第60話 隠れた道具店   天下一舞踏会③

【第三の関門、クリア】


「ふぅ……」


 からくり人形が色々と出てきたが何とか倒すことが出来た。最初のType3の他にも強襲型、偵察型など様々なバリエーションがあるようだった。


(思いの外攻撃を読み切れるな、案外マニュアルでも行けるかもしれない)


 からくり人形はファンタジーワールドから出てきた新規モンスターだ。モーションも流用された物ではなく多種多様な攻撃をしてくる。


 大太刀という武器の為、どうしても回避しなければならないが最悪ガードしてもいい、ただ下手をすればそのまま武器を叩き割られることもある。


 本来は盾を使ったジャスガが得意なのだが引き継いだ時が火口野一門に所属した状態だったのでそのまま大太刀を使っているが案外やれるもんだな自分と思った。


 最後の関門も攻略し、奥には薄く輝く台座に参加証と思われる一つの手紙が置いてある。それを入手すれば無事攻略完了だ。


【ダンジョンをクリアーしました。15秒後に入口へ転移します。15……】





「舞踏会の参加を確認しました。パートナー申請書も問題ないです」


 ダンジョンを出てから王都の天下一舞踏会の受付場に着いて無事参加出来た。


 受付案内をしているNPCの兵士から銀で塗装された免許証サイズのカードが渡され、これがイベント当日王城へ入るための許可書となるようだ。


「無事参加することが出来た」


 受付の案内が無事終了し一息つく、参加条件の制限ダンジョンは試練系のシンプルなダンジョンで罠などは無く、単純に用意された特別なモンスターを倒すという物だ。


 それもファンタジーワールドオリジナルのモンスターだ。当然モンスターの情報を持ち合わせていないしぶっつけ本番だ。


 ただ攻撃を避けることに関しては自信が付いたのでイベント当日まであの制限ダンジョンで練習をしてもいいかもしれない


 イベント参加の受付場には何人か参加受付を行っているプレイヤーはいるものの、大半はその周りで見守っているようだった。


(参加する訳じゃ無いのに何で周りにいるんだ)


 そう疑問を浮かんでしまうが、実際に参加する様子もなく受付場の付近をうろついている。自分や参加するであろうプレイヤー達を見て何やら会話している辺り偵察なのか


「ちょっと君、話があるんだけどいいかな?」

「いや、俺もちょっと話が……」



 特に何かする訳じゃ無いのでその場を後にしようとしたとき、その周りで参加する人間を観察していた集団から声を掛けられる。


 最初は若い剣士、その後を続くようにバラバラの装備をしたプレイヤーが我先にと周りに集まってくる。


「な、なんですか急に」


 瞬く間に周りに人だかりが出来た。


 僅かに見える人混みの外を見ても自分と同じ様にイベントへ参加が決まったプレイヤーはまた別の人達から囲まれているようだった。



「〈サマードレス〉っていうクランの広報をやっています。もしよければウチに!」

「私たちのクランはクラン専属の鍛冶プレイヤーや銀称号持ちの人が在籍してます。もしよければ!」


 やいのやいのと捲し立てるように手に渡されるのはその人が在籍するクランのパンフレット


 分かりやすいように写真やイラストが盛り込まれ、クランの特徴や特典など書かれていた。


 彼らがなぜ受付場の周辺で屯していた理由は今回イベント参加できるぐらいの腕を持つプレイヤーを勧誘する事だったらしい


 イベント参加受付場は第1サーバーの王都にしかないので凄い程の人数が参加条件を満たしたプレイヤー達に勧誘を行っているようだった。


「いや、自分もうクランに入ってますので」

「いえいえ、ウチならもっといい条件だせます!なのでぜひ!」


 自分がもう別クランに所属していると言っても話を聞いて貰えない、別にクランに所属するのは報酬良し悪しでは無いと思うのだが……






「ひ、ひどい目に合った」


 急に人の波に飲み込まれ何とかその場から逃走出来た。


 ぜぇぜぇと試練のからくり人形と戦った以上の疲労感を感じながら肩で息をする。


 何となく持ち帰ってしまった勧誘パンフレット、その道の人が作ったのだろうか現実にある企業のパンフレットと遜色ない程の出来栄えだ。


「じ、自分が思っている以上に人材集めが過熱しているのかもしれん」


 さっきの状況を見るに流石にあれほどの勧誘は異常だ。元々ファンタジーワールドの勧誘は始めたてのプレイヤーでも凄いと聞くが今回受けた勧誘は中々のインパクトを誇っていた。


