第55話 ドラゴンティース
【メイク@Make_FW】
出品しました。今回作った武器にはまだ知られていない新要素も使っているので鍛冶プレイヤーの人は参考にしてみてください。
#FW #ファンタジーワールド #FWオークション
「さて……反応はどうかな?」
出品予定時刻の18時になった。メイクのアカウントはぼちぼち反応はあったもののそこまで信用されていないようだ。昨日ツイートした返信の一つには[また偽物か?]なんてコメントもあったのでこれまでも偽物が現れては冷やかしがあったみたいだ。
「……」
精神統一、という程大したものでは無いがすぐに広まる訳じゃ無いのでその間は昨日槍製作で使った工房に出向き久しぶりのルーン文字練習に勤しんでいた。
ピロン
「ん?」
いい感じに楽しくなってきた……と思っていた矢先、メッセージが届く
「あぁ、フォロー通知か」
Tmitterで自分をフォローする人が居たら通知が来るようになっていた。メイク名義以外で使っている本来のアカウントは完全身内向けで滅多にフォロー通知なんて来ないので予想外だった。
「まぁ放置しててもいいだろう」
少しずつ広まってきたかな?と思いながらもまだまだこれからだとも思う、少なくとも造船プロジェクトを止めるには数百人に拡散できるレベルじゃ意味が無いからだ。
ピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロン…………
「うるさいっぃ!」
そこから数分が経ち、アカウントフォローの通知が来る間隔がどんどんと狭くなっていき一時間も経てば機関銃の如く絶え間なく脳内に響く通知音が流れるという問題が発生していた。
今はルーン文字の練習で良い感じに楽しい状況でこのような興をそがれる様な事態に自分は思わず全ての通知をOFFにした。
「よし、続けよう」
まだ一日目なのでこんなことでフォロワー数のあれこれを気にしていても仕方がない、今やるべきことは待つ事で最初からあれこれ情報を発信しても意味ないのだ。
「しかし、我ながら上達したな」
ルーン文字を彫るための練習用の金属板、例の金属ボッテス鋼を幾つか持っていたので試しにボッテス鋼の金属板でルーン文字を彫ってみたのだが意外と上手くいく
加工難易度のせいでで幻想世界時代ではそのままスルーして第二大陸へ行ってしまったので意外な発見だ。実際に武器を作ってみないと能力は分からないがテキストを見る限り加工出来れば第一大陸で最も優れた鉱石だと思われるので意外な発見だった。
「よし、今日は終わるか」
気が付けば時間は日付が変わる位になっていた。途中正宗さんから武器製作について談義していたが大体5時間ぐらいは集中してやっていただろう
(明日辺りにボッテス鋼で武器を作って上手くいけば合金化かな?)
やはり加工が難しいと書かれていただけあって第一大陸に存在する鉱石の中では一番加工が難しかった。
単純に炉の火力が足りず今日使用した工房のようなバルバトでも特に設備が整っている場所じゃないとボッテス鋼を複雑に加工するのは難しいと感じた。
「幸運だったな、これでボッテス鋼加工ができるのは」
バルバトの街を何かと左右させるボッテス鋼だがもしボッテス鋼が武器や防具に使用できて尚且つ性能が良かった場合、造船プロジェクトとは別に使用用途が増え更に値段が上がる可能性があった。
少なくともバルバトの街が最大成長するまでは公開できないな……と考えつつも明日の目標を考えていた。
「おっとそういえばメイクのアカウントはどうなったかな?」
そのままログアウトしようかと考えていたが、そういえばフォロー通知音が煩すぎて通知を消したままだった。最後にTmitterを確認して初日どこまで広がったか確認する為メイクの名義のTmitterを開く
【メイク@Make_FW】0フォロー 24,339フォロワー
次の日、オークション会場で市場調査を行おうと会場までやってきたのだが、昨日と雰囲気が様変わりしていた。
(なんか見たことない人が多いな、外国人か?)
