第67話 たった一人の最終決戦? 天下一舞踏会⑨
「ペガサス様はこちらの部屋です。パートナーのお方はこちらになります」
王城の奥、王城で働くメイドや兵士以外だと爵位を持つ人間しか入れない特別な場所、そこの一室に案内された。
ユナはまた違う場所へと案内され自分は巨大な扉の前に立っている。
ここ周辺は昨日王城を探索できた時間でも入ることが禁止されていた特別な場所だ。周囲を警備する兵士は総じて第一大陸ではありえない程の高レベルであり、実質侵入不可となっていた。
自分も幻想世界で片手で数えるぐらいしか来たことが無い場所だ。
「よく来たね」
扉の前を護衛していた兵士の人に確認を取り開けてもらう、扉の奥はちょっとした運動が出来るぐらいには広い空間があり、床には凝った作りの絨毯が敷かれ、それと調和するかのようにアンティーク調の調度品が嫌味にならない程度に並べられていた。
こちらへ、と案内された先はどっかの美術館に置いてありそうな豪華な椅子、座る部分の両脇にある肘掛けですら見事な彫刻が彫られており利便性というより芸術性が高い物だと直感的に思った。
一大学生として別世界のような空間に連れてこられたがその部屋の主はその世界に似合ったオーラを発揮していた。
「とりあえず優勝おめでとう、あなたなら私との約束を果たしてくれると信じていたわ」
燃えるような真っ赤な髪、それに合うように銀糸で縫われた白銀のドレスはまさに御伽噺に出てくるお姫様と言った感じだ。
しかし、本人は顔も整っていて美少女と形容できるぐらいなのだが切れ長の目に本人の性格も相まってお姫様と言うよりは女王様と言ったイメージが強い
「ありがとうございます。決勝ではあまり活躍できませんでしたがパートナーの力もあって何とか優勝することが出来ました」
アリスティア王女のクエストは総じて無茶ぶりな物が多いが、失敗しても好感度が下がることは余りない、なので今回優勝を逃していても多少小言があったとしても怒られるような事は無かったはずだ。
「なぜ、あなたを呼んだかと言うとこれは上位入賞者全員が各王族と面会することになっているからなの、本来であれば同性同士なんだけども私とあなたとの仲ですもの兄上に変わって貰ったわ」
アリスティア王女曰く今回の呼び出しは個人的な話と言う訳では無く、3位までの上位入賞者が個別で王族と面会が行わ慧るという事らしい
「あなたのパートナーは姉さまがやっているわ、まぁ他の冒険者たちもすぐに終わると思うけど……」
何やら含みを持たせた様に喋ってくる。そして自分はこの時何となく彼女が何を言おうとしているのか何となくだが察しがついた。
「……このままでは返さないと?」
「まぁ、流石に一緒に冒険した仲ですもんね私が考えている事を先に言うなんて兄上達でもできませんわ」
自分がそう言うとアリスティア王女はにやりといたずらが成功したような笑みを浮かべる。
彼女は後ろで待機していたメイドに軽く指示を出すとすぐにある物を持ってきた。
(血薔薇の緋剣……)
メイドが持ってきたのは全体的に赤く鮮血に染まったかのような刀身を持つ細い剣、鍔の周りは薔薇を模したかのようになっており刺々しい金と銀の茨が巻き付いている。
見た目だけで一流の芸術品のようだがこれは歴とした戦闘で使う為の武器だ。この武器は飛竜の勇者であるアリスティア王女しか使う事が出来ない為、詳しい能力値は分からないが幻想世界にある世界の優れた刀剣を記録した世界刀剣列伝100選にも選ばれており、彼女の桁外れなステータスも相まって前の世界では強固な鱗で覆われたドラゴンですらこの剣で屠る位だ。
「あんな大会で本気を出せていないでしょう?しかもこんなクラスじゃ満足に戦えないじゃない」
もう闘る気マンマンのオーラを出しながら空間にキーボードを出現させる。カタカタと片手で何か入力する仕草をしたその後、自分の方にシステムコールが鳴る。
【クラスチェンジをしますか?】
「これって……」
クラスチェンジとはその名の通り職業を変えるシステムだ。幻想世界では本来持ち合わせているレベル+種族レベル+職業レベルが合算された数値になる。
種族レベルや職業レベルは種類によって上限は違うが初級職なら15、中級職なら30、上級職なら50といった具合になっている。
職業レベルはクラスチェンジによってレベル1の最初からになる。勿論それまで上げていた職業のレベルは据え置きだ。
そしてクラスチェンジをするには神殿と呼ばれる施設で拝金をし職業を変更することが出来る。
これも職業のランクによって違うがどれも結構な金額だ。
しかしその神殿でしか出来ないはずのクラスチェンジの選択画面が今目の前で表示されていた。
「流石に王城以外でコレをやれば怒られるけど、この部屋の範囲であれば問題ないわ」
問題ないわ、と言われてもこれはシステム改変に近い物だ。これを行えるのはファンタジーワールド運営に近い人間にしか出来ないはず。それでも一社員が独断で行えるものでは決してないはずだが
そんな自分の考えを察してかはぁと息を吐いて説明を追加する。
「王城は私が管理するエリア、この中であれば例え私が好き勝手やっても運営は何も言わない……流石に言いふらされて人目に付くことをやれば怒られるのでしょうけど」
あなたはそんな事しないでしょ?と言われればやるとは言えない
しかしアリスティア王女が喋っていることは彼女は運営と何らかの関係はあるものの、運営の内部の人では無い……少なくとも彼女は特別なAIを搭載しているNPCのハズなので……と考えれば考える程分からなくなってしまう
「今言えることは私はこの城に置いて一番の権限を持ってるの、だからこのような変更も出来るって訳」
パチンと指を鳴らすとアリスティア王女と自分が居た部屋が一瞬電子的なスキャニングが行われた。
【このエリアのオブジェクトは破壊不可】
ここまで来ると彼女の言わんとすることは大体わかった。
アリスティア王女はこの王城においては神に等しい権能を持つNPCなのだ。そこに運営が介入できるかは知らないが少なくとも独断でシステムを改変しても怒られないぐらいには特別な何かを彼女は持っている。
早くしろと言葉にはしないが目線でそう発しているので自分は現在のクラス【侍】から自分が本気で戦う際に使う【三幻覇者】と呼ばれる職へクラスチェンジする。
上位の職業であればあるほどその各種ステータス補正の倍率が上がるこのゲームに置いて物理、魔法共に高水準で高い倍率を誇り三幻と呼ばれる火、水、雷には非常に高い属性倍率と耐性を持ちその他の倍率も平均以上はあるという幻想世界でも非常に長いクラスツリーの頂点に立つクラスの一つだ。
見た感じファンタジーワールドでは更に上があるっぽいので少し絶望しているがそれは今は置いておこう
「では始めましょう」
やけに広い部屋に案内されたと思えば最初からこうするつもりだったのだろう、何人ものメイドたちが先ほどまで座っていた椅子やテーブルを素早く片付け退室する。
そうすればコロシアムや天下一舞踏会のリング程でないにしろ十全に戦えるぐらいのスペースは確保されていた。
正面に構えるはドレス姿のまま魔力を解放しそのオーラで見事な色の緋色の髪を靡かせて罰剣状態の〈血薔薇の紅剣〉を構える。
「この世界では初めて出すな……」
自分のすぐ横、何もない空間を掴む。
水滴が垂れたような波紋が空間に広がりその何も無いはずの空間から自分にとって特別な武器を取り出す。
武器の握りの部分を掴み引っ張ればその空間から一つの武器が出てくる。最初に柄頭が出現し段々と握りや鍔の部分が現れる。
そして剣身が見えた瞬間、周囲を照らす程の青白い清純な燐光が溢れ出す。
