第58話 天下一舞踏会 天下一舞踏会①
造船プロジェクトが無事?に終わった後、森の雫を中心としたクランは連名で今回の影響で値が上がったボッテス鋼の価格是正の為、今後ボッテス鋼関連の素材を高価買取はしないと発表した。
自分はそれに合わせメイク名義でこの件について賛成の意を示すツイートを行い、ボッテス鋼の不足による懸念、街の成長システム等などを細かく説明した。
正直言えば自分の早合点のせいで無駄にシュタイナーにはメイクの存在を明かしてしまったが、結果として仲良くなれたのでいいだろう、自分自身の心も軽くなったことだし
ただドラゴンティースに関しては反省しなければならない、土壇場で踏みとどまったけど一歩間違えれば今も問題が長引いていた可能性があった。下手な正義感を出す前に誰かに相談しよう、今回の件で痛い程分かった。
メイク名義でボッテス鋼の不足について語ったので大分反響はあったようだが、その大本である森の雫が声明を出したことによる影響で反感が少なかったのは幸いか
「そういえばペガサス君、これ知ってるかい?」
造船プロジェクトの件が沈静化を見せ、いつもの様に穏やかな日常が戻ってきた中、何時もの個室工房の一階にある受付で正宗さんと刀談義をしていたら正宗さんからこんなチラシを貰った。
『ラビ王国天下一舞踏会開催決定!』
デカデカと書かれた文字に思わず疑問を浮かべる。
「再来週の休日に王都で行われるらしい、一部のプレイヤーはもう移動してるようだ」
天下一舞踏会、なぜ舞踏会で天下一を決めるのかと思えばその下に書いある文章を読んで納得した。
「へー、二人一組の対人戦の大会ですか、舞踏会の様な装いで行われるから天下一舞踏会と」
「中々面白そうだな」
正宗さんの言葉に自分も同意する。天下一舞踏会は普段であれば入場不可能な王都の中心にある王城内で行われる二人一組の退陣イベントのようだ。
参加条件はイベントによって特別に用意された制限ダンジョンをソロで攻略し、ダンジョンの奥にあるアイテムが今回天下一舞踏会に出場するための参加条件の証になるそうだ。
「なんたって公平を喫するためにダンジョンや王城内ではステータスが一定になるそうだ。だからわしらのような生産プレイヤーでも参加しやすいって訳だな」
「制限ダンジョンですか」
ステータスの偏りはある物の、大体レベル15前後に制限されるようだ。スキルはすでに取得済みのやつも使えるそうだが15レベル制限なら余り連発は出来ないだろう
「対人イベントですか、ぜひ見たいですね」
幻想世界ではコロシアムはあったがプレイヤー不足の為、天下一舞踏会の様な対人イベントは終ぞして現れなかった。つまりは完全初見という事になる。王城自体にも両手で数えるぐらいしか入ったことが無いのでその点も含めて楽しみだ。
(王城内で対人戦ってなると専用の建物が追加されているのかな?)
トーナメント表は前日に発表されるという事なので、それまでに王都近辺に存在する制限ダンジョンを攻略して証を見せればいいらしい、その為腕自慢のプレイヤーはバルバトへ移動しているようでその余波でコロシアムも盛況のようだ。
「しっかし二人一組かぁ、わしも知り合いは戦闘があまり得意じゃないからな、しかも女性の相方を探すのも面倒だ」
やれやれと困った様子で首を振る正宗さんの言葉に自分はぴしりと石化した。
(ユナは……いや彼女だったら強い人と組むだろうしネネさんは……どうだろうか)
シュタイナーに相談したところ彼は同じクランのヨシュアさんと一緒に出る様子だった。天下一舞踏会が発表されてから直ぐ決まったそうだ。優勝は俺が貰ったガハハと言われ思わずむかついたので途中で通話をぶちぎった。
「ペガサス君は行くの?大丈夫だよ、今回のイベントでFlashの方も手一杯みたいだし話はこっちで進めておくしさ」
ナミザさんにお伺いを立てたところFlashとの連合を組む件については天下一舞踏会が行われる王都へ行かずにバルバトの街に残るナミザさんが話を進めておくと言われた。
殆ど連合を組む形で決まりそうだけど、細かな条件はクラン長同士話さないといけないので自分が王都に言っている間に終わらせておくようだ。
珍しい事にFlashのクラン長であるライネさんは今回の天下一舞踏会に参加しないようで、配信で実況をするんだとかそれでもやはり自分のクランは応援しているようで、Flashと言うクランの特性上全員が参加するみたいだ。誰もが実力者なので制限ダンジョンも難なく攻略できるだろうとの事
「ペガサスさんドロ運いいねぇ」
「たまたまですよ、たまたま」
王都へ向かう道はバルバトの冒険者ギルドで応募していた12人PTの数合わせに入れて貰った。
弱体化を施すためのカースレベルのお陰で体感1.5倍ぐらいドロップ量が違う為、同じパーティーの人に驚かれた。
(うーん、確かに弱体化されてはいるんだけどドロップ率がなぁ)
アイアンゴーレムでさえなんの制限も施していなかったらワンパンで倒してしまう為、カースレベルを用いた弱体化を使用しているのだが、如何せんカースレベルのメリットのドロップ率上昇が目に付く
今の所疑われては居ないが王都に行くまではラストアタック渡した方が良さそうだなぁなんて思いながらキルザの山脈を歩いていく
「ナイス!ペガサスさん!」
右腕だけ異様に巨大化している猿のようなモンスター〈パンチアーマー〉の剛腕を受け止める。
(うん、攻撃動作は見慣れているからしっかりジャストガード出来ている)
盾スキルの一つとしてジャストガードというシステムがある。
ジャストガードはその名の通り敵の攻撃が当たる瞬間に発動すると消費スタミナや受けきれなかったダメージを無効かするというとても便利なシステムだ。
カウンタースキルに似たこのシステムは盾を装備していればどのクラスでも使用することが出来、攻撃力は落ちてしまうが片手杖と盾を装備して魔法使いの低い防御力をジャストガードで防ぎきるなんてことも理論上可能だ。
「自分が耐えているから今のうちに体制を立て直して!」
天井に張り付いて隠れていたパンチアーマーの奇襲を受け半壊していたパーティーの体制を立て直させる。
(振り下ろし、突進二回にスタンプの予備動作と)
三体のパンチアーマーの攻撃を盾でいなしていく、幻想世界では何度も対峙したモンスターだ。仮想世界で見る姿はディスプレイ越しで見ていた時に比べて威圧感が凄いが、攻撃動作やスキルの予備動作、奇襲成功時の思考ルーチンも完全に頭に入っている。
「よし、チャンスくるよ!」
一体のパンチアーマーが大きく右腕を振りかぶる動作をする。これはパリィを成功させると大きく態勢を崩して隙が生まれるモーションだ。
ガァアア!?
