第50話 大洞窟に存在する街『ラビ』①
新たに追加された街『ラビ』はキルザ山脈の内部にある巨大な大空洞に作られた街だ。
フレックスとはまた違った石材で建てられた建物群は暗い装いの街並み、大空洞という事もあって常に暗い為か街には短い間隔で街灯が置かれラビの街並みが見えた時は綺麗な夜景のような光景が映し出されていた。
大空洞の上は鉱石が微かに街の光を反射し星空の様に輝いている。その光景はこの街こそが最もファンタジー色の強い場所だと深く感じた。
ソウイチたち3人組と解散した後はヤスケの変身を解除しペガサスとしてラビの街へと入った。
「おぉ、凄いな」
ラビの街は完全に初見という形になる。それまではどこかしら幻想世界の名残を感じていたが今視界に映る景色は全くの未知だ。
街灯の他に地面に埋め込まれた光源や店内から漏れ出る光、太陽の出ない場所だがそれらの光によってまるで祭りにある屋台の道を思い浮かべる。
ちらりとラビの街を周ってみたが思いの外小さい、第一大陸で一番大きな王都に比べて半分ぐらいだろうか、オークション会場も無く工房もあるにはあるがフレックスや王都に比べて随分と少ない
規模で言えばキルザの街に近いだろう、そりゃあダンジョンの内部にある街な訳だから仕方が無いのだろうけど
ラビの街は街の中心に向けて山があるように登っていく、てっぺんには街を照らす大きな塔が建てられており辺りは街路樹のような不思議な植物が植えられており青白く輝く蝶が辺りを飛んでいた。
「ここは余り人気が無いのか……」
特別施設があるわけではないので人気が無い、殆どのプレイヤーは商店街の方面に集まっているようで辺りはとても静かだ。
ラビの広場へやってきた。街の北東側、バルバトへ向かう門の付近にある広場へやってきた。
『バルバトまで募集@2 神官優遇』
『バルバトまで行ける人募集してます二日分けて踏破、20時~』
「回復職の人いませんか~?」
やはり広場は様々なプレイヤー達が居るようだ。殆どがパーティーを募集しているようでチャット欄も流れが速い
(装備の差が凄いな)
カツカツと広場を目的もなく歩く、密集率の高い広場には様々な装備をしたプレイヤー達が集まっている。
総じて近接職が多いように見えた。大体6割程度だろうか?大剣から双剣、珍しい人だとレイピアを装備しているプレイヤーも居る。
次に魔法職、ここが3割程度になっていた。魔法職は全員が服のような防具を装備している。STR(力)のステータス上仕方のない事だが重たい装備を付けられない、近接職であれば全身金属鎧のプレイヤーいるので彼ら魔法使いは街の住人みたいな恰好をしている人も多い
(お、この人は)
パーティーメンバーと思われるプレイヤーと談笑している女性プレイヤーも魔法使いのようだった。しかしそれまで見た魔法使いのプレイヤーと装備は一線を画し一人だけ場違いな強さを持っていた。
「……〈ディアノの帽子〉〈若獅子のローブ〉に〈三宝珠の黒杖〉かトッププレイヤーだな」
如何にも魔法使いを思い浮かべる茶色のとんがり帽子、帽子の先っちょには夜孔雀の羽が付けられ主に攻撃魔法の威力を高める効果がある。ディアノの名はキルザ山脈の森側ルートにある森の奥深くのどこかにあるディアノと呼ばれる老魔女を倒すと手に入る装備だ。
他にもこげ茶色のローブに首元には豪華なファーが目立つ装備、〈若獅子のローブ〉にはデカデカとクランアイコンと思われる紋章が描かれている。そして槍の様に長い黒木を削って作られた杖には火、水、雷の三属性の魔法を増幅させる宝珠がはめ込まれている〈三宝珠の黒杖〉、はっきり言えば第一大陸最高峰の装備だと思われる。
彼女が話している相手も格落ち感はあるがそれでもバルバト第一線で戦える装備だ。こちらは準一級プレイヤーと言ったところか
相手側も同じようなエンブレムが描かれた装備をしているので同じクランだと思われた。という事は他メンバーの護衛と言ったところだろうか
彼女の装備が異質過ぎたので思わず長く見てしまった。メンバーと話していた女性が自分の視線に気付きこちらを見てきたので思わず視線を外す。
流石にソウイチ達3人組は居ないようだった。これだけ人がいれば見つけるのも一苦労だろうしかし彼らが知っているのはヤスケの姿で会ってペガサスの自分は知らないはずだ。
「よっこらせっと」
