第59話 試練の祠 天下一舞踏会②
「天下舞踏会に参加する人たち見てらっしゃい!ステータスが同じなら少しでも良い装備を付けないかい?今ならオーダーメイドで承るよ!」
王都では多くのプレイヤーで溢れかえっていた。
特に人混みが多いのは以前森の雫の人達が多く使っていた王都の大衆工房地区、なんでもバルバトなど先に進んでいるプレイヤーによっては今回のステータス調整の影響で装備条件が整わず新たに装備を見つけなければならない人も居るようだ。
「こちらはマサカドアクセサリー店!細かいステータス調整には持ってこいのアクセサリーがいっぱい揃っているよ!」
微々たるものだが直接ステータスを上昇させるアクセサリー系は特に人気そうだ。装備の方も今回調整される15レベルのステータスでぎりぎり装備出来そうな高性能な装備が売られていた。
中にはあの時売らなければよかったー!なんて悲鳴も聞こえてくる。まさかお古の装備が今回のイベントで高値が付くとは思いもしなかったのだろう
そのように喧騒に包まれた大通りを抜けて王城のある街の中央へ向かう
広場の一角にはイベント様に設置された受付があった。すでにダンジョンを攻略し受付を終わらせているプレイヤーもちらほら居るようだった。
王城は当日にしか入れないのだが受付を済ませれば入れると思ったプレイヤーが何人かいたらしく残念そうに帰っていく姿も見受けられた。
がしっ
様変わりした王都を見学していると急に肩を掴まれ止められる。いきなり誰だと振り返ってみれば真っ白な髪が特徴的な美少女、ユナだった。
「こんにちは」
「こ、こんにちは?」
何の前触れもなくいきなり現れたユナに思わず挨拶を返したがそうじゃない
「おい、あれって……」
彼女は気にしていない様子だが受付に並んでいたプレイヤーの何人かがユナに気が付いて指を指す。
「と、とりあえずこっちにきて」
「あっ」
がしっとユナの腕をつかむとまだ引き払われていない王都のギルド工房へ走る。
「誰も……いないか」
全員バルバトかフレックスやリーフにいるはずなのでクラン工房にいるはずがない
可能性としては天下一舞踏会に参加予定の正宗さんだが自分の方が早く王都へ着いているので今現在クラン工房には自分だけのハズだ。
「どうしたの?」
あの騒ぎを見て何も思わなかったのか……と思わずにいられなかったがどこか抜けているユナを見てやれやれと手を頭に当てる。
「とりあえずここの椅子に……それでいきなりどうしたんだい?」
コロシアムに住んでいるとまで噂されている彼女の事だ。王都にいるってことはやはり彼女も天下一舞踏会に参加するためにやってきたのか。
「武器の更新を……」
「あーーーそうだったね、流石に性能は落ちるけど似たような装備で良いかな?」
一瞬自分をパートナーに選んでくれると期待したが彼女が言った言葉は装備の更新、そういえばフェルライト特大剣の装備条件はめちゃくちゃ高かったなと思いだし要望を聞く。
「あの剣レベルじゃなければすぐ作れるよ、一応ステータス教えて貰える?」
そう聞くとユナはコクンと小さく頷きステータスを開示する。
(ふむ、やはりSTRブッパか……っていうか殆どSTRにしか振って無いぞ!?)
開示されたステータスはこれまた極端な偏りをしていた。
STR(力)は近接職にとって最も重要なステータスではあるが流石に極振りと呼ばれる程極端な振り方はしない
STRによって重量はあるが性能の良い装備を装着することが出来るのは大きなメリットだが武技スキルによってはMPやAGI(素早さ)依存の物も存在する。
(AGIもDEXも振ってないってことになると素であの戦闘を行ってるのか……すっげぇ)
AGIやDEXと言った値は各スキルや装備の必要ステータス以外にも、回避率や素早さに関係してくる。
特にDEXに関して言えば攻撃が当てやすくなったり避け易くなったりするらしい。
DEXに関してはファンタジーワールドで大きく仕様が変わっているので余り詳しくは分からないが感覚的にアシストが入り、集中すると思考が加速され敵の動きが遅く感じるなどの報告がある。
とはいっても思考加速の機能は上げすぎると法律に引っかかるのでアシストと言ってもそこまで強力な物では無いはずだ……
その他に色々とあるようだが、少なくともDEXは有ると無いとでは戦闘のしやすさが全然違うという事だ。
