第68話 不穏な影
「遅かったね」
アリスティア王女とのお話(物理)に白熱してしまった為だとユナに説明すると、そうなんだと彼女は大して興味が無さそうな感じで答えた。
「ルリア王女様の騎士になった。ペガサスも?」
「あぁ、なんとかね……」
今回の大会上位入賞者が面会を行ったわけはその面会相手の王族の騎士として適性があるかを判断するための物だった。
王族の騎士、と言うのは名ばかりでこの国において騎士爵を得ることによって王城は勿論、貴族位等しか入ることが出来ない場所にもこれから行けるようになる。あの黄斑ノ森も事前に申請は必要だが、ほぼ申請が通らないはずの入場許可もおりやすくなるとの事
ユナを騎士に選んだのはこの国の第一王女との事、剣が交差したマークの中心に王家の紋章が青い糸で刺繍されている、
一方自分の方はアリスティア王女の髪と同じ真っ赤な糸で飛竜オービットの姿が描かれている。各王族のシンボルはユナの様に剣が交差した絵に各色の王紋が描かれている場合が多いが、飛竜の勇者としても名が広まっているアリスティア王女は少し様変わりな物のようだ。
王城を出た後、いつもの服に着替えて王都の街へ入る。辺りは暗くなっておりアリスティア王女との戦闘もあったので現実世界でも日付が変わりそうなぐらい遅い時間帯だ。
「ん?どうしたシュタイナー」
今日の内にはバルバトへは戻れないな、という事で時間も遅いしログアウトする為そろそろ解約が間近となったクラン工房の方へやってきた。
するとその入り口で壁にもたれかかるように何か真剣そうな面持ちで思案する顔のシュタイナーが待っていた。
「ペガサス……」
もしかして本戦についてか?なんて一瞬身構えた物の、普段は明るい雰囲気の彼には珍しい真剣そうな顔でこう話した。
「連合の件だが、ライネが急に破棄した。そしてあいつが見つけたクランと連合を組むようだ」
「え?」
その言葉は寝耳に水、と言える程の事実だった。
急いでメールを確認すればナミザさんからも今回の件が破棄されたという連絡が来ていた。その他にも以前一緒にパーティーを組んだ際にフレンド登録をしたヨシュアさん面々からも謝罪の言葉が来ていた。
「俺は大会に出ていたから気が付かなかったが……大会中に大筋の話を進める予定だったそうだ。そんな中でライネが急にこの件を取りやめた」
許して欲しいと急にライネから深々と頭を下げられた。
「いやそこまでしなくていい、連合破棄の件は驚いたけど……何があった?」
自分がそうやってシュタイナーに話を聞くとまだ天下一舞踏会が終わって情報が全部そろわない物の、分かっていることは三つ
1、クラン長同士の会談直前にFlashのリーダーであるライネがその会談を破棄し、今回の一連の件も無かったことにした。
2、破棄した後、ライネはクラン全員にライネが独自で結んだ生産系クランと連合を組むと報告した。
3、その話はほぼ締結間際まで決まっており、シュタイナー達が反論してもどうにもならないところまで来ている。
こちらから誘ったはずなのに一方的に破棄をしてすまない、とシュタイナーは再度謝ってきた。
自分としては内心複雑ではあるものの、シュタイナー本人が悪い訳じゃ無い、自分は話を通しただけであってそれらのスケジュールを調整していたクラン長のナミザさんに謝るべきだろうとシュタイナーにそういった。
シュタイナーは勿論、と今は王都にいるので急いでバルバトへ帰還して今回の件を詳しく聞くそうだ。すでにバルバトにいる雪音さんがナミザさんに接触して今回の件の謝罪をしたそうだ。
「あいつ、謝罪も無しに急に話を変えるなんてどんな神経してるんだ」
横目に映るシュタイナーの顔は彼には珍しく怒気を孕んだ様子でそう喋った。言ってしまえば彼も被害者なのだ。今回連合の件を持ってきたのはシュタイナーだしクラン長のライネもその件については事後承諾ではあるが認めていた。
そうやって話を進めていた中での今回の件だ。
「しかも連合の相手がドラゴンティースの傘下だ。海外クランが悪いとは言わねぇがあそこの噂は良くは聞かねぇ」
横やりを入れてくる形で登場したのが中国系多国籍クラン『ドラゴンティース』の系列である生産クランのようだ。軽く聞いたところによれば今回Flashが鍛冶クランを探しているとの事で、巨大クランのドラゴンティースの中でも特に優秀なメンバーを集め、今回の件の為にクランを独立させたのだという。
