第61話 特技と料理 天下一舞踏会④
「この店の事は他言無用だよ、人が多くなったら移動しないといけないからね」
気怠そうな様子で先ほど見つけたピアーズの毒剣と飲んだものに呪詛の効果を与える呪いポーションを購入した。
店主が品物を袋詰めの作業をしている間そう言われた。なるほど、だから噂が流れない訳だ。
言いたくても言って広まれば店が移動する。そう言われれば喋ることが出来ないのは当然だ。
ただここで売られているアイテムは総じて高く、特に高い装備系のアイテムは未だ売れていないとの事
やっと武器系が売れて満足、店主はそういった。
「アネッサよ、あんたはオリハルコンカード所持者だし武器を買ってくれたしね、特別に名前を教えてあげる」
だから今後も御贔屓にと言われ袋詰めされたアイテムを確認して店内を出た。
(受付会場ではひどい目に合ったけど案外悪くなかったかもしれない)
もみくちゃにされながら勧誘された結果、このお店を見つけることが出来たのは結果だけ見ればプラスだ。
今回みたいにまたこのような新発見があるのなら毎日でももみくちゃにされたいなんで思ってしまった。
「〈
発動者の物理攻撃力と行動速度を向上させるスキル〈〈
二段階の攻撃力上昇バフに一段階の会心率と行動速度の上昇バフが入る。
ただ防御力は二段階も下がり一撃でもクリティカルヒットを貰えば大ダメージは免れないハイリスクハイリターンの構え
『試練の祠』、天下一舞踏会へ参加するために攻略する必要がある制限ダンジョン、すでに攻略したそのダンジョンに再び来ていた。
自分が唱えた二つの武技によって制限がかけられている状況かの中、その枠を超えた攻撃力とスピードを得た。
相対する敵に対して間を詰める一歩はいつもより数歩進んだ先へ届く。
『迎撃モード』
地面を蹴り、距離を詰める自分に対して試練モンスターであるからくり人形の右前腕には盾が構えられる。
左前腕部には小型の剣が構えられており、からくり人形は自分の攻撃を盾で受け止め、そのカウンターとして構えている剣で身体を貫くつもりなのだろう
訓練用の大太刀を両手で握りしめ、右から左にかけて横一閃で斬りかかる。鉄華師匠から修行を言い渡されてからやる時間の差は日々の寄って違いは有れど一日たりとも欠かしたことは無い。
その成果が出たのか武技を使わずとも力を込めた横薙ぎの一撃は刀身がぶれることなく、からくり人形の盾に防がれた。
ガァン!と金属と金属がぶつかる激しい音に火花が散る。一撃でからくり人形の構える盾を少し押し込むことに成功したが、体勢を崩すには至らず完全に防がれた。
からくり人形の赤いモノアイが光り輝く、その瞬間と合わせて右手に構えた状態の直剣が自分の左わき腹めがけて振りかぶられた。
「〈
その直剣が自分へと襲い掛かる瞬間、事前に唱えていた魔法を解放しペガサスというキャラクターだけがビデオテープを巻き戻したかの現象が起こる。
一瞬時が止まり、世界が薄く青色で染まる。すると急激に後ろへ引っ張られるような感覚で踏み込む前の立ち位置まで戻った。
逆戻りした世界は先程の〈
『迎撃失敗、エラー……迎撃行程を消去、通常モードへ移行』
しかし、カウンターで直剣を振りかぶった状態のからくり人形には大きな隙が出来ている。
先程とは違う有利な状況で今度は間違えないよう最適な行動をとる為、再度〈
(うん、特技はMP関係なく使えそうだ。これを大会で使うかは分からないけど)
力を失って伏せるからくり人形を見ながら今回の戦闘の出来を纏めていた。
