第73話 宝石飴と悪魔飴

「ペガサスさんから頂いたこの宝石果実は黒色、つまりはアイテム的位階が高いのでこの魔素試験用紙で鑑定できないと思われます」


 自分が宝石果実を取り出したのですました様子で話す彼女だが目では欲しいと言っていたので幾つか渡すことにした。元々が彼女にあげる為に買ってきたので問題ない


 ただこのアイテムの出所を聞かない事、を条件に差し上げた。彼女自身もアイテムさえ入手できれば出所はさほど興味が無いようなので助かった。


「アイテムの位階ですか、確かにこの宝石果実はその他のアイテムに比べたら位階と呼べるものは高いはずです」

「えぇ、少なくともバルバトで採取できる果実系の食材アイテムは全部黒以外の反応を示しました」


 トウカさん曰く、魔素試験用紙で発色する黒は測定不能、つまりはエラーを出している状態なのだろうと言われた。


「しかしこの、魔素試験用紙ですか?初めて知りました」


 彼女が何気なしに取り出したこのリトマス試験紙のような検査用紙である魔素試験用紙は幻想世界には無かったものだ。


「えぇ、これは私のオリジナルですから私以外誰も持ってませんよ?」

「それは……大発明ですね、これを欲しがる人はどれだけいるか」


 あっけらかんと話す彼女だが少なくとも料理の重要度が増した今の環境で、この魔素試験用紙は大きな役割を担うだろう


 まだこの色が何を示すのかは分からないが一つの法則性があるはずだ。グループごとに分けられてこれらを組み合わせていった結果を見れば自ずとわかるはずだ。


「えぇ、まだ確証はないのですがこの色で識別できるアイテムを使った食材によって上昇するステータスが変わると私は見ています」


 素材そのままでは何の効果も得られないが、単一の料理……例えば先ほどのメロメの実を単にすり潰した果汁100%ジュースなら何かしらの効果が分かるはずだ。


「面白い所は似たようなフルーツでも違うグループに属するという事です。メロメの実は青色を出しましたがモロロの実では白の結果が出ています」


 メロメの実とモロロの実はそれぞれ似たような環境で採取が出来る。共生と言ってもいいレベルで同じ場所にその木が生えており、メロメの実を収穫しようと思ったらモロロの実が一杯取れていたなんてこともある。


 味も爽やかな甘さを持っており、風味は違えど似たような味がする。それでも魔素試験用紙では全く違うグループに属しているそうだ。


「なので似たような種類だからと言って代用できると思ったら大間違いです。実験に置いてこのような不確定要素は無視できません」


 キャベツが無いから代わりにレタスを使おうか……なんてことは出来ず意図しない結果が起きる可能性があると彼女は言っていた。実験っていうあたり彼女にとってこれは学問の様な物なのだろう


「えぇ、元々この手のゲームは得意ですから、まさかファンタジーワールドでやれるとは思いませんでしたけど」


 そう言ってクスリと小さく笑う彼女は元々この手のゲームが好きだったようだ。モンスターを配合させて更に強いモンスターを生み出したり、様々なアイテムを調合してエリクサーを生み出すといった研究するゲームが元々好きなのだそうだ。


「どうりで、普通であればここまでできませんから」

「私にとってこれが楽しいんですけどね、あまり共感されませんが」


 そう言うがある意味コレクター気質というか、図鑑の中でも一つでも空白があると気になるタイプなのだろう、実際自分もそう言った部分が少なからず存在する。


 ただ今ではファンタジーワールドで膨大に増えたであろうアイテムを自分一人で調べ上げようとは思わない、単純に鍛冶やら魔道具の研究やらで手一杯だからだ。幻想世界ではただのミニゲームだったこれらのシステムが一つのゲームとして存在できるほどのボリュームを誇るので一人で調べ上げるのは不可能だと思う


 あの時の自分はやる人間が自分一人しかいなかったので、自ずとそうなったといった方が正しい、もし幻想世界に他のプレイヤーが居たのならあそこまで調べ上げようとは思わなかっただろうと今になって思った。


