第56話 誠意と刀

 ドラゴンティースのメンバーと邂逅し、数日が経ったある日


「ん?珍しくペガサスが呼び出すから来たけどよ、話ってなんだ」


 バルバトから海が一望できるカフェのテラス席でシュタイナーと一緒に大の男二人でお洒落な昼食を取っていた。


 今回の問題について一部真実を交えてシュタイナーに話そうと決心した。


 今回の件を調べていくうちに造船プロジェクトの規模がどれだけ大きいかが分かった。


 ネネさんが所属する森の雫は勿論、大手冒険クランも幾つか参加しており、全員が参加している訳では無いにしろ参加しているクランの合計で言えば1万人を超えているはずだ。


 それらを一人で相対するのは流石に無茶だ。そう思い意を決して影響力のあるシュタイナー達のクランに話を持ち出すことにした。



「シュタイナー、街の成長って知ってるか?」


 自分がそう聞くとシュタイナーはオウム返しの様に街の成長?と聞き返す。この感じシュタイナーも街の成長システムについて知らないようだ。


「あぁ、調べたんだがファンタジーワールドの街には何段階か成長のようなシステムが存在するのがわかったんだ」


 自分がそう言うとシュタイナーの顔つきが一気に真剣味を帯びた表情になった。そして手元で何かを操作するとピコンとシステム通知が鳴る。


【プライベートVCがONになりました】


「よし、これで大丈夫……でなんだそのシステムは?」


 これまでとは違った表情に思わず戸惑うが自分は今回のバルバトで起きている事件を話した。








「なるほど、成長システムや今起きている問題については分かった。そしてその情報の出所は?」


 来た!と来るであろうと分かっていた質問を返す。


「……メイクは今日の18時、刀の武器を出品する」


 自分はゆっくりとプライベートVCでありながら小声ではっきりと伝えた。


「なっ!?」


 ガタリとシュタイナーは驚いた様子で席を立つ、その様子に何事かと他プレイヤーが反応するが幸いにもシュタイナーを知っているプレイヤーは居なさそうだった。


「……それってお前がなのか?」


 シュタイナーは先程の自分と同じようにプライベートVCなのに妙に小声でそう聞いてくる。


「それは秘密」


 これでもう答えを言ったようなものだった。









 シュタイナーと別れる時、彼の持つ交友関係に今回の話を広げて欲しいと伝えた。そして彼を信じてこのメイクとの関係については秘密にして欲しいとも伝えた。自分の目が正しければシュタイナーは言う事は無いと思う


「ふぅ……」


 シュタイナーが去ったテラス席で思わず自分は息を吐く


 本来であればペガサスとメイクの関係は別人として話す予定だった。メイクは人付き合いが嫌いでリアルで知り合いの自分と極秘の鍛冶サークルを結成している。そしてそのメイクから今回の成長システムについて情報を得たと言った感じの嘘を色々と織り込んで話す予定だった


 シュタイナーがその情報の出所を聞いてくるのは分かっていたので、最初はそのように答えるつもりだった。しかし土壇場になって決定的な嘘は今後彼との信頼関係の構築に傷が出来ると思い、殆ど自分がメイクだと自白した。


 少なくとも彼は言いふらすタイプの人間ではないと思う、これで噂が広まったらそれまで、その時はその時でなんとかなろうだろう、ある意味腹は括れた。





 シュタイナー: 一応ライネにもチャットを送った。この件は       デカすぎるから慎重にならねぇと


 ペガサス  : ありがとう、こっちも噂を広めておく


 シュタイナー: ライネや俺としてもボッテス鋼の流通正常化  は賛成だ。ペガサスが言ったように王都の3段階目が土地の売買レベルならバルバトの三段階目が第二大陸進出というのも不思議じゃねぇ


