第71話 宝石果実『ジュエルフルーツ』
金曜日になって、予定通り長いメンテナンスが始まって空けたのは陽が落ちて夜になり始めたころ合いだった。
早速ファンタジーワールドの世界へログインした自分はバルバトから飛び、遠い地へとやってきていた。
まだプレイヤーの進出が進んでいない未開の場所、第四大陸に自分はやってきていた。
ファンタジーワールドの第四大陸、別名【妖精大陸】と呼ばれる場所には様々な種類の妖精達が大陸各地に住んでいる。
妖精大陸は南部は自然豊かな妖精の国、北部は雪一面に覆われた銀の世界が広がる。そして南部の妖精の国ではその自然豊かな場所の為、様々な食材や珍味といった物が豊富に揃えられており今回はそれらを入手するために大陸間テレポートと都市間テレポートを使ってやってきたのだ。
その大陸の最南端の辺境の森、自然が豊かな妖精大陸南部でも特に鬱蒼と生い茂る樹海の奥地にはドリュアスという木の精霊が住んでいる場所がある。
ドリュアスが住む場所は暗い森の中であっても人為的な管理がなされた空間が広がる。ひんやりと冷たく清浄な空気と様々な木々が植えられたドリュアスの森は本来であれば人々を拒む聖域だ。
ドリュアスの信頼を得るには気が遠くなるほどのサブクエストを進め、様々な難題を進めなければならない
『あ!旅人だぁ!』
大陸間テレポートを使い、ドリュアスの森から一番近い都市、妖精の国第二の都市『マハルタ』へ移動する。そこから山あり谷ありの厳しい土地を進めば次第に敵性モンスター達は現れなくなり、黄斑ノ森の様な動物たちが木の上から自分の様な外部者を興味深そうに見ている。
首にかけている彼ら彼女らの信頼の証、『樹心の琥珀』というエメラルドグリーンの琥珀の首飾りが淡く光る。これは自分が彼らの聖域に入った事を知らせる。
それまで姿を現さなかった子供ぐらいの少年少女たちが森の奥から姿を現す。総じて髪の色は緑に近い色合いを持ち、エルフの様に耳が少し長く尖っている。
好奇心を感じる翡翠の瞳には星屑の様な煌めきが見て取れる。
「久しぶりエファ」
エファと呼ばれた少女はこのドリュアスの森を支配する族長家の一人娘、彼女が幻想世界及びファンタジーワールドでドリュアスの森関連のクエストを纏めるNPCだ。
自分が来たことで楽しそうな表情で抱き着いてきたり、服を引っ張ってきたりする彼らだが、クエストを進めていない状態だと彼らは酷く排他的な行動をとる。
言ってしまえば身内に優しく他人に厳しい、それはプレイヤーだけでなくこの妖精の国を束ねる女王ティターニアであっても同じだ。
彼らの信頼を勝ち取れば文字通り家族として迎え入れて貰える。それまでに必要な時間はとても長いがそれに見合う価値を彼らは示してくれる。
「エファ、急に悪いんだけど『宝石果実』はあるかな?」
「ん?宝石果実あるよー、白は少ないけど他なら余る程いっぱいある!」
宝石果実、彼らと信頼を結び交易が出来るようになるとドリュアスの森でしか手に入らない特産品が購入できるようになる。
その中の一つ 『
自分が幻想世界の冒険が軌道に乗り、初めてのアップデートで追加された妖精大陸は総じて料理や魔法薬と言ったアイテム類が多く追加されたものだ。
それまで100種類ちょっとしかなかったポーションや魔法薬関係のアイテムは妖精大陸のアップデートで500種類以上に増え、その調合用素材となると更に多くのアイテムが追加された。
ファンタジーワールドの初の大型アップデート、味覚エンジンの搭載及び空腹システムはプレイヤー達が懸念した程では無いにしろ多くの反響を呼んだ。
それもあってバルバトの食材市場は完全にマヒを起こしており、各クランはそれぞれ貯蓄した食材を使って様子を見ている状況だ。
当分は大きく動かないだろう、それがナミザさんやシュタイナーの話であり自分はその間に遥か遠い第四大陸まで足を運んでいたのだった。
そして態々ここまで来た理由の一つがドリュアス族の妖精たちが販売してくれる
白、黒、赤、青、黄、緑に分かれる
フレーバーテキストでは
ただパソコンゲームであった幻想世界においてはその美味しさを知る由は無い、宝石と言うだけあって
人間が支配する大陸である。第一、第三、第五大陸では実際の宝石よりも高値で取引されており食べるというよりは
一つ売れば小さな家が建つそんな事が本に書かれている
ただ特に希少な白と黒に関しては個数制限があるものの、それ以外の色の果実は欲しい分だけ売ってくれるのだ。
気難しい彼らではあるものの、ひとたび信頼を勝ち取ればしつこいと言えてしまう程べったりなのは彼らの愛嬌だろうか
「ふむ、
ドリュアスの森、その周辺を治める族長が住む巨大な木の根の空いた広い空間にはドリュアスの二倍以上の背丈がある自分であっても広々と寛げる空間がそこにはあった。
老いると見事な緑色の髪は白く変色し、どこか魔法学校の校長先生を思い出す風貌のエファの父親、そしてドリュアス族の長であるアングートがその長い白ひげを手でいじりながら今回の件を快く受け入れてくれる。
