第66話 天下一舞踏会決勝戦!   天下一舞踏会⑧

 休憩時間も設けられ、特に問題なく本戦大会は進行していった。


 準々決勝、準決勝ともに順調に進み1時間の休憩時間をもって、日曜日の20時に決勝戦が再開されることになった。


 決勝まで行けばログアウトしても時間内に戻ってくれば問題ない内容だ。ちらりとインターネットで様子を見てみれば今回の天下一舞踏会は盛況のようだ。


 ライネさんの天下一舞踏会の実況配信は3万人を超え、他の大手配信者もこぞって観戦配信をしているようで大盛り上がりしている様子だった。


 優勝候補のシュタイナーとヨシュアさんは流石だ。という言葉が多い中、自分とユナのペアは姫騎士であるユナは即バレしたものの自分を知る人間はおらず尚且つ誰も持っていない大太刀を装備しているので彼らに負けないぐらい話題に上がっているようだった。


(刀の製造方法を公開した方が良さそうだな……)


 あの大太刀使いは誰だと議論する中、自分が持っている武器がズルいだの色々と言われているようだった。これに関してはまぁ引継ぎ要素で手に入れた武器なので申し訳ないという気持ちはあるものの、実際に試作品で鉄刀は作れているので頑張って欲しいという気持ちもあった。


 まぁ現状レイネスさんとの魔法具製作やらルーン文字の練習やらで手一杯なので刀の作り方を公開して頑張って良い物を作って欲しいと思ったからだ。


 個人のプレイヤーがこうやって考えるのも驕り高ぶるような考え方だがどの道、刀の作り方は正宗さんとかに教えたかったのでいずれは誰かが見つける事だろうから、メイクの人気取りついでに公開したほうがが良さそうだ。






 決勝の相手はシュタイナーとヨシュアさんだ。ヨシュアさんとユナは初対面だと思われるが、それ以外はそれぞれ面識がある。


 仮面をつけているのでバレないとは思うだろうが何となくシュタイナーには気が付かれていそうな感じはする。まぁ彼にならバレても今更なのだが


 4回目の試合だ。初戦のマイトとユイのペアも強敵だったが準々決勝で戦った人も、準決勝で戦った人も皆予選とは比べ物にならない程の強者だった。


 準決勝ではFlashのメンバーでラビの街からバルバトの道でパーティーを組んだしゅんしゅんさんが相手だった。女性の方は知らないがここまで勝ち抜いただけあって一流のプレイヤーだった。


(シュタイナーあれは気が付いてんな)


 審判が試合説明をしている中、シュタイナーが自分を見て盾に隠れている手で親指を立ててグッジョブと指してきた。真剣な表情は変わらないがどこか確信めいた雰囲気を出しているのでまぁバレているのだろう





 開始!


 宣言された瞬間、シュタイナーの後ろで構えていたヨシュアさんが何やら呪文を唱える。


(あれは錆の茨か……止められんな)


 対象はユナに向けられて放たれている。しかし長杖魔法使いの優れた詠唱速度で発動を止めることは不可能だと判断した。


「ユナ変わって」

「うん」


 シュタイナーはヨシュアさんの魔法発動を止められない様に立ち回っている。であるなら自分は対象のユナを守るべく前に出る。


『あーっとヨシュア選手の錆の茨がサムライ仮面に巻き付く!』


 準決勝から非公開の自分の名前がサムライ仮面と命名された。まぁそれは置いておいて問題のヨシュアさんが放った〈錆の茨〉だ。


(流石長杖の魔法使い、阻害魔法でも凄い威力だ)


 ヨシュアさんは防御や機動面が低く長杖の魔法使いだ。


 その分魔法詠唱から唱えた魔法の威力はピカ一で阻害魔法である〈錆の茨〉でさえすさまじい威力を誇る。


「多分10秒は動けん、今のうちに迎撃を」


 身体全身に錆びた金属の茨が自分を引き締める。腕を少しでも動かそうものなら強烈な力でギシリと引き締めてくる。


 精々足止めが精いっぱいの自分の〈錆の茨〉だがヨシュアさんのは移動阻害どころか武器すら取り出せない。


 自分が締め上げられている中、ヨシュアさんからバフを貰ったシュタイナーが距離を詰めてくる。それに合わせてユナが迎撃に動きシュタイナーの盾とユナの大剣が激しくぶつかり火花が散る。


「流石だな!そのまま反撃できないとは思わんかった!」


 想定以上に押し込まれたのか距離を詰めてきたシュタイナーはユナから数歩下がり距離を取る。


〈魔法の矢〉!


