続編のゲームは神ゲーだった

第54話 鍛冶師メイク復活

「いやいや高すぎでしょ」

　とりあえずバルバトの街の成長を阻害しているボッテス鋼不足がどのぐらい深刻なのか調べる為、バルバトの街にあるオークション会場へやってきた。

　オークション会場では装備以外にも希少なアイテムも売り買いされ、基本的にNPCでの売却は安値になることが多いのでボッテス鋼以外にもその他素材アイテムも多く販売されていた。

【ボッテス鋼　一個/2506.97G　前日比+12.5％】

　各素材の値段を見ても明らかにボッテス鋼が高値で売り買いされていた。ボッテス鋼はバルバトの街の特産品で比較的値段の高い鉱物だが近辺でそれなりの数が採掘されるので本来一個2500G以上もするアイテムでは無い

　しかしオークションでは今現在でも最安値で出品されたボッテス鋼から買い占められている状態だ。レア鉱石と呼ばれる希少なアイテム類が軒並み2000G程だと言えばどれだけボッテス鋼が高値になっているのかがわかる。

（もしかして……）

　どうしようかと悩んでいたが、ボッテス鋼関連の情報をSNSを通じて集めていた時、新人プレイヤーを募集している所があった。

　今しかできない期間限定の金策教えます。というような謳い文句でファンタジーワールドを始めたばかりのプレイヤーを募集していた。

　今しかできない金策、というワードに少し引っ掛かりを覚えたのだがもしかしたら余りこのゲームを知らない人に向けてボッテス鋼掘りをさせていたのではないかと思った。

　キルザの街からバルバトへ出発する際も道中やけに装備の構成が歪なプレイヤーが居た。武器は銅の剣レベルなのに防具だけ王都以上の中堅プレイヤーが着る様な物だ。

　その時は疑問に思っていたがよくよく考えれば始めたばっかりの新人プレイヤー達にボッテス鋼を掘らせその得た利益の一部を貰う為にパワーレベリングをしているのではないかと

（元々ボッテス鋼はレア素材じゃないから数は多く手に入る。それの一部でも得られれば）

　ファンタジーワールドは特定の採取場所取れる素材は上限がある。

　この上限はプレイヤーの各個人ごとに決まっており、同じ場所で100人のプレイヤーが一斉に掘っても全員が同じ量の上限まで掘ることが出来る。

　そしてボッテス鋼は元々レア素材ではない為、それなりの量が手に入る。しかも鉱石の発掘にプレイヤーの腕は関係ないのでバルバトまで来れば初心者でも熟練プレイヤーと同じ量だけ採掘することが出来るのだ。

（その一部の利益を貰う為にパワーレベリングをしているんじゃないか？）

　高値で売られるアイテムの理由はボッテス鋼の様に異常な需要以外はその採取難易度によって決まる。しかしバルバト周辺で採掘できるとなれば人が多ければ多い程巨大な利益になるはずだ。

　しかもそれらを買うのはファンタジーワールドの経済を牛耳る商人クラン達、利益を得たプレイヤー達はそのお金で装備を新調しまた新たな装備を得るためにボッテス鋼を掘る。

　商人は高値でもボッテス鋼を買い占めそれらを使い船の研究をする。制作した船が大陸を横断できれば船を作ったクランは造船技術を手に入れ、いずれは各自で船作り所有することになる。これは大きなアドバンテージだし、船を独占すれば第二大陸への横断事業の利権を得られるようになる。

　その為には船を完成させなければならない、だからこそプロジェクトに参加するクランは巨額の資金と投入する。投資に使ったお金は傘下の鍛冶プレイヤーに装備を作らせその出た利益でボッテス鋼を買う

　態々ファンタジーワールドで船を浮かべる為に多額の資金を商人プレイヤー達が造船プロジェクトに投入するとは思えない、そう思って見て想像すれば今考えた様な事がありそうだ。

　プロジェクトを企画する際にそれらの利権は事前に決まっていたのではないか、完全な想像の域だがそれならば今は度外視で資金を注入することも納得できる。

　例え渡航の料金が高くて船を使用するプレイヤーが少なくてもクランメンバーを新大陸に渡らせれば独占できるし、渡航するプレイヤーが多くてもその料金で利益を得られる。

　そしてプロジェクトを主導するのは現実世界で日本の海運を担う大企業だ。うーむこれは個人ではどうにもならないレベルになっているような気がする。

　新人プレイヤーはパワーレベリングで強くして貰い、熟練プレイヤーはその見返りとしてボッテス鋼の一部を貰う、商人プレイヤーはボッテス鋼を使って船の研究をする。

「シュタイナーに相談するか？しかし情報の出所を聞かれると厳しい……」

　幸いにもフレンドの中にはファンタジーワールドで影響力を持つシュタイナー達が居る。中には造船プロジェクトに参加しているネネさんもいるし伝手には困らない

　しかし話したところで信用はしてくれるだろうが情報の出所を聞かれたら答えることが出来ない、無理を通せばそれだけ不信感が募るし出来ればやりたくないところである。

【メイク@Make_FW】

　明日の18時に新作の雷系統の魔槍を出品します。イベントが終わってからやっと納得できる装備が作れたのでぜひ見てください。

　#FW #ファンタジーワールド #FWオークション

　ファンタジーワールドのブラウザを使いTmitterで新しいアカウントを取得する。名前は以前フレックスで魔剣を作ったと時に使ったメイクという名前

　バルバトの成長を促す為、その疎外の原因となっている一大プロジェクトを止める為に自分は以前話題になった謎の鍛冶師メイクとして活動することにした。

　メイクとして名を売り、人々から注目を集める。出品情報の他に未だ出回っていない情報を発信したりする。そしてある程度注目が集まったら造船プロジェクトがバルバトの成長が阻害しているという話を流すのだ。

