第69話 連合破棄と食料危機?

 今回から同盟を組ませていただきます〈金竜槌〉のクランマスターを務めていますバフォットと申します――――――


 姫騎士、ユナの謎についてシュタイナーから眉唾とも言える噂話を聞いていた所に例のFlashと同盟を組んだ生産系クランである〈金竜槌〉、そのクラン長であるバフォットという男性とその後ろには金竜槌かドラゴンティースかは分からないがその男性のメンバーと思われるプレイヤーが数人護衛として待機していた。


 バフォットと言う男性は糸目の常に笑顔を張り付けているようなプレイヤーだった。髪は短く切りそろえられ清潔感を感じる。漫画的に言えば彼の喋り方も相まって酷く胡散臭いイメージを感じるが、それも彼の特徴の一つなのだろう。


「これはこれは金竜槌の皆様、いきなりこんな辺鄙な村で大勢揃ってどうなされたんですか?」


 そうやって喋り出すシュタイナーを見て自分は内心驚いた。それまで様々な面を見てきた彼だがいきなり挑発するような喋り方をする光景を見るのは初めてだったからだ。


「いえいえ、この付近でちょっとしたクエストを受けましてね、私たちはその為にこの村へ立ち寄ったらシュタイナー殿のご一行が居ましたので、今後の事もありますし挨拶をとでも」

「こんな夜中に大勢でですか?」

「えぇ」


 ファンタジーワールドに備え付けられている現実世界の時刻はすでに0時を回っている。確かにこれからクエストをやろうとすると少し難しい、しかもバフォットと呼ばれたプレイヤーの後ろには軽く10名は居るのでこんな人数でこの村周辺のクエストをやろうというのは少し無理があった。


(この付近で難易度の高いクエストは無かったはずだけど)


 シュタイナーとバフォットさん両者の間には気炎が立ち昇る程の鬱屈とした空間が広がっていた。二人ともニコニコと笑みを崩さないがその表情にはどことなく凄みを感じる。


 だがシュタイナーやバフォットさんが明言はしない物のその含みを持たせた言い方を聞くに、バフォットさんは自分やシュタイナー達の動向を何かしらの理由で知っており、こんな夜中であるにもかかわらず大勢のプレイヤーを連れて挨拶をしに来た……という事になる。


 ファンタジーワールドでは両者の合意が無ければPVPは出来ないのでいきなり乱闘騒ぎ、なんてことは起きないはずだが、それまで楽しそうに喧騒に包まれていた酒場は両者のにらみ合いもあって誰も喋らない静寂な空間が出来上がっていた。


「シュタイナー殿、別に私や金竜槌のメンバーはあなた達と敵対するんではなく今後味方になる者たちです――ですよね?」


 バフォットさんが後ろを見ると、その見られたメンバーの人達は皆一様に頷く、その様子を見るにバフォットさんは満足そうな顔で再びこちらへ視線を戻した。


「まぁそうだな、今回は偶々偶然出会ったから今後もかねて挨拶、と言うのは間違いないんだな?」

「間違いありません」

「……ならいい、時間も遅いし俺らも少し話し込んだがそろそろお開きにしようとしていたんだ」


 話の内容はパーティーVCにしていたので万が一先ほどまでの話が外部に漏れることは無いはず。だがそれすらも知っているんじゃないかと思う程のバフォットさんの底知れぬ感じに自分は背筋が凍るような感覚を覚えた。


 その後は先程までの張り詰めた空気が嘘のように霧散した。バフォットさん自身も特に何かするわけではなく、今後連合メンバーとなるシュタイナーは勿論、同じテーブルにいたヨシュアさんやしゅんしゅんさんそして何故か自分も含めて挨拶を終えたらその場を立ち去った。


 その後は空気の流れをバフォットさんに全て持っていかれたこともあって時間も遅いという事もあり、その場でお開きとなった。明日は19時からバルバトに向けて出発することになっている。







「ペガサス君おかえり、大会はどうだった?」


 鍛冶クラン『路地裏の工房』はその名の通り、大衆工房がある区画の奥に仮の拠点がある。


 王都とは違い個室工房などの質の良い工房が近所にある為、バルバトにある拠点には自前の工房は存在しない、一階にバルバトの住民向け商店が並び、二階に拠点を構えている形だ。


 シュタイナー達とバルバトの街に入り、それぞれのクラン長に詳しい事情を聴くため解散した。自分がバルバトに入った事をナミザさんへ事前に連絡を入れて仮拠点の方に戻る。


「面白かったですよ、王都へ行って良かったです」


 工房地区がバルバトの中でも標高が高い位置にあるので、ナミザさんが座る窓際から見える景色はバルバト近海の海を一望できた。


 現実世界ではもう陽が落ち、時刻は夜になっているが、ファンタジーワールドでは夕焼けのオレンジ色の光が部屋を照らし遠くからは工房地区特有のハンマーで叩く音が聞こえる。