 何があれほど熾烈な勧誘合戦になるのか理由は分からないが、割かし強引に誘われたナミザさんのやり方が可愛く見えるほどの凄さだ。


 彼らは自分以外にも今回参加条件を満たしたプレイヤーが丁度受付を終えていたので、一瞬そこへ意識が持っていかれている間に何とか隙を見て脱出した。


 後を追うプレイヤーは何人かいた物のがむしゃらに逃げて振り切ったようだ。気が付けば王都でも全く知らない場所にいて絶賛迷子になっていた。


(ファンタジーワールドだと幻想世界に比べて複雑化しているし、とりあえず大通りを目指して……)


 ファンタジーワールドの第一の街であるリーフを初めて見た時も思ったが、幻想世界に比べて街の構造がとても複雑化している。


 そりゃ三人称視点でプレイしていた幻想世界と、実際に一人称視点で体感するファンタジーワールドでは見方も違うからそれだけでも迷子になる要素は大きいのだが


「へぇ、こんなところに知らないお店が」


 大分入り組んだ住宅街の一角に小さな道具店を見つけた。


『パステルの道具店』そう看板に書かれたお店は王都の住宅地区の中心にあるので客は誰も居ない


 元々が世界観を崩さない様に用意されたNPCの住む場所なので付近にはお店や施設と言ったプレイヤーが集まる要素のある場所は全くない


 そんな中でポツンと入り組んだ住宅街の小道で開いているお店に興味を持った。


「お邪魔します」


 カランカランとドアに付けられたベルが鳴り、店内へ入る。


 入り口側にある窓から差し込む光以外は店内に光源が無いので周辺は薄暗い


 ただ置かれている調度品がその薄暗い店内とマッチしていて、隠れ家的なミステリアスな雰囲気を醸し出していた。


「あー、お客とは珍しい」


 店の奥から現れたのは少々機嫌の悪そうな雰囲気を出す女性、丸眼鏡をかけ、普段着なのか少々目に毒な恰好をしている。


 ボサボサな髪に喋り方からしてダウナーっぽい性格、ただ顔立ちはとても整っていてちゃんと見れば美人の女性だ。


(まじか、特殊NPCだ)


 そんな彼女を見ながら自分が思ったのは彼女の言動や仕草だ。


 彼女が発したあー、お客とは珍しいは良く街で見かけるNPCが話すワードとは別の物、一般的なNPCであればハキハキとした声でいらっしゃいませ!と定型文を返すはずだ。


 そして垂れた前髪をかきあげる仕草をみて彼女が特殊なAIを積んだNPCだという事が分かった。


「ん?なんだい人の顔をじろじろ見てお金請求するよ」

「いえ、なんでもないです」


 彼女の発した言葉を聞いて確信を得た。やはり彼女は特殊NPCだと、似たタイプで言えば師匠の火口の鉄華などが特殊NPCにあたる。


 その為、特殊NPCはその街に置いて重要な役割を持っていることが多い、勿論師匠のようなタイプもいるが少なくとも彼女が只者では無いという事だ。


「あなたの名前は?」

「ん?あぁ別に名乗る程でもないよ適当に店主とでも呼んでくれ」


 彼女の応えにふむと内心考える。


(やんわりと断られたという事は好感度があるのか、だとどうやって稼ぐか)


 このタイプは非常に珍しい、第一大陸で言えばあの第4王女が存在するが彼女はこの国の王族だ。おいそれと出会う事は敵わないし彼女の好感度を稼ぐ為に必要なクエストも非常に難易度が高い