 王都では何故か土地の売買が出来ないという話は王都が第三段階まで成長するまでずっと言われてきた。


 リーフ、フレックス、そしてキルザでは土地の売買が出来るのになぜか王都の土地売買が出来ない理由はなぜかその様な話は幾つも上がっていた。


 王都は第一大陸を治める唯一の国であるリア王国の首都というだけあって、各方面にアクセスがしやすい好立地の場所だ。


 勿論施設も充実しているが大きなところで言えば色んなダンジョンへ行きやすいという利点が大きかった。


 その為土地を取得して拠点を建てようとプレイヤー達は考えが至ったのだが数か月の間、王都での土地売買は不可能となっていた。


 しかしある日を境に急に王都で土地取得が出来るようになった。アップデートにも書いていない為バグ修正の類かとも思われたが細かいバグであっても報告する運営がこのような大きなバグを放置しておくとも思えない


 何時しかその謎はイベントが始まったあたりから誰も話さなくなったがファンタジーワールドをリリース当初からやっているプレイヤーは王都の土地売買の謎は知っていた。


 そして今回シュタイナーに伝えたのはそれが成長システム三段階目の機能開放だったと思われる。


実はペガサスっていうプレイヤーは以前似たようなゲームをやっていて、この情報を知っているんだよーなんて言っても信じて貰えないので、他にも二段階目には各街での施設割引があったり、余り人気のないキルザが成長していないので割引が無いなどの各街で起きている変化の統計を上げ説明した。


 バルバトから第二大陸へ向かうには許可書が必要、これはこの地へ来たプレイヤー達誰もが通った道でチケット売り場でも許可書の提示を求められる。


 プレイヤーは大型アップデートで追加されると予想していたが中にはバルバト近辺のクエスト報酬なのでは?と惜しいとこまで考えている人いた。


 そして今回シュタイナーにはその許可書販売がバルバトの街三段階目では無いかと伝えた。これに関して言えば幻想世界をやっていた頃は、許可書を貰うタイミングで成長システムが分かっていなかったので、確証は無いが特別なクエストでもらえた訳でもないので九割九分あっていると思う


 ボッテス鋼の不足によって街が成長しないという事はシュタイナーの方からネネさん経由で伝えてもらう事にした。これでプロジェクトを停止してくれたらいいのだが最悪の場合はメイク名義でこの件を暴露することも考えていた。









〈小太刀・烏丸〉    レア度D


 制作評価  4

 種類    刀

 装備条件  片手剣レベル6以上 STR35かつDEX68以上

 追加効果 物攻+49  魔攻+11 


 シュタイナーと話した時にも宣言した今日出品する武器だ。


 とてもシンプルな小太刀だ。評価はギリギリの4、性能だけ見たらメイク名義で作ったどれよりも性能が低い武器だ。しかしこれを作るのに先日作った雷槍以上に苦労した。


 ただ叩けばいいだけでは無く、切れ目を入れて折り返しそしてまた叩く焼き入れなども加えインターネットにある資料を片手に見よう見まねで作ってみたのだ。


「あれ?分類が片手剣だ」


 そうやってできたのは刀のような形をした片手剣、しかしヤスケや火口野一門として修業をする際は大太刀を使うので、一応刀のカテゴリーはあるはずだ。

見た目は不格好ではあるが見た目は確かに刀、であれば分類は刀になっていないとおかしい


 幻想世界ではただのミニゲームだったのでそこら辺が仕様変更されているのか知らないが、とりあえず何かを変えないと刀として判別されないようだった。







 結果として言えば刀は合金の様に異なる性質を持つ金属を合わせて作る特殊な剣だった。


 調べていくうちに形やパーツ、寸法など事細かな決まりはある物のそこはそれまで刀を作ろうとしてきたプレイヤー達も分かっていたことのようだ。


 そして行き着く先が異なる性質を持った金属、心鉄と呼ばれる柔らかく粘り気の強い金属を覆うように、皮鉄と呼ばれる硬度の高い金属で包み込む、この作業が非常に難易度が高く今回できた刀は無理やり性質の異なる金属を合わせ悪魔合体させたような出来だったのだ。


 その為刀という形にはなったものの内容は非常にお粗末な物で自分としても不本意な出来栄えとなった。この件が落ち着いたら刀について研究してみたい。


 しかしこれでファンタジーワールドでは初となる刀武器の登場だ。話はそれるがキルザ山脈でやけにヤスケの認知度が高かったのはヤスケが持つ大太刀の存在が大きかったようだ。


