第82話 街の支配権

 宝石飴の反響は、GAMENAVIと呼ばれる大手ゲームメディアを通じて広がった。


 それまで何一つとして現れなかった経験値上昇バフが付いた料理が彗星の如く現れ、一粒10万Gという料理としてはありえないほど高い金額設定でも次の日には紅玉、煉獄どちらとも完売した。


 宝石飴が販売されている店はフラウの街で最高峰のアイテム類が種類問わず売られている場所で、宝石飴ついでに他サーバーのプレイヤーから目にとまるアイテムも幾つか存在し、目論見はある程度あたったとも言える。


 現在宝石飴を作れるのはトウカさんのみで、製造のみならず研究との兼ね合いもあるので、週の初めに紅玉、煉獄各種50個ずつが販売される。


 販売時間が判明してから事前に列をなして並ぶプレイヤーも現れ、オークションに流して利益を得ようとするやからも存在するぐらいだ。


 転売ヤーと呼ばれるプレイヤーが判明すれば順次入店禁止の措置を取っている。これに関しては転売の件で問い合わせが多くなったので次の週からは通告していたので当然の措置だった。






「税収グラフの曲がり具合を眺めれるのなら、見上げすぎて首が痛くなりそうなほどの増益ですよ」


 時期は11月を過ぎ、秋も深まり肌寒くなる季節、そろそろ年末の気配が漂い始めた現実世界でも、ファンタジーワールドの世界は一定の季節なので特に変化は存在しない


 寒い場所なんて妖精大陸の北部にある雪の国ぐらいしか存在しないな、なんて思いつつも10月半ばから売り出された宝石飴の影響もあって、フラウの税収は想定されていた範囲を超えて、右肩上がりに上昇していることがわかった。


「特に地価ですね、全部のエリアが上昇していますが、共同市場から近い北地区はファンタジーワールドでもトップクラスに高いと思います」


 元々は土地代や維持費の安さから始まった新大陸の開発事業ではあるものの、オルディヴやサーディを始めとした一部の街ではバルバと以上に土地代が高騰している場所も存在し、フラウも今回の宝石飴の件でその名に連ねる事になった。


「反響はすごいですね、各クランから問い合わせが毎日のように届いています。中には脅迫めいたものもあるとか」


 現状唯一の経験値上昇アイテムである宝石飴の製造方法を知ろうと、フラウを拠点とする有力クランを中心に圧力をかけている動きがあるそうだ。


 宝石飴の入荷には自分が一手に引き受けているので、情報が漏れることは早々ないだろうが、中には脅すような形で情報請求を行うプレイヤーもいるらしい。


「勿論、それらのプレイヤーたちは片っ端から通報しているので少なくはなってきていますが、中小クランの中には良い条件で土地を売り出すところもあるそうです」


 フラウの土地の半分は路地裏の工房を始めとした街の発展に寄与したクランが抑えている。それ以外でも初期の頃からフラウの街に拠点を構えていたクランや個人のプレイヤーの中には、高騰した土地を売り出す動きも見受けられるという


 最初の発端は宝石飴ではあるものの、フラウという観光都市としての価値が元々存在し、他サーバーからの共同市場への出店も相次いだ結果、投機目的として土地を買う動きもあるそうだ。


「事実、森の雫や金竜槌といった大手生産クランも支店を構えています。彼らが問題を起こすわけではないですが問題は別にあります」


 金竜槌の名が呼ばれたとき、ピクリと動いたのは自分とナミザさんだった。不審がる人はいなかったようだが、まさかこのフラウの街でも彼らの名を聞くことになるとは思わなかった。


「急激な街の成長に伴い、行政の処理能力のキャパが超過しつつあります。なので専門のNPCを含めた人物を登用することが先決かと」


 フラウの街の有力クランのひとつであるクラン『うにそら★』のクラン長は路地裏の工房と同様に、街の財政を管理するクランの一つだ。


 実際に収支の書かれたグラフには先月の二倍強の収入が存在し、新規参入してきた他サーバーの商会からの手続きも多くなっている。


 どうも、他サーバーの街では利権が固められ、肩身の狭い思いをしている中小クランが新規開拓を目指してやってきているそうだ。


 彼らは他大手クランに比べれば影響力は小さいものの、数が集まればそれは大きなうねりとなる。事実、ここのところ二週間の売上だけ見てもフラウの街の収入はTOP3に入るだろう。


 ただ問題なのが、雇えるNPCの数が間に合っていないことだ。経済の拡大によって他クランもNPCを雇用し始めた結果、どうも人材不足が深刻化しているようで、街を管理するためのNPCが雇えない状況だ。


 自動販売というシステムが存在するが、やはり店に訪れた際に会話のできる人がいれば売上が良くなるのは間違い無いそうで、雇えるなら雇った方がいいというのが最近の風潮だ。


「それだけではなく、下手すれば他サーバーからやってきたクランに議決権すら取られかねません」


 街の行政を行う為に必要なのが管理者オーダー権限、街を運営していく上で必須のこの管理者オーダー権限というシステムは、陣取りゲームのように街の土地を多く所有しているクランに管理者権限が付与されるシステムた。


