第63話 職業やクラスについて   天下一舞踏会⑥

 ファンタジーワールドには様々なクラスがある。


 主に近接戦闘が得意な戦士系、軽装による高い機動力と弓などの遠距離攻撃を持つ狩人系、支援や回復魔法に特化した魔法職の僧侶系、支援や攻撃魔法に特化した魔法職の魔法系といった基本四職の他にも召喚士や憑依士と言った枠組みに囚われない特殊なクラスも存在する。


 更に細かくすれば戦士系の中でも剣、槍、斧と言った物からガントレット、鎌、戦扇と多種多様な武器種が存在し、最初はその武器に合わせた名前の〇〇使いのクラスを経て更に上のクラスへ転職することが出来る。


 自分は使っている【職業・侍】は戦士系の刀使いから派生する中級職に位置する。このクラスの特徴は高い素早さと攻撃が特徴的で、デメリットがある代わりに他クラスよりも強力な自己バフが出来る専用武技が魅力的だ。


 侍はパーティー構成で言えばメインアタッカーの役割に一番適性がある。防御性能が低く、体力や防御面のステータス補正が低いので前線で壁職の働きをするのは難しい


 一方でパートナーのユナは同じ戦士系、剣使い、大剣使いのクラスについている。大剣に関しては剣使いの上位の武器種に位置する為、未だ〇〇使いという名ではある物ものの自分の【職業・侍】と同レベルぐらいの強さだ。


 更に上の特大剣使いにはなっていないので専用スキルは無いが、特大剣で大剣スキルの一部を使用できるのでそこまで問題に放っていない


 そして特大剣及び大剣使いの特徴はまたまた同じく、近接アタッカー職、様々な自己バフや回避技がある侍のクラスと違い、大剣使いは強力な攻撃系スキルと幾つかの防御系スキルしか持ち合わせていない


 その為、パーティー運用するのであれば後衛支援職のプレイヤーから支援を貰いつつ、他の追随を許さない圧倒的破壊力で敵をせん滅するのが基本だ。


 そして何が言いたいかと言うと自分とユナはどちらも役割が被っているという事


「どうしたものか……」

「大丈夫、私とペガサスなら勝てるわ」



 その自信はどこから……と思わないでもないが実際にユナの戦闘スキルはトップクラスだし生半可な敵では一人で倒すことも可能だろう


 しかし、トップであればシュタイナーやヨシュアさんと言ったプレイヤー達も出てくるだろう。


 彼らのパーティー構成を見ればシュタイナーは片手剣の〈バンディーチョッパー〉を持ち高い素早さでパーティーの穴を埋めるサポート系の遊撃職だ。


 ただシュタイナーはSNS等で上がっている目撃情報を見るに、今回空いた方の手に盾を装備しているようで、出血効果に加え攻撃を与えると本人が回復する機能も相まって高い防御力と機動力を持っているようだ。


 バンディーチョッパーを作った本人が言うのもなんだがデュオという二人の連携が重要な大会において非常に面倒なタイプだと思う、出来れば一時的に武器を返してくれないかなぁ……


 片手剣使いのクラスの特性上アイテムを使用するスピードも速い、短い使用時間にその隙を盾でカバーすればほぼ確実にアイテムが使用できる。


 今回はポーション3本と回復結晶が1個、万能薬が2個が毎試合ごとに支給される。その為パートナーをどんな距離からでも回復させることが出来る回復結晶がある都合上、片手剣使いのシュタイナーはデュオ戦に置いて最強格だと言えた。


 それはデュオモードコロシアムでも如実に表れており、不人気クラスであった片手剣使いが大会が近づくにつれ明らかに増えていた。目敏いプレイヤーは今回の大会において片手剣使いがどれだけ強いのかはっきりと分かっていたようだ。