広場の外側に置いてある長椅子に腰を掛ける。殆どが広場の中心でパーティー募集をしているので外側にある椅子は空いていたのが幸いだ。
おっさんのような声を出して座る。若干人に酔った気分を直しながら全体を見渡す。
「メンバー募集するか?」
正直言えば一人で挑んだ方が楽なのは間違いない、パーティーを組めば田中先輩達と一緒にやった時の様にデバフ指輪を装備しないといけないと言うのもあるし単純に死なないからだ。
しかしキルザ山脈後半戦ともなると敵は強くなることが多いので見た感じ8人PTなどの中規模以上で挑戦している人たちが多かった。そんな中で一人で突っ込むのは少し目立つ
しかしヤスケになろうにしてもソウイチ達の反応を見るにヤスケは自分の与り知らぬ所で有名になっているようだった。ペガサスとしてバレることは無くても要らぬ騒ぎを起こしそうだった。
「近接職はいっぱいいるし、魔法はまだやって無いからいきなりやるのは不安だ」
広場では圧倒的に魔法職、特に支援職の神官やドイルド使いの募集が多かった。
ぱっと見でもガチャガチャと金属の鎧が擦れる音が聞こえるのを知るに近接職がやはり一番人気といったところか
「ん?」
人が集まる広場のとある一体にやけに人だかりが出来ている場所があった。気になって覗いてみれば1人に対して複数のプレイヤーが何やら話しかけているようだ。
「ねぇ君支援職でしょ?俺らと一緒に行かない?支援が居ないんだよ~」
「いやいや私たちと行こうよ、こっちは女性プレイヤー多いし安心できるよ」
いやいや俺がと我先に一人の女性プレイヤーに対して猛烈な勧誘合戦が繰り広げられているようだった。
「わ、私はもう決まっているので……」
そう断る女性は腰まで伸びるピンク色の髪に白一色の神官の服装、何ともド派手な格好に思わずびっくりするがそれらに負けない程綺麗な顔立ちをしていた。
(はー……支援職というより彼女自身が目的かな?もしかしたらどっかの有名人かも)
ファンタジーワールドにおいて不自然の無い顔立ちはVR機に搭載されているスキャン機能で現実世界と同じ顔を出力しているので自然的な顔立ちの美女やイケメンは現実世界でも同じぐらい綺麗な顔立ちをしていると言える。
そのピンク髪の神官に群がるプレイヤーは失礼だが自分と同じようなモブ顔と言った一般的な顔立ちだ。中にはイケメンもいたが遠目でもわかるぐらい不自然なパーツをしている十中八九カスタムして顔をいじくっているのだろう
(いやー、困っていても助けれないなぁ……)
何事かと野次馬根性で見に来てみれば1人に対して餌を待つ鯉の如く群がる光景だった。困っている人を見るに助けるのが正解だろうが自分にそんな勇気はない
「はーい、ストップ」
うーむ、困ったな……と思っていた矢先、群がる集団から一人の女性の声が通った。
(あ、さっきの魔法使いの人)
まるでモーゼが海を割ったかの如く人が彼女の通る道を空けていく、圧倒的存在感を放ちつつピンク髪の神官の目の前で立ち止まった。
「雪音、あんたなにやってんのよ……」
雪音とそう呼んだ魔法使いの女性はやれやれと言った感じに頭に手を当て振る。その動作もどこか様になっていて喧噪していた辺りはシーンと静まる。
『……やっぱりマジモンの雪音だ。だったらあれはヨシュアか?』
『すげーFlashの主力メンバーかよ、初めて見た』
後ろから聞こえる声を聴くに魔法使いの女性と雪音と呼ばれた神官はかのシュタイナーが所属する『Flash』のメンバーのようだ。
(ん?なんだか嫌な予感がする)
別に彼女たちと接点があるわけではない、しかし自分にはどこか胸騒ぎが収まらなない
「おーいすまねぇ、仕事が長引いたわ」
ガヤガヤと再び騒ぎ始めた周りに大きく聞こえる聞き覚えのある声、ヨシュアと言われた魔法使いのプレイヤーが通ってきた道を辿るように走ってきたのは最後に出会った時より少し装備が変わったシュタイナーだった。
嫌な予感は的中し、雪音とヨシュアと呼ばれるプレイヤーを追いかけてやってきた。そして丁度雪音さんとヨシュアさんとの視線上に見ていた自分をみて目をまん丸にして驚いた表情でこちらを見た。
「ん?なんでフレンドマークあるかと思えばペガサスじゃん、なんでここに居るんだ?」
それはこっちが聞きたい
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