 筆頭クランがこの管理者オーダー権限を有し、上位5クランまでが公共計画を発案できる行政権を取得し、上位10クランまでには発案された議題を合否する為の議決権が付与される。議決ポイントは管理者クランを2ポイントとした合計11ポイントの多数決だ。


 管理者や行政権を持つクランは、街の道路整備といった公共事業の発案が出来るようになり、上位10クランによって多数決で案の合否が決まるといった具合だ。


 この管理者や行政権を取得する為に必要な、土地によるポイントシステムは、全てが等しくポイントが振られている訳ではなく、街の心臓部である『シティクリスタル』の周辺等、港や大通りといった街の重要施設周辺に多く管理ポイントが割り振られる。


 他にも活気のある土地、例えば共同市場といった場所、金銭やアイテムの取引が発生した際にポイントが上昇し、土地の価値が生まれる。


 なので管理者オーダー権限や上位5ギルドに付与される行政権を得たい場合はシティクリスタル周辺や、共同市場といった人が多く行き交う場所を抑えることが必須となってくる。


「まさか、フラウの街に新たな市場を作るとは思いもしませんでした」


 不覚、といった様子で話すのはこの街の行政権を持ったクランのメンバー、彼が言うようにフラウの街には現在、北地区の共同市場の他にも東西に同じような市場が開かれていた。


「11月の発表では9位に外部のクランが参入しています。要所は押さえているので早々行政権まで取られはしないでしょうが・・・・・・」


 未だ半月とはいえ、一から作った街の管理を他のサーバーからやってきたプレイヤーに取られるのは納得いかない、発端はトウカさんから輸入した宝石飴のようだが、宝石飴以上に事が過熱しているような気がした。


 ただ東地区、西地区に新たに登場した市場は我が物顔で市場を開いているのではなく、土地を購入して傘下のクランに貸し与えているような雰囲気だ。


 これで街の景観を損なうようなものであれば、手の施しようがあったのだが、彼らはフラウの街並みを崩さず。むしろ活気が出た分より良くなった感じさえあった。


「彼らが法に則っている以上、強制的な処罰は他のプレイヤーから多大な反感を買います。なので今ここにいるメンバーが所有する北地区と南地区をより良くすればいいのです。すれば健全な発展が見込めると思います」


 それに関しては自分も同意する。彼らが正攻法で街を乗っ取ろうとするならこちらも正面から立ち向かうだけだ。

 単純により良く街を発展させる循環ができれば、それはそれでプラスだし活気があふれる。






「三陸サンゴの首飾りです!お土産にいかがですかー!」


 北地区の共同市場は土地こそ路地裏の工房を始めとしたメンバーが所有はしているものの、価格は抑えられ特に賃貸さえ払えば特に条件なく貸し出される。


 これが他の街であれば、連盟に加入する関係クランが優先されたりするそうだが、フラウの街ではそういった動きはない

 元々、フラウの街を管理する上位10クランが生産系、商人系クランではなく、冒険を第一とするクランが多いのが大きな理由なのかもしれない


 生産系や商人系クランはその特性上、資産は莫大なものになるし、マンパワーだって優れている。捕獲欄に対する情報網や影響力だって計り知れないはずだ。


 なので、このフラウの街を除いた他新大陸のプレイヤー街はどこかしら生産・商人系クランが管理者になっており、その系列クランが市場を独占するという悪い流れがあるそうだ。


 だからこそ、真の自由を求めて今までファンタジーワールドをプレイしてきた中小、個人の商人プレイヤーがフラウへ訪れ、独自の経済網を結成した。


「なんか、大企業VS中小企業連合みたいですね」

「確かに、どうも運営はこの手の問題に介入しないから余計にクランの力が必要になってくる」


 こういった利益の独占や場所の専有といった行為は他のゲームではご法度とされることが多いそうだ。ただこのファンタジーワールドに置いてはそれらの行為を運営は是としているフシがあり、非難はあれど改善する兆しはない


「バグや文章ミスは爆速で修正するあたり、変わらんだろうな」


 事実、魔法や武技のバランス調整やバグ改善等は瞬時に行う辺り、はっきりとは言わないものの、よほどのことが無い限りは運営は動かないという意思表示なのかもしれない


「・・・・・・でもこんな一等地、自分が使ってもいいんですかね?」

「ナミザさんも言ってるし、いいだろう・・・・・・どうせ余っている土地だしね」


 正宗さんとやってきたのは北地区でも露店街と商店街の境目にあるポッカリと空いた土地


「実際、宝石飴の入荷を始めとした珍しいものはペガサスしか出来ないからな、いいんじゃないか?君が使わなければ誰も使わないし」


 この場所は路地裏の工房が所有する土地の一部で、この形態の違う露店街と商店街の境目にあることから少し扱いづらい土地なのだ。


 ただ立地はよく、共同市場の表通りに面し、どうせなら試しに使ってみれば?というナミザさんから酷く軽いノリで使わせてもらうことになった。


 露店街と商店街を区切る少し大きい水路の商店街側、二階建ての木造建築は自分が特に指示を出さなかったため、自由に作れると奮発した建築プレイヤーが頑張った結果、妙に出来の良い立派な建物になった。

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