 そしてパートナーであるヨシュアさんは魔法系の長杖使いの遠距離アタッカーだ。


 高射程かつ高火力を誇る魔法を使える長杖使いは、純魔法使いとも呼べるクラスだ。他クラスでは幾つかはあるはずの回避や移動系の武技スキルを一切覚えない


 その為、防御面に関してはその低い防御力と機動面も含めて非常にやられやすい、対人戦では真っ先に狙られるクラスだが、そこは高いカバー力を誇るシュタイナーが守ってくれるだろう


 そうすれば持ち前の圧倒的な攻撃力とアイアンゴーレム戦で使った〈錆の茨〉のような移動阻害系のサポートも出来るので、シュタイナーとヨシュアさんのバランスは最適解と言えるぐらいに相性が良い


「やっぱり自分がサポートに回って……」


 未解明のクラス以外は全部習得しているので適性は別として回復魔法から支援魔法など使う事が出来る。


 今は大太刀専門の火口野一門に所属している為、流派系の技が完全に死んでしまうがどの職業、クラスにおいても全部の武技や魔法を使える。


 ただ練度はどうしても落ちてしまうので、下手に職業を変えて動けなかったら元の子もない


「そこまでしなくてもいいんじゃない?この前の足止めの魔法だけで出来る事いっぱいあるから」


 コロシアムの待機室、向かい側の椅子で武器の手入れをしていたユナがそう言う


「そんなもんで大丈夫なの?」

「うん、あの魔法どれぐらい使えるの?」

「うーんと大体4発ぐらい?どうしても適正外だから燃費が悪くなっちゃう」


 これで魔法戦士系の複合職ならやりようがあったのだが今の自分は侍クラスだ。魔法適性が全くないクラスだと威力は勿論、魔法職に備わっている消費MP軽減系のパッシブスキルも無いので燃費も悪い、制限されているMP量では精々4発が限界だろう


「うん、4発あれば十分だよ、次はちゃんと仕留める」


 初めて使ったもりぞー達との試合では少しタイミングが悪かった。ユナ曰く効果時間や発動タイミングが分かれば倒しきれるかもしれないとの事







「それではプレイヤー1661様、プレイヤー2889様は王城の訓練場B-19のCリーグになります。会場はマップに記入されていますので道が分からない場合はマップを参照ください」


 それから大会当日まで毎日19時から2~3時間程度デュオランクを潜った。大会当日までに無敗でプラチナランクCまで昇格し噂になった。


 と言うのも二人とも仮面をつけているので自分はバレなかったが、元々馬鹿でかい特大剣使いで腰まで伸びる純白の髪が特徴的なユナは一発でバレてしまったのだが


 自分とユナは受付場で試練の祠で入手した参加証とパートナ証明書を提出し、番号札を貰って言われた場所へ進んだ。





「おっきいね」


 ユナが城を見た感想に頷く、第一大陸全土を治めるリア王国は中央主権の国家だ。


 フレーバーテキストではこの国には貴族と言った文言は出てくるがそれに準ずる建物やクエストの情報は無い。


 その為、この国の支配階級のNPCを見れるのは王城内部のみになる。

 王城内部は王都の五分の一程の大きさを誇り、城内は城の他にもこの国の軍関係の施設も併設され、宿舎から訓練場と言った場所も完備されている。


 城内が一つの街と言える程の広さがありながら街を囲う城壁から飛び出るように森も存在する。ここは城内の兵士たちの訓練として使われる他、珍しい動物たちが住んでいる。


 本来であれば王城近くに森があるなんて警備上問題だらけだが単一国家で運営されている都合上、脅威となる敵はモンスターのみだ。


 そして王城付近に出現するモンスターは兵士たちの訓練がてら討伐され素材も入手できるのでまさに一石二鳥と言った感じか


 王都の中央広場側に見える巨大な城門をくぐり、正面には山を開拓して作られた城が聳え立つ、しかし王城へ登城出来るのは予選を勝ち抜いた本戦出場者のみなので今は無理だ。


 ……一応、第4王女関連で登城許可書は持っているが城へ入れば彼女と顔を合わせるのでそれはなるべく避けたい


 そして王城を眺めるように敷地の東側には兵舎や訓練場が存在する。


 ここではリア王国軍の主要武術であるマグリット四武術を学ぶことが出来る。そして他にも軍馬を育てる牧地が存在し、この周辺の風景だけを切り取ればとても王城の敷地内だとは思えない


「ここです。ご武運を」


 引率の兵士の後ろを歩きながら着いた先は巨大な体育館のような建物、ここは屋内訓練場のようで幻想世界では見たことない施設だった。


 ファンタジーワールドオリジナルの建物に内心驚きつつ、屋内訓練場の敷地へと入る。すると入り口にはサーバー選択画面の様に各区画へ転移するための選択画面が出現した。


 番号札にはB会場の19番と書いてあるので、選択画面に表示されているBの19番を選択し転移した。


「コロシアムの待機場とは全然違うね」


 今回の予選に参加するプレイヤーは組みごとに待機室を貰えるようだった。大会参加者であれば予選大会を見学することも可能でパッと見れば巨大な訓練場に幾つものリングが設置されていた。


 そうやってユナと一緒に見学をしていればそろそろ自分たちのリーグ戦が始まるようだった。


 1グループに五組集まったリーグ戦だ。総当たり戦で上位1チームが次の予選に進出できる。


 今日は土曜日、休日という事もあって参加者は多い、昼過ぎから予選が始まり計三つのリーグを勝ち進めば本選進出だ。


 本戦では王城内部の広場で行われるようだ。本戦ではリア王国の王族は勿論この国の支配階級の貴族たちも見学するようで専用のドレスコードも用意されている。


「うん、大丈夫そう」


 武器は持参可能だが防具は大会からの貸し出しのようだ。本戦では舞踏会という名前の通り煌びやかな服装をするが、予選ではこの国の兵士たちの訓練着を貸し出される。


 青のジャージっぽい布地に各プレイヤーの職業に合わせた防具が支給される。自分とユナは近接職なので胸当てと言った比較的性能の高い防具が手渡された。


 全部の防具を装着し、着け心地を確認する。ユナは出来るだけ回避重視の戦闘スタイル上、胸当て以外の籠手やひざ当ては装備せず胸当て以外であれば殆ど市民と同じような服装だ。


 自分はガッチガチにフル装備にする。それでも壁職では無いのでフル装備でもそこまでごつくはない。


「よし、行こう」

「うん」


 ユナと一緒に待機室の扉を開ける。忘れない様に仮面を装着し空いた扉の先を確認すればそこはリングへ続く道に繋がっていた。


 予選会場には試合を盛り上げてくれる司会は居ない、観客も大会の参加資格を得ているプレイヤーしかいないのでコロシアムでは隙間のない程押し寄せる観客の大歓声もない


 広い屋内訓練場には数十とのリングが設置されており、自分とユナが経っている場所はその中でも中央付近、見学者からは最も位置が遠く注目されにくい場所だった。


 そしてリング上に立つのは審判役の王国の兵士、そして相対するようにこちらを見てくる相手プレイヤー達だ。


「大丈夫、勝てるよ」


 横で相手を見ながらユナはそういう、彼女はどこか考えなしのところはあるがちらりと彼女を横目に見ればその美しい容貌には自信が満ち溢れていた。


 コロシアムでは無敗、もりぞーとデュナメスたちのパーティー以外は瞬殺と言ってもいいレベルだった。


 そしてそこから更に練習を重ねた。個人技は勿論連携だって初日に比べれば格段と良くなったはずだ。


 少ない期間ではあったものの濃密な練習量と経験が彼女を含め自分の自信へとつながった。


 パーティーのバランスは悪い物の、最低限のサポートとユナの隙を突く技術は突出しており問題無いはず。この期間で出来る限りの事はしたし負けたら負けたで悔しいがそれ以上に楽しみがある。


「……ペガサス良い顔してるよ」


 ユナからそう言われてみれば、自分はいつの間にか笑みを浮かべているようだった。






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