 初戦のマイトと同じく使い勝手の良い魔法の矢がこちらめがけて飛んでくる。


『あーっとヨシュア選手の〈魔法の矢〉がサムライ仮面選手に直撃!』


「ふぅ、間一髪」


 マイトとは比べ物にならない程の量と威力で襲ってきたヨシュアさんの〈魔法の矢〉だが間一髪で避けることが出来た。〈錆の茨〉で縛られていた場所はそこだけ爆撃が落ちたかのように石畳のリングに穴が開いている。


 パラパラと粉塵が舞うのを手で払いながらやっと武器を構えた。






「くっ!?」


 戦闘が始まり数分が経ったはずだ。シュタイナーの守りは固く中々後衛のヨシュアさんの所へ向かわせてはくれなかった。


 ユナが隙をついて向かおうとしてもそこには設置型の魔法の〈重力地雷グラビティマイン〉が設置されておりおいそれと近づけない状態が続いていた。


「大丈夫、ヨシュアさんは魔法使いだから回復魔法は持っていない」


 神官系の職業を齧っていたら〈小回復ヒール〉ぐらいは使えるかもしれないがシュタイナーに回復結晶を使っている辺りその可能性は限りなく低いと言えた。


(やっぱりメイス系で来るべきだったかなぁ)


 用意されているアイテム類は殆ど使い切ってしまった。ユナも計算が正しければポーションが後一つしかないはずだ。

 そして自分は内心思わずそう後悔する。これまでの経験上、短いメイス系武器なら近接戦闘を持ちつつもそれなりの効果が持てる魔法が使えたのだ。


 ステータスは制限されてるとは言えど、覚えている魔法は制限されていない、なので殆どの職業を習得している自分は回復も魔法も阻害も出来る圧倒的なアドバンテージを持っていたのだ。


 それを大太刀を使っていたからと言ってそのまま我を通してしまった。


「大丈夫、負けない」


 後悔で心が埋め尽くされそうになった瞬間、それを打ち払うように横で剣を構えるユナがそう言った。


「だけど」

「大丈夫」


 遮られるように言われる。二度もそう言われれば頷くしかない、彼女の横顔にはただ勝つという勝利への気持ちが見えた。ただまっすぐな瞳でシュタイナー達を見ている。


「来るよ!」


 ユナには珍しい大きな声でシュタイナー達の攻撃を警戒する。


三重連鎖魔法トリプルチェインマジック・雷光弾〉


 突進してきたシュタイナーを注意しながら構えていたら、そのシュタイナーの後ろから現状ファンタジーワールドで最も早いであろう速度の詠唱で最も速度が速い魔法が唱えられた。


 カッと杖が光った次の瞬間、防御をするという考えに入る前に自分の横で構えていたユナに向かって雷光弾というその名に違わぬ光の速さで飛んできたヨシュアさんの魔法が彼女に直撃していた。


 あ、と自分が口を空きながら横目でその光景を見る。まるでその時敗北が決まってしまったと思い、見るはコマ送りのようなスローモーションでヨシュアさんが放った強化された雷光弾の直撃によってユナの上半身が爆風の煙に巻き込まれている瞬間だった。


 視線を正面に戻してみれば勝利を確信した笑みを浮かべたシュタイナーが爆風に巻き込まれているユナに向けて剣を突き立てようとしていた。


 その間は1秒にも満たないのだろう、自分は眼球を動かし今起きた結果をただ見るだけしか出来なかった。


 そう思った。


 ぶわり、と彼女を包んでいた爆風の煙を切り裂くように巨大な大剣がシュタイナーを斬り倒さんと振り降ろされていた。


 シュタイナーの剣は彼女の胴体を貫く寸前だった。しかしユナはすでに自分の身体程ある巨大な剣を振り降ろしている最中であり、その巨大な剣は前傾姿勢で突きを放っていたシュタイナーを上から叩き落す様に斬った。


『あーっと!?』


 一瞬の出来事で司会を含め周りの観客は未だ何が起きたか分かっていない、しかしその一瞬のうちにユナが放った巨大な剣の一撃はリングまで振り下ろされ、先ほどの雷光弾の爆風よりも更に大きな爆発が彼女の真下を中心にして起きた。


