界には存在しなかったものが多く、どうも実用的なアイテムより、道楽向けに用意されたであろうアイテムが多いあたり、運営の意図が汲み取れるのは勝手な思い込みだろうか
「はい、なので取り敢えずこれを持ち帰ってもらって来週、また進捗状況を聞かせてもらえればなって思っています。ただ土猫さん以外にも様々な人を支援して忙しいので、研究に詰まっていたらメールでも構いません」
土猫さんには一週間分の研究資金と今回用意したアイテムを渡す。申し訳無さそうな表情でこちらを見るが、個人的には面白い研究を見させてもらえるだけで嬉しい、勿論詐欺や持ち逃げなどの心配もあるが、そのときは自分の見る目がなかったと腹をくくっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます