第65話 天下一舞踏会本戦   天下一舞踏会⑧

 本戦の会場は王城の西側にある大劇場を改造され場所で行われるようだ。


 360度を囲むように客席が並び、元が劇場だったというのもあってかコロシアムの様に太陽の日差しではなく天井に付けられているライトが照らされ中心のリングを明るく照らしている。

 他にもニ階、三階にも席が設置され、会場の正面入り口から数メートル上にある出っ張った場所には天幕が張られて中が見えない、おそらくあそこが王族の人達が見学する場所なのだろう


 これだと魔法の流れ弾など大丈夫かと思ってしまうが本番はリングを覆うようにドーム型の結界が張られるようだ。本戦では場外が無く、リングの外近くには観客席があるようだった。





 本戦会場を確認した後、泊まっていた部屋へと戻る。自分とユナはシード権を獲得しているので一戦目は免除される。本戦出場者は敗北しなければ観戦できないので基本的に充てられた客室で待機することになる。


「……緊張するね」


 今は自分が充てられた部屋にユナが来ていた。最初は個室で一人待っていたがどうにも落ち着かないとの事、流石にコロシアムと違ってリングの直ぐ近くで大勢の人に見られる今回の天下一舞踏会の試合では緊張するようでその緊張の表れなのか、貧乏ゆすりをしているようだった。


 本戦出場者は30組にも及ぶのでそれぞれの戦い方や癖は覚えきれていない、知っているのは個人的に警戒しているシュタイナーのペアとコロシアムで活躍している別のゲームでプロとして働いていたプロゲーマーの何人かだ。


「この人?うん……あんまり覚えていない」

「そうか」


 コロシアム勢という事もあってそのプレイヤーを警戒していたが肝心のユナは余り記憶がないそうだ。という事はそこまで脅威では無いのかな?


 トーナメント表に書かれているペアの名前に赤ペンで印をつける。DiSq所属のAkaki、LOT所属のSoloQとべなっくす☆など聞いたことがあるプロゲーマーの名前が並ぶ、それらの本戦出場者をユナから聞いていくがどれも印象にないとの事


(プロと言うぐらいだから弱い訳無いはずだけど……)


 それでも先日戦ったもりぞーやデュナメス達については今でも言葉に出すと闘志をむき出しにしてくるので、強ければ印象に残るはずだが……ソロという事もあったし


 それでも突破率の低かった試練の祠を攻略したプレイヤー総勢4000人近くの予選出場者から見事本戦出場したわけだからやはりプロゲーマーとして高い能力を持っているのだろう。幾らパートナーであるユナが優れたプレイヤーだとしても油断する理由にはならない





「暇だね」

「うん」


 2人で一緒に待機して少し時間が経った。敗北しなければ本戦の試合も見ることが出来ないので只管に暇だ。待機室の扉の前には兵士が駐留してるし、不正を刺せない為かファンタジーワールドに備え付けられている内蔵ブラウザも開くことが出来ずネットサーフィンも出来ない


 ログアウトしてもすぐ戻ってこないと強制失格になるというおまけつきだ。これではやる事も無いので他愛のない話をしながら時間を潰していた。


「プレイヤー1611様、プレイヤー2686様は準備をお願いします」


 ガチャリと扉を開けると紙束を持った兵士がそろそろ自分たちの番だと告げる。その言葉を聞いた瞬間、内心一気に緊張感が増したもののゆっくりと静まり解すように大きく息を吐いた。


 同じく待機していたユナもどこかピリつくような雰囲気を発している。普段はほんわかした雰囲気と表情を醸し出しているが、元が綺麗寄りの顔の為、ピリついたような雰囲気と真剣な面持ちはその整った顔にマッチしていると内心思ったのは内緒だ。




「なるほど、全然違う」


 元が劇場だったという事もあって会場全体は暗い、しかし天井に付けられているライトがリングを照らし、その上に立っている場所はコロシアムとはまた違った雰囲気に少し飲まれそうになっていた。


 ユナを見てみるが、待合室で緊張して貧乏ゆすりをしていた彼女とは別人だと思える程、張り詰めた空気を身に纏い切れ長の美しい青い瞳がこれから戦う相手を射抜いていた。


 気炎が立ち込めると感じるほどの圧倒的なオーラを感じる。彼女が何かスキルを使ったわけではないのにその佇まいは威圧感を与える物だった。


 ライトに照らされるリングの向こう側にはこちらと同じように二人のプレイヤーが立っている。彼らは第一回戦を勝ち抜いた商社だ。


(男性が魔法使い、女性は片手剣使いか)


 男女ともに盾を装備している。男性は短杖に小盾、女性は直剣に小盾といったどちらも機動力が高くカバーがしやすい武器構成だ。


 モンスターと戦う際は火力に振り切るか、防御に振り切るかどちらかが良いとされている。流石にユナの様に振り切りすぎは良くないがそれでも普段であれば中途半端な構成と揶揄される片手武器と小盾の組み合わせが今回のトレンドになるとは珍しい


 回復が有限で対人戦であるからこその現象なのだろうが、こうやってそのトレンドに合わせて武器構成を変えれるのは素直に凄いと思った。



『さぁ、注目の第二回戦が始まります。ここからはついに予選を優秀な成績で勝ち上がったシード権を持つペアも出場します。しかし相手は猛者が集まった第一回戦勝ち上がった強者、結果はどうなるか分かりません』


 コロシアムでお馴染みの声が聞こえてきた。辺りを見渡してみれば丁度リングの傍の実況席でマイクを片手に喋っている姿が見受けられた。


『しかしこれは負けたら即終了のトーナメント戦、緊迫した一戦が今始まります!』


 リングの中央に向けて歩く、自分とユナ、相手側のペアとその横に審判役の運営が立つ


「レベル15固定の2vs2のデュオモードになります。勝利条件は相手ペアの体力を全損させる事、それ以外に制限はありません」


 準備はいいですか?と審判から問われれば大丈夫と頷く、相手側も真剣な面持ちで頷きその場を離れる。


 中心から約3メートルほど離れて相手も同じぐらいの距離を離れる。風月を取り出し両手で握る。ユナも特大剣を背負った状態だが柄には手をかけて準備できている状態だった。


【3.....2.....1.....開始】


 システムコールが鳴りカウントダウンを開始する。


 開始、となった瞬間に視界には戦闘用のインターフェースが展開され即座に魔法を発動した。


「〈錆の茨〉」


 手を突き出し使い慣れている移動阻害魔法を発動する。投擲された魔法陣は地面を這い相手側へ飛んでいく


「メイ飛べ!」


 魔法使いの男性側が女性に向けて飛べと指示をする。

 女性が飛んだ瞬間自分が投擲した魔法陣が発動し、足を絡めとろうと錆びた茨が伸びるが事前に回避された事により不発に終わった。


「キャアッ!」


 メイと呼ばれた女性が叫び声をあげる。しかし、強襲する形で一気に距離を詰めていたユナの特大剣が彼女を襲う、横薙ぎに殴った斬撃をメイと呼ばれた相手女性は盾で間一髪防ぐものの、そのまま吹き飛ばされ倒れる。


「チャンス!」


 態勢が倒れた状態のメイに向けて駆けだす。DEX(素早さ)を平均以上に割り振られている自分のステータスによって踏み出された一歩は数メートルの距離を飛びメイとの距離を一気に詰める。


「やらせん、〈金剛土壁〉!」


 石畳のリングが隆起し、自分とメイとの間を阻むように巨大な土壁が形成される。


 魔力を込められて作られて土壁をすぐに壊すのは不利と判断し周りこむ、しかしその先にはすでに態勢を立て直し盾を構えるメイがおり自分は斬りつけるもののしっかりと彼女の盾で防がれた。


「ライナ、後ろだ!」


 こちらへ集中するように武器を構えるメイ、しかし彼女の後ろから急に現れるように巨大な剣が振り下ろされる。


 ガァン!と耳をつんざくような金属音が鳴り響き、ユナは地面を巨大な剣で叩きつけた。

 周囲を吹き飛ばす派手な爆発のエフェクトと共に吹き飛ばされたメイはこちらへ向かってきている。


 ライトの光に反射した刀身を煌めかせながら真っ白なエフェクトを纏わせる。


「モード開放!」


 自分がそう唱えると、〈大太刀・風月〉の鍔から水蒸気が噴出するようにエフェクトがかかり一気に斬りかかる。


 帯の様に広がる太刀を振りぬき、確実に仕留めたと瞬時に察知した。


魔障壁・物理反射マジックプロテクト・ダメージカウンター


 太刀の一撃が当たる瞬間、彼女の身体が水色に覆われる。


「……やり損ねたか」


 確実に狩り取ったと思った一撃は一部が反射され、彼女を倒すには至らなかった様だ。


〈魔力の矢〉


 後方から三本の水色の棘が飛んでくる。魔力の塊、無属性の魔力の矢


 これはある程度誘導するので叩き落とす。するとその瞬間に合わせてメイが低い姿勢で詰めてきていた。


「〈能力向上〉、〈決意の一撃〉!」


 彼女は一瞬オレンジ色に光り次に剣が輝く


(最初は突き、そして左右に振ってシールドバッシュ!)