『試練の祠4回目、最終試練モンスター『からくり人形』の別タイプを初確認、これまで確認できなかった盾も装備しており大太刀の一撃も受けとめることが可能……』
その場で内蔵ブラウザをだして仮想キーボードで戦闘データを纏める。書き終わったデータを元に後で表計算ソフトで結果をまとめることにしよう
自分のパソコンのローカルデータへ転送し、作業を終える。
「〈
今回の戦闘で行った時間が巻き戻るスキル。特技〈
特技はジョブ制限にとらわれない特殊なスキルで総じてトリッキーで強力な物が多い
今回使った〈
それはHPやMPは勿論、異常状態からスキルの
ただスキル使用後は30分間の長い
なぜ、態々今回このようなスキルを使おうと思ったのは再度挑戦した際に戦闘したからくり人形への勝率が結構悪かったことにある。
今回の試練の祠はその難易度から様々な場所で話題を呼んでいるようだった。だから試練を攻略した天下一舞踏会へ参加できるプレイヤー達への勧誘合戦が凄かったわけだが、難しいのであれば大会までの練習になるのでは?と考え再挑戦したわけだ。
祠の周辺では多くのプレイヤーが留まり試練突破への意見交換をしていた。
「やっぱさ、前腕で剣と盾装備、後腕に杖と弓を装備たタイプが最強じゃね?」
ワイワイとにぎやかに情報交換している場で一人の男性がそのように話していた。
「俺は刀装備している奴見かけたぞ、範囲と攻撃速度が段違いだったわ」
「刀ってまだ見たことないな、レア種か?」
刀持ちなんているのか、仮設拠点の端に置いてある木の丸太に腰を掛けながら盗み聞きをする。
ここにいるプレイヤーは全員大会へ参加するために必要な試練の祠攻略を目指して頑張っている人たちだ。
やる気と時間さえあればノーリスクで何度でも挑戦が出来る。死んでもデスペナルティは無いし、装備やアイテムも制限ダンジョンの性質上王国側が負担してくれるので心配がない
そして肝心の試練モンスターの攻撃バリエーションが幅広く、多種多様の攻撃をしてくることもあって結構な歯ごたえがある難易度だ。
SNSでは良い練習相手だと、普段冒険をあまりやらない様なコロシアム勢と呼ばれるコロシアムをずっとやり続けるプレイヤー勢も今回の試練の祠で特訓をしているようだった。
ユナ:もし練習するならあの人形が良いよ、とっても練習になるし私も大会までそこに籠るつもり
王都でアネッサの道具店でアイテムを購入した後、ユナへ一応パートナー申請は通った事を報告した。
連携も含めてコロシアムで練習でもする?とユナから提案されたがまだ練度が違いすぎるのでとりあえず個々のスキルアップを行いたいと話し、だったら試練の祠で籠るのが一番良いと言われ来てみた次第だ。
ユナに勧められた形で再び試練の祠がある場所へすぐ戻ってきたが祠周辺には多くの人達が集まり焚火を囲んで意見交換や練習にと野良PVPが行われているようだった。
まるでキャンプしているみたいだと思いながら辺りを観察していたらまさか試練モンスターの武器がランダムだとは思いもしなかった。
「おいおい、強いな」
一発攻略できたのは相当運がよかったのだろう、いざ二回目と意気揚々と挑戦してみれば最終関門でまさかの敗北を喫した。
二回目という事もあってスキルを使わなかったり、ギリギリで避けてみたりと幾つかは行動に縛りを設けていたのだがそんな事をやる余裕は無さそうだった。
(バスターショットに槍の突き、行動阻害に自己バフ……ってレベルたっかいな!コロシアムNPCか?)
