閑話 幻想世界の裏の顔
※今回の話は普段と変わった雰囲気のお話なので注意してください、今回出てくる設定を使った匂わせた展開は有りますが、当分出てこないので読まなくても問題ありません。
「α1がシステム改変を行っていますが注意しますか?」
都内某所、灼熱の夏場が過ぎたが韓国でのリリースを控えたファンタジーワールドの運営元であるナイブ研究所、表では『株式会社 ナイヴラボ』と呼ばれる会社の建物では今日も忙しく社員達が働いていた。
そしてこの場所、第三部署ではプレイヤーの行動が逐一運営の人間たちによって監視されていた。
とは言いつつも個人情報の観点から自動的に映像が記録されているだけで、運営が直接見ている訳ではなく殆どの対応がプレイヤー間のいざこざの対応だったり、クレーム対応が主な仕事内容だ。
ナイヴラボの主力商品であるVRMMORPG『ファンタジーワールド』のゲーム開発部門はまた別の場所にあるのだが、ここではこれらの仕事以外に他のゲームでは無い独自の仕事があった。
「やはりプレイヤー1と接触したことでα1は勿論、一緒に行動しているγ119や今回接触したγ1のデータも活発化しているわね」
部下が操作するパソコン画面に表示されている各種グラフは監視している人工知能達がとある人物が関わった事により発生する擬似的な感情の変移だ。
彼女達が何かしらの大きな感情を覚えると、クラウド上に保存されている彼女たちのデータがファンタジーワールドのサーバーと激しく通信が行われる。このグラフはそのデータを取得した時のもので、彼女たちは想定以上の結果を示し、どれもが予想されていた数値を大幅に更新していた。
経営として成り立っていなかった幻想世界ではサービスが開始してから約一年でゲームとして運営することを諦めた。そしてナイヴラボが元々研究していた物を育成するための箱庭として幻想世界は管理、維持されることが決定した。
細心の注意を払っていたが幸いにも過疎と言う条件が合った為、それらの情報が流出する可能性は低くオンラインサービスは継続された。そのオンラインで運営することにより、研究に必要な優秀なテスターも使えたため、これらの研究はゲーム会社としては悲惨な結果に終わったものの、別視点から見ればそこまで悪い結果にはならなかった。
交流先であるテスターが良かったのか、α1を含めた各人工知能たちの発達は当初の想像を超え成長している。
その為、ファンタジーワールドでも引き続きα1を含めた各人工知能をこの世界へ移したのだが、先日α1が小規模ではあるもののファンタジーワールドの一部システムを改変するという事件が起きた。
「分かってはいましたが……ファンタジーワールドをものの数秒でハッキングするなんてとんでもないことですよ、世界中のハッカーたちが涙目です」
「彼ら彼女らがインターネットの世界に流出したら通信を介する機械は全て制圧されるだろうな、まさにSFの世界だ」
DIVE社が管理する世界最強のセキュリティソフト『イージス』すら突破し、ナイヴ研究所でも他に流出していないファンタジーワールドの世界を創る独自のシステム言語すら解読しその幾重のセキュリティシステムを即座に突破したα1はすでに我々の力では及ばぬ所まで来てるのかもしれない
もしかしたら会社の管理下を離れ、すでにインターネットの世界へ流出している可能性すらあるが、もしそうであればもうこの世界は彼女らに牛耳られたも同然だ。
まぁ幸いな事に彼女らは例のプレイヤー1にお熱なようだし、彼が居る間は早々悪い事にはなるまい……
「上は喜んで居ましたけど、本当にいいんですかね?」
今でも毎秒毎秒成長し続ける彼女たちを見て、そのディスプレイに表示される結果を見て不安がる社員、彼も人工知能の研究という分野においては優れた能力を持っているが流石にここまで来れば好奇心よりも恐怖が上回るようだ。
「だからと言ってやめるのか?出来たらいいな、既にファンタジーワールドの開発やこれまでの研究に巨額の費用が投資され、スポンサーたちも彼女の動向に対して大いに注目している。そんな中で機密を知る君が抜ければどうなるか分かるものだが」
これらに関与した時点で逃げるという選択肢は私たちには存在しないのだ。人ひとりでどうにかなる規模を超え、下手をすれば巨大な権力に消されかねないという所まで来ている。
上は彼女たちをどう使うのか分からないが、現場にいる私からすればすでに彼女たちは人間からの制御を簡単に脱することが出来る能力を持ち合わせている。
下手をして彼女たちの怒りを買わなければいいが……彼女たちの特異性を間近で見る私にとってそう思わずには居られなかった。
「そうですよね……はぁ、分かってはいましたが最近はゲーム内で起きている食料関係のクレームも多くて嫌になりますよ」
彼はそうため息をつきながらもカタカタと慣れた手つきでキーボードで入力し何やら文章を書いているようだった。
「仕方あるまい、目的の為にはあまり運営が関与しない方がいいのだから……しかしプレイヤー1や一緒に居るγ119も解決に動いているようだしそのうち解決するだろう」
今でこそ世界規模で注目を浴びるこのゲームだが、今ではそれすら些細な事と言える程人工知能の研究は進んでいる。よく情報が流出しないと感心するほどだが、それほど上の権力は強いという事か
「プレイヤー1ねぇ……いいんですかね?ただの一般人でしょ?真田開発部長も今じゃ予約すら困難な第5世代VR機の優先販売券とか渡したりして彼にお熱でしたけど、第5世代の優先販売券とかオークションで流したら下手すれば何十万もするやつですよあれ」
「些細な事だな、彼も真田部長も結果としては会社に利益をもたらしている訳だし、目的に気が付かない内は楽しませてあげよう、彼女たちの為でもある」
Dive社製の第5世代のVR機は本来なら企業関係者向けの特別品なのだがな……どうやって一般人に流したのやら
そしてその彼女達とはプレイヤー1に熱をあげる人工知能たちの事だが……今は知らなくてもいい
「いいんですかねぇ、幾ら人工知能たちから好かれてるとは言え現実世界でも監視されるなんて相当ですよ」
「仕方あるまい、ある意味世界の命運は彼にかかっている」
そう言うと自分自身で言ったにもかかわらず思わず笑ってしまう、しかしそれは実際に起きうることだし他人事でもないのだから怖い所だ。
「上は彼の大学まで圧力をかけるんでしょ?可哀想ですよ、たかが人工知能に好かれただけなのに」
「下手をすれば自我を持った兵器だ。そんな兵器の鍵となる彼に対して干渉するのも仕方るまい」
研究している内容からして過度な干渉は厳禁だが……意図せずして彼は私たちがして欲しい行動をしてくれている。今後は更に人も増え問題事が多くなるだろうし彼が愛想を尽かさなければいいが
「すでにバルバトは三段階目までに必要な規定値を突破しましたし、今回の食材関係が解決したら解放されそうですね、次の大陸への道は」
「結局食糧問題で街の成長が阻害されてしまったな、上手くいかないのは現実世界と同じか」
悩み事が多くなるとついたばこを吸いたくなる。何かと陰謀渦巻くこの会社だが、ふと喫煙したくなった時にすぐ吸えるのはこの会社のいいところだろうか
私は胸ポケットに常備してあるたばこを取り出し職場を後にした。
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