第62話 コロシアム・デュオ部門   天下一舞踏会⑤

『さぁ、コロシアム第三会場前からお知らせするぜ!現在のモードは二人一組のデュオ戦!そしてそこにはソロでトップを走る姫騎士と謎の大太刀使い、全員目を離すなよ!』


 ワアァァァ!と観戦に包まれる中、自分とユナは現在コロシアム闘技場のリングの上に居た。


ユナ:コロシアムやろ


 天下一舞踏会が目前に控えたある日、いつもの様に試練の祠で訓練をしていた中で突如ユナからチャットが届いた。


ペガサス:了解、どこのサーバーでやる?

ユナ  :第一サーバー、デュオ戦だと2v2だしレートも上げたい


(幻想世界でデュオランク上げてなくてよかった~)


 二人一組で戦うデュオバトルは天下一舞踏会が同じ二人一組で行われる大会という事もあってデュオモードに参加するプレイヤーの規模が急激に高まっていた。


 本来コロシアムはソロの1v1、デュオ2v2、小規模PTの4v4、中規模PTの8v8、大規模PTの12v12の部門が存在する。


 しかし今最も熱いのは1v1のソロモードだ。競技人口や観客動員数も圧倒的で他モードは殆ど動いていないに等しい


 極稀に大規模PTの練習としてカスタムマッチが開かれるぐらいで見る人間もその身内なことが多い


 しかし今回の大会ではデュオモードで行われるPVP大会なので急激にその規模が大きくなっていた。


「私は良いけど、本当にこれ付けるの?」


 自分の右に立つユナは現在被っている仮面をちょんちょんと触りながら着け心地を確認している。


『さぁ、シルバーCで相対するはもりぞー&デュナメス、相対するは無敗を誇る新進気鋭の謎の新人プレイヤー!今大会で増えた新人デュオチームにベテランの意地を見せることが出来るのか!』


 会場に響く司会の言葉では正面に相対する二人組は珍しいデュオ専のプレイヤーのようだ。


『そして現在大注目の二人組!どちらも名前非公開と両者仮面をつけるというミステリアス、しかし実力は半端ない!ソロで大活躍中の姫騎士と謎の太刀使いが無傷の10連勝となるか!』


 現在自分は身元がバレない様に目元を隠すベネチアンマスクを装着している。


 一方のパートナーであるユナは白生地で作られたレースアイマスクというのを装着している。


 完全に目元が隠れている自分と違い、デザイン優先のレースアイマスクは殆ど顔が隠れていないので初戦一発目でバレた。


 というよりも彼女が背中に背負う特大剣が一番目立っていたのだが、それと同じぐらい自分の背中にかけている大太刀も同じぐらい目立っていた。


(ある意味仮面舞踏会だなこりゃ)


 身元を隠すという意味であれば本当の意味で仮面舞踏会になりそうだ。イベント当日はドレスコードもされるようなのでいよいよ世界観にぴったりになりそうだった。


「……いくよ」


 司会が戦闘開始の合図をした瞬間、横にいたユナの姿がブレて一瞬にして敵に向かって突撃していく


「くるぞ!」


 弾丸の如く敵陣に切り込むユナを見て相手プレイヤーは武器を構え迎撃態勢に入る。


「〈錆の茨〉」


 彼女の突撃に合わせて二人の意識がこっちへ向いていない間に以前ヨシュアさんがアイアンゴーレムに対して使っていた移動阻害魔法を設置する。


「なっ!?」


 高いカースレベルによる低下したステータスと、現在侍という魔法適性の低い職業に就いている為、自分の〈錆の茨〉はアイアンゴーレムの巨大な身体すら動きを止めたヨシュアさんの物に比べて規模も拘束時間も短い


 ただ靴に絡みつき、初動の動きを阻害する。そうやって足元に意識を割けば十分だ。意識を割いてしまった後は言わなくてもわかる。


『あーっと!一歩目が遅れたもりぞー選手に姫騎士選手の一撃がヒットする!これは痛い!』


 司会の解説が入ったが今の一撃でもりぞー選手と呼ばれた槍使いのプレイヤーの体力が一気に半減する。一発で半分の体力を持っていくとは本当に馬鹿げた攻撃力だ。伊達にSTRブッパだけある。


「もり、変わるぞ!」


 横に立っててユナの一撃を免れた相方が追撃をかけようとするユナの前に出る。


「こっちだ!〈守勢の構え〉」


 壁職のプレイヤーはタワーシールドと呼ばれる盾の中でも一番大型の大盾を前面に押し出す。


「大丈夫か?」

「問題ない」


 大盾に剣が弾かれ、カウンターの一撃がユナを襲うが彼女は身体を捻るようによけ後方へ下がる。


「お前魔法戦士か!いきなりやってくれるじゃねぇか!」


 先程ユナから手痛い一撃を貰った槍使い、もりぞーが自分に向かって吠える。


(まぁ別に魔法戦士じゃなくて覚えていただけなんだけど)


 幻想世界で殆どの職業をカンストさせたので一応全部の魔法や武技スキルが使える。


 ただ今就いている侍の適性の面で魔法の効果は微々たるものだが一応意識を反らすぐらいの邪魔は出来る。


「いくぞ!」


 もりぞーの声と共に再び戦闘が再開する。


 壁役のデュナメスと言うプレイヤーがユナを止める。その間にアタッカーであるもりぞーがこっちを倒そうと襲ってきた。


「お前魔法戦士だろ、そんなステータスで勝てると思ってんのか?」


 素早い動きで放たれた突きをいなし、交錯するように近づく


「一丁前に近接職の動きするが中途半端なやつに負けねぇよ!」


 彼は吠えると鍔迫り合いをしていた中、掴んでいた槍を押し出し間を開ける。


〈雷光三連突き〉!


 お互いに距離が空いたおかげで一瞬槍の間合いが生まれる。


 そこから稲光の如く素早い三連続の突きが自分に向かって襲ってきた。


 槍の軌道はシンプルだが圧倒的な速度で槍先がこちらへ向かってくる


「なにっ!?」


 ガキィと火花を散らしながら太刀の刃で槍の一撃を反らす。


 彼が〈雷光三連突き〉を放った瞬間、一瞬だが槍先が輝く


 その最初の光った場所の直線状に太刀を置き初撃を弾いて流す。


 成功すれば二撃目以降の突きは一気に速度を失う、そうすれば対処はたやすい


『あーっともりぞー選手の〈雷光三連突き〉が防がれた!』


 突きをいなし脇を絞め武器を構える。


〈影縫い〉


 トプンと水中に潜るかのように地面に映る影に沈み後ろを取る。


 地面を潜り背後から再び出てみれば、武技の不発により長い硬直から抜け出せない状態の背中を躊躇いなく斬りついた。






「ん、ナイス」


 コツンと軽く拳を合わせ勝利を分かち合う。


 ユナの初撃に自分の背後からの攻撃によってもりぞーは致命的なダメージを負った。その後態勢を立て直してもポーションを飲む時間は与えない


 彼らの勝ち筋はあの時もりぞーが自分を倒して二対一でユナを倒すことにあった。しかしそれは失敗し肝心のもりぞーが瀕死となればそれまで耐えていたデュナメスはカバーするために意識を割く