 今自分の視界に映る景色は一つのイラストとしてありそうな光景だ。そんな中でナミザさんは自分がバルバトへ帰還したのを確認し窓際に置いてある椅子から腰をあげた。


「連合を組むという話が無くなった事は他のメンバーにも伝えてあるよ」

「皆さんの反応は?」

「まぁ落胆はしていたよ……ただ安心もしていたかな?」

「安心……ですか?」


 首を傾げるとナミザさんはあははと苦笑いをした様子で自分にこういった。


「君はシュタイナー君達と仲が良いから知らないかもしれないけど、彼はこのゲームを代表するような有名人だよ?Flash自体もこのゲームをやってれば誰もが知っているような名前だ」


 そんなところと連合を組む、自分はシュタイナー達と知り合いで良いが関係のないナミザさんを含めた猫くんやサラさんと言った面々はプレッシャーの方が大きかったようだ。


「私もそれなりに名前が通っているつもりだけど、シュタイナー君やライネ君に比べたらどうしてもね、しかもぶっちゃけて言えば彼らにとって私たちではなく君が必要なんだ」


 ナミザさんにそう言われれば自分としては何も言う事が出来ない、トップクランと組むという事はエンジョイの気質が強いナミザさんのクランにとっては負担になりかねない。


「正直言えば今回の破棄はこちらとしても問題なかったんだ。勿論猫くんやサラちゃんもモチベーションが高くなってたから困ったのは間違いないんだけどね」


 今回の件について余り気にしていない、自分が話を通したのでやはり内心複雑な心情だ。安請け合いしすぎたか、と言うのもあるしクラン長であるナミザさんにも結構負担をかけたと思う


 そんな自分の内心に気づいてか気にしなくていいと返してくれる。しかも悪い事ばかりでもないとナミザさんは言った。


「確かに破棄にはなったけどFlashの一部メンバー……シュタイナー君やヨシュアさんだね、そこら辺の人達と関係が出来たから全部が無駄にはならなかったかな?」


 クラン間の繋がりは確かに無くなってしまったけども、シュタイナーやヨシュアさん、雪音さんといったメンバーとは個人的な関係が構築できたのだという

 謝罪と言う意味では無いにしろ今後トッププレイヤーから情報やオークションに出ない様な希少アイテムは今後流れてい来るかもしれないとの事


「だからクラン全体としては余り気にしていないかな?正宗君も最近刀がオークションに出品されてその製造方法も公開されたから忙しそうにしてるよ」

「正宗さんらしいですね」

「ペガサス君が例の工房を見つけてくれたしね、無駄な出費が嵩まずに済んでよかったよ」


 例の工房とは以前刀を作った際に使用した個室工房の事だ。正式名称は『ランドン工房』という名前でランドンというオーナーが個人的に経営しているという物だ。


 使用料はそこまで高くなく、他プレイヤーも居ない、工房地区でも入り組んだ場所でしかも目立たない建物なので見つけにくいという部分は有れどこうやって独占して使える工房があるのはありがたい


「ライネ君とは話は終わっているし、ペガサス君たちが戻っている間にも調整があったからね……謝罪も受け取ったし殆ど終わったのかな?」


 ライネさんもナミザさんも今回の件は大事にはしたくない、その為内々で済ませようと決まったらしい。そう言われれば自分としてはこれ以上話を拗れさせる訳にはいかない


「ただその代わりに入ってきたクラン、金竜槌だっけ?あそこ周辺は関わらない方がいいよ、君の知り合いは別だけどね?」


 ナミザさんは明言こそしなかったが、言外にFlashとはもう関わるなそう言ったような気がした。







「ペガサス君、話は変わるんだけどね」

「なんでしょうか?」


 若干気まずい雰囲気の中、ナミザさんが話を変えるように別の話題を離し始めた。


「例の味覚システムのアップデートは知っているかい?」

「えっと、今週末に行われるメンテナンスで実装されるやつですよね?」

「そう、それなんだけども」


 味覚システムのアップデート、それに伴う食材アイテムの追加が今日詳細が発表された。


 今週の金曜日に12時間もの長期メンテナンスを実施予定をしており、メンテナンスの終了後新たに追加された味覚エンジンは勿論、料理システムや空腹システムと言った幻想世界には無い新要素が新たに追加される。


「食材を多く確保しておきたいと?」

「そうなの、やっぱりみんな空腹システムについて不安に思っているみたい」


 ナミザさん曰く、今日発表された追加されるシステムの一つの『空腹システム』によって今市場が混乱しているらしい


「出品停止から最低10倍以上の値上げ……確かに以上ですねこれは」

「でしょ?」


 これまでは嗜好品といった部分が強かったファンタジーワールドの食材関係はそれまで安い部類だった食品類が軒並み高騰しているという


 これに乗るわけではないがもし空腹が限界まで行くと飢餓……とで行かないにしろゲーム内でもお腹が空いた状態にはなりたくないとの事


 少なくとも空腹によって何らかのデメリットは発生するのが間違いないので最低限の食糧をクラン共有で確保したいとナミザさんは協力を求めたのだった。


 自分としてもそれに関しては異論は一切ない、必要な量の食料をナミザさんに渡す。念のため渡す食料は第一大陸でも普及している奴だ。


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