 そんな中でポツンと王都の住宅街にある寂れた店主が同類となれば自分の探索欲が湧き出るという物だ。


「では店主、ここはどんなお店なのでしょうか?」

「何も知らずに入ってきたのかい……ここは道具屋、私が発掘してきた使えそうな漂流物を売ってるんだよ」


 まぁ繁盛はしていないけどね、と自虐しながら小さく笑う


「漂流物とは?」

「私しか知らない土地に色んなアイテムが埋まっているんだよ、武器だったりポーションだった、それが漂流物」


 聞く感じ黒龍イベントで採掘で来た発掘結晶のようなものか?ただポーションや他アイテムもあるという事なので範囲は広そうだ。


「わかりました。では少し店内を見させて貰います」

「折角説明したんだから一つぐらい買っていきなよ、この店の商品は一点ものだし日替わりだからね」


 じゃあといって店主は奥へ下がっていった。買う物が決まれば呼べという事なのだろう


「一点ものに日替わりか、誰も知っていないのが不思議だ」


 幾ら人気のない住宅街とは言えどもお使いイベントなどで住宅街へ入ることはある。


 そんな中で誰もこの店を見つけられなかったというのは変だ。入るためには何か特殊な条件が必要なのか疑問は尽きない


「とりあえず〈鑑定〉と」


 店の右の壁に欠けられている武器の漂流物を鑑定する。



〈ピアーズの毒剣〉    レア度B


 制作評価  -

 種類    直剣

 装備条件  片手剣レベル45以上 STR790以上

 追加効果 物攻+380  魔攻+229 魔防+33 〈毒属性・中        (380)〉

[奔流のルーンⅢ]


「ブッ!」


 鑑定した結果、第一大陸には置いてはいけない武器がかけられていた。


 人生初めて吹き出してしまう程びっくりした。なんだこの店!?他のプレイヤーに見つけられたら騒ぎじゃすまないぞ


 制作評価が無いのはユニークアイテムだからだろう、一点ものと言うぐらいだから何となく察してはいたが非常に珍しいユニークアイテムが店売りされているのは幻想世界でも流石に無い


 いやいや、と思いながら値札を確認する。


〈2000万G※プラチナカード以上所持者〉


 2000万、まぁオークションで売られたら億どころの話では無いが街の武具屋で売られている武器にしては相当高い、まぁその分性能も滅茶苦茶高いのだが


「店主ー」


 奥から店主を呼び、決まったら呼べと言っていたのに見た感じからは怠いといった感じでこちらを見てきた。


「このプラチナカードとは?」

「あー?お前カード持ってないのか、じゃあこの店の商品は殆ど買えねぇぞ」

「どうやって入手するんですか?」


 買えないと聞きその入手方法を聞いてみればそのまま店の奥へ再び戻っていった。


 ピアーズの毒剣より性能の良い装備は幾つも持っているが、コレクターとしてユニークアイテムはぜひ欲しい、軽く他を見ても殆どがユニークアイテムだ。


「ほいこれ、この部分を持って握ってみろ」


 店のカウンターにドンと変な機械が置かれた。


 中世の世界観には珍しいレジ打ち機のようなへんてこな機械には、一つのチューブが伸びておりその先には何やら持ち手部分がある。


 言われた通りにその持ち手部分を手で握る。すると少し体内の熱を奪われるような感覚を受けた後、レジ打ち機のような機械が動き出しガガガガとレシートのような紙が出てきた。


「どれどれ……おいおいまじか」


 その1メートルをも超える長いレシートを見ながら店主は気怠そうな目から驚いたように目をまん丸にしていた。


「君、何者だい?測定器からは大勇者って表示されてるんだけど」

「何ですかその装置は?」


 何者だと言われてもこっちが聞きたいが、店主曰くこの装置は名声ポイントのような物を測定する装置のようでこれまで行ってきた偉業の度合いによってゴブリン級、兵士級などと現在のポイントを表示してくれるようだ。


「大勇者って一番上の位だよ、まさかそんな人間がこの王都にやってくるとはね」


 つまりは幻想世界の頃から密かに貯まった謎のポイントがファンタジーワールドになって明らかになったようだ。


(つまりは幻想世界の頃からこのシステムがあったっぽいな、そこら辺説明しないからこの運営)


 造船プロジェクトの件もそうだがバグなどの対応は凄く速いし、細かく説明をする幻想世界及びファンタジーワールドの運営だが、このシステム関連の話になると途端に無能になってしまう


「ほら、これがカード……君の場合はプラチナじゃなくてオリハルコンカードだけどね、これだったら全部の商品が買えるよ」


 はいよ、と受け渡されるのは金に近いカードだった。ただうっすら光を反射する際、緑や赤など様々な色に反射する辺り違う金属だ。店主が言う通りこのカードに使われいる素材はオリハルコンと呼ばれる物なのだろう


(初めてオリハルコンの加工アイテムを見た……幻想世界では加工不可だったのに)


 幻想世界でもオリハルコン鉱物を幾つか持っている。非常に入手難易度が高いが今後加工できるかと思い幾つか持ったままだ。


 ただサービス終了するまでに遂に加工するまでには至らなかった。単純に加工技術を習得するための条件が揃わなかったというのもある。


(あの剣よりこのカードの方が全然価値高いじゃん)


 自分からすればあのユニーク武器より今手に渡された会員証のようなカードの方が何百倍も価値があるアイテムだった。



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