 すればそれをユナが見逃すはずがない、あの影縫いからの一撃が決定打となり勝利した。


「うん、+160ポイント……とてもおいしい」


 コロシアムのデュオ部門のレートランキングが表示されている電光掲示板をみてほくほくそうな顔で今回得たポイントに満足しているようだった。


「たしかに、ここまで貰えるのは驚きだ」


 デュオを初めてまだ11戦目だ。本来であればシルバー帯に行ける程のポイントはもらえない


 しかしそれは幻想世界の話で、ファンタジーワールドのコロシアムでは相手とのレート差や試合内容によって貰えるポイントの上限が変わるようだった。


 そのおかげもあり破竹の勢いでレートを伸ばし、今ではシルバーCまで到達した。


「デュオは初めてだったけど結構楽しいね」

「そうだね、自分も初めてだ」


 幻想世界ではプレイする人間がいなかった都合上、デュオをやる機会が無かった。そのおかげでファンタジーワールドのデュオを出来たわけだが何とも感慨深い


「あの人に結構止められた、シルバーだけど油断できない」


 しかしユナは試合内容自体には不満げのようだった。


 どこか彼らを格下にみていたようで、これまでが圧勝だったというのもあり、合流を許さなかった大盾使いのデュナメスに阻まれたのが余程悔しかったようだ。


「この後どうする?」

「ソロで練習してくる。」

「了解、じゃあ自分も練習してこようかな」


 先程の満足げな顔はどこへ行ったのやら、やる気と殺る気に満ちた様子でソロ向けのコロシアムへ歩いて行った。





「やっぱりこっちの方がいいかなぁ……」


 コロシアムのリーグ上位者に贈られる特別な個室、その一角は幻想世界の頃に収集してきた様々な装備類が保管、展示されている。


 人の骨格を模した木製の防具立てにはそれぞれのシリーズごとの装備が揃えられており、横にはその防具となるモチーフ武器が立てかけられている。


〈妖刀・大獄丸〉    レア度A


 制作評価  -

 種類    大太刀

 装備条件  大太刀レベル87以上 STR2600、DEX2000以上

 追加効果 物攻+1809  魔攻+530 物防-152 〈妖属性・大(1090)〉 


【大妖怪・大獄丸】

 変化・大獄丸を使用可能

 変化中、この装備に付与されている属性値は風、雷、火、妖の属性変化が可能




 これは平安から戦国時代などをモチーフにした第五大陸を攻略した解放されるEXチャレンジ【三大妖怪】の片割れ、大妖怪・大獄丸を討伐すると一定確率で入手できるモチーフ武器だ。


 大太刀のユニーク武器という事もあり火口野一門に入ったころは良く使っていた。ただ第六、第七大陸を攻略していくにつれこの武器より優秀な太刀が現れ今ではこのスペースに飾っている状態だ。


 銀にきらめく刀身には薄く緑、黄、赤色の線が通っておりここに魔力を通すと各属性が使用できるといった具合だ。なので妖刀と名前が付いているが実際は魔剣に近いシステムになっている。


〈大太刀・風月〉    レア度C


 制作評価  5

 種類    大太刀

 装備条件  大太刀レベル13以上 STR150DEX140以上

 追加効果 物攻+85  魔攻+49 物防+3 〈風属性・小(19)〉


 流石に大獄丸はオーバースペック過ぎて大会では装備出来ないので大会でも装備出来そうなスペックの大太刀を探していた。


 その中でもこの風月は制限がかけられる天下一舞踏会にて装備出来る武器の中でも特に優秀なステータスを誇っている。


 見た目もおどろおどろしい妖刀・大獄丸よりもシンプルな見た目をしている。


 風属性武器なので刃の部分がうっすらと緑色に染まっているがそれ以外は普通の刀と変わらない、特殊なスキルが備わっている訳でもないので問題ないだろう


 立てかけられている風月を手に取りそれまで仮で使用していた鉄刀を新たな場所へ置く


(うん、やはりちゃんとした武器が一番いい)


 風月を持った瞬間に先ほどの試作鉄刀に比べしっかりとした重心が手にかかる。


 悔しいが急ごしらえで製作した大太刀を戦闘で使用するのは流石に無理があった。


 見た目だけならまだしも重心のブレ、刃の歪みは戦闘で気になり使い続ければ変な癖が出来てしまう可能性があった。


 その為、それまで集めてきた既製品を使う訳になったのだが今満足できる大太刀が作れない状況、仕方のない事なのかもしれない









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