第64話 飛竜の勇者   天下一舞踏会⑦

【速報!天下一舞踏会本戦へ出場が決定したプレイヤー一覧】


「本戦行けて良かったね」


 昼過ぎから始まった予選は順調に勝ち進め、無事に本戦出場を果たした。


 現実世界同様、王都は空は暗くなり赤と青の双月が浮かび上がっている。


 本戦出場者は自分たちを含めて30組、その中でも予選内容の良かった上位2チームがシードとなる。


 自分とユナはその二つのシード権の内の一つを獲得することが出来た。そしてトーナメント表を見ると自分たちとは反対側、トーナメント表右下の最後尾のシードにはシュタイナーとヨシュアさんのペアが居た。


 予選突破した時点で天下一舞踏会の参加証である銀のカードは金色のカードの物に変更され、敷地内の更に王城へ近い場所へ入れるようになる。


 金のカード保持者は王城内にある客室を与えられ明日の本戦に向けて王城をある程度散策できるのだ。銀のカード保持者は明日の本戦、王城へ登城して専用スタジアムに連れられる形で王城へ入るようになる。


 つまりはこの王城を探索するだけでもある意味報酬となる。勿論王族が寝泊まりする宮殿部には立ち入れないがそれ以外の敷地はほぼ探索や見学ができる。


 ユナは早速宛がわれた客室を飛び出し、王城の探索へと向かった。窓の外を見れば下には興味深そうに王城を見学している本戦出場が決まったプレイヤーもいる。


(森にでも行こうかな)


 プレイヤーは盗賊では無いので王城内にある美術品や装備類は入手することが出来ない、そして特殊なNPCである王族関係者もこの段階では話せないだろう


 であれば王城から見下ろせる巨大な森、『黄斑ノ森』へ行くしかないだろう

『黄斑ノ森』は特殊なエリアダンジョンになっていて普段は立ち入ることが出来ない特別な場所だ。


 希少なアイテムは勿論、このダンジョンでしか入手できない素材もありそれらのアイテムは総じて優秀な調合用アイテムとなる。


 街の外すぐ近くに存在しアクセスも良く、レアアイテムが沢山ある美味しいダンジョンへ入れないかと言うと無断でこの『黄斑ノ森』へ侵入すると犯罪者判定を受けるからだ。


 犯罪者判定を受ければ強制的にステータス犯罪者になり、名声ポイントは-500固定、犯罪者と判断された場所の影響がある街や村への入場は拒否され兵士に見つかれば問答無用で御用だ。


 追跡する兵士は何故か異様に強く数も多い、街には入れないので消費アイテムを補充するのが難しい


 そして犯罪者状態を解除するために必要な禊クエストと呼ばれる特別なクエストは大赤字確定のゲロまずクエストで、免罪するには何度も達成しないといけない


 犯罪者状態は一部スキル入手の条件だったりするのだが、それ以外は極力犯罪者にならないことをお勧めする。幻想世界で実際経験した自分だから言える切実な経験談だ。


 それでも多くのプレイヤーが遊ぶファンタジーワールドではそれらを恐れない犯罪上等のプレイヤーはいるようで、殆どのプレイヤーはすぐに禊クエストをはじめ泣きを見るが、一部の犯罪を生業とする悪人ロールのプレイヤーは人里離れた奥地で独自の拠点を作っているとの噂だ。


 話は脱線したが、この『黄斑ノ森』を合法的に探索できる貴重な機会と言う訳だ。今回入手した金の参加証も今後王城へ入る際に必要な重要アイテムではあるものの、『黄斑ノ森』へは入れない







「おぉ、やっぱり幻想世界でみる景色とは全然違うなぁ」


 空をも埋め尽くす黄金色の木々の葉っぱ、双月と呼ばれる二色の月がある為、現実よりとても明るいファンタジーワールドの夜だがそれに合わせて月光に輝く黄斑ノ森はとても神秘的な光景と言えた。


 現実世界で言えば一年中紅葉が見れる場所、と考えればいいのかもしれない、ただ魔力の関係か草木や葉はその保有する魔力に富みうっすらと輝いている。


 自然のライティングに日ごろから訓練でモンスターが討伐されているので周囲も穏やかだ。


 居るのは敵対しない小動物や鳥と言った類で、黄斑ノ森に住む動物たちは、日ごろから兵士たちから餌を貰っているのか自分の姿を見たら恐る恐るではあるが近づいてくる。


「おぉ~リスかな?餌を食べるか?」


 腕に上ってきたのは銀色の美しい毛並みを持ったリスのような小動物、肩まで登ってきたリスはチュチュと軽く鳴き素材アイテムの果実をアイテムボックスから取り出してあげると嬉しそうにその場で食べていた。


「あ、そうだこの姿動画に撮ろう」


 銀のリスなど他でみたことないので貴重な光景だろう、そう思い便利機能にある録画ボタンを押して撮影を開始する。


(うーん、こういうのって拡散した方が良いのかな……でも場所が場所だしなぁ)


 このような可愛らしい動物のシーンなどはSNSで上げると喜ばれる。普段はその様な事はせず、精々リアルのアカウントで日ごろから食べているラーメンの写真ぐらいなのだがこの光景を独り占めにするのは少々勿体ない。


 そんな中で可愛らしいリスの食事シーンで男の声が入るのは無粋だろう、なるべく撮影画面をブレないよう注意を払いながら無言で撮影を続けた。


「のわっ!?」


 そんなリスの撮影をしていると後ろから急にドンッと柔らかい物体がぶつかってきた。


 その衝撃で食事をしていたリスは逃げてしまい、あぁと手を伸ばしてリスを見る中恨めしそうに原因となった対象を見る。


「のわって……相変わらず面白いですねペガサス様」

「アリスティア王女様……」


 背後からぶつかってきたのはこの世界の住人では珍しい緋色に染まった髪が特徴的なこの国の第4王女、ラグネイル・ラピ・アリスティア王女だ。


 ラグネイルは王女の母方の貴族名でラピは王族を表す名前だ。


「いつも言っていますがアリスティアで構いませんよ?」

「……いえ、王女様をその様に呼び捨てすればどんな罰が来るか分かりませんので」


 ラグネイル・ラピ・アリスティア……彼女は第一大陸を治めるラピ王国の第4王女というやんごとなき血筋であり、直系王族でありながらこの国の中枢を代々任されている大貴族ラグネイル家当主の妹君がこの王女の母と言う完璧な血筋の生まれなのだ。


 その 生い立ちも凄いのだがそれ以上にやばいのが別名『飛竜の勇者アリスティア』という事


 彼女専用の特別なクラス『飛竜の勇者』を持ち、彼女が参戦してくれるクエストではそのチートじみたクラス特性からレベル30という第一大陸の低ステータスとは思えない程の火力を叩きだす。


 何より大陸踏破ごとに彼女に会いに行くと「これは負けてられませんね……」と言い修行を始める。すると彼女のレベルはその踏破した大陸の平均レベルまで上昇しその優秀すぎるクラスも合わさってとんでもない化け物になってしまうのだ。


 そしてその修行は勿論プレイヤー(自分)も含まれ、無理難題の極悪非道、これを作った人は絶対性格が悪いと言えるクエストを攻略し彼女と誼を結べるのだ。


 幻想世界に置いて、彼女関連のクエストはトップクラスに難しいプレイヤーのレベルに合わせてクエストの難易度も上がるので、レベルを上げて簡単に……なんてことは通じない


 幻想世界と言う荒波に揉まれ事故以外では余り死ななくなった自分に、何百と言う死を与えてくれた彼女の事は忘れない


 鉄華師匠が自分の事を覚えていたので、王女が自分の事を覚えているのは当然だが、出来ればそのまま忘れて貰っておいてほしかった。


「あなたも舞踏会に出るんですね、勿論本戦出場することは確信していました」


 彼女の姿は物語に出てくる王女様のイメージと遜色ないドレス姿だ。彼女の赤色の髪に合う銀白のドレスの中、この森までやってきたようだが肝心のドレスは汚れた様子が無い


 もしかしたらまだ強化されてない状態かなと思いステータスを確認してみるが……


【アリスティア Lv120】


 それを見て自分は絶望した。自分のレベルは現在100、幻想世界では99がMAXでファンタジーワールドでは上限が解放されたお陰で今現在は100になっている。


 しかし彼女は常に対象のプレイヤーレベルを超えてくる。それはレベル上限に達していた時でも突破して119レベルを誇っていたので絶対に勝てない相手だと運営は強く主張してるのだろう


 そして飛竜の勇者という優秀なクラスに人間でありながら高貴な血筋のお陰で種族補正も人間種より総じて高い


 彼女が現状レベル120という事は彼女、ラグネイル・ラピ・アリスティアこそが現時点で世界最強なのかもしれない


「フフフ、何を怖がっているのですか?」


 幸いなのが彼女が敵対NPCじゃないということか、現段階では最大レベルで誼を結んでいるので好感度も早々高いはず……だから問答無用で斬り殺されるなんてことは無いはずだが


「何を考えているのか知りませんが、私は挨拶をしにきただけですよ?せっかくこの世界でも会えたのですし今後とも……ね?」


 出来れば全力でお引き取り願いたいです。と思うがそれで止まってくれるならこんなに焦らない


「姫様ーーー!」

「あら、もう見つかってしまったわ」


 王城方面から兵士の声が聞こえる。アリスティア王女は何やら不満げの様子だが自分にとっては福音に等しい


「ではごきげんよう……今度は優勝者として待っていますね?」


【クエスト発生!第四王女の指令を完遂せよ!】


 彼女がそう言って身体を翻し、この場を去っていくとあの悪魔のようなクエスト発生音が鳴る。まぁ、大会優勝ぐらいならまだ楽な部類ではあるだろうが……




 キューーー


「可愛いなぁ……」


 嵐が去った後、アリスティア王女の気配が無くなったお陰か森に隠れていた動物たちが再び姿を現してきた。


 心なしかアリスティア王女が現れる前よりも多い気がする。先ほどのリスは勿論、真っ白な鳥ややたらもこもこしているミニブタ?のような動物たちもやってきた。




 Drop!FW攻略班 @drop_FW


 今回はDropの攻略サイトに投稿された天下一舞踏会の本戦出場者から送られてきた動物たちの映像だ!黄斑ノ森は普段では立ち入り不可の場所、そんな中で撮られた貴重な動画のFULLはこちらまで!→http...................


 その後、黄斑ノ森で撮影した動画を攻略サイトに投稿したら管理人からピックアップされ動画サイトにて滅茶苦茶再生数を稼いだそうだ。

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