剣身を纏うように青白いオーラの帯が重なり、全部を抜き斬ればその幻想的な姿は見る物を圧巻させる。
(この世界で見るこの武器はこれ程なのか……)
幻想世界に置いてこの武器を入手したときにはサービス終了の告知がされる直前だった。
それまで数多くのイベントを制覇したが、実質幻想世界最後のイベントとなった【神の塔】と呼ばれる幻想世界に置いて最終大陸のその最奥に聳え立つ天をも貫く巨塔、その場所を完全踏破した際に貰った武器が今取り出したものだ。
最強の武器が欲しい、普段であれば事前に決まっているはずなのにイベント報酬が今回に限って言えばこの世界で何でも願いを叶えるという酷く曖昧な物だった。
今思えばその時にはサービス終了が決まっていたのだろう、だからこその報酬だったのだと今考えればそう思うが、何も知らない当時の自分は最強の武器が欲しいと願った。
そして神の塔を制覇してから約一週間後、いつもの様に幻想世界へログインした自分宛てに運営から一つの武器が送られてきた。
〈
制作評価 -
種類 直剣
装備条件 この武器に認められし者
追加効果 物攻+? 魔攻+? 〈魔法耐性X〉〈ダメージ軽減XV〉[ダメージを与えると体力回復] [ダメージを与えると魔力回復]〈幻想属性・極大(999)〉
【固有・
・この武器の物理攻撃力は装備者が消費したHPの値上昇する。
・この武器の魔法攻撃力は装備者が消費したMPの値上昇する。
・この武器を装備したときアタックゲージを獲得する。アタックゲージは一定以上のダメージを与えると1ゲージ獲得する。ストックできるゲージは最大5本
・アタックゲージを1消費して、移動速度上昇(大)を発動する。
・アタックゲージを1消費して、物理防御力上昇(大)を発動する。
・アタックゲージを1消費して、魔法防御力上昇(大)を発動する。
・アタックゲージを2消費して、反応速度上昇(大)を発動する。
・アタックゲージを3消費して、HP&MPを持続回復状態(大)にする。
・アタックゲージを4消費して、異常状態を全て回復する。
・アタックゲージを全部消費して、スキル
ゲームの名前を冠した直剣武器 〈
それでいて直剣という枠組みなので使用できるスキルは直剣系の武技スキルだ。
高威力&広範囲の武技スキルが多い大剣の武技スキルが使えないのは痛いが、この武器の特殊能力である装備者のHPを消費した分だけ物理攻撃力を高める。これは消費する体力の値分攻撃力を上昇するという壊れスキルだ。
そして優れたHP補正を持つクラス〈三幻覇者〉の自分の最大体力は35000ちょっと、半分消費しようものなら物理攻撃力は+17500される。よって繰り出される一撃は当たれば即死レベルしかも攻撃発生が早く手数の多い直剣スキルがだ。そして武器自体の大きさは攻撃範囲が元々広い大剣と変わりない、はっきり言ってズルである。
武器の上昇効果は戦闘中続く、アタックゲージを消費して使う特殊スキルは1分30秒間の持続だが、他の支援系魔法に比べたら圧倒的な効果と持続量を持つ優秀スキルなので使い勝手が良い
そしてアタックゲージは大体通常攻撃5回ヒットで1本分ぐらいだ。魔法とか武技スキルによってゲージの貯まり具合が違ってくるので、一概には言えないが、アタックゲージのスキルは魔法や武技とはまた違った枠で使えるというだけで大きなアドバンテージだ。
自分の切り札をだし、その光景をじっと観察するアリスティア王女は淑女あるまじき獰猛な笑みを浮かべていた。
彼女を中心として朱い闘気が部屋中を駆け巡る。その様子をみて自分は一瞬にして戦闘態勢を取った。
初期状態で最大まで溜まっているアクションゲージを消費して移動速度上昇(大)物理防御力上昇(大)魔法防御力上昇(大)反応速度上昇(大)を順次発動する。アクションゲージのスキルには詠唱時間は無く即発動だ。これもこのスキルが秀でている理由の一つでもある。