ただ話を聞こうにもバルバトへ向かわなければならない、しかし現実世界では日付が変わったので平日の月曜日だ。自分もそろそろ大学が再開し、社会人であるシュタイナーは仕事だ。話を聞こうにも二日はかかるだろう。
その後、シュタイナーとヨシュアさん、そして同じ大会へ本戦出場していたしゅんしゅんさんと合流し自分を含めた4人PTでバルバトへと向かった。
キルザの街で合流し軽く情報確認をした後、ポーション等の消費アイテムや装備の確認を終えた後、試練の祠への挑戦を含めたらおおよそ3万人以上が参加した天下一舞踏会で全員がその上位30組に入った本戦出場者で固められているという、何とも豪華なパーティーが出来上がっていた。
「クラマスが大会出なかったの疑問に思ってたけど裏で話があったんだろな」
キルザ山脈に住むモンスター達をなぎ倒しながら歩いていたら、しゅんしゅんさんがふとそう言った。
その言葉にシュタイナーやヨシュアさんも同意するかのように頷く、自分とは違いFlashのクラン長であるライネさんを良く知る三人が普段とは違うクラン長の行動に何やら引っかかるところがあろうようだ。
「ライネは考えなしのところあるけど、義理を欠くような行為をする人間じゃないわ……だからこそ早くバルバトへ戻って話を聞きたいのだけど」
ヨシュアさんは視界に映ったまだこちらへ気が付いていないパンチアーマーに魔法を放ちながらそう言う
自分もそうだけども話が急展開過ぎてどこかパーティーの意識が浮ついている気がする。それでも事故が起きないのは彼らの優れた能力によるものだろうか
月曜日にキルザの街で合流し、次の日にはラビの街を抜けバルバト方面のいつもの村まで到達していた。キルザ山脈のダンジョンが簡略化されてから随分と日が経つがそれでもダンジョンを踏破しこの村で祝杯を挙げるプレイヤーは多い
彼らはやっとの思いで新天地にたどり着き、第一大陸最後の街であるバルバトへ思いを馳せ、明日からの冒険に希望を持っているのだろう、詩的な言い方をすればそうなのだがそんな明るい雰囲気の中で自分たちシュタイナーのパーティーは少しピリついた雰囲気を醸し出していた。
「これはこれは、副クラン長のシュタイナー殿……今回から同盟を組ませていただきます〈金竜槌〉のクランマスターを務めていますバフォットと申します」
仕方のない事だが平日にやれるゲームのプレイ時間は短い、しかしその短い間であっても優れた力を持つシュタイナー一行はもしキルザ山脈の踏破RTAがあれば上位に入賞できると言える程の破竹のスピードで踏破した。
それまでは長くて一週間もかかるとされていたキルザ山脈の攻略が平日の夜の内に終わるとは誰が予想したのだろうか
特に難しいとされたキルザ山脈のダンジョンの研究が進んだとはいえ、今回の踏破速度はかなり早い部類に入る。それでも村に到着したころには現実世界でも結構遅い時間帯であり、今日はここで終了し明日バルバトへ入り詳しい話を聞くことになる手はずだった。
そして村で唯一ある村の宿屋、こじんまりした村の中ではひと際大きい建物だがそれでも何百人と収容できる施設では無い
しかしそこはゲームと言う都合上、中は何十人と入っても手狭に感じない程、広い空間が広がっており各々の目的を持ったプレイヤーが行き交っている。
宿屋でチェックインを済ませ、明日の予定を確認しようと宿屋の一階にある酒場のテーブルで腰を下ろし予定のすり合わせを行っていた。
話し合いでは連合破棄の件も勿論話題に上がったが、今回手ごたえを感じるほどの速度でキルザ山脈を踏破したこともあり、比較的穏やかな雰囲気で話していた。
「まじっすか、えーあのサムライ仮面がペガサスさんだとは」
「色々と問題があるので余り公には出来ないですけどね」
「お前太刀なんて珍しい武器使ってるもんな、下手に顔がバレればやっかみを貰うから隠してて正解だったな」
バレてたら今頃大人気だったぞ、とシュタイナーはいつものビール擬きを飲みながら話す。
グイっとテレビのCMに出てきそうないい飲みっぷりでドンと大きな音でジョッキをテーブルに置く、その様子にヨシュアさんは顰めた様子で見るがヨシュアさん自身はちょびちょびとカクテルの様なドリンクを頼んで飲んでいた。
正直に言えばサムライ仮面、自分が天下一舞踏会に出てシュタイナーとヨシュアさんと戦った事はバレているであろうと思っていたシュタイナー以外にもその場にいたヨシュアさんにもバレていた様子だった。