最終試練でプレイヤーを阻むからくり人形はそれまでの第一、第二試練モンスターとは比べ物にならない程の多彩な攻撃を行ってきた。
フェイントは当たり前、弓を構えれば必中で剣戟も一流だ。
盾を装備していれば鉄壁の要塞となり生半可な攻撃は軽く受け止めてしまう、搦手も使い阻害魔法も使えれば隙を見て自己バフ魔法を使う隙の無さもある。
ステータスやスキル構成が強力では無いがその多彩な攻撃バリエーションや戦術の幅だけで見ればコロシアムNPCでもプラチナレベルはあると思う、ファンタジーワールドのコロシアムをまともにやっていないので確実とは言えないけども
そうやって戦っていくうちに段々本気になり、ファンタジーワールドではまだ使っていなかった特技もぼちぼち使用していた。
特技を使えば負けないが、これはチート技みたいなものなので特技を使わなくても確実に勝てるようになりたい……とは思いつつも未だ勝率は6割超えるかどうかだ。
話に聞いていた刀装備のからくり人形は大太刀使いとして幾つか勉強になる動きをしていたのも大きい
「やばい!」
からくり人形が持つ刀と言うには大きすぎる武器の攻撃を避け一気に距離を詰める。
曝け出した胴体へ向かって攻撃を加えようと近づけば振り終わった刀の持ち手部分の先、頭の部分で打突攻撃を繰り出してきたのだ。
不意を突かれたその一撃はまさかのスタン効果も付いていてもろに受けた自分は一瞬行動が不能状態になり、構えていた斧で叩き斬られて敗北した。
【ダンジョンをクリアーしました。15秒後に入口へ転移します。.......】
「ふぅ」
その後も何度か試練へ挑戦し、初めて刀装備のからくり人形を倒すことに成功した。
広い攻撃範囲に武器を振る速度も早い、避けきれば隙は大きいのだがその間をしっかり別の武器でカバーするという嫌らしさも持つ
攻略法は特定パターン以外で攻撃しない、に尽きた。下手に焦って無理に攻撃を入れようとすれば手痛い反撃を貰う、少なくともまともにダメージも入れられなかったので時間はかかりつつも少しずつ削っていくのが一番勝率が高かった。
華やかさや面白さは微塵も無いが今の所それらを覆せるような技量が無いので仕方のない部分だった。
「オニーサン、挑戦お疲れ様、ドリンク買うかい?」
「あぁ、一つ貰おうかな」
人が集まる場所があればそこへ出向かうのは商人の性というもので、試練の祠周辺には行商人のような恰好をしたプレイヤーが何人か周囲のプレイヤーにアイテムを売っているようだった。
このゲームには喉の渇きや空腹など実装はされていないが味や風味は感じるし、飲食は日常からかかさず行う事なので試練終了後などはドリンク類が良く売れるらしい。
「ん、おいしい」
「んふふ、でしょー?これウチのギルドの新作ドリンクなの」
お祭り価格なのか少々割高ではあるものの、お金を払い紙コップに入ったジュースを飲む
試練での戦闘で火照った身体をひんやりと冷たいジュースが身体を冷却する。
口にジュースを含んだ瞬間、柑橘系の爽やかな甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。濃縮された深い味わいだがくどくなく、スッと抜ける様なすっきりした後味もある。
「ウチのクランで栽培した果物を潰した果汁100%ジュースなの、もう一つ買う?」
彼女からもう一ついる?と言われ再度お金を支払いジュースを購入する。これはまた後で飲もう、アイテムボックスにいれれば冷たいままの新鮮な状態で保存されるので幾つか購入しておこう
「まいどあり~、料理系クラン〈アサガオの家〉をよろしくね~」
彼女はお金を受け取るとその分のジュースを手渡し、所属するクランの宣伝をして他のプレイヤーへ販売しに向かった。
「料理か、様々な料理が生まれているとは聞いていたけどその道が作るプレイヤーの物だとここまで凄いんだな」
料理に関して言えば幻想世界とは全く違う進化が行われているようだ。
元々ファンタジーワールドの売りの一つに専用ソフト以上に味覚エンジンが進んでいるというのもある。
聞けば海外の企業と共同開発で搭載した次世代の味覚エンジンも近日実装予定らしく、ファンタジーワールドのみならず料理を生業とするプレイヤーや企業などが注目しているようだ。
今の状態でも舌に感じる味覚は勿論、鼻を抜ける風味や触感など素晴らしい再現力だ。
素人目で言えば完璧なのでは?と思うのだがその道の人からすれば確かに素晴らしい再現力ではあるものの、まだまだ改善の余地はあるとの事。
次世代の味覚エンジンの開発記事を見ても監修している一流料理人をも唸らせるとの噂は造船プロジェクトが終わった今、天下一舞踏会と次世代味覚エンジンが今のファンタジーワールドのホットな話題だと言える。
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