「そして、ペガサスよ……あの件は引き受けてくれるかね?」
「いや……その件に関しては非常に嬉しく思うのですがやはり種族が違うとなると……」
「ふむ、しかし種族の壁という困難な道程、愛は燃え上がり熱くなる物では無いかな?」
ふぉっふぉっふぉと楽しそうに笑うアングートを見てやめてくれよ、と内心思ってしまう
その件とはエファとの結婚である。ドリュアス関連のクエストを完遂した際、それを祝したお祭りが行われた時にその相手であるエファから告白されたのだ。
MMOって結婚もあるのか!と当時は驚いたものの、妖精と人間との結婚は現実世界の様な結婚とは違い、使い魔としての契約をすることを言う、そして結婚はその使い魔として破棄出来ない永久契約の事なのだ。
(しかしエファと契約すると色々と問題がな)
ドリュアス関連のクエストの中にはエファと共闘する場面がある。
その時に味方となってくれるエファはイベント仕様と言うのもあるがその時のエファは使い魔としては非常に強力で、神官と魔法使いの系統を操ることが出来る。
元が木の妖精という事もあり、土がある場所なら常時体力と魔力を回復し続けて絶え間なく魔法を使用する位ことができ、彼女の持つ木の魔法はプレイヤーが使用できる回復魔法の上位魔法の物が多い
ただそれだけ見ればメリットだらけなのだが、彼女と契約することでデメリットとなることももちろんある。
彼女たちドリュアス族の敵対NPCのドワーフ族と非常に仲が悪い
良くある小説の内容とかだとドワーフと言えばエルフと仲が悪いのだがこの世界ではドリュアスと仲が悪い様だ。
それは単純にエルフが住む場所が遠く、ドリュアスとドワーフが森を隔てた近場に住んでいることがあげられる。
現実世界でも隣国同士仲が悪い事が多いように、それは妖精達でも同じようだ。ただ大陸全土を見る限りここまで仲が悪いのはこの二種族だけっぽいのだが
ドワーフは妖精鍛冶といったプレイヤーには使えない特別な鍛冶の技法を使うことが出来る。
精霊装備といった特殊な武器や防具を作ることが出来るのだが、前にそのドワーフが作った精霊武器を装備したままドリュアス族の敷地へ入った瞬間、『樹心の琥珀』を装備していても敵対状態になった事があった。
後にエファに聞けばその精霊武器は火と土を操る精霊であるドワーフの気配がするという物だったが。ドリュアス族がその様な反応をするとなると、エファと契約した状態でドワーフ族の領地に入ったらどうなるか分からない、しかも契約解除不可となれば下手をすれば今後ドワーフ族の領地に入れなくなり、一生精霊装備を入手できなくなる危険性を孕んでいた。
確かにエファと契約すればそれまでドリュアス族との関係性が70~80のところ、一気に100になる事を意味するがその代わりドワーフ族との関係性が0になる。だったら両方70~80ぐらいの関係性を維持した方が良いという事だ。
「……なんでついてくるの?」
『いーじゃん、他の人がいる時は透明化魔法使ってるしドワーフにもバレないって!』
自分の肩に座るのは、フェアリードレスと呼ばれる小さくも細かく装飾が施された若草色のドレスを来たエファだった。
元々、小学生ぐらいだった背丈が自分の手のひらに収まるぐらい小さくなり、蝶の様な羽が背中から生えている。
無事お目当ての
ただ彼らの言う結婚の様な永久契約では無いのだが、まさかNPC側から一方的に契約されるとは思いもしなかった。ただ危惧していたドワーフや他プレイヤーと会うときは姿を透明化させておくとの事なので渋々ながら同行を認めた。
(しっかしペットたちはまだ出せないのにエファは特別なのか?それともファンタジーワールドで契約はまた別なのだろうか?)
今エファのアイコンは幻想世界と同じようにペット、使役モンスターと同じアイコンが表示されている。しかしファンタジーワールドに置いて幻想世界で契約していた使役モンスター達を出現させることが不可能な状態だった。
他のプレイヤーでもモンスターと契約したという情報は聞こえてこない、その様な動きはあるようだが未だ実装されていないという
(アリスティア王女みたいに変な権能を持ってたり……は流石に無いか)
天下一舞踏会が終わった直後、アリスティア王女との話し合い(物理)を行った時の様なシステムを改変するような大きな力を彼女が持っているのか?と一瞬思ったのだが、そんなほいほいとシステムを改変できるNPCが居たら堪ったもんじゃない
そんな自分の気持ちを知ってか知らずかニコニコと満面の笑みを浮かべながら自分の肩に乗り鼻歌を歌っている始末だ。そんな様子を見て疑う気持ちが一気に抜かれてしまう。
一応今回第四大陸へ来た目的を達成できたのだ。まさか帰りに同行人が増えるとは思わなかったが悪い事ではないのでとりあえず今は良しとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます