第80話 鉄道と街の特産品
第7サーバーの新大陸に唯一存在する街、海が面した荒野の大地にポツンと建つ名の無い街は様々な意見が出された結果『フラウ』という名前に決定した。
噴水が設置された広場を中心として東西南北に大通りが広がる。そこには綺麗な石畳が敷かれており、少しずつではあるものの通りに面した建物も建ち始めている。
新大陸中心部へ向かう街の北側の方面にはプレイヤーが主体となる共同市場が開設され、その近くには路地裏の工房のクラン拠点の予定地も存在する。
どうもマイペースな人たちが残ったお陰で、フラウの街は効率や機能面を度外視にした発展をし続けている。ある日は街の景観を良くするため街路樹を設置したり、花壇を置いたり、または外国の観光番組に影響されて水路を設置しようなんて議題も上がったぐらいだ。
その間に正宗さんがリアルで税理士をやっているという衝撃の事実が判明し、街の税務関係の仕事を回されるという悲劇が生まれた。ただ一人で引き受けている訳ではなく他クランの持ち回りと言う形にはなっていたが。
正宗さんはどこか寂しそうな顔で、ファンタジーワールドの世界では本業である刀鍛冶以上に報酬の良いファンタジーワールドの税理士の仕事にどこか遠い目をしていたが、同じく社畜仲間としてリーダーのナミザさんもトラウマがフラッシュバックしたのか、死んだような目を浮かべていたのは記憶に新しい
「公文書作成とかもやるんですね……いよいよ現実のお役所仕事になってきました」
「まぁファンタジーワールドの機能でExcelとか使えるようになったのが大きいね、じゃなかったらこんな事は到底無理だよ」
現実世界に比べたらフラウの街で置けるお役所仕事は少ない、元々規模も小さく、各クランごとの自治権も大きいためだ。
公共市場の利用料や港の使用料と言った物でも結構な仕事量と聞くので、その手の学が無い自分にとってはゲームの世界でも態々やってくれる人たちに頭が下がる思いだ。
「NPCに管理を任せたり出来ないんですかね?」
「さぁ?」
ファンタジーワールドの世界ならその手の面倒くさい手続きはNPCに任せられないかと思ったが、流石に幻想世界でこのような事は無かったので未知数な部分が多い
態々ゲーム内でもお仕事をして貰っているので集められた税の一部から報酬と言う形で出されては居るものの、NPCが出来るのであればそれに越したことは無いのだ。
幻想世界に置いて、第二大陸はNPCが設置した拠点にプレイヤーが余分な資材を投入して発展させていくというシステムだった。
街の成長システムと若干違うこの発展部分は、設備の拡充等その発展具合が目に見えて分かると言う所だろうか
特筆すべき点は補給拠点の設置が可能になったりするところだろう、第二大陸の人々が殆どが戦争によって絶滅するというバックストーリーのせいもあってか、その凄惨な戦火の痕は広大に広がる荒野フィールドでも各所で見ることが出来る。
朽ちた建造物からかつて戦争で使われたであろう戦闘用ロボットなども敵モンスターとして出現する。数こそ多くないものの荒地フィールドに出現するモンスターは総じて巨大で一体一体が強い
攻略法としては第二大陸の南側に位置するフラウの街からそのまま北西へ、大陸を横断する形になる長大な遠征の果てにコビ城と言う場所があり、そこに存在する巨大な制御装置を破壊することで第三大陸へ進出することが出来る。
ファンタジーワールドでも多少の変化はあるものの、ある程度の場所は分かるので俺は一直線に目的地へたどり着けると思われたがそうもいかない様子だった。
「補給拠点が無いと厳しいね、幸いにも襲撃してくるモンスターが少ないから防衛施設は無視できるけど空腹システムが響いてくる」
現在は11月を目前にした頃、フラウの街が完成してからある程度落ち着いた状況でフラウの街の有権者達が集まって現在の状況を話し合っていた。
共同市場に設置された建物、特に名前は無いのでいつの間にか皆から公民館と呼ばれるどこか現実味のある名前のその建物はコンクリートのような鼠色の石材を用いて建てられた角ばった建物だ。
その見た目から、どこか砂漠地帯の国に建てられていそうだなーなんて漠然としたイメージを抱きつつ、そこに集まるのは総勢20名に及ぶ街を仕切るクランの幹部プレイヤー達が集められた。そして巨大な円卓の上にはフラウの美しい街並みが撮影された上空写真、そしてその周辺には全体が茶色く描かれている。
「思っていた以上に自然が少ない、動植物は無く現地調達で長期遠征……と言うのは不可能に近い、なので街の食糧がカギになってくるわけだが」
「補給拠点を作るって言っても厳しいですよ?物資の輸送にも問題がありますし、そこを管理する人手もありません……他のサーバーだとクラン単位で役割が決められているそうですが」
うーむ、と一同唸るように目先の問題に頭を悩ませる。
自分が真っ先に目的地であるコビの古城へ赴こうとすればそこには大陸を横断するという長い道のりが存在する。
その長期遠征がファンタジーワールドでは脅威となっていた。
先日実装された空腹システム、どうも最近では料理のバフ効果について騒いでいたので忘れがちにはなってしまっているが、この空腹システムによって活動域は制限された。
ただ第一大陸は自然豊かで果実を含めた食料が多く、万が一食料が少なくても緊急的に現地で調達が出来ることが判明した。なので第一大陸に限って言えば空腹システムはそこまで驚異になることは無い
逆に空腹システムが最大の難所となるのはそれら現地調達が行えない第二大陸だろう、現状でもフラウの街近辺に農地開拓は進んでいるとはいえ、それ以外は草木一本も生えていない荒野が広がる。出現するモンスターも古代兵器たちとなればモンスターを狩って食材にする。なんてことも不可能だ。
「産業革命以降、物資の大量輸送は鉄道と相場が決まっている。フラウにも誘致してみては?」
「無理だな、内燃機関の研究は進んでいるみたいだが、年内に試験運用できるかどうか……しかもオルディヴを始めとした他の街が先んじて投資を行っている現状横やりは不可能だろう」
「保存食、と言う形である程度の遠征距離は伸びますが、それでも限度があります。なので鉄道の様な輸送能力は必須です」
フラウの特長はその美しい街並みだ。港も街の雰囲気に合ったものが建設され、続々と新大陸へやってくるプレイヤー達からの評判も良い
逆に言えば、景観を重視した結果、効率が良いとはとてもじゃないが言えない、オルディヴやサーディをはじめとした他サーバーの街は雑多な様相を呈しているものの、考え抜かれた効率と機能が搭載され、冒険欲の高いプレイヤーからは高評価だ。
それらのプレイヤーは総じて資金力が高く、ゲーム内通貨の流動性も良い、つまりは街からすれば太客と呼べる存在でそのまま街の力となる。
そこには数々の権力闘争が繰り広げられ手は居るものの、街の資金を横領すればあらゆる派閥と敵対し、街自体を利用できなくなるのでその手の問題は意外にも起きていないとの事
オルディヴは既に街の発展にある程度の見切りをつけ、先ほど議題に上がったような鉄道を開通させるための前提技術である内燃機関の研究に莫大な投資を行っているという
その見返りとして、それら技術を搭載した試験鉄道を早期に着手する権利などを持ち、すでに補給拠点の予定地には人力で建造に着手しているとさえ言われている。
シュタイナー達第1サーバーの街『オルディヴ』、ネネさんたち第13サーバーの街『サーディ』が抜きん出ている状況だが、他のサーバーもある程度の街の発展に見切りが付いている様子だった。
「フラウはね……人もお金も無いから」
はぁ、とまるでタイミングを合わせたかのように全員が一緒にため息をついた。
フラウの税収は一クランとしてみれば膨大な物であるものの、他の街と比べたら一番栄えているオルディヴの半分もないと試算されている。
そして人口も少なく、街に設置されている共同市場も流動性が低い、ここへやってきたプレイヤー達の評判は良いが中には品質の良いアイテムたちが多く安く売られている他の街へ移動してしまうプレイヤーもいる。
「フラウだけの特産品ねぇ……まるで寂れた田舎の悩み事みたいだわ」
各クランの代表者たちが座る円卓の議長席に座っていたナミザさんがそう呟いた。
会議は踊る,されど進まずという言葉があるように、様々な提案はあったものの根本的な解決に至る方法は全くとして見つからなかった。
一時間弱にも及び会議が開かれた物の、このまま話しても意味がないとの事で各自解決法を模索して次回の議題で発表—————つまりは問題の先送りがなされた。
がやがやと多くのプレイヤーが喋りながら会議室の部屋から退出する。そして残ったのは議長であるナミザさんと自分だけの二人になった。
「特産品……なら少しアテがあるかもしれません」
ゲームをやる人間、それもヘビーユーザーと言えるほどのゲーマーは実利を求める傾向にある。それは新大陸へ来てからの2週間で分かったし、その理由も納得できるものだった。
「でも大丈夫?特産品って言っても、アイテム一つだけでシュタイナーくんの所とかに勝てるとは思えないけど……」
「凄いですよ、僕個人的には革命を起こすアイテムだと思っています」
そのアイテムとは、この新大陸へ来る前に色々と見学させて貰ったトウカの宝石飴と悪魔飴の事だ。
完成品である宝石飴・
効果時間は短いので運用方法に難があるが、それらを創意工夫で解決できれば非常に有用なアイテムとなるだろう
「……ペガサス君がそう言うってことは余程なんだよね?大丈夫?あまり大きすぎても困るけど」
ジトリと不信を抱くような目線で見てくるナミザさん、彼女にとってみれば自分が持ってくる案件は何かしら面倒事が多い類なのはこれまでの歴史が物語っている。
ジリっと地面に足を擦り、距離を測って疑う彼女はどこかで内心面白がってもいそうだ。
「そうですね、特大クラスなのは間違いないです。その為、市場に流せなかったんですが……匿名で販売すればその知り合いも安全でしょうし、フラウの街も有名になってWINWINの関係かなって」
バルバトの食糧危機で有耶無耶になってしまっていたが、今でもトウカさんとのやり取りは続いている。最初は販売する当てもなく項垂れていた彼女だったが、その後も自分が支援を続けると申し出たらすぐに立ち直っていた。
……原材料を仕入れることが出来るのは自分しかいないので、どの道支援は続ける予定だったのだが、目先の心配が無くなったトウカさんは今日も楽しそうに研究を続けていた。
こういう物って、結構名声だったりを欲しがったりするもんじゃないのだろうか?
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