オークション会場の出品物の受け取り窓口カウンター付近には普段では余り見かけないプレイヤー達が集まっていた。
それらのプレイヤーは口をパクパクと動かして喋っているが全体VCでは無いのでこちらには聞こえないが複数人で連絡を取り合っているようで自分を含めこの会場にやってきたプレイヤー達を監視するような目で見ていた。
(前に会った黄昏猟団とかイエローモンキーズにどことなく雰囲気が似てるな)
彼らの装備はまちまちだが全員が赤と黒の配色で統一されていた。イエローモンキーズの様に黄色いバンダナを付けたカラーギャング擬きの姿はしていないがチームカラーで統一されたプレイヤーが一か所に集まれば威圧感は大きい
「すいませン、少し話を聞いてもいいでしょうカ?」
そんな風に会場を見ていたらその赤と黒色で統一された装備をした一人のプレイヤーに話しかけられた。
日本人であれば話しかけてきたプレイヤーが外国人特有のイントネーションだと分かるが、それでも突っかかりのない流暢な日本語に素直に驚いた。
「えぇ、どうしました?」
会場に威圧感は与えている者の話しかけてきたプレイヤーは凄く丁寧な口調だ。であれば丁寧に答えるのが筋だろう
「昨日、この会場デ大体18時ごロ………メイクというプレイヤーを見かけませんでしたカ?もし目撃情報があれば報酬がありまス」
リュウミンと名乗ったそのプレイヤーの言葉は誤魔化しのない直球的な質問だった。
「……いえ、僕は見ていないですね」
内心何となく察してはいたが顔に出ない様におちついて嘘をつく、リュウミンは昨日出品されたフェルバレノ大身槍が今の時間帯で第7サーバーのバルバト会場で出品された事が判明して本拠点の第10サーバーから態々出向いてきたようだった。
その目的は勿論メイクの勧誘、しかも目撃情報やリュウミンが所属するクラン『ドラゴンティース』がメイクを誘っていると本人に伝えるだけで報酬を渡すと言ってきたのだ。
「勿論報酬ハメイク本人を確認してからになりますガ、本当だった場合実物デ用意も出来まス」
これまで誤魔化しのない言い方だったが、最後の実物とはつまり現金で報酬を渡すことが出来るという意味合いで言ったようだ。リアルマネーの取引はグレーなところがある。
ファンタジーワールドでは明記されていないものの、その他のゲームでRMTと呼ばれる現金を使ったゲーム内アイテムの取引はBAN対象になる物もあれば、それを推奨しているゲームもある。
国によっても対応が違うのでファンタジーワールド世界内でも極めてグレー、しかも黒に近いグレーなので公には行われていない
中々危ない橋を渡っていると思うがこうやって言葉を濁すあたり彼らも危ないとは分かっているようなので当然問題になった際の逃げ道は持っていそうだ。
それではとリュウミンは自分の前から立ち去り他のプレイヤー達に聞き込みを再開した。
【初めまして!DM失礼しますゲーミングチーム…………】
会場を出た後、Tmitterを開きメイクのアカウントでDMを確認する。その中のほとんどはクラン勧誘で中には製作方法を教えろ!なんて強引な物もあったが、ほとんどは丁寧な文章でチームの紹介や勧誘、中には大まかな年俸など提示するクランもあった。
田中先輩や霧島先輩達と大学で雑談していた時に話に上がったプロゲーミングチームからも幾つか話が来ていた。その中には外国のチームもありその中には先ほど出会ったドラゴンティースの広報アカウントからも来ていた。
【いきなりのDM失礼します!中日韓合同クラン【ドラゴンティース】の広報をさせていただいていますもずくと申します。当クランではあなた様のツイートを拝見させていただき】
ドラゴンティースもその中の一つで続く文章を見る限り日本人が書いているようだった。アカウントを見ても日本支部とあり日本人だけでも数百人が参加しているようだった。
大本の中国人プレイヤーは1000人を超え何よりもこの前のサーバー解放のプレイヤー追加で更に500人増え、現在では2000人を超える森の雫に匹敵するほどの巨大なクランだった。
幾つかの企業がスポンサーとなり、ドラゴンティースの一部メンバーはプロゲーマー化しているようで実際に給料が支払われ有力なプレイヤーを随時募集もしているようだ。
「黒龍イベント銀称号以上保持者、一定以上の実績を持つ鍛冶プレイヤー…………なるほど」
称号は黒龍イベントでは各ランキングごとに称号の色が変わるのだが銀は個人ランキング1000位以内、つまりはFlashのメンバークラスが該当するようだ。
「昇給制度あり、固定給以外にも実績を残せばその都度報酬ありと…………」
書いている内容を全て鵜呑みにするわけにはいかないが、実際に何人ものプロゲーマーと契約している様子を見る感じほぼほぼ契約内容に間違いは無いのだろう
固定給で言えば学生バイトはおろか一般サラリーマンクラスには貰えるそうだ。鍛冶プレイヤーで言えばドラゴンティース以外に販売は出来なくなるが個別で報酬を出すとも会った。
他の勧誘DMでも同じような契約を提示しているチームはあったがドラゴンティース広報が書いた内容が本当ならまさに格が違うと言える。
(まぁ受けないけど…………しかしこのクランを巻き込んで使えないか?)
外国クランのせいか、ドラゴンティースはその規模や影響力に対して今回の造船プロジェクトには参加していない、クランに入ることは出来ないが報酬の代わりに一つ装備を提供してボッテス鋼の供給正常化を調整してもらう事は出来ないかとふと考えた。
ドラゴンティースとしてはプロジェクトに参加しているクランと空気が悪くなるが、ドラゴンティースとしても日本クランに造船技術独占はされたくないだろうし、自分で言うのもあれだがメイクにも恩が売れる。
しかも最終的にはバルバトの街成長による第二大陸の進出のきっかけを作ったクランとして呼ばれるかもしれない。
(いや、やめておこう……まだ相手の情報が無いままに事を進めるのは危ない)
そんな誘惑が押し寄せてきたが自分は思わず首を振りその誘惑を振り払う、ただえさえプロジェクトに参加しているクランしかも森の雫を含めた大手を敵に回す事をしようとしているのだ。
これでドラゴンティースが予想以上に煽って事を大きくするのは得策ではない、第一話したこともないクランといきなり本題に進めるのは危険だと判断した。
(手の一つとしては残しておこう、まだ一日目だ。焦る必要はない)
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