大型トラックのタイヤ程の大きさを誇る巨大な拳が振り下ろされる。非常にリスキーではあるものの成功させれば大きなチャンスになるカウンタースキルの〈パリィ〉を発動させる。
スキルの練度を限界まで強化させている都合上、初期より1.5倍ぐらい判定時間の長いこのスキルによって振り下ろした剛腕は完璧なタイミングで盾に弾かれその胴体を青天してひっくり返ってしまう。
弱点の腹をむき出した状態のパンチアーマーを見て事前に準備をしていた後方の魔法使いが巨大な氷の塊を投擲しパンチアーマーはそのまま消滅した。
一体のパンチアーマーが倒されたことによって残りの二体がひるむ。奇襲によって半壊したパーティーも立ち直り後は掃討戦だ。
「いやぁ、凄かったですね!やはりペガサスさんも天下一舞踏会でるんですか?」
「一応そのつもりです」
無事にラビまで到着し、バルバトで集まったパーティーは解散した。
そして自分と同じように野良の数埋め枠で参加した男性、まいまいさんと引き続きラビからキルザの街へ向かう人を募集していた。
「小盾でパンチアーマーの攻撃を全部いなすなんて見たことないですよ!もしかしてコロシアム勢ですか?」
「コロシアム……は殆どやったことないですね」
このやったことないは最初の言葉にファンタジーワールドと付くが間違ってはいない
コロシアム勢というのはユナのような冒険を必要最低限留め、ひたすらコロシアムのレートを上げていくプレイヤーの事だ。
対戦相手にもよるが勝敗によってレートが増減し、一定数貯まるとランクが上がるシステムになる。
一番上のチャンピオンリーグ以外は一律500ポイントで一つランクが上がる。それがABCと三つあるので1500ポイント貯めれば一つ上のリーグへ行けるといった具合だ。
「俺も天下一舞踏会参加しようかなって、参加者は王城に入れますし間近で観戦も出来ますしね」
思い出参加と言えば失礼だけど王城に入るためにも参加証が必要だ。
これまで謎に包まれてきた王城の内部、そして天下一舞踏会を観戦すると思われる第一大陸の頂点に位置する王族の一家が一堂に見れるのだ。
……しかしこの国の第4王女はサブイベントで第一大陸のエリアでありながら第3大陸後半クエストと同レベルの鬼畜クエストを依頼してくる人物で、幻想世界では何度か謁見したこともある。もし彼女をファンタジーワールドの世界で観たらトラウマが蘇り正気を保っていられる自信が無かった。
その後の道中は大きな問題もなく進んでいった。ダンジョンを脱出しキルザの街から王都までの道はやはり天下一舞踏会へ出場するであろうプレイヤーが集まっていた。
のどかな田園風景に広がる一本道にはチラホラと歩くプレイヤーを見かける。黄金色に広がる小麦畑はアスファルトや電柱が広がる現代では中々お目にかかる事の出来ない景色と言えた。
(風にあたる感触も凄いリアルだ。音もそうだし味覚アップデートも来るとなるといよいよ現実世界と変わらないな)
風で波打つ小麦を見ながら景色を楽しむ、思えば最近色んな事がありすぎてファンタジーワールドが誇る圧倒的グラフィックを見ることが無かった。
幻想世界でも王都-キルザの道中に広がるこの黄金色の海ともいえる景色を見たことはあっても実際に見るとなると迫力は全然違う、ここら辺はモンスターと対峙したときと一緒だ。
ファンタジーワールドの幻想的な景色を撮影する為、著名なプロの写真家もこの前のサーバー解放で参加したという噂を聞いた事がある。
更に来月には味覚エンジンのアップデートも行われ更に豊かな味わいをプレイヤーに齎してくれることだろう
SNSでは料理対決なども行われているようで、その内自主イベントか公式イベントか分からないが料理や写真などの大会が開かれるかもしれない。
(料理に関してはどうしようもないなぁ)
自分は一人暮らしの大学生なので一通り自炊は出来るが結局のところ男飯と呼ばれる大雑把な物だ。
もし誰かしら参加するなら幻想世界でも美味や珍味と呼ばれた希少な食材を提供してもいいかもな……なんて思いながらまだまだ続く王都への道を歩く。
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