　流石に最初はプロジェクトに参加しているクランの人にコンタクトを取ろう、出来ればそこ段階で中止するか延期するかして欲しい所だが、少なくない資金が流れている状態で引き返すとも思えないがやってみる価値はあるはずだ。

　ピコンと早速投稿したツイートに反応が付く、FWのオークションタグを使ったのでメイクの名を知っているプレイヤーは居るはずだ。

【こっとん＠KottonJP】

　⤴ 本物ですか？

　初めてついたコメントにどう反応するか迷う。

「いや、ここは反応するのはやめておこう」

　下手に話をしてボロを出したくはない、実際に武器を出品するのは本当なのでそれで信憑性は増すはずだ。

　バルバトの街キルザ山脈方面、海とは反対側に大衆工房のエリアがある。

　王都では森の雫メンバーがほぼほぼ大衆工房を独占している状態だったが先の造船プロジェクトにメンバーが引っ張られているのか比較的空いた状態だった。

　それでも自分は念には念を入れ大通りにある人気な場所を避け、料金は嵩張るが個室で設備が揃っている場所を見つけた。

「さて作るか」

　防具を外し、動きやすい作業服に変更する。

　炉を起こし、今回使う材料を作業台に広げる。

　工房は壁に囲われ人目に付かない、複雑な路地の一番奥にあり料金も他の工房に比べ倍近くするので今いる大衆工房には自分以外のプレイヤーは居ない

　拠点が出来るまでの仮工房として使えるかもしれない、狙ってなかったが懸念だった人目のつかない場所も見つかりハンマーを握る。

（鍛冶王のハンマーを使ってもいいけど……）

　鍛冶王のハンマーを使えば腕を別にしても高品質の装備が作れる。しかしそれでは一端の鍛冶プレイヤーとしてプライドが許さない

「雷の魔槍、〈フェルバレノ合金鋼〉と〈雷獣の剛毛〉だ」

　以前、ユナのフェルライト特大剣で使用したフェルライト合金鋼と同じ要領で作ったフェルバレノ合金鋼、こちらはフェルライトが光属性を帯びるのに対し、フェルバレノは雷属性を帯びる。

　そこに黒龍イベントで得たアイテムの一つ、エリアボスの一角である雷獣ガルケロの剛毛を使用し雷属性の数値を上げる。

　柄の部分は帯電性に優れる木材を使用し、加工する。こちらに関しては特に評価にしないのでオートで作成した。

　肝心の槍の穂にあたる部分は大身槍と呼ばれる穂が長い剣に近いような見た目にする。刀身部分の割合が大きくなるため重量は嵩むがその分優れた威力を持つ

　穂は柄と違い武器の完成度に大きくかかわってくるので完全マニュアルで集中して作っていく

　カンと熱されたフェルバレノ合金鋼を叩けばバチリと衝撃に反応して雷が帯電する。

（カウンターダメージか、予想以上に来るな）

　フェルバレノ合金鋼を叩くと発生するダメージは厚手の手袋を貫通しダメージを発生させる。自分にとっては微々たるダメージだがあまり冒険を行わない鍛冶プレイヤーであれば結構キツイダメージになるだろう

　叩いた際にカウンターダメージの衝撃も発生し、それだけ集中力が削れやすい訳だがそれでも集中力を途切れない様に一回一回集中して叩いていく

（少し魔力を流しつつ……）

　叩く際にもハンマーに魔力を込め叩く、そうすればフェルバレノ合金鋼からのカウンターダメージも大きくなるが無視できるレベルなので魔力を込めて叩いていく

　そして出来た刀身には会心率を上昇させるルーン文字を彫る。刀身の長い大身槍とはいえフェルライト特大剣と違い巨大では無いので精々一つ掘れるぐらいだ。

　そして柄と穂の間に雷獣の剛毛を付ける。これで発生した雷属性の効果を高める他にも使用者へカウンターダメージが行かない様にするための処置だ。

「出来た」

〈フェルバレノ大身槍〉　　　　レア度C＋

　制作評価　　6

　種類　　　　長槍

　装備条件　　槍レベル18以上 STR300かつDEX150以上

　追加効果 物攻＋170 　魔攻＋103　 〈雷属性・中(135)〉

〈雷ダメージ軽減Ⅱ〉［会心のルーン文字Ⅰ］

「却下」

　真剣にやりすぎて強すぎる武器を作ってしまったので却下した。

「よし、これで完了と」

〈フェルバレノ大身槍〉　　　　レア度C＋

　制作評価　　5

　種類　　　　長槍

　装備条件　　槍レベル13以上 STR220かつDEX90以上

　追加効果 物攻＋119　魔攻＋65　 〈雷属性・小(71)〉

〈雷ダメージ軽減Ⅰ〉［会心のルーン文字Ⅰ］

　あれから少し完成度を下げて明日の18時に出品されるよう予約する。出品される装備を見るにフェルバレノ大身槍は前制作した火の魔剣と同じように突出して性能を上げた。

　ワザと最初に作った槍より下げているのでユナに渡したフェルライト特大剣よりは弱いがそれでもシュタイナーのバンディーチョッパーをも凌駕する一品だ。

　予想すればこれでメイクという名は話題を呼ぶはずだ。今後も似たような装備を少数流して発言力を高めよう、そしてインフルエンサーとしてプロジェクトが街の成長を阻害してると発言する。その為には申し訳ないが造船プロジェクトには頓挫してもらう必要があった。

　これで新たな戦争が生まれなければいいが、原因となるのは自分だがそう思わずにはいられなかった。