そんな中でユナは素早さを司るAGIにこそ幾つか振っているものの、先ほど述べた様なDEXを含め他全てのステータスが最低値近くだった。
「……全部避ければ大丈夫」
自分がそう言うと何を言ってるんだこいつと言った形で私の方を見てくるがそれはこっちが言いたい。
「まぁ、人様の戦い方にケチをつけるなんて野暮なことはしないけどさ」
びっくりした。ただそう伝えてたら軽くどのように作るか考える。
「……ねぇ」
15レベル制限だがSTR極振りレベルなら思っていた以上に装備条件を上げても良さそうだ。〈冷炎纏う息吹猪の革鎧〉に関しては装備条件が無いのはそのままでいい
「ペガサス聞いてる?」
「ん?」
どんな武器を作るか悩んでいたらユナに肩を揺すられていた。
「これ」
ユナからぐいっと突き出されたのは天下一舞踏会の参加証とパートナー決定届だった。
「……なんか緊張するんだけど」
「気にしないで、静かにしている」
無事舞踏会のパートナーが決まった事で一安心、と言う訳にはいかずパートナーになったので色々見させて貰うと言われ現在クラン工房でユナの武器を作る事になった。
一応ナミザさんにはチャットを飛ばしいいよ~と許可を貰ってから炉に火を入れる。
「折角だからボッテス鋼で作ってみて良い?」
「ボッテス鋼?」
聞いてみるとボッテス鋼について知らないようだった。結構話題になったのだがそういう噂に余り興味の無さそうな彼女の事だから知らなくても仕方が無いか
「まぁいい武器が作れる鉱石だよ、加工は大変だけど」
「じゃあそれにしましょう」
まさかの即答、なんとなくわかっていたが自分を信頼してくれているのか何なのか少々問いただしてみたい気分だ。
ボッテス鋼は加工難易度が高く、バルバトの値段が張る設備の良い工房ぐらいでしかまともに加工が出来ない
しかし王都であっても今座っている場所はクラン工房、人の目を気にしないで済むほかに王都の大衆工房とは比べ物にならない程高性能だ。
幾つかのボッテス鋼を繋ぎ合わせ藁で包み炉の中に入れる。
熱してくっついたら取り出し繋ぎ合わせる。ユナが使うのは大剣でも更に大型の特大剣と呼ばれるオリジナルカテゴリーだ。
「……ちなみにこのボッテス鋼今高騰してるんだけどお金大丈夫?」
作り始めて言うのも卑怯だが特大剣という性質上、ある程度値は下がり始めた物の未だ高値を維持するボッテス鋼をふんだんに使っている手前どうしてもお金がかかる。
そんな風に振り向いて彼女の顔を伺ってみると興味深そうに見ていた表情からなんかドヤ顔をしながら
「大丈夫、お金ならいっぱいある」
最初あった時無表情でクールなイメージがあったのだが、意外と彼女は感情豊かな子なのかもしれない
〈ボッテス特大剣〉 レア度C+
制作評価 5
種類 特大剣
装備条件 大剣レベル11以上 STR200以上
追加効果 物攻+130 魔攻+3 物防+15
[力のルーン文字Ⅱ]
「うん、いい感じ」
結構な量のボッテス鋼を使用したがやはり優れた建材として使われただけあって耐久性も良く、力のルーン文字もレベルⅡまで刻印できた。
黒鉄鋼程黒くは無いが、黒点が斑に散らばる灰色の刀身はどこか朽ちた様なイメージがある。
それでも人間大に大きな特大剣の為、非常に威圧感のある仕上がりだ。
「流石にここで振らないでくれ」
自分の後ろで早速手に入れたボッテス特大剣をブンブンと振り回す。彼女の制限後のSTRに合わせて作ったので問題は無いはずだ。
そう宥めると、彼女は思い出したかのようにトレードが要求される。代金だろうと思い了承を押すと1000万以上の大金が転がり込んだ。
「どうしたんだいこのお金、流石に貰いすぎだよ」
「大丈夫、この前の分も含めてだから」
聞いてみれば黒龍イベントで売った素材の代金とコロシアムのファイトマネーだそうだ。相変わらず全額らしい端数まで貰ってしまったがそれで装備更新は大丈夫なのだろうか
「大丈夫、あの大剣があればもっと行けるから」
まぁ確かにフェルライト特大剣の方は何段階飛ばしの性能を持っているから当分困らないだろうけどさ
「モンスター狩りに行ってくる。書類お願いね」
居ても立っても居られない用で早速手に入れた武器の使い心地を試しに言ってくるようだ。何とも自由気ままだなと思いつつも渡された書類にサインを書く。
パートナーの書類を書いたのは良いがすでに参加受付を通っているユナと違い、自分はまだ例の制限ダンジョンを攻略していない
(制限ってことは完全実力だし、大丈夫か?)
最低限の質を確保するために今回参加条件となっている制限ダンジョンは結構な難易度のようだ。
装備すら用意されているようでこれまで高性能な装備のぬるま湯に浸かっていたプレイヤー達は泣きを見ているとの事、師匠の訓練は一応やっていたので大丈夫だと思いたいが
王都の外れ、キルザとは逆の北西方面を進むと平原が広がっている。ここら辺は肥沃な大地のお陰で広大な畑が多く存在するが、その畑の中心に地面から生えたように祠が出現している。
その祠周辺は王都の兵士たちが守っており、仮設施設で着替え専用の装備を付けなければならない
「お、大太刀もあるのか」
もしかしたら練習している大太刀が用意されていないかと思ったがちゃんと用意されているようだった。
〈訓練用大太刀・レ〉 レア度F
制作評価 5
種類 大太刀
装備条件 大太刀レベル1以上
追加効果 物攻+75 魔攻+10 〈レンタル専用〉
武器の名前の横にあるレはレンタル専用という意味だ。これは特定の場所でしか使用することが出来ず。エリア外へ行くと強制的に解除され没収される。
師匠から貰った木製の大太刀と違い白い刀身に鍔としっかりと柄巻も巻かれている。見た目なら立派な太刀なのだが刀身が白い姓でどことなく玩具の様に感じる。
『注意!このダンジョンでは一部装備、ステータスが制限されます』
守衛のNPCに許可を取り祠の中へ入るとどこかへ転送される。
目の前に映るのは正方形の石で作られたのリングに、囲うように火の柱が光源となっているどことなくコロシアムに似た雰囲気だ。
(うわっ、こえぇ……)
リングの外は奈落の底、そこは見えず真っ暗だ。見える範囲だけでも相当な高さがあるので本能的な恐怖があった。
『試験を開始しますか? Y/N』
リングに足を踏み入れるとシステムコールが鳴り、開始を選択するウィンドウが表示される。
準備は出来ているのでYのボタンを押す。ボタンを押したらリングの奥の方でリングの一部が変形し穴が開く、その中からエレベーターの様に昇って出現するのはからくり仕掛けの戦闘用ロボットだった。
【戦闘用からくり人形・Type3】
名前はそのまんまだがType3ってことはその前に二つ前のバージョンがあったのだろうか?
そんなことを考えながらからくり人形を見ていると、昇ってきた石床がリングと合体し隙間が埋まる。
【試験開始】
そのコールと共にからくり人形が起動し、四本の腕が起き上がる。
背中から得物と思われる剣、槍、斧、杖を取り出し構える。
『〈
からくり人形四本の腕の左前腕部が持っている杖からは二重の緑色の魔法陣が展開され、一個の魔法が射出される。薄い緑色をした魔法はフリスビーのように回転しながら飛んでくる風の刃
(おいおい、いきなりかよ)
しかも威力や効果、範囲を強化させる連鎖付きだ。いきなりノータイム、しかも制限されたステータスでは確実に即死レベルの魔法を放ってくるとは恐れ入った。
幸いにも鎌鼬には追尾機能は無いので直線状に飛んでくる。キーーーンと甲高い風切り音を鳴らしながら飛んでくる魔法を身一つ分で避け次の動きを見る。
ガシャンガシャ
からくり仕掛けの駆動が動き始め蜘蛛のような足が動き出す。
(これは突きか)
右腕後部の槍を持っている方の腕が上がったのでその槍先を見る。
「と見せかけて斧か!」
それはどうやらフェイクだったようで気が付かれない様に左腕後部の腕が振りかぶる準備をしていた。
ドォン!
とてつもない衝撃音と斧が叩きつけられた影響で数秒前自分がいた位置の地面は大きくひびが入り粉砕されてた。
「〈龍閃〉!」
リングの地面に叩きつけた斧が突き刺さって抜けない状態の腕に向かって武技を放つ
刀身には黄色く輝いたようなエフェクトを纏いながら必死に突き刺さった武器を抜こうとしている腕の関節部を狙って二連のスキルを当てる。
『腕部破損、モードBへ移行』
的確に関節部分に攻撃を当てたおかげで破壊で来たようだった。腕は四本あるがどれも細いので見た目通り耐久が低い様子だった。
『チャージ完了、発射』
パカッと胴体の装甲が開くとすでにチャージが完了していた宝珠が赤く輝いていた。
【危険!】
一瞬何をするか分からなかったがシステムメッセージが流れ状況が飲み込めないまま横に飛ぶ。
「あぶねぇって!」
避けた瞬間、赤い閃光が胴鎧を掠る。ビームはそのまま奥まで飛んでいき光源である炎の柱に直撃した。
シュウゥゥ.....と回避した際に僅かに掠れた防具部分は真黒く焦げている。なんちゅう殺意の高さだと、久しく感じていなかった運営の殺意を全身に感じた。
『エネルギー低下、モードDへ移行』
レーザーを撃ったことで明らかにからくり人形の動きが悪くなる。つまるところ省エネモードと言った感じか。
「さすがに甘い!」
剣を振ろうと構えた瞬間、素早く距離を詰めズドン!とレーザー射出後放熱中だったがら空きの宝珠に向けて太刀を突き立てる。
パキリと宝珠が割れる音と共に人形は動作を停止し地に伏せた。
ガラガラとリングの奥で扉が開く、そのまま伏せたままの人形だが特にドロップアイテムがあるわけでは無いのでそのまま奥へと進む
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