 まるで大爆発が起きたような轟音にパラパラと砕けたリングの破片が降り落ちる。隣で構えていた自分を巻き込むほどの煙がやっと晴れたと思えばそこには目を大きく開いて激しく呼吸をしつつも剣を振りぬいた後のユナとピクリとも動かない倒れた姿のシュタイナーだった。









「危なかった」


 その出来事の直後、すでに試合が決まったかのような溢れんばかりの大歓声が場内を包んだ。煙が晴れ、シュタイナーの様子を見たヨシュアさんは目を見開いて驚いていたが数秒して軽く息を吐くと両手を上げ降参の意を示した。


 そうして自分とユナは大会の授与式の準備が終わるまで待機室とはまた違うちょっと豪華な部屋でその時を待っていた。


「気が付いたら剣で防いでいた」


 ユナはそう言うがシュタイナーとヨシュアさんの連携は完璧だった。自分は勿論ユナもシュタイナーに意識が向いていたしヨシュアさんだって魔法を発動する瞬間にしか杖を振り上げていない


 単純に反応できたとしてもユナが持つ大剣はおろか取り回しが楽な小盾ですら構えることが出来ないはずだ。


「頑張った」


 彼女にとってあの一部始終は彼女自身驚いたようで気が付いたらシュタイナーを叩き斬っていたとの事だ。ただあれを出来たことに彼女は満足そうにほくほく顔をしている。


「優勝」


 bと横でグッジョブと手を出して自分は考えが追い付いていない状態の中コツンと手を合わせるように返した。







 わあああぁぁぁぁ!


 大きな大歓声と共に今回入賞したプレイヤー達が登壇していた。第三位は決勝後に行われた三位決定戦を勝ち抜いたAkakiというガントレットを付けた珍しい拳闘士プレイヤーと、とりっぴーという双剣使いの女性だった。


 第二位は先程戦ったシュタイナーとヨシュアさん、先ほどより一層大きな歓声が沸き立ち健闘を祝福する。遠目で見るシュタイナーやヨシュアさんの表情は悔しさをにじませていたが見てくれた観客に向けて手を振っていた。


 そして最後


 自分とユナが引率の兵士の方に扉を開けてもらい再び会場へ入ると溢れんばかりの歓声が鳴り響いた。ここまで大きくなるとは思わなかった様子のユナはその時びくっと肩を揺らしていたが手を振りながらリングの上に向かう


 登壇すれば最初に見えたのはシュタイナーとヨシュアさん、その奥側には三位となったAkakiさんととりっぴーさんがこちらを見ていた。


 彼らの真ん中に入り、手を軽く振る。天井から照らされるライトが眩しいが揃ったところで歓声は徐々に静まっていき壇上の横に位置する場所で司会の人が話始めた。



〈第一回天下一舞踏会優勝者リング〉  レア度EX

 制作評価  -

 種類    記念品アイテム

 装備条件  無し


【ラピ王国で開催される天下一舞踏会、その第一回優勝者のペアに贈られる世界に二つだけの特別なリング、優勝者に贈られるミスリル製の特別なリングにはⅰと第一回を表す文字が彫らている。】


 ラピ王国の第一王子自ら賞品の記念リングが贈られる。リングはそれぞれ箱の中に入っており、うっすらと覗くリングは虹色に輝きを放つ銀の指輪が入っていた。


【それでは皆さん、ステージに上がった上位成績者、そして今回参加してくれたプレイヤーの皆様に今一度大きな拍手をお願いします!】


 司会の人がそう言うとぱちぱちと少しずつ拍手が起こりそれは会場を埋め尽くさんばかりの大きなものとなった。


「ペガサス様……それとそちらのパートナーの女性の方、王女様がお待ちです」


 上位入賞者はそれぞれ一足先に会場を後にした。それぞれ違う方面へ引率され人気が無い場所で王城で働く兵士とは少し違った格好の人がやってきた。


「あなたは……あぁアリスティア王女様の近衛兵の方ですね」


 自分たちを呼び止めしかもペガサスという名前を知っている兵士の格好は鉄製の防具を身に着けそのの内側は第四王女の見事な髪色に合わせた色に染められた深い青の布地が見える。


「はい、約束を果たされたペガサス様と話がしたいと」


 その兵士は自分とユナの顔を交互に見て様子を伺う、自分もユナの方を見れば何が起きているのか分からない様子だが問題ないと軽く頷いた。

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