 主に刀剣マニアたちが騒いでいたようで妙にヤスケの知名度が高い理由の主な原因が武器だったというオチだ。







「こんばんはペガサス君、一週間ぶりぐらいかな?」


 その日の夜。クランマスターであるナミザさんと正宗さんがバルバトへ到着した。レイネスさんは別の知り合いと来るようでまだ王都に残っているとの事


「猫くんとサラちゃんはレベルがね……」


 猫男爵くんとサラさんに関しては護衛プレイヤーでも匙を投げる程レベルが低すぎたため今現在リーフの周辺でレベルを上げているとの事、もしかしたら猫くんとサラさんがバルバトへ来るのは大幅に遅れるかもしれない。


「お久しぶりですナミザさんお仕事は?」


 最近仕事が忙しい様だったらしく、久しぶりの再会を考えなしに聞くとそれはナミザさんにとって地雷だったのか世間話に花を咲かせていたナミザさんの顔がピシッと一気に石化した。


『ペガサス君!今のナミザにその話題はまずい』


 横にいた正宗さんが自分の耳元でそっと言うが出来れば先に教えて欲しかったがそれは無理だという物


「あぁ、そうだね……うん、大丈夫だよ、山場は超えたから」


 自分がクランに加入した直後からどうやらナミザさんのリアル環境は結構大変だったようだ。


 元々仕事の忙しさが時期によって落差の激しい職場だったようで、ゲームができない程忙しくなるのは久しぶりだったようである。先ほどまで楽しそうに喋っていたナミザさんの目が一気に光が失われていた。








「それで、Flashとの連合の件なんだけどメンバー全員特に反対意見は無かったわまだ全員集まっていないから決定は出来ないのだけど」


 バルバト南西側、自分がこの街に来て使っている個室工房の近く、一階に店があり二階が賃貸マンションになっている複合住宅の建物の一室だ。


 個室工房の近くという事もあって街の大通りから外れ見つけるのは少し難しい、その分家賃も安く大衆工房へのアクセスも良いので思いの外良い物件だったと言えた。


「一応シュタイナーには返答が遅れるとは伝えているので猫くんやサラさんにも焦らないで大丈夫と伝えてください」


 猫くんやサラさんは当初ナミザさんや正宗さんと一緒にバルバトの街へ来る予定だったのだが、王都で路地裏の工房に加入してからまともに冒険していなかった為、最低限の防具を装着するステータスが無く急遽レベリングをリーフやフレックス周辺で行っていると言っていた。


 正直今は造船プロジェクトの件があるのでFlashもこれから忙しくなる可能性が高い


 今現在は造船プロジェクトの参加クランがなぜ多額の投資をしているのか、それの裏取りを行っている最中だ。こういっては何だが森の雫やその他参加クランはどれも巨大な資本を持つ大手クランだ。


 その分様々なプレイヤーがおり人の口に戸は立てられぬということわざがあるように、結構確度の高い話がまだ二日目ではあるものの自分の耳に届いている。


「初めてバルバトに来たけどネネは船を作ってるし、なんでもありねこの世界……」

「流石に船を作ってると聞いた時はワシも驚いた。噂は知っていたがまさかあそこまで巨大だとはな」


 ナミザさんや正宗さんもこの街に来て早速造船中の船を見に行ったようだ。


「そうですね、ただ最近は船に使われる素材がだいぶ高値になっているようで」


 ナミザさんや正宗さんを今回の件に巻き込むつもりは無いが今バルバトの街を巡る問題についてはぼかしつつも話した。


「ボッテス鋼でしょ?加工が難しいって聞いたけどそこまで高くなっているのね」


 やはり鍛冶プレイヤーというだけあってか二人ともボッテス鋼については色々と情報を集めているようだった。


「現実世界でもそうだけど、一部のアイテムが極端な価格の高騰は周りに良くない影響を及ぼす。これが悪い方向に向かわなければいいが……」

「……」


 仕事柄か正宗さんは今回のボッテス鋼の高騰についてどこか懸念があるようだった。実際にそれは的を得ていて内心驚きを隠せなかったが自分は何も言わず。その日は解散となった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る