 キーーンと飛行機のエンジン音の様に甲高い音を唸らせながら自分の顔面に向かって素早い突きが放たれた。

 それを首を曲げてギリギリで避ける。ネイは自分が突きを避けたのを知ると軽く舌打ちをしながら縦に向いていた刀身を横に曲げ振り払うように斬る。


 自分はバックステップで後方へ下がるが距離は明けないとネイは距離を詰めながら盾を前に構える。


 そして一瞬のすきに盾が輝き始める。つまりは盾を使った武技スキルを使用することを意味する。

 シールドバッシュは盾を打撃武器の様に強打する技だ。ダメージは少ないがヒットすれば中スタンと相手の態勢を崩すことが出来る。


「なっ!?これも防ぐの!」


 ガキィと大太刀の柄の頭部分で押し出すように盾を迎撃する。接触した瞬間、金属がぶつかる音が響き火花が散る。手にかかる衝撃で武器を落としそうになるがしっかりと再び握りしめてネイの盾を躱す様に上から斬りかかる。


 苦し紛れのカウンターだったので大したダメージは与えられてない、魔法使いの男性が体力バーを偽装しているので実際削れたダメージは分からないが、実彼女はポーションを飲む気配が無いので大したダメージは与えられてないのだろう


「こっちは任せろ!」


 カバーしようと距離を詰めていたユナに対してそう言う、実際危なかったが問題ない、それよりは近接戦闘が不利な魔法使いを先に倒して欲しかった。


 コクリとユナは頷き身体を翻して魔法使いの男性の方に向かって突撃する。自分はこの女性を引きつけて隙があれば倒せばいい、ユナは強いのでタイマンなら負けるとは思わないからだ。


「マイトッ!くそ!」


 ユナがマイトと呼ばれた魔法使いの男性を倒しに向かって、意識が割かれている目の前の女性によそ見をするなと斬りかかる。

 一瞬反応は遅れたが、それでもしっかりと盾で防ぎながらカバーに行くタイミングをうかがっているがそうはさせない。


 ユナとマイトが戦っている射線上を遮る形で陣取る。俺を倒さなければ助けには向かえないと……そう発するように武器を構える。


 2人が分断された今、有利なのはこちら側だ。ユナは元々一対一の戦闘が得意だし、マイトとメイの構成上、マイトを単独で戦わせるのは不利のハズだ。


 彼女が右に移動すれば自分も合わせて移動する。左に行けばそれに合わせて遮る。


(時間をかければかける程有利、まずは突破させないこと)


 攻撃をいなしつつ、距離を離す様に押し返す。張り付くような超近距離では彼女の方が有利なので大太刀のレンジを保ちつつ距離を調整する。


『あーっと!?姫騎士選手の猛攻にマイト選手は苦しそうだ!』


 それを助長させるかのように実況がリング上に流れる。自分はユナたちから背を向けているので様子は分からないが、実況が言うのとメイの焦り具合から見てユナは有利に戦闘を進めているのだろう


「くっ……どけぇ!」


 武器の持ち手を折りたたみ、レイピアの様に身体の内側から構え突くような形で剣が飛んでくる。


(チャンス!)


 焦りからかそれまで見せなかった拙い一撃がこちらへ向かってきた。焦って突きを放ったせいで肝心のスピードは乗らず躱すのはたやすい


 身体を翻す様にギリギリでかわす。その様子にメイは驚いた表情を見せるがその伸び切った腕のせいで胴はがら空きだ。


〈鱗撃ち〉!


 刀身を横に向けて腹の部分で殴る。ぐふっと質量のある武器でがら空きの胴体部分を殴られたせいで彼女はくの時になって吹き飛ばされる。


 吹き飛ばされた衝撃で後方へ倒れそうになるのをリングに足を滑らせながらもギリギリで踏みとどまり、武器を構え直すももう遅い


〈偃月斬り〉


 武技スキルを発動し、メイに斬りかかる。オートで発動された事により自分の身体は意思を無視して決められた動作を行う、太刀を横に倒し腰を低く構える。すぅっと軽く息を吸い吐くと同時に体験した程の無い速度で前方へ進む、太刀を構えた攻撃はどの一撃よりも素早く正確にその動作を終えていた。


 自分自身、気が付いた時にはメイの後ろを抜けるように移動していた。〆に背中に背負っている鞘を取り出しキンっと甲高い音と共に納刀すると通った部分に半月の剣閃が通っていた。


『あーっと、不利な状態のマイト選手のカバーを試みたメイ選手が隙を突かれてやられてしまった!?』


 前衛の彼女が倒れたことにより結果はもう決まっていた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る