各種強力なバフを盛り、戦闘態勢となった朱い闘気を纏った王女を見つめる。
「さすが、さすがだ!……この私が実力を認めただけある男!」
アリスティア王女の目は限界まで開き、漏れ出す程度だった朱い闘気は激流となってこちらへ向かってきた。
彼女が駆ける一歩はとても静かで衝撃が少ない、しかしその身体は先程のヨシュアさんが放った雷光弾の圧倒的スピードをも凌駕する。
一歩で空いた数メートルの距離を一気に詰める。圧倒的な踏み込みスピードによって彼女の後ろには赤い軌跡が描かれるほどだ。
シンプルかつ最速の突きを本来のステータスによって限界まで強化された反応速度で迎撃する。
剣身を横にして刺突の突きを受け止める。すると〈血薔薇の紅剣〉から溢れ出る赤のオーラと〈
自分は武器で彼女を薙ぎ払い距離を取らせる。彼女の〈飛竜の勇者〉としての優秀なステータス補正に超越者として自分より20も高いレベル120
一方自分は優秀な種族、優秀な武器、幾度となく転生を繰り返したことによる高ステータス、正直職業クラス〈三幻覇者〉は彼女のクラスと相殺されたとしてもそれらの要素を踏まえて素のステータスはこちらが上だ。
幻想世界に置いて彼女はあらゆる武術を修め、魔法にも通じると言われている。超越者と言われ彼女の関連クエストを最後までやりとげ最大強化されたアリスティア王女は最早特異点と言うべき存在だ。
今も増大する朱い闘気を押し返す様に幻想世界を強く握り押し返す。清浄な魔力の奔流はピリつく空間を一新する。
次はこちらの番と、右足に力を入れ踏み込む
(嘘だろ!)
ファンタジーワールドで全力を出すのはこの戦いが初めてだ。それまでは何かしらの制限をかけていたこともあって、全力全開状態のステータスで繰り出す一歩目の強さを見誤った。
彼女と同じように一歩で数メートルを移動する。そのスピードは強化された反応速度でどうにか反応できるものの、下手をすれば天井や壁に激突する恐れもあった。
直線状に彼女へ突撃する形になった。その間にいつの間にか設置されていた罠魔法が発動される。
幾重もの移動阻害魔法を受けたが武器から供給される魔力の奔流でそれらを無効にしながら突撃する。流石のアリスティア王女もこれらの魔法が無効かされるとは思わなかったようで、一瞬驚いたような顔をしていた。
一秒の間に数回の剣同士がぶつかる音が聞こえる。素の反応速度では到底行えない高速戦闘を脳が焼き切れる程集中して斬撃を繰り出す。
一撃さえ当てればほぼ勝利が確実なはずなのにその一撃が入らない、これだけ有利に立っていてもアリスティア王女と自分との間には隔絶した技量の差がある事を思い知った。
戦闘中に設置した罠の魔法陣を紅剣で切り裂きながら進んでくる。周囲にはアリスティア王女と自分が設置した罠が大量に存在し目まぐるしく移動するので辺りが花火大会の様に爆発する。
「あ」
ある程度戦闘にも慣れて押せる!と勝機を見出した瞬間、システムコールで自分が負けたことを確認した。
体力バーを半分まで減らすハーフ制の決闘だったので、剣をき強化した分のHPが元々それなりに削られており、高速戦闘の最中に数十もの罠魔法を無視して連続で食らった為、自動回復が追い付かず気が付けば自分の体力が半分を切っていた。
やっちまった……と思い勝者であるアリスティア王女を見てみればやはりぷるぷると肩を震わせ今にも怒りが吹き出そうな気配を醸し出していた。
「無効だわ!こんなの!!もう一度勝負よ!」
ビシッ!と指を指しながら怒りのあまり若干頬を赤らめ目が潤んだ状態でそう叫んだ。
この後死ぬほど決闘をした。
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