「そりゃ無理だって話だ。ヨシュアだってつい最近お前と一緒にパーティーを組んだばかりだ。癖ですぐわかったぞ」
そう言うのは楽しそうに笑うシュタイナー、その様子を見て静かにだがコクリとヨシュアさんが頷いていた。
その様子を見て自分の横に座っていたしゅんしゅんさんが驚き、姫騎士のパートナーである意味ユナよりも目立っていた自分の正体がまさかシュタイナーの武器を作った半鍛冶プレイヤーだったことに驚いた様子だった。
「いや、半生産プレイヤーはこのゲームでも多いっすけど、まさか大会で優勝しちゃうほどの実力者は驚きっすね」
「そういって貰えるのは嬉しいんですが、彼女……パートナーには色々と助けてもらいました」
ユナは未だプレイヤー名を公開していないのでそこら辺は濁して答える。思わず嫌味の様な謙遜の仕方をしてしまったが、それでも気を害した様子はなく話を続ける。
「確かに姫騎士は凄かったなヨシュアの雷光弾に反応するとは思わなかったぞ」
「本当、彼女の反応速度人間じゃないわよ?」
実際に戦ったシュタイナーとヨシュアさんはそういう、こういう場では積極的に喋らないヨシュアさんが今回の大会の話になると饒舌になる辺り、彼女もどこかユナに似た雰囲気を感じる。
「雷光弾は私が使う魔法の中でも最速のやつよ、少なくとも虚は突けたはずなのだけどあれを反応されたらどうしようもないわ」
やれやれ、そんな諦めにも似た感情を受け取った。シュタイナーもビール擬きを飲みながらも同じことを考えているようだった。
「実際にそうだ。あの時奇襲は決まっていたはずだが姫騎士は反応して見せた。しかしその猶予は限りなく短い格闘ゲームでも早々あり得ないぞ?」
俺は姫騎士の改造行為を疑った。とシュタイナーは衝撃の言葉を述べた。しかし、その直後にそれはあり得ないとも答える。
「ファンタジーワールドではなくVR機自体が独自のプログラミングで構成されている。これは開発元とDIVE社が完全に秘匿にしていて改造云々の前にVR機械のセキュリティホールを突破できないんだ」
以前、VR機のプログラミングコードを解析しようとした大手ハッカー集団がDIVE社からのカウンターアタックを貰い逮捕されたとニュースになっていた。
その理由は解析しようとすると発信される通信が元となったと言われており、逮捕された後ハッカーの家を調べてみても、半ば強引にセキュリティーをこじ開けようとしただけで肝心の解析は一つとして進まなかったという噂もある。
そんな中でたった一人の少女がファンタジーワールドを改造できるのか?と言えば限りなく難しい、少なくとも改造できたとするなら彼女以外のプレイヤーが派手に暴れているはずだ。しかしそんな噂は聞かない
「元々VRゲームっていうのは昔から……小さいころから何か特別な事情で触れていると反射神経が速くなるって聞いたことがある。その事情は知らんが彼女はその類なのかもしれん」
VRが民生品にまで手が届くようになってからそこまで月日が経っている訳じゃ無い、仮想空間技術と言うのは自分が生まれる前からあったらしいのだが、こうやってゲームに転用されたのは本の数年前の出来事だ。
しかし、そんな一般人がVRに触れれるようになる前から何かしらの理由、しかも小さいころから仮想世界に触れているとその子供は一般的な子供達と違った成長の仕方をするらしい
これはネット掲示板の噂程度の話だ。オカルト好きな人間が広めたデマと言う話もあるが、仮想空間に触れた子供は脳波のパターンが変わるようで反射神経や計算速度と言った機能が強化される……なんて話だ。
海外ではそれらの研究を行う組織も実際にあるようだがほとんどは未だ謎に包まれている。そしてシュタイナーは彼女こそがその対象となる人間じゃないのか?と話してくれた。
「……」
シュタイナーがそう言葉を発した後、少しの間誰も喋れなくなる。確かにあの時のユナは尋常じゃない程の反射神経をしていたが本当にオカルトじみた話だ。
そうやって考えている直後、一人の男性が話をかけてきた。
「おっとこれはFlashのメンバーの方たちではないですか……」
そのプレイヤーは赤と黒で染められた革製の防具を身にまとった盗賊風の男性だった。そして彼の後ろには同じようなカラーリングをした装備を着るプレイヤーが何人も集まっていた。
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