第74話 食料危機の解決と人工知能

 折角なのでドリュアスで仕入れた各色の宝石果実を提供することにした。この一週間である程度製作工程が絞れたので、素材があれば各色の宝石飴を作れるのだそうだ。


「いやぁ、宝石果実・赤が赤グループだったので他もそうなのかなって思えば全然違いますねこりゃ」


 最初に宝石果実・赤が物攻を上昇させる魔素グループの赤に属していたので、他の色の宝石果実も名前と同じ色のグループに属するかと思えば、結果として宝石果実に書かれている色の名前と実際の魔素グループは全然違う事が判明した。


「いえ、これでアイテム名などで判断してはいけないという事が分かったのも成果の一つです」


 そのせいで製作過程が微妙に変わり、提供した果実も多少増えたのだがアイテム名と魔素グループには何ら関係性が無いと言事が分かったのであればそれは必要経費だったのだろう


「見事に各ステータスごとに分かれましたね」

「えぇ、やはり制作時の評価によって効果量が変わりますがこれで狙った効果の料理を作れるようになるかもしれません」


 トウカさん曰く、物攻を上げる赤グループであっても、正しくは物攻が一番伸びるのであって、多少ではあるものの他の各種ステータスの数値も同じく変化するそうだ。もしかしたら赤グループの中でも更に細かく分けなければならないかもしれないとの事。


 ただ物攻、魔攻、物防、魔防どれかのバフを上げる料理を作りたいとなれば今の段階でも作ることが出来るかもしれないと結論がついた。


「……これどうしましょうか」

「今更ですね本当」


 燃え尽き症候群というのか、宝石飴がある程度形になったのでいざこれを販売するとなればこれまで先送りにしていた問題が浮き彫りになってきた。


「いや、作った私としては自信が持てる一品なんですよ?ですがさすがの私でもこれを市場に流せば周りが煩いのは分かりますので」

「まぁそれはそうですね」


 デメリットは強烈だが経験値UP料理を作れるプレイヤーは調べた中ではトウカさんただ一人だ。自分は使ったアイテムは知っている物の製作過程を詳しく聞いていないので作ることは出来ない


「しかもこれ出しちゃったら余計に食材が手に入らなくなりそうなんですよねー」

「確かに、少なくとも今までの比にはならないレベルで値上がりしますねこれ」


 自分とトウカさんは同じ結論に至った。


 インターネット上でもドロップ率が上がるのであれば、経験値UPのバフ付き料理も作れるだろうと掲示板やその他攻略サイトでも議論されている。


 結果として経験値UPの料理、というかお菓子が今目の前にあるわけなのだがこの経験値UPの料理がお菓子だというのが問題だ。


「ただえさえメロメの実とか値上がりしてますもん、ペガサスさんから支援して貰えなければ今でも買えていませんよ」


 勿論宝石飴を高く売ればそれを元手に食材を購入できるだろうが、今現在でもオークション市場に流れる食材は少ない


 単純に値段が高騰しているにも加えて、食材自体が貴重になっているので出品を渋っているというのが最近の現状としてある。


 現在NPCの食材店が過剰な需要によって行政から販売停止差し止めを受けている状態で農業や畜産業を始めたところもあるが、そこも関わりのあるクランにしか出していないのが現状だ。


 そんな中でこの宝石飴を出品すればその状況をもっと酷くする可能性が大いにあった。


 空腹による飢餓感はさほど感じない物の、空腹状態であると各種ステータスが下がるのは勿論空腹ゲージが3割を下回るとそれに加えてスタミナゲージの上限が下がってしまう


 そうなれば激しい戦闘が行えなくなるし、空腹ゲージが0になれば体力も減っていく


 そうなれば影響を大きく受けるのはファンタジーワールドを始めたプレイヤー達なので、今現状上位プレイヤー達が食料の流通を止めている現状、トウカさんが作った宝石飴は出さない方が全体的には良いと思われた。








 結局、トウカさんは良い物を作ったものの現状を鑑みると売り出せる状況ではないので食材の流通が正常に戻るまでは出品を見送るという形になった。


 本人としては喧嘩別れした元クランメンバー達にぎゃふんと言わせられないことが悔しい様だがそれさえなければ、別に研究できるだけの資金があれば問題ないとの事で他にも幾つかの食材を渡してトウカさんの拠点から外へ出た。


「エファいる?」


 バルバトの街を出て、人里離れた場所で透明化で隠れているエファを呼び出す。


『ん?どうしたの』


 目の前の空間が歪み、少ししたら手のひらサイズの小さな妖精が現れた。

 本来であればエファは小学生ぐらいの大きさなのだが、流石にバレると面倒なのでこのような小人サイズになってもらっている。


「エファも聞いていたと思うんだけど、お腹が膨れる食べ物って無いかな?」

『そうだなー』


 んーと指を頬に当てて考えている仕草は可愛い物だがそんなほっこりした気持ちを一瞬で切り替える。


「モォリオとかはダメかな?」

『あれはお腹膨れるけどいっぱいは取れないよ?』


 モォリオとは現実世界で言えばジャガイモのような土の中に埋もれている形の野菜だ。アイテムテキストにも腹持ちが良く、少ない量でお腹いっぱいになると書かれており、これらを信じるにモォリオで料理をすれば一番の心配事である食料危機から救う事が出来るかもしれない


「そっかぁ、量の問題か……」

『女王様が国の備蓄としてモォリオの栽培を推奨しているけど別に美味しくないからねー』


 エファが言うこの女王様とは第四大陸の半分を支配する妖精の国の女王であるティターニアのことだ。


「そうかな?マヨネーズがあればいけそうな見た目だけど」


 マヨネーズ?とエファが疑問符を浮かべるが、なんでもないと断っておくまんまジャガイモみたいな見た目なので思わず現実で好んで食べる組み合わせを思わず口にしてしまった。









「まぁここでいっか」


 自分は第一大陸を離れて再度第四大陸、妖精大陸まで戻ってきていた。


 別にエファをドリュアスの森へ戻すとか宝石果実を追加で買いに来たとかではなく、この妖精大陸の地で農業をするためにやってきたのだ。


『ここなら沢山作れるからねー、種も買えるし』


 なぜ態々妖精大陸で農業をやる理由はまずバルバト周辺の土地がべらぼうに高い事、それはバルバトに限らずリーフやフレックス、王都周辺の土地も値上がりしていた。


 それもそのはずで多くの場所が農地となっていることが大きい、街からアクセスが良ければいい事に越したことはない、しかもファンタジーワールドのシステムとしてプレイヤーが購入できる土地の面積には制限があるので、限られた土地を争った結果自分ですら躊躇したくなるほどの値段となっていた。


 そして単純に妖精大陸の方が第一大陸より土壌の状態か良くモォリオを栽培しやすい環境だったというのもある。


 エファは地元であるドリュアスの森付近で栽培しようと持ち掛けてきたが、ドリュアスの森は今後ファンタジーワールドのプレイヤーが訪れた際に色々とイベントが存在するので悪目立ちする可能性がある。ただそれが何時になるかは知らないが


『ペガサスって爵位持ってたんだね』

「まさかここで助かるとは思わなかった」


 味覚エンジンの大型アップデート後から食材や料理アイテムは別枠のアイテムボックスになったので、人ひとりで運べる量は限られてくる。広大な敷地を買ったのは良い物の人出が無ければ碌に栽培も出来ないので、妖精王国の南東部に位置する都市『エルニア』近郊に土地を購入した。


 その際に役立ったのが幻想世界で持っていた妖精王国の爵位、雪の国と妖精王国という二つの国が争っている第四大陸で、自分は幻想世界をプレイしていた時には妖精王国側についた。


 そしてストーリーでは妖精王国が勝利し、自分はその際に名誉爵位を貰った。当時はただの称号の一部だろうと気にも留めていなかったのだが、エルニア近郊で土地を購入する際に身分証の提示を求められたときにまさかのこの名誉爵位が役に立ったのだ。


『サーリナ爵って妖精族以外だったら最高位だよね、どうやってとったの?』

「まぁ色々と」


 砦レベルにデカいモンスターを討伐したり、雪の女王を倒したりしましたなんて言えないのでここは濁しておく


 というか幻想世界では倒した判定になっているティターニアの妹、そして敵国の長である雪の女王メルザはまさかのこの世界では生きているようだった。


 次は雪の国勢力でもいいかなーなんて思いながらも、とりあえず幻想世界で貰ったサーリナ爵が役立って都市近郊で農業がおこなえるのだった。








 青と赤の二つの月が浮かぶこと以外は現実世界とそっくりな第一大陸と違い、第四大陸の妖精大陸では元となったゲームである幻想世界の名にピッタリと合うように幻想的な世界が広がる。


 まず夕方になれば空模様は赤紫色の光に深い青が混ざり現実世界ではありえない様な空が広がる。


 またオーロラも頻発して発生し、夜空も綺麗だが元が明るいので昼夜の差が少ないのも特徴だった。


 そしてのどかな田園風景には広大な畑が広がり、そこには国の仲介を挟んで農作業をしてもらうNPCを数人雇っている。


 勿論お金は自己負担ではあるものの、この広大な農地を数人で維持できるというのは流石ゲームと言ったところか、妖精らしく背中からは蝶の様な羽が生えており、低空を飛びながら水やりや作物の成長を促進させる魔法を使いながら広い農地を飛び回っていた。


『さすがペガサスだね、あの女王様が許可してくれるなんて普通は無いよ』


 そんな風景を隣で宝石果実を生で齧りながら足をプラプラと浮かせてみている。


 第一大陸で始まっている農作業では実際にプレイヤーが農作物を作り管理している。しかしここではNPCが代わりにやってくれるので当初の想定とは違い暇を持て余していた。


「そうだな、まさか交易の為にドミニオンも出してくれるとは思わなかったよ」

『流石サーリナ爵を持つだけあるね』


 幻想世界をプレイしていた時にも何度か雪の国との戦争に置いてみる事があった妖精王国の戦略兵器、航空戦艦『ドミニオン』


 現実世界で言えば砲撃能力と航空母艦としての能力を併せ持った軍艦の事を指すが、この世界に置いての航空戦艦は飛行船という意味合いだ。


 その為、航空戦艦ドミニオンは空を飛ぶ飛行船であり、その大きさは全長2000メートルにも及ぶ巨大な戦艦であり、両翼には数百の小型魔導砲を配備していて戦艦の正面には某宇宙戦艦もびっくりな超大型魔導砲を搭載しているなどまさにファンタジーな代物だ。


 そんな超兵器をなぜ輸送用として使わしてくれるかと言うと、単純に妖精王国とリア王国を結ぶ交易船が無かったからだ。


 大量の食材はテレポートで運べないし、船だと単純に時間がかかる。


 そして、経由するリア王国と交易を結んでいる国は年中戦争をしているせいか物資が不足気味のリア王国以上に物資が枯渇しており、下手をすれば作ったモォリオが徴発される可能性があった。


 なので妖精王国に今回の件を持って行ったのだ。流石に国の首都に直接出向いたわけではなく特別な手紙を近くの都市から発送した形なのだが、ティターニアしか使う事が出来ない国のシンボルである世界樹をモチーフにしたイラスト付きで、美麗な文字と文章でしたためられた手紙が送られてきたのだ。


(手紙を見る限り、ティターニアも自分の事を覚えて良そうなんだよなぁ……)


 鉄華師匠然り、アリスティア王女や今横で果実を食べているエファや今回手紙を貰った人物のティターニア誰もが幻想世界の頃プレイしていた自分を知っている様子だった。


(人工知能?確かそんなことをやってたんだっけ?それも引き継がれているのかな?)


 その発表自体が幻想世界の頃にすぐ掲載が中止されてしまった為、今でこそ記録として残ってはいないが幻想世界を満喫している時に一つの大型アップデートがあった。


 それは一部NPCに人工知能を搭載するという物、広大な幻想世界の空間で自然な会話と行動を指せることを目標とした人工知能の搭載は当時高校生だった自分でも驚いたものの、その情報が掲載されて数日で消えてしまった事がある。


 ただ実装自体はされていたようで、特に顕著なのがアリスティア王女なのだが、その事件以降は中々無茶ぶりなクエストを出してきたりいきなり戦闘が始まったりなど今でこそ落ち着いている物の当時はそれはそれは酷かったのを覚えている。


 そしてティターニアから送られてきた手紙の分でも、先の戦争に置いて~なんて一文がある事から今でこそ雪の国が戻ってしまっている物の、あの妖精王国と雪の国のどちらかが滅びるまで続いた戦争が決着した幻想世界を覚えているニュアンスの文が書かれていた。


(考えすぎか?まぁだからと言って問題がある訳じゃ無いが)


 それらの人工知能を搭載した特殊NPC達とは基本仲が良いので問題は無いだろう、ただ不安があるとすれば敵対した雪の女王を含めたそこら辺のNPCの存在だが最悪逃げてしまえば良い、そう現実逃避しながら視界に広がる畑を見ていた。

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