「ただ実験器具が足りないのが悲しいです。鍛冶プレイヤーに頼もうとしても皆武器や防具しか興味がありませんから」


 そう言って彼女がガクリと肩を落とすが、まさにそれが出来るプレイヤーがここにいた。


「実験器具ですか?細かな指示があれば作りますよ」


 正直彼女の開設は素人目で聴いていても分かりやすく、興味が持てる内容だった。資料も見やすいし将来性もある。


「え?ペガサスさんって鍛冶プレイヤーだったんですか?」

「はい、正しくは半冒険半鍛冶プレイヤーですけどね」


 一応レイネスさんとの魔道具研究で細かな作業は得意なはず……トウカさんから欲しいと言われた器具の大まかな設計図を見るがまぁ作れそうだ。






「へー、こんなところにも工房があるんだ」

「ここは自分の気に入っている場所です、あまり言いふらさないでくださいよ?」


 折角なので研究器具が出来る過程を見たいとの事なので、バルバトで使っている個室工房の方まで一緒に来た。こんな路地裏なんだ~と興味深そうに辺りを見渡すトウカさんをしり目に、今回製作する器具の設計図を炉の横にあるテーブルに広げる。


「拡大鏡ですね、これは専用の台座を作れば後は市販のものでどうにかなります。あとはピンセットですけどこれも問題ないです。」


 ピンセットに関して言えば多種多様な種類を指定された。先が曲がっている物から、スプーン上に広がっている物、直角鈍角鋭角の確度で折り曲げられたピンセットからそのサイズも様々だ。


 これらに関して使う材料は特に指定は無かったので、軽くて扱いやすい軽鉄を用意する。

 トウカさんが事前に用意した設計図通りに作っていく、元が細かく指示されているので作るのは簡単だ。セミオートで型を取っていけば後は錆び防止用の塗装を施せば完成だ。


「おぉ、これは」


 キラキラ……そう表現できるような目でトウカさんが見るのは作業用テーブルの上に置かれた。綺麗に揃えられたピンセット各種、拡大鏡の台座や調合用の棒、後は特殊な形状の鍋等も制作した。


「トウカさんが細かく指定してたので作りやすかったですよ、また気になるところがあったらいつでも言ってください」


 自分はそう言いながら厚手のグローブを取り外す。


「いやいや!前に鍛冶している人に持って行ったらこんな精密なのできない!って怒られましたよ」


 勢いよく手を横に振る仕草をしながらトウカさんは驚いていた。


(別にセミオートでやれば寸法に狂いは出ないし難しくないんだけどなぁ)


 確かに完全マニュアルでやれと言われれば難しいが、寸法決めや設定を事前にしておけばその通りに作れるはずだ。現実世界で言えばCADに近い形でサイズを表示してくれるのでやりやすいはずだけども、その人は違ったようだ。


「いやぁ、なんとお礼を言えば……」

「いえいえ、自分もトウカさんの研究を見せてもらったのでそのお礼ってことで」

「いやぁ、こんなお土産も貰っているので貰いすぎですよ!この宝石果実で作った飴は真っ先にペガサスさんへ持ってきますね!」


 新たに手に入れた器具を早く使いたいのだろうか、今にもうずうずとした様子で話しかけてくる彼女を見て自分は苦笑いを浮かべつつ、その時はお願いしますとだけ言った。








 そこから一週間、現実では長かった大学の夏休みも終わり、久しぶりの講義に四苦八苦しつつもクランでは正宗さんやナミザさんと普及し始めた刀製作について研究するなど充実した日を過ごしていた。


 その間にもトウカさんから宝石果実の追加分を幾つか渡し、メールを読むにそろそろ研究も大詰めを迎えているようだ。


 トウカ:宝石飴完成したよー


 ルーティーンとなったルーン文字の練習をしている最中、ピコンと通知音が鳴ったと思えば遂に彼女が納得できる一品が出来上がったようだ。


 宝石飴以外にもいくつかの食材を個人的に渡している。何故かというと、この一週間でファンタジーワールドの料理界隈ではトウカさんが作った経験値UP系の物は無かったが、料理に付与されるバフは戦闘時に使用するバフとは異なる物のようで効果時間も長い、また魔法や武技スキルと言った物では上がらない幸運といったドロップに関するステータスを上げるバフも確認されているようだった。


 そしてSNSではこのドロップ率系統の研究が各クランで行われており、それぞれ秘密のレシピを持っているそうだ。そしてその秘密のレシピを奪取しようと日夜ファンタジーワールドを飛び越えて現実世界でも策謀が繰り広げられるらしい。


 そんな中で経験値UP系の料理が出ればどうなるかは火を見るよりも明らかではあるものの、やはりというかより良い物トウカさんの宝石飴に関して言えば自分の手には及ばない部分なのでとても興味がある。


 話は脱線してしまった物の、ドロップ率上昇バフが発見されてから食材系アイテムはアプデ日前後から多少は落ち着いていた値段が同じかそれ以上まで上がっていた。


 特にドロップ率上昇料理の食材と噂されている王都周辺で取れる食材は日が経つ程にその値を更新し、いつぞやのボッテス鋼の時の様な様子となっている。


 その煽りを受けてトウカさんの研究が一時中断する羽目になってしまった。それに関して申し訳ないと謝られたが自分としてはトウカさんが悪い訳じゃ無いし、これは情報があまりない研究なので失敗して当たり前ぐらいの気持ちで待っていたので問題は無かった。


 ただ原因が研究用の食材だという事で自分が持っている食材を幾つか渡した。流石にファンタジーワールドから追加された食材は在庫が少なかったものの、それ以外であれば結構余裕がある。


 食材を渡したとき,

 トウカさんはまるで自分の事を命の恩人の様な目で号泣して周りのプレイヤーから奇特な目で見られたのが一番困った。





「ペガサスさん、これが今回出来た完成品です」


 トウカさんの拠点まで足を運び、先週来た時よりも何割増しかの資料が机の上に並べられていた。


 製作したばかりの研究用器具も幾つかは使い込まれた跡が見られ十分に役立っているようだ。


 そんな中で自分の目の前にあるテーブルにコトリと完成品と呼ばれる宝石飴が置かれる。


「今回は二種類作りました。今置いたのが従来の宝石飴です。これはペガサスさんから貰った宝石果実を使った改良版ですね」


 そう言われ置かれている宝石飴を鑑定する。


宝石飴ジュエルキャンディー紅玉いちご〉 レア度 C+ 

 制作評価 6

 効果   獲得経験値7.9%UP(5分間) 物攻10.7%UP(5分間)物防21.3%DOWN(13分間)


「おぉ」


 試作品では赤と表示されていたのが紅玉、その名の通りルビーの様な見た目の飴なのだが、宝石果実を使用したので一気にアイテムのクオリティが上がったようだ。


「使用後は30分の再使用待機時間が必要です。本当はデメリット部分を減らしたかったんですけどそうしたら効果が薄くなってしまうので何とも」

「いやいや、それでも凄いですよ」


 自分は本心でそう思った。トウカさんからすれば物防が二割近く下がるのは非常に重いデメリットと感じるようだが、似たようなシステムであるカースレベルでは8割以上のステータス制限を貰ってやっとドロップ率と経験時増加率が一割上がるといった具合だ。


 元々が呪いというバッドステータスなのでデメリットが大きいのは当然なのだがそれらに比べたらこの宝石飴ジュエルキャンディー紅玉いちごは時間制限はあるもののメリットが大きいと言えた。


「そして、もう一つがこれです」


 自分が紅玉飴を見ていたらもう一つ制作した飴を置く


 トウカさんが置いたもう一つの飴は同じ赤色ではあるものの紅玉飴に比べて黒味が強いより血の色に近い不気味な宝石飴だった。



 悪魔飴デビルキャンディー煉獄いちご

 ア度 C+

 制作評価 4

 効果   獲得経験値15.8%UP(3分間) 物攻19.7%UP(4分間)物防61.3%DOWN(22分間)スキル再使用待機時間20%UP(15分間)


「これは」 

「見て貰った通りにこの紅玉飴の性能を極端にしたタイプです。再使用時間も1時間に増加してるんですが経験値UPも15%まで伸びました」


 この赤黒い飴はその強烈なデメリットから悪魔と名を冠しているそうだ。ただそれでも経験値の増加量は紅玉飴の倍、物攻も2割上昇と言うのはバフとしては破格の数値だ。


 ただそれ以上に大きいデメリットは物防で数値が半分以上も下がり、スキル再使用待機時間も二割伸びる。これはスキルと表示されていることから武技スキルや魔法スキルと言ったように全般を指す意味合いの時に表示される物だ。


 うーむ、まさに悪魔の如き強烈なデメリットだ。物攻も二割上昇するとはいえスキルの再使用待機時間が伸びるとなればDPSとしては落ちる気がする。勿論その人の戦い方次第なのだろうが


「今回の宝石飴制作で分かったのはこの宝石果実は赤色に属すると思います」


 前回実験した際は宝石果実の位階が高かったため判別不可、つまりは黒色判定になった訳なのだが、今回宝石果実を使って出来た飴は全部物理攻撃力を上げる物になったそうだ。


 そして各色に識別できるアイテムを使って研究した結果、赤グループが物攻、青グループが魔攻と言った具合に分かれたそうだ。それらを参照すれば今回持ってきた宝石果実・赤は